「そんな事で嫌って欲しくないの!!」

目の前でそう叫ぶ麻衣を見やり、リンは思わず目を見開いた。

何気なく投げ掛けられた言葉。

それに何の他意も悪意もないのだと解っていても、それでも我慢しきれずに吐き出してしまった本心。

純粋な少女には少しつらい問題だったのかもしれない。

それでも知らないでは済まされない問題である事も確か。

そうは思っていても、目の前で辛そうに表情を歪める少女を見て、まったく心が痛まないほどリンは冷酷な人間ではない。

しかし・・・―――自分の下へ返ってきた意外とも言える言葉に、リンは堪えきれずに小さく噴出した。

呆気に取られる麻衣を前に、更に小さく笑みを零して。

「・・・同じ事を言うんですね」

「・・・はぁ?」

「昔、同じ事を私に言った人がいるんです。―――それを思い出しました」

呆気に取られる麻衣へとそう話、リンは何とか込み上げる笑みを殺した。

随分と昔に聞いた言葉。

そして、つい最近もまた同じような発言をした少女がいる。

麻衣とは違い何処か迷いながら・・・―――それでもまっすぐ挑むような眼差しを向けた少女が。

勿論、麻衣は彼女ほどストレートな言葉ではないけれど。

『仲良くなりたい』なんて、そんな何の捻りも裏もない子供のような言葉を、まさかから聞く事になるとは思わなかったが。

ぽかんと自分を見つめる麻衣を見返して、それでも言っておかなければならない事もあると、リンは改めて口を開く。

それに少し落ち込みながら・・・それでも「よく考えてみる」と真剣な眼差しを向けた麻衣から視線を逸らし、リンは改めてモニターと向き合う。

そんな中ベースを出ていた面々が帰還し、すぐさまナルから出された指示に取り掛かっていると、不意に声を掛けられたリンはキーボードにおいていた手を僅かに痙攣させた。

そのまま顔を覗き込まれ、は目を丸くする。

それにどうしたのかとチラリと視線を向ければ、は意外だと言わんばかりに・・・けれどどこか嬉しそうに小さく笑みを零した。

「・・・あれ?どうしたの、リンさん。なんか機嫌良さそう・・・。いい事でもあった?」

突然の問い掛けに、今度はリンが目を丸くする番だった。

どうして解ったのだろうか?

それが良い事かどうかと問われれば答えづらくはあったが、少なくとも不愉快な事があったわけではないとははっきりと言える。

まだこの胸にあるわだかまりは消せないけれど、あんな風にまっすぐな眼差しで向かってくる人間を、リンは嫌いではなかったから。

そうしてそれは、この目の前にいる少女もまた同様で・・・。

「・・・先ほど、谷山さんに貴女と同じ事を言われましたよ」

どうしてだかあっさりと自分の心を見抜いてしまったを悔しく思いながら、リンは反撃に転じるべくそう口を開く。

彼女がこの話を出される事に恥ずかしさを感じている事を、リンは知っている。

「・・・同じ事?」

「ええ、森下家の事件で貴女に言われた言葉と似たような事を」

「森下家って・・・うっ!!」

それって『リンさんと仲良くなりたい』って言った奴?と無言で問いかけるに、リンは僅かに笑みを返して。

「ちょっと〜・・・。一体それ、いつまで引っ張るつもり?そろそろ忘れてくれてもいいんじゃないの〜?」

「いいえ、私にとっては衝撃的な発言でしたから」

「衝撃的って・・・!」

がっくりと肩を落とすを見やり、リンは何食わぬ顔で手を動かす。

言った言葉に嘘はない。―――あれほどまっすぐに気持ちをぶつけられたのは本当に久しぶりで、それは確かに衝撃的なものだったから。

その言葉に深い意味はないのだと解っていても、深い意味があればいいなどと思った事もまた、自分にとっては衝撃的だったから。

未だ何も始まってはいなくても、確かにあれがリンとの道を交わらせるきっかけだった。

これからその道がどう交わるのか、それさえも想像がつかないけれど。

「あー、もう!リンさんの意地悪!」

「どうとでも」

「くそー!そんな事言う子は、こうだ!!」

そう言って頭へと伸ばされた手を難なく避け、更に悔しそうに表情を歪めるを見上げて、リンは小さく笑った。

 

衝撃的発言

(ぼーさん!もたもたしてたら大変な事になるんだからね!)

(なに、いきなり。どうしたの、麻衣?)

(どうしたの?じゃなーい!)

(・・・何やってんの、アンタら)

 


ゴーストハント。

本編第9話、幕間。

意外と余裕なリン。