それはいつもと何ら変わりない、穏やかな日のこと。

人間たちが住まう下界とは違い、ここ仙人たちが住まう崑崙山はびっくりするほど事件と言う事件は起こらない。

いつもと同じような日常が続くだけ。

そんな日常は、ある男に下った計画によって一変するのだが。

 

封神計画・動!

 

「やっぱりここにおったのか・・・」

太公望がある人物に会いにいつもの場所に行くと、その人物はやっぱりそこにいた。

さらさらの腰まで伸びた黒い髪と、それと同じ色の漆黒の瞳―――今はその双貌は堅く閉じられているが、その姿は竜吉公主と比べても遜色ないと言われるほどだ。

その少女の名は、という。

崑崙山の中心部・玉虚宮から少し外れた場所にある大きな岩の上はあまり人のこない穴場と言うやつで、は今日もそこで1人昼寝を満喫していた。

彼女・と太公望の関係は、簡単に言うと兄弟弟子。

は太公望が崑崙山に来るずっと以前からここで修行をしてきた道士で、太公望と同じ師を持ち、元始天尊の二番弟子という位置にある。

よく何故の方が長く元始天尊の元で修行をしているのに、太公望が一番弟子でが二番弟子なのかと問われるが、そのたびに2人揃ってとぼけていたりした。

もちろん太公望はその理由について知らないから、とぼけるといった言い方は少しおかしいかもしれないが・・・。

「何か用?人の昼寝を邪魔しておいて、ただ声をかけただけなんていったらぶっ飛ばすわよ?」

「安心せい。ちゃんと用事があって声をかけたのだからな・・・」

はうっすらと目を開いて恨めしそうに太公望を見ると、隣に座ったのを確認して大きくため息をついた。

隣に座ると言う事は、何か話があるということだ。

それを分かっているは、不精不精ではあるがちゃんと身を起こしてくれる。

「・・・で?」

「うむ。実はな・・・『封神計画』と言うものを元始天尊様に押し付けられてな・・・」

『封神計画』という言葉に、がピクリと反応を示す。

下界は今、大変な混乱を見せている。

妲己と言う妖怪仙人が大国・殷を裏から支配していると言う話は、もちろんの耳にだって入っているだろう―――そして妲己を排除し、仙人のいない新たな人間界を作る計画が『封神計画』だということも。

「ふ〜ん。それで、やるの?」

「・・・まぁ、やらねば破門とか言いおったからな、元始天尊様は・・・」

「あたしなら速攻破門の方を選ぶけどね・・・」

言葉を濁す事無く本音を話すに、太公望は苦笑いを浮かべた。

「それでお別れを言いに来てくれたのかな?」

少しおどけたように話すに、太公望は少しだけ眉をひそめた。

「お別れではない。少し留守にする事を伝えに来ただけだ」

「ま、どっちでもいいけど・・・」

は物事に関して執着というものがほとんどない。

太公望自身も物欲とかは無い方だが、はそれ以上だ。

物にも、そして人にも執着しない―――まさに一匹狼と言う言葉がぴったりと当てはまる。

それでも他の者に比べて、自分はまだ関心を持ってもらっているように感じるのは事実であり、太公望自身がそれを嬉しく思うのもまた事実だ。

だからこうして話をしに来ているわけなのだが・・・。

「しばらく会えんようになるのぉ・・・」

「そうだね」

「・・・それだけしかいうことはないのか?」

「他に何を言えって?」

「たとえば・・・『太公望に会えなくて淋しいわ』とか『無事でいてね』とか・・・」

「太公望に会えなくて淋しいわ〜、無事でいてね(棒読み)」

「・・・・・・もういい」

の予想済みといえば予想済みのその反応に、太公望は脱力したように肩を落とした。

「ではもう行くとするか。いろいろと用意もあることだしのぉ・・・」

太公望は重い腰を上げ、隣に座ってこちらを見もしないに声をかけた。

もちろん返事は返ってこない―――ただ眠たそうにあくびをしてから、自分の枕代わりになっている霊獣に身体を預けた。

「ま、頑張んなさい」

無言のままその場を去ろうとする太公望の耳に、今までとは違う感情の入ったのそんな言葉が聞こえた。

 

 

三日後、空の彼方を飛ぶ白い霊獣と、その背に乗る太公望の姿を見送ったは小さくため息をついた。

『よかったのか?行かせて・・・??』

の霊獣『』はそんなを見て、遠慮がちに問い掛ける。

「別に構わないわよ。本人が行く気なんだもの。止める必要ないでしょ?」

『そりゃそうだけどよ・・・』

まだ引き下がらないを無視して、は日課の昼寝をするためにの身体に寄りかかり目を閉じた。

それを見ていたも、これ以上言っても無駄だと判断したのか、(ほとんど無理やり決められた)日課の昼寝に入るべく目を閉じた。

しばらく経ってが眠りに入ったのを確認してから、はうっすらと目を開いた。

そして空を見上げる。

先ほど見かけた霊獣の姿はもうそこには無い。

『封神計画』―――その本当の目的を、太公望はおそらく知らない。

そしてその計画によって生じるであろう、犠牲者たちの事も。

それを知った時、彼は一体どんな反応を示すのだろうか?

はそこまで考えてから、首を横に振った。

それは今考えても仕方のない事だ。

そう・・・・・・始めてしまわなければ、何も変わらないのだ。

「・・・気をつけてね、太公望」

小さく呟いたその言葉は誰に聞かれるでもなく、風に流されて消えた。

 

 

「ああ、久しぶりだね・・・。元気だった?」

「もちろん。貴方もおかわりなさそうで・・・」

がそう言って笑うと、相手も同じように笑った。

「ついに『封神計画』がスタートしたよ」

「いつ始まるかと思ってたけど、とうとう動き出したみたいだね・・・」

「本当に。貴方は・・・って聞かなくても、きっと今まで通りなんだろうね」

「君は違うのかい?」

「・・・どうかな?私にだって、守りたいものの1つや2つは出来たんだよ」

「それはそれは。君にとっては良いことだと思うよ?私はね」

2人は顔を見合わせて笑った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

封神演義の連載スタートです。

さてと、本編のヒロインさんは一体何者なんでしょうか?

話をしている謎の人物は誰なのか?

話の中で明かしていきたいと思っています(当たり前だ)

つたない文章で面白みの無い内容だとは思いますが、どうかお付き合いください。

ついでに太公望ってこんなんだったっけ??という苦情は、皆様の心の中に秘めておいてください!(逃)

 

更新日 2007.9.13

 

 

 

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