それはある平穏な休日の事。

 

 

「そういえば、。結局この間は交渉術なんて呼べないような微妙なものだったと思うんだけど、その辺り君はどう思う?」

談話室での憩いのひと時、いつも通り本を読んでいたは、そんなジェームズの言葉に嫌そうに顔を上げた。

「まだ懲りないのか、お前は」

「だってこの間のって、君が交渉したわけじゃないよね。よく考えれば」

「満足したと言っただろう」

「あの時はね。でもまた新たに疑問が浮かんできたんだ、仕方ないよね」

ああ言えばこう言う。

ケロリと悪びれた様子もなくそう言い放つジェームズに、は読んでいた本を音を立てて閉じてから、呆れたような面持ちで彼と向かい合った。

ちなみに今回が読んでいた本は、前回と同様『人体の急所について』だったが、その内容がかなりレベルアップしているのをリーマスは見た。―――ジェームズはいつかに痛い目に合わされるんじゃないかと心の隅でそう思い、それはそれでいい薬になるかと思い直して紅茶を口に含む。

「・・・で、本題は何だ?回りくどい言い方をせず、直接言え」

「そう?じゃあ言わせてもらうよ。実はね、にシリウスを上手くホグズミードに誘ってあげて欲しいんだ」

「・・・私が?」

ジェームズに要求に、は訝しげに眉を寄せる。

「私は別に、ホグズミードに用事はないが・・・?」

「でもこの間、にホグズミード行きを断られた事で、シリウスかなり落ち込んじゃって。可哀想でしょう?」

誰のせいだ、誰の。

まるでがすべての原因のような言い回しに、リーマスとピーターは心の中でそう突っ込む。

こんな状況で真っ先に抗議の声を上げるだろうリリーは、生憎とこの場にはいない。

またもやマクゴナガルに変身術についての質問をしに行ったらしい。―――つくづく勉強熱心な少女である。

一方、ジェームズの一方的な責任転嫁に、しかしはじっと考え込むように視線を泳がせる。

確かにここ最近、シリウスに元気がない。

静かになってちょうど良いと思っていたが、やはり自分の隣で鬱々と考え込まれるのは気分が良いものではない。―――まぁ、だからといって慰める方法など思いつかないので、そのまま放ってはいるが。

とて、いつまでもシリウスに落ち込んでいて欲しいわけではない。

その原因が自分にあるのだとすれば、多少・・・罪悪感がないわけでもない。

しかしは、ホグズミードに行く気などなかった。―――何度も言うが、人の多い場所はあまり好きではないのだ。

そんなに行きたいのであれば付き合っても構わないかと思う気持ちも少しはあるが、明らかに何かを企むジェームズを前に、素直に受け入れるのも納得が行かない。

ならば・・・いかにしてシリウスを復活させ、なおかつホグズミード行きを阻止するか。

確かにこれは交渉術が試されるだろうと、は頭の中でそう思った。

「・・・良いだろう。そこまで言うのなら、説得してみよう」

「よく言ってくれたよ、。あ、ちょうどシリウスが・・・―――おーい、シリウス〜!!」

そこにタイミングよく談話室に戻ってきたシリウスを目ざとく見つけたジェームズが、大きな声で彼の名を呼ぶ。

ちなみに彼が今までどこに行っていたかというと、1人中庭で黄昏ていたのだけれど。

「・・・なんだよ、ジェームズ」

この間は彼の口車に乗ってえらい目に合った。

今もまだそれを引きずっているシリウスには新しい記憶に苦々しい思いで返事を返すと、しかしジェームズはとても楽しそうに笑顔を浮かべて。

が君に話があるんだってさ」

聞いてあげてよと背中を押されての前に立たされれば、はどこか挑むような眼差しでシリウスを睨み上げた。

「な、なんだよ・・・」

その気迫に一瞬気圧されそうになりながら声を掛けると、はしばらく迷う仕草を見せて・・・―――そうして意を決したように口を開いた。

「シリウス。お前はどうしてもホグズミードに行きたいようだが・・・」

「あ、ああ」

「しかし私は今はそんな気分にはなれない。いずれはお前の希望通り付き合おう。しかし今は悪いと思うが遠慮してくれ」

の口から流れ出た言葉に、満足げに状況を見守っていたジェームズが目を見開く。

自分は確かに『シリウスをホグズミードに誘ってやってくれ』と言ったはずなのに・・・―――これは一体どういう事かと目で訴えれば、ほんの微かにが笑ったような気がした。

「だから今度のホグズミード休暇は、私とホグワーツに残らないか?チェスにも少し興味がある。教えてくれるとありがたいのだが・・・」

の言葉に、シリウスは驚きに目を見開く。

なんだ、この展開。

ついこの間、すげなく断られたというのに・・・―――どうして休日の時間を誘ってくれるのか。

その理由はまったく解らないけれど、しかしシリウスに異存があるはずもなく。

みるみる内に表情を明るいそれへと変えて、シリウスは満面の笑みを浮かべて勢い良く頷いた。

「ああ、俺に任せろ!」

一瞬でいつもの元気を取り戻したシリウスを見上げて満足そうに微笑んだは、チラリと横目でジェームズを見やり、もう一度微かに微笑む。

これで良いのだろう?と語るその眼差しを受けて、ジェームズは今度こそ自分の完敗を察してがっくりと肩を落とした。

確かにジェームズは言ったのだ。―――シリウスを元気付けてやってくれ、と。

その方法がホグズミードでなければならないなど、一言も口にしてはいない。

ただホグズミードに誘えば、シリウスは喜ぶんじゃないかな〜と提案しただけで。

「あのジェームズをあしらうなんて・・・さすが、

感心したように呟いて、リーマスは冷めてしまった紅茶を淹れ変えるべく立ち上がる。

意外とあの本も役に立っているのかもしれないと、そんな事を思いながら。

 

 

交渉

(あら?どうしたの、シリウス。そんなに嬉しそうな顔で小躍りしちゃって)

(聞いてくれよ、リリー!実はがな・・・)

(・・・まさに踊らされてるわね、あの2人に)

 


ハリー・ポッター

ジェームズ、リベンジ編。