バタバタと足音を響かせて去っていくを見送りながら、綾子は艶やかな笑みを浮かべる。

の様子が可笑しい。

それだけを見れば心配するところだろう。―――当然のごとく、綾子だって最初は心配した。

色々と厄介な事情を抱えている上に、それでも基本的に弱音は吐かないのことだ。

こちらが察してやらなければ、いともあっさりと最悪の事態に陥ってしまいかねない。

だから綾子は、誰にも言ったことはないけれど、なるべくの様子を気にしていた。

だから気付いたのだ。―――彼女の異変が、体調不良ではないという事に。

加えて、があからさまに慌てるのは、滝川とリンと接している時。

これでピンと来ないほど、綾子は鈍くはなかった。

は間違いなく、2人を意識している。

これまでを考えれば長かったが、それはそれで良い傾向だ。

だとて年頃の少女なのだから、異性を意識する事は悪いことではない。

ただ問題は、どうして突然滝川とリンを意識するようになったのかだ。

昨日までは普通だった。

普通に会話をして、普通にじゃれあって・・・―――そこに異性としての意識など微塵も見えなかったというのに・・・。

昨夜から今朝にかけて、変化の兆しがあったのだとすればそれは・・・。

「・・・何か夢でも見たのかしら?」

不意に零れた呟きに、傍らにいた麻衣が顔を上げた。

「・・・え?」

「いや、の事よ。明け方にかけて随分うなされてたみたいだし、何か夢でも見たのかと思って」

「・・・夢」

綾子の言葉に麻衣の脳裏に甦るのは、昨夜彼女自身が見た夢。

あれは衝撃的だった。―――怖くて、照れくさくて・・・でも少しだけ幸せだった。

「それくらいしかないのよね。がぼーさんとリンに対して変化を見せた原因なんて」

とはいえ、どんな夢を見ればそうなってしまうのかなど、まったく想像もつかないが。

一方綾子の呟きを聞いた麻衣は、ハッと弾かれたように廊下を見た。

「・・・もしかして」

そこには既にの姿はない。

だがそこにがいたとしても、おそらくは聞けはしなかっただろう。

それをするという事は、麻衣自身が昨夜見た夢の内容を口にしなくてはならないのだから。

「・・・まさかね」

そんな偶然があるわけがないとあっさり結論を出すものの、だからといってそれですんなり納得してしまえるわけではない。

なにせ相手はあのなのだ。

その世界では有名な家の、しかも月華と呼ばれる立場にある。

あの滅多に人を褒めないナル自身が、決して口には出さないけれどの能力を認めている。

一方自分は、調査を続ける上でそれなりに不思議な体験はしているけれど、いまいち確証が持てない部分も多い。

そんな自分が、ナルが示してくれたとはいえ曰くありげな夢を見たのだ。―――だって見ていないとは言い切れないけれど・・・。

「・・・・・」

「・・・・・」

綾子と麻衣、お互い顔を見合わせてヘラリと乾いた笑みを浮かべる。

どちらも、なかなか口には出しづらい。

綾子としても、不用意に口を挟んで厄介な展開になるのは避けたかったし、麻衣だとて夢の内容を口にするのはかなり気恥ずかしかった。

「・・・麻衣、どうしたの?」

「別にどうもしないよ。綾子こそ何かあったの?」

「別に何もないわよ」

お互いがお互いの心を読むように言葉を交わして・・・―――けれど肝心なところは読み取れないまま、2人は誤魔化すように微笑みあった。

今はまだ、自分の心の中にしまっておこう。

誰かに話す日が来るかどうかは、微妙なところだけれど。

 

にも言えない

(何やってんの、お前ら)

(べっつに。ね、綾子)

(そうそう、別になんでもないわよ)

(・・・・・・)

 


ゴーストハント 『呪いの家』 第6話裏話。

一番楽しんでるのは、きっと綾子。