「電話をもらった時からもしかして・・・とは思ってたんですけど、やっぱりも霊能者だったんですね。びっくりしました」

ナルの指示で調査に向かった滝川と安原。

現場に向かう途中で突然そう話を切り出した安原に、滝川は思わず目を丸くした。

突然何を言い出すのかという驚きが1つ。―――そうして、と随分親しそうにしていた彼の口から出た真実にもう1つ驚いて。

安原を見下ろして、滝川は思わず首を傾げた。

「なんだ、少年。お前知らなかったの?」

「はい。僕はしがないただの高校生ですからね。そんな話題なんて出ませんし」

さらりと笑顔でそう言ってのける安原に、それでも滝川は意外とあっさり「そりゃそうか・・・」と納得する。

確かに普通の友達同士で、怪談話くらいはすれど本格的な霊現象の会話などしないだろう。

の様子から察するに、家の月華だという事をぺらぺらと自分から話すようにも思えない。―――その結論は、妥当なところと言えるだろう。

しかし安原はそんな滝川を見上げて、意味ありげに笑みを浮かべた。

「・・・今、ちょっとホッとしませんでした?」

「はぁ?」

「実は僕との関係が気になってたんでしょう?」

にっこりと笑顔を浮かべて言い放たれた言葉に、滝川は思わず言葉に詰まる。

気になっていたかどうかと問われれば気になってはいたけれど、この話の展開は嫌な予感しか感じられない。

「・・・少年、お前また俺の事からかってるんだろ」

「ええ、もちろん」

そう判断してジト目で安原を睨み返すと、輝くような笑顔と共にあっさりとした返事が返って来た。

予想済みといえば予想済みの返答に、しかし滝川はがっくりと肩を落とした。

何が悲しくて高校生にからかわれなくてはならないのか。―――その原因が解っている身としては、少々不本意ではあるけれど。

それでもこの想いを捨てる事も出来ない。

そんな事ができたらとっくにやっている。―――こんなにも深みにはまる前に。

そう心の中で独りごちた滝川に、しかし安原は追及の手を緩めない。

更に笑顔で追い討ちを掛けるべく口を開いた。

「でもって綺麗だし可愛いし頭の回転が速いから話してて楽しいですし、それに結構親しみやすいですから僕の友達の中でも評価高いんですよね。彼女にしたいって」

それは真実。

社交的でノリもいいは、わりと広範囲に人気がある。―――ただ、そう簡単に動かせる相手とは思えないが。

そんな安原の心を読んだのか、それとも言葉からそれを察したのか、探るような眼差しを安原へと向けて滝川は口を開く。

「でも少年はそうは思わないわけだ」

「あれ?そう聞こえました?」

自分が言葉の中に隠した思いを正しく汲み取った滝川を見上げて、安原はにっこりと微笑みかける。

先ほどの言葉は、すべて第三者の視点によるものだ。

自分も同じように思っていないわけではないけれど・・・―――それでもその感情は、他人のもので安原のものではない。

じっと自分を見下ろす滝川の視線を感じながら、安原は小さく笑みを零して口を開く。

「そうですね、今は友達付き合いの方が楽しいですかね」

「・・・なんか含みのある言い方だな」

「あれ?そう聞こえました?」

からかうように微笑めば、滝川は憮然とした様子で黙り込む。

なんてからかいがいのある人物なのだろうか。―――相手の弱みを握っている分、余計に。

それでも、からかい倒すだけで終わるつもりは安原にもない。

敵に塩を送るのもたまには悪くないかもしれない。―――相手が相手なのだから、それくらいは何のハンデにもなりはしないだろうから。

「でも実際のところ、かなり難しい相手だと思うんですよね」

「何が?」

だから安原は、今度こそ自分の感想を口にした。

安原がを見て抱いた感想。―――今のを形作る、それを。

の事です。彼女って相手の懐の中に入るのも上手くて一見人懐っこく見えるんですけど、親しくなればなるほど一線を感じるんですよ。絶対に内面には触れさせないっていうか・・・」

言われて滝川は思い出す。

少し前、彼もまたそれを身をもって体験していた。―――あの、絶対的な拒絶を。

「僕はの事をそれなりに知っているつもりですけど、やっぱりそれなりなんですよね。結局は彼女が見せている部分だけしか知りません。彼女が霊能者だった事を知らなかった事から考えても」

だから電話をもらってびっくりした。

まさか今回の事件絡みで、から連絡が来るとは思ってもいなかったから。―――それがただ心配になったからという理由ではないのだから、なおさら。

つくづく自分の予想を裏切ってくれる相手だとも思う。

だからこそ、楽しいのだけれど。

「・・・そうだなぁ」

安原の言葉に同意するように相槌を打つ滝川を見返して・・・―――そうして窓の外に視線を移した安原は独り言のように呟いた。

「・・・って、いつも何かと戦ってる気がするんですよね」

空はまるでこちらの感情とは正反対に、皮肉なほど青く澄み渡っている。

「何かって?」

一拍置いて返って来た反応に苦笑する。―――とたんに真剣な表情になるのだから、この子供のような大人は。

そんな事を思いながら、安原は考えを巡らせて。

「そこまでは解りませんけど、でも敢えて言うなら・・・自分自身と?」

「・・・・・・」

「そこら辺を彼女自身が整理しない限り、恋愛をする余裕なんてにはないんじゃないかなと思うんですよ」

最終的に出た結論を告げると、滝川は難しい表情を浮かべて唸り声を上げる。

彼ももしかすると解っているのかもしれない。―――彼女の中にある、人には見せない闇のようなものが。

それ以前に、彼には他にも気にしなければならない存在もあるのだけれど。

それを思い小さく笑う。―――彼らは本当に、楽しませてくれそうだ。

「それに滝川さんには、あの背の高い寡黙な・・・リンさんっていうライバルもいるみたいですし。まだまだ先は長そうですねぇ・・・」

笑みを含みながらそう告げれば、先ほどまで真剣な表情をしていた滝川が恨めしげに安原を睨み上げる。

これだから、口を出すのは止められないのだ。

「・・・少年、やっぱりお前楽しんでるだろ」

「ええ、かなり」

輝くような笑顔で言い切った安原を見返して、滝川は疲れたようにがっくりと肩を落としてため息を吐き出した。

 

 

彼と彼の内緒

(あれ?なにやってんの、2人して)

(男同士の内緒話ですよ)

(・・・なぁ〜んか怪し〜い)

(あはははは〜)

 


ゴーストハント。

からかわれるぼーさんと、楽しさを見出した安原。