「それはどうも!ご期待に沿えれば結構ですけどね!!」

手の中に納まった小さな携帯電話に向かってそう怒鳴りつけ、通話ボタンに勢い良く指を押し付ける。

人間の発明品の中でも一際人々に愛用されているそれは、たったそれだけの事で相手との繋がりを絶ってくれた。―――本当に便利な機械だよね、まったく!

「どうした?なんかあったのか?」

突然怒鳴り声を上げた私にびっくりしてか、ぼーさんが慌てた様子でこちらへと駆けてくる。

心配してくれるのはありがたいけれど、とてもじゃないけど内容なんて話せない。

『戻ってき次第報告をしてくれ。―――お前が今回どんな活躍をしたのか、報告を聞くのが楽しみだ』

一清のこんな一言でキレたなんて、こんなにも心配してくれてる相手にとてもじゃないけど言えない。

私はぼーさんの声に引かれて次々に集まってくる人たちを相手に何とか誤魔化しながら、重い重いため息を吐き出す。

大体、いちいち嫌味なんだよ。

確かに今回、私はほとんど何にもしてないけどさ!

寧ろ足引っ張ったっていうか、面倒事起こしただけかもしれないけど!

それでも、もうちょっと・・・ほら。―――大丈夫だったか・・・とか、ご苦労だった・・・とか、掛ける言葉はいくらでもあるでしょうに。

何でわざわざ人の神経逆なでするような発言するかな、ほんと。

しかも解ってやってるんだから性質が悪い。―――まぁ一清の性質が悪いのなんて、今に始まった事じゃないけども。

折角仕事が終わった爽快感に浸ってたっていうのに、これじゃ台無しじゃない。

もう、こうなったら・・・。

「ねぇ、ぼーさん。仕事も終わった事だし、みんなでパーッとご飯でも食べに行かない?」

私は隣に立ってナルたちの撤収作業を眺めるぼーさんにそう提案する。

そりゃこの夏休みの間に予習復習はばっちりこなさなきゃいけないし、帰れば帰ったで報告書作ったり、一清の嫌味聞いたりしなきゃいけないんだけどさ。

でも折角の夏休み、それじゃ楽しくないじゃない。

ちょっとくらいは楽しい思い出があっても、バチは当たらないでしょ?―――友達とご飯食べに行くくらい、遊びに行くっていうほど大げさなものでもないし。

「そりゃまぁ、構わねーけど・・・」

「よし、決まり!綾子〜、ジョ〜ン、真砂子!これからご飯食べに行こ〜!!」

ぼーさんの了承を得た私は、次に同じく手持ち無沙汰に佇む3人に声を掛ける。

3人もこれから特に用事はないのか、色良い返事をいただけた。

「んじゃー、どこ食いに行く?」

「やっぱりここはパーッと!美味しいもの食べに行こう!私奢るからさ」

「奢るって・・・女子高生に奢らせるわけにも・・・」

私の発言に、ぼーさんが困ったように眉を寄せる。

確かにいい歳した大人が、女子高生に奢ってもらうってのは抵抗あるのかもしれない。

だけど・・・ふっふっふ。

私には奥の手、秘密兵器があるから大丈夫。

「じゃーん!!」

効果音付きで財布から取り出したのは、一枚のカード。―――しかもピカピカに光るゴールド。

「うおっ!お前、ゴールドカードなんて持ってんのかよ!月華ってそんなに儲かるわけ?」

「女子高生のくせに、似合わないもの持ってんじゃないわよ」

ステレオで入る感想と反論に、しかし私はカードを左右に振ってニヤリと笑う。

「んなワケないでしょ。これは私のじゃなくて、一清・・・家当主様のなの。必要な経費はここから払えって預かってるの」

流石に私も、普段からそうほいほい使えない。

多分、私がちょっとやそっと使っても困りはしないだろうし、一清も何も言わないだろうケド・・・―――もともと私のお金じゃないし、流石に抵抗あるから。

「へー・・・家って儲かってるのね。―――当主っていくつ?」

「え〜・・・と、確かぼーさんよりも2・3歳上だったと思うけど・・・」

そんな事聞いてどうする気なの、綾子。

もしかして紹介して欲しいとか言い出すんじゃないでしょうね?

まぁ私としては紹介しても構わないんだけど・・・―――だけどあんまりお勧めしないよ、綾子。

歳重ねてるだけ、ナルよりよっぽど性質悪いんだから。

プライドが山のように高い綾子じゃ、ちょっと無理なんじゃないかなと思うんだよね。

たとえば・・・そう、麻衣とかジョンのような小動物系とかは意外といけるかもしれないけど。

「つーか、必要な経費をだろ?俺らとメシ食いに行くのに使って良いのかよ」

「何言ってんの、ぼーさん」

呆れた眼差しを向けるぼーさんを見上げて一言。

「悪霊と対峙して疲れ果てた身と心を癒すためなんだから、立派な『必要経費』でしょ」

キッパリとそう言い放てば、ぼーさんは呆れたような・・・けれど納得したような複雑な面持ちで頷いた。

「ほんじゃ、麻衣たちも誘ってこよう。折角なんだし、親睦を深めないとね」

「誘うゆうても、渋谷さんたち来はりますやろか?」

私とぼーさんのやり取りをおろおろしながら見守っていたジョンが、控えめに口を挟む。

ナルやリンさんを誘って来るかどうか?―――ほぼ100%の確立で、来ないだろうケド。

それでも私は、心配そうな表情を浮かべるジョンへ向かいにっこりと微笑んだ。

「ジョン。来るかどうか・・・じゃなくて、来させるの」

「えー、そりゃ無理だろ」

すかさず口を挟むぼーさんに、けれど私は笑みを崩す事もなく。

「大丈夫だって。私に任せてくれれば、ね」

自信たっぷりに笑みを浮かべて、私はいざ決戦の地・・・―――ワゴン車で撤収作業を行うナルたちの元へと足を踏み出した。

 

 

「さー、何食べたい?」

「・・・・・・」

「和食?洋食?それとも中華?」

「・・・・・・なんでもいい」

「リンさんは〜?」

「・・・私も、特には」

「そう?」

十数分後、ナルとリンさんを両手に抱えて、私は意気揚々とぼーさんたちの元へ戻る。

ぼーさんたちのびっくりした顔を想像して・・・―――その隣に並ぶだろうナルの不機嫌そうな顔も一緒に想像して、私はくすくすと笑みを零した。

 

 

たまには、こんな日常

(・・・お前、どうやって2人を説得したわけ?)

(ふっふっふ、内緒〜)

 


ゴーストハント、第2章最終話直後。

結局は主人公の1人勝ち。