「・・・

ノックも声掛けもなく突然私の部屋のふすまが開けられて、何事かと視線を巡らせればそこには真剣な表情を浮かべた小太郎ちゃんがいた。

まぁ、小太郎ちゃんは大抵真剣な顔をしてるんだけど。―――その割りに行動がギャグめいてるのはまぁ、ご愛嬌という事で。

本当なら「乙女の部屋をノックもせずに覗くとは何様だ、コラァ!ふすま開ける前に声ぐらい掛けろって何回言えば理解できるんだよテメーはよ」なぁんてどつき回したいところだけど、そんな事してると話が先に進まないからね。

小太郎ちゃんと会話してる時、ちょっとした事で話の筋が違っちゃうと、最初に何話してたか解らないくらい脇道逸れちゃうから。

まぁ、それはそれで面白いんだけど、いつまでも隣で何を話すつもりだったかを悩まれるのもうっとうしいし。

「どうしたの、小太郎ちゃん。何か用事?」

にっこりと微笑んでそう話を促せば、小太郎ちゃんは至極真面目な顔で一つ頷き、私の前に正座した後、数枚の紙の束を私に差し出した。

「これが今度の計画書だ。今こそ我らが動く時なのだ」

力強い言葉と共に差し出されたそれを受け取って、一体今度は何を考え付いたのかと思案しながら数枚に渡るそれに目を通す。

「・・・これが、計画書?」

「そうだ」

キッパリと言い切られ、私は僅かに眉間に皴を寄せる。

これって計画書っていうよりも、寧ろメモ書きみたいなものなんだけど。

それでもまぁ、小太郎ちゃんが次に何を狙っているのか位は解るけれど。

「・・・ターミナルの破壊、ねぇ」

いや、それにしてもこの計画書はいただけない。

大体、標的とその武器に何を使うかしか書いてないし。

こんなに枚数があるのに、何でどこも似たような事しか書いてないんだろう。―――まぁ、すべて言い回しが違ってるところがまだ救いかもしれない。

。お前にはその為の爆弾作りを頼みたい。ターミナルを破壊できるだけの、破壊力のあるやつを頼む」

「小太郎ちゃん、本気なの?」

「無論だ!」

やっぱり力強くそう言い切る小太郎ちゃんを見返して、私はどうしたものかと内心ため息を吐き出す。

確かに攘夷を志す私たち攘夷党が、天人の受け入れ先となっているターミナルを疎ましく思うのも当然だ。

小太郎ちゃんがいつかそう言い出すだろう事も、予測の範囲内ではある。

だけど、ねぇ。―――ターミナルを破壊できるだけの爆弾を頼む・・・なんて、そう簡単に言われてもねぇ。

まぁ、私に限って不可能だなんて事はありえないけど。

だけど、やっぱり・・・ねぇ。

「ねぇ、小太郎ちゃん。たとえばその爆弾を作ったとして、どうやってターミナルにそれをぶち込むの?あそこって警備が厳重だし、おまけに小太郎ちゃんは指名手配犯だし、そう簡単な事じゃないと思うんだけど」

確かに今みたいに、ちまちま天人の大使館をテロ・・・なんてやってても、きりが無いのは解るんだけど。

加えて、それだけ破壊力のある爆弾作りっていうのに興味がないわけじゃないんだけど。

だってねぇ・・・この計画書を見る限り、成功するとはとても思えないし。―――小太郎ちゃんには悪いんだけど。

そこのところ、どういう風に考えてるのか・・・。

まぁ、ちゃんと考えてるくらいならこんな計画書渡さないだろうし、大して期待はしてないけど・・・。―――それでも小太郎ちゃんだって頭が悪いわけじゃないし、きっと何か考えがあるのかもしれないとちょっとだけ思って聞いてみれば、小太郎ちゃんは自信に溢れた笑みで私を見返して。

「その辺の事はお前に任せる。好きなようにしてくれ」

丸投げかよ。

厄介事全部押し付けてるんじゃねーよ。

確かに悪巧みを考えるなら私の方が得意だけど!

そこは確かに負けない自信もあるけど!―――っていうか、小太郎ちゃんに悪巧みって、ハリーポッターが実は魔法使えませんでした、くらいありえないけど!

しかもそれって私を信頼してくれてるからなんだろうと思うと、ちょっと嬉しかったりもするけどさ!

きっと小太郎ちゃんはそんな事微塵も考えてなくて、それはきっと捻くれた私だからこその深読みなんだろうけど、そこが思う壺みたいな気がしてなんとなく釈然としない。

それに比べて、小太郎ちゃんのなんて決意に満ちた顔か。―――まだ計画らしい計画さえ立ててないのに。

ここは一発八つ当たりと称したお仕置きに加え、そんな事じゃいつか真撰組に一杯食わされると耳にたこが出来るほど言い聞かせてやろうと思ったけど・・・―――ふと脳裏に浮かんだ考えに、私は思わず口を噤んで思考を巡らせる。

「・・・どうした、?」

そんな私を心配そうに覗き込む小太郎ちゃんと目が合って。

パッと考えを纏めた私は、なんでもないと笑みを浮かべて一つ頷いた。

「解ったわ。私に全部任せておいて、小太郎ちゃん」

小太郎ちゃんが持参した計画書を握りつぶし、ありがとうと嬉しそうに笑顔を浮かべる小太郎ちゃんを見返して、私は密かに形になりつつある私自身が考えた計画に、独り心の中でほくそ笑んだ。

 

 

さて、ここにある報告書がある。

これは攘夷党とは無関係なものであり、またその情報ルートも小太郎ちゃんにさえ教えてあげる事は出来ない極秘のものであるのだけれど。

じゃあ、果たしてこの報告書には何が書かれてあるのか。

かつての攘夷戦争で、白夜叉と恐れられた男の所在について。―――そのすべてが書かれてある報告書を見下ろして、僅かに口角を上げる。

これは特別に調べ上げたものじゃない。

私が頼んだわけでもなければ、小太郎ちゃんに頼まれたものでもない。

ただ偶然に・・・―――かつて私の仲間だった男の所在を偶然に知った情報提供者の、まぁ・・・善意の報告書なのだけれど。

誓っていうけれど、これを手にした時、具体的に活用しようという気はなかった。

私に今の私の生活があるように、彼にも今の彼の生活がある。

会いたくないわけじゃなかったけれど、今の彼の生活を壊してしまうかもしれない事に罪悪感を抱いたり・・・―――なぁんて建前はこの際置いておいて。

だってね、今更「久しぶり〜」なんて顔出したって、それはそれでびっくりするだろうけど芸がないし。

なんてったって久しぶりの再会になるんだから、やっぱりここは一発一生忘れられないくらい劇的な再会でないと面白くないし。

その切欠ってやつを掴むのが、意外と難しかったりしたんだよね・・・今までは。

私はニヤリと自分でも解るほど人の悪い笑みを浮かべて、早速計画を練り始める。

まずは彼をどうやって罠に掛けるか。

ああ見えて意外と面倒見が良かったりするから、やっぱり人を使うのが一番なのかもしれない。

最近私たちのテロ活動が話題になっているみたいだし、この際それも利用してみようか。

彼との再会が、私に・・・そして小太郎ちゃんに一体何をもたらすのか。―――それを想像して、その通りになれば良いと心の中で密かに願いながら。

「それじゃあ、肝心の爆弾作りにも取り掛からなくちゃね」

久しぶりの高揚感に、私は確実に訪れるだろう衝撃の未来を思い浮かべながら、わくわくとした想いで作業台と向かい合った。

 

 

計画実

(この私から逃げられると思わないでよ、銀ちゃん)

 

 


いや、だから実行にまで至ってないんですが。

銀魂第一訓のその前のお話。