オトリとしてパートナーとなり、滝川と一緒にベンチに座ってとりとめもない会話を交わしていた麻衣は、ある事実を前に大きくため息を吐き出した。

「ぼーさん。そんなに気になるならとペア組めばよかったのに・・・」

こちらも同じくオトリとなったとリンの2人を、穴が開くのではないかと思えるほど凝視する滝川へそう言うと、滝川は意外だと言わんばかりに目を見開いた。

「何言ってんのよ、麻衣ちゃんってば」

「・・・やっぱり綾子の言ったとおり、ぼーさん気付いてないんだ」

「だから、な〜にが」

「ぼーさんって、気がつくとの事みてるよね」

呆れ混じりに呟かれた麻衣の言葉に、滝川は更に大きく目を見開く。

いつも、誰が?―――俺が、の事見てるって?

思い返してみれば、に関する記憶は他の者と比べて格段に多い気はするが・・・。

しかしそれは話しやすかったり、からかいやすかったりするせいであって、特別意味なんてないはずなのだけれど。

考え込んでしまった滝川を横目に、麻衣もまた目の前の光景を眺める。

自分だって、人の心配なんてしている余裕はない。

どうしてナルは真砂子の言うがままになっているのだろう。

今回の依頼が不本意なものであるというのは、彼の顔を見れば一目瞭然だというのに・・・―――それでもナルは真砂子の願いを断らず、こうして彼には似合わない公園にまで出向いてきている。

たとえば自分が同じ事を頼んだとしたら・・・―――その先を想像してがっくり肩を落とす。

たとえそんな状況になったとしても、きっとナルは聞き入れてはくれないだろうから。

けれどもしもがお願いしたとしたら・・・?

「・・・なんやかんや言いつつ、聞き入れそうな気がする」

横目でとリンを窺いつつ、麻衣は小さく呟く。

いつの間にか、あのリンと普通に会話が出来るようになっている

どこをどうやったらリンとの会話が成立するのか聞いてみたい気もしたけれど、自分に実行できるとも思えず断念する。

「・・・って不思議だよねぇ」

「・・・はあ?」

ずっと思考にはまっていた滝川が、麻衣の小さな一言に反応を見せた。

ほら、たとえばこんな風に・・・。

あの気難しい2人をあっさりと手なずけて、そうして滝川をも惹きつけている。―――勿論麻衣とて同じなのだけれど。

それなのにどこか壁を感じる気がするのだ。

思い返してみれば、麻衣はの事をほとんど知らない。

その業界筋では有名な家の、ナンバー2の地位に立つ『月華』と呼ばれる特殊な地位に就く人物であり、超がつく進学校に通っているという事くらいしか。

想像すれば想像するだけ謎の多い人だと麻衣は思う。―――もっとも、それはに限った事ではないが。

「ぼーさんも、うっかりしてると誰かに掻っ攫われちゃうかもよ」

「だから、なにがだよ」

今もまだ気付かぬフリを続ける滝川を見上げて一言。

「別に、20代半ばのぼーさんが女子高生を好きになっても構わないと思うよ」

「・・・だ〜か〜ら」

「今しか手に入れられないものって、きっとあると思う」

麻衣の静かな声に、滝川は思わず口を噤んだ。

「気付かないフリしてても良いと思うけど、それって後できっと後悔するよ」

「・・・麻衣」

後悔なんてしたくない。

だから麻衣は、今の自分に出来る限りの事をする。

たとえばそれがナルに向けて行動を起こすわけではなくても、妙に手ごわいライバルがいたとしても。

せめて、自分の気持ちだけは偽らないように。

「ま、お互い頑張ろうよ。敵は手ごわい上に、ライバルも手ごわそうだけど」

そのライバルにが含まれるのか否か、今はまだ解らないけれど。

「・・・一丁前な口聞きやがって」

苦笑した滝川に頭を小突かれ、しかし麻衣はくすくすと笑みを零す。

そう、まだまだ始まったばかりなのだ。

敵は手ごわいという事は、ライバルにとっても同じこと。―――ゆっくりと攻めていけばいい。

目下、麻衣の敵は素っ気無いナルの態度。

そして滝川の目下の敵は・・・。

「・・・勉強、だろうな。やっぱ」

げんなりした面持ちで呟く滝川を見上げ、麻衣は声を上げて笑った。

 

 

最大の

(つーか、勉強が敵って・・・!)

 


 

ゴーストハント。オトリ、その2たちの会話。