先日の一件以来、周軍は思わぬ足止めを食っていた。

趙公明の召使い・呂岳の手によって大量のウイルスが巻き散らかされ、その結果ウイルスに感染した兵士たちの治療の為だ。

そんな事情で、伝染病に侵された兵士たちが動けるようになるまでの間、ひと時の休息が約束された。―――・・・一部の人間以外は。

周軍上空にたくさんの宝貝を身に付けた、1人の宝貝人間がいた。

言わずと知れた、ナタクである。

彼の存在理由は『戦う事』だと、誰かが言った。

しかしそんな難しい事はこの際ゴミ箱の中にでも捨てるとして・・・―――周りがどう思おうとどう考えようと、彼は確かに『戦う事』が好きだった。

そしてそんな彼が選んだ、今回のターゲットは・・・。

 

主人公、ナタクに戦いをまれる

 

「おっ!久しぶりさ、!!」

ぶらぶらと宿営地の中を散歩していた天化は、どこから用意したのか・・・テラスセットを広げ優雅にお茶を飲んでいるを見つけ声を掛けた。

「あら、天化。もうキズは完治したの?」

「ああ。まだ完治とは言えねぇけど・・・支障はないさ」

完治してないんなら支障あるんじゃないの?―――という喉まで出かかった言葉を飲み込んで、天化を空いている椅子に勧める。

特に拒否する様子なく座った天化にお茶を入れてやり、ついでに茶菓子も出してやって。

「そう言やぁ・・・」

天化はお茶を一口すすって、唐突に話を切り出した。

「俺っちの応急手当してくれたの、だって聞いたさ。ありがとうな」

「改めて礼を言われるようなことじゃないわ。本当に簡単な手当てしかしてないんだから・・・」

「でもコーチは『適切な処置だ!』って感動してたさ」

物まねつきでそう言う天化を見返して、は小さく笑う。

「お役に立てて、光栄ですわ」

「あんなのどこで覚えたさ?」

「ま、昔ね。長く生きてるもので・・・」

は湯飲みに残っていたお茶を飲み干して、新しいお茶を入れるべく急須に手を伸ばす。

コポコポと心地良い音と共に、透き通るような緑色のお茶が湯飲みに注がれるのをなんとはなしに眺めていて・・・天化は何かを思い出したのか、勢いよく顔を上げた。

「そうさ。にずっと聞きたい事があったさ!」

「・・・聞きたい事?」

なんだろう?とは小さく首を傾げた。

「あの・・・ちょっと聞きにくいんだけど・・・」

「・・・なに?」

「・・・の歳っていくつ位さ?」

ちょうどその時、の背後で爆発音が響いた。

おそらくナタクがまた楊ゼンにでも戦いを挑んで、軽くあしらわれたのだろう。

そう結論を出した天化だが、そのなんともタイミングのいい爆発音が、『女性に年齢をきくんじゃないわよ』というの心の声のように聞こえて。

「いや、やっぱいいさ。変な事聞いて済まなかったさ」

ニッコリと笑顔を浮かべているに向かい、思わず謝ってしまう。

その天化の心中を察してか、は苦笑するとふと考え込んだ。

ぶつぶつと何かを呟きながら考え込むを訝しげに眺める天化。

しばらく経って天化の湯飲みのお茶がなくなった頃、はようやく顔を上げて・・・―――しかし何処か申し訳なさそうに小さく笑った。

「ごめん。自分がいくつか覚えてないわ」

「・・・は?」

思わぬ返答に、天化は間の抜けた声を上げた。

もしかしてさっきした質問を真剣に考えていてくれたのか?

「気にすることないさ」

そう思うとそれだけで天化は嬉しくなり、両手を顔の前で振って笑う。

しかし次の瞬間、天化は凍りつくことになる。

「ホントにごめんね〜。3000年くらい前までは遡れたんだけど・・・」

「・・・は?」

「だから、3000年以上昔までは覚えてないの」

今すごいことを聞いたような気がする。

天化は思わぬ答えに思わず頭を抱え込んで。

「・・・ということは、は少なくとも3000歳・・・ってことさね?」

「そう言うことになるわね」

あっさりと返された返答に、思わず泣きたくなった。

桁が違うので、この際年の差なんてのはどうでもいい。

しかしいつかよりも強くなりたいと思っている天化。

は3000年以上も修行しているのに対し、自分はまだせいぜい数十年。

この差は簡単に埋まるものではない。

「どうしたの、天化?」

今まで以上に修行を頑張ろう。―――不思議そうに自分を見返すを見つめて、天化はそう心に決めた。

 

 

ドゴォォォォォン!!

再び宿営地に、爆発音が響く。

もはや日常化し、爆発音が聞こえない日の方が違和感を感じてしまうほどだ。

そう考え、『人としてその考えはどうだろう?』と首を傾げる人間も少なくない。

そんな1人であるは、その爆発音を敢えて聞き流しつつのんびりとお茶をすする。

これから修行をすると宣言した天化を送り出して、さてこれから昼寝でもするか・・・と大きく伸びをする。―――この時のは、確かに穏やかな時間を過ごしていた。

しかしそんな穏やかな時間は、彼の飛来によって壊されることになる。

ゴオオオオと轟音を響かせ飛来してくる何かに、は視線を巡らせた。

「お前、強いな」

突如姿を現し、一方的に問い掛けるナタクをのんびりと見上げ、あくびを1つしてからはにっこりと微笑んだ。

「まさか」

「嘘をつくな。気配で分かる。お前は強い!」

の主張は速攻で否定された。

なら何で聞くのよ・・・と心の中で毒づきながらも、顔には笑みを貼り付けたまま。

そんなの態度に焦れたナタクは、最近改造が終わったばかりの火尖槍をに突きつける。

「お前、強いな?」

律儀にもう一度尋ねるナタクを見上げ、は密かにため息を吐く。

この状態で『強い』と言おうものならこの後どうなるか、簡単に予想がついた。

しかし『弱い』と言っても通用しない事は実証済み。

(まったく、どうしろってのよ・・・)

どちらにしても面倒な事になりそうだ。

「答えろ!」

1つの答え以外は受け入れるつもりはないというのに、黙ったままのに向かい、そう答えを迫るナタク。

は困ったようにポリポリと頭を掻き、覚悟を決めるときっぱりとした口調で言い放った。

「まぁ、君よりはね」

あえて挑発するように、ニッコリと微笑む。

その言葉を合図に、ナタクは空中に飛び立つと、の返事も待たずに金磚からの攻撃を放った。

「俺と勝負をしろっ!!」

ドガガガガガガッ!!!

いくつもの閃光が、がいた場所に降り注ぐ。

土煙での姿が見えなくなるほど攻撃を続けると、今度は火尖槍を構えての姿が現れるのを待った。

「ナタクっ!?」

「何が起こったさっ!?」

騒ぎを聞きつけて駆けつけた楊ゼンと天化は、お互いがお互いを見てナタクの相手が自分たちではない事を悟った。

ではナタクは誰に攻撃を仕掛けたのだろうか?

簡単に想像がついて、2人はいっそ泣きたい気分になる。

「「(さん)!?」」

立ち込める土煙の中、声を掛けても返事は返ってこない。

いくらナタクが強くても、よもや限って封神されることは無いだろうと分かっていても、僅かな不安に襲われる。

「「(さん)!!大丈夫さ(ですか)!?」」

「ハイハイ、大丈夫だから大声出さないの」

ようやく収まってきた土煙の中から、がゆっくりと姿を現した。

の周りにはうっすらと透明な壁のようなものが張り巡らされており、埃でも払うように右手を振れば、未だ残る土煙と一緒にその壁も風に吹き消された。

普段は長いコートの袖に隠されて見えない右手にはめこまれた手甲のような宝貝が、彼女自身が生み出した風によってちらりと姿を見せる。

「いきなり攻撃してくるなんて、ちょっと乱暴すぎない?」

呆れた表情を隠す事無く浮かべてそう告げるを見下ろして、ナタクは小さく舌打ちをして。

「ちっ、生きていたか」

「オイ!!」

お前は私を封神するつもりだったのか!?―――と心の中で叫び、しかしそれでもにっこりと笑顔を見せたは、少しだけ目を細めた。

「・・・ナタク、だったわよね?」

「・・・・・・」

「私と戦ってみたいんでしょう?―――いいわ、全力で来なさい」

さっきは覚悟を決めた。

今日一日、ナタクに付き合う覚悟を。

そんなの言葉に、ナタクはニヤリと口角を上げて。

「・・・死ね!!」

こうして宿営地のど真ん中で、かなり迷惑な2人の戦いは幕を開けた。

 

 

ドゴォォォォォン!!

ガガァァァァァァン!!

「なんだっ!?」

いつも聞こえる爆発音とは比べ物にならないほどの激しい音に、さすがの太公望も飛び起きた。

慌てて辺りを見渡せば宿営地の真中の辺りで、ものすごい量の土煙が霧のように漂っている。

行きたくはなかったが、ここから眺めているだけという訳には行かず、渋々その場所に向かって走り出した。

近づけば近づくほど、爆発音は大きくなってくる。

激しく感じる身の危険を何とか抑えてその場に辿りつくと、岩陰に避難した楊ゼンと天化の姿を見つけ、太公望も慌ててそこに避難した。

「おい、一体何事なのだ?」

「・・・ナタクですよ。彼が腕試しをしているんです」

コソコソと小声でそう問い掛けると、楊ゼンは困ったような表情を浮かべる。

「腕試し?お前たち以外にあやつが腕試しをしようと思う人間が・・・っ!?」

その人物に思い当たったのか、太公望は流れる冷や汗を拭おうともせず、ただ辺りが見えないほど漂っている土煙を睨みつけた。

「そうさ。ナタクはに喧嘩を吹っかけたさ」

予想通りのその言葉に、太公望は思わず頭を抱えた。

心の中で思っているだけよりも、誰かに口にされたほうが現実感があるのは何故だろう?

こんな時にも関わらず、太公望はどうでもいい事を真剣に考えた。

「・・・取りあえず、何とか2人を止めないと・・・」

とナタクはともかく、このままじゃ周の兵士に被害が出そうさ」

2人が言うのも最もだ。

がナタクにやられるとは思えないし、がナタクを封神させるとも思えない。

問題は、戦っている場所が宿営地・・・―――しかもど真ん中だという事である。

宿営地なのだから、当然の如く周の兵士たちが生活をしているのだ。

この騒動が起こったその時にほとんどの兵士が逃げたとは思うが、とナタクという強者同士が戦っているのだ。―――これ以上戦いの場が広がらないとは限らない。

!ナタク!!おぬしら2人ともやめんかっ!!」

「そうは言ってもねぇ」

太公望はあらん限りの大声でそう叫んだ。―――するとすぐ目の前からのんびりとしたあからさまにやる気の無い耳に馴染んだ声が返ってくる。

「・・・?」

土煙の中から大して慌てる様子も無く姿を現したは、座り込んでいる太公望の前まで移動し、困った表情を浮かべて太公望を見下ろした。

「参ったわよ。確かに『全力で来い』とは言ったけど、まさか本当に全力で来るとは思わなかった」

「おぬしなぁ・・・」

「あんたの言いたいことは分かってるわよ。私だって別に戦いたくて戦ってるわけじゃないんだからっ!?」

恨めしそうな目で見上げてくる太公望に眉をしかめて言葉を返していたは、ふと背後に気配を感じ振り返った。

の背後・・・―――土煙の上からナタクがじっとこちらを見ているのが分かった。

「死ね!!」

ナタクの金磚から再び閃光が放たれ。

「どわぁぁぁぁっ!!」

「ちょっと待つさ!!」

太公望と天化は思わず頭を抱えて叫び声を上げた。

ドガガガガガガガガガッ

衝撃と爆発音がすぐ傍で響く。

「・・・・・あ?」

しかし痛みなどまったく無い事に気付きふと顔を上げると、自分たちの周りに薄い透明の壁のようなものがあることに気付いた。

「・・・が守ってくれたさ?」

「そのようだのぉ・・・」

未だにナタクの攻撃が止む様子はない。―――しかしどれだけの攻撃を受けてもビクともしない透明の壁は、確かに太公望たちを守っていた。

「ねぇ、太公望・・・」

「なっ、なんだ!?」

右手をかざして透明の壁に手をつけたままチラリと振り返ると、は少しだけ申し訳なさそうに顔を顰めて一言。

「もしかしたらナタク壊しちゃうかも知れないけど・・・」

「・・・・・・今壊されると困るんだが」

「とりあえずに太乙呼びに行ってもらったから、そんなに長い間戦線離脱する事はないと思うんだけど・・・」

なんて用意周到なっ!!―――心の中で感心し、それならばと太公望は大きく頷いた。

「それならば仕方ない。・・・なるべく穏便にな」

「・・・分かってるわよ」

の強さを知っている太公望の念押しに、は困ったように頷いて。

そうして太公望たちは、ナタクの攻撃の間を縫ってその場を離れる。

しばらく経って、今までよりもさらに大きな爆発音がした後、宿営地は再び静けさを取り戻した。

 

 

ナタクはが太公望たちの傍から離れたのに気付き、彼女がいるだろうと予測される場所に攻撃を放った。

今までよりも大きな爆発音に少しだけ不思議に思いつつも、もうもうと上がる土煙が消えるのを静かに待った。

ようやく土煙が収まり、少しだけ辺りが見渡せるようになってから、ナタクはの姿を探す。

「・・・どこに消えた?」

乾いた風が土煙を一掃しても、そこにの姿は無い。

さっきの攻撃でこなごなになったのだろうか?

そう思ってから、すぐにその考えを否定した。

の強さは楊ゼンや天化クラスではない。―――自分を圧倒的な力でねじ伏せた聞仲クラス、もしくはそれ以上だ。

第一印象でそう思い、少しだけ刃を交えて確信した。

そんながさっきの爆発程度でやられるわけがない、とナタクは思った。

「どこだ!出て来いっ!!」

声を張り上げて辺りを見回すと、均等に貼られたテントの影からの白いコートの裾がチラリと見えた。

「そこか!!」

金磚で攻撃しようかと思ったが、また土煙に乗じて逃げられると厄介だと思い直し、そのまま追いかけることに決めた。

コートが見えたテントを曲がると、そこにの姿は無い。

ただ少し先を行った所に張ってあるテントの影から、さっきと同じように白いコートの裾がチラリと見えた。

「・・・ちっ」

小さく舌打ちをしながらも、再びを追う。

だがいくら追っても姿は見えず、目の前を白いコートがチラつくのみ。

段々とイライラが募っていくのが手にとるように分かる。

目の前に、すぐそこにいるはずなのに・・・―――けれど決して姿は見えない。

気がつけば宿営地を抜け、無骨な岩が広がる荒野にいた。

「・・・どこだ!どこにいる!!」

近くにいるのは分かっているのに、気配が一定位置に定まらない。

まるで空気のように、辺り一帯にの気配があった。

「・・・ふふ」

「そこかっ!!」

岩陰から見えた白いコートに向かい、ナタクは乾坤圏を放った。

その攻撃は岩を粉砕したが、やはりそこにの姿は無い。

「くそっ!どこに消えた!!」

白いコートの裾が見えたときに攻撃しても遅く、気配を探ろうにも探れないこの状態。

そして先ほどの鬼ごっこにも似た状況に、とうとうナタクのイライラは限界に達した。

そして、結果―――。

ドガガガガガガガガガガガガッ!!

また同じ事の繰り返し。

ナタクは再び金磚での無差別攻撃を開始した。

巻き上がる土煙は風に煽られて空高く吹き上げられ、ナタクの視界を遮る。

その時になってようやく気付いた。

彼女の目的が、これだという事に。

気付いた時にはもう遅く、背後にの気配を強く感じた直後、ナタクの意識はぷっつりと途絶えた。

 

 

「まったく、もぉ〜!!」

「ごめんって!でも一応言い訳すると、喧嘩吹っかけてきたのはナタクの方なんだからね」

「だけど加減ってものがあるだろ?」

「だからごめんって・・・」

頭上で交わされる声に、ナタクはゆっくりと目を開けた。

目の前にはさっきまでいくら捜しても見つからなかったと、そして太乙の姿が。

聞こえてくる会話とは裏腹に、2人の間には何処か穏やかな空気が流れている。

「あっ、気付いたんだね!大丈夫かい、ナタク?」

心配気に声を掛けてきた太乙の顔を見返し、大丈夫だというように少しだけ顔を逸らした。

すると太乙はナタクの言いたい事を察したのか、それ以上は何も言わずに『修理』を再開する。

それを何とは無しに眺めていたが、静かな口調でナタクに問いかけた。

『どうして負けたと思う?』と。

「・・・お前が小ズルイ手を使ったからだ・・・」

ナタクの返答に、はクスクスと小さく笑った。

「何がおかしい・・・」

「別に。・・・そうね、宝貝を駆使したナタクにほとんど宝貝を使わなかった私が勝ったのは、小ズルイ手を使ったからだわ」

「・・・何が言いたい?」

何処か含みのある言葉に、ナタクは素直にそう聞いた。

「みんながあなたのように真正面から戦いを挑んでくるわけじゃないってことよ」

諭すように返ってきた言葉に、ナタクは悔し紛れにを睨みつける。

そんなことは分かっていた。

しかし分かっていても、の罠にかかり我を失ったのは自分だという事に気付き、ナタクは再び顔を逸らした。

するとふわっと何かの香りが鼻腔をくすぐり、視線を戻す前にの手がナタクの頭の上に置かれた。

の手がナタクの赤い髪を梳いていく。―――その居心地のよさに、の手を払う事もせず、ナタクはゆっくりと目を閉じた。

「宝貝人間の存在理由は『戦う事』だと、誰かが言ったわ」

子守唄のようにやんわりと耳に届くその声に、ナタクは意識を集中させた。

神経など無いはずなのに、何かを伝って体中に暖かいモノが染み渡っていく気がする。

「だけどね、ナタク。じゃあ戦いが終わった後の宝貝人間はどうなるのかしら?」

「・・・・・・知るか」

そっけなく返事を返すと、再びがクスクス笑うのが聞こえた。

しかしその笑い声が嫌ではない。―――逆に心地よくさえ感じる。

「・・・今はまだそれでいいわ。すぐに答えられるほど、簡単な問題じゃないもの」

「・・・・・・・・・」

「でもね?もっと自分の周りにあるモノを見て、自分に向けられている愛情に気付いて。応えろなんて言わない。ただそんな思いもあるのだということを覚えておいて。そうやって過ごしていれば、今まではなんとも思わなかった景色が違って見えるかもしれない。―――そうやって過ごしていれば、いつか自分の新しい存在理由が見つかるかもしれないわ」

「・・・お前の言う事はチンプンカンプンだ」

「いいえ、あなたは分かってるはずよ」

ナタクの頭を撫でるの手が、先ほどよりも優しくなった気がした。

自分を修理する太乙の手が優しいことにもナタクは気付いていた。―――痛みなんて感じないのに。

「ねぇ、ナタク。強くなりたい?」

の優しい声がそう問うた。

さっきまで言っていた事とは正反対の言葉。

しかしそれこそが、今のナタクにとっての一番の望み。

「・・・ああ」

ナタクはのコートの裾を今度こそ逃がさないとばかりに強く握り締め、から香る香りが何処か母親に似ていると感じつつ、ゆっくりと眠りについた。

「まさか君から説教を聞く事になるとはね〜」

ナタクが完全に眠ったのを確認してから、からかうように太乙は言った。

「もう傍観者は止めたのかい?」

「・・・どうなんだろう?私にもわからないわ」

頬杖をついて、未だにナタクの髪を弄んでいる

そんなを横目で窺って、太乙は不意に真剣な表情を浮かべて口を開いた。

「それじゃあ、質問を変えよう」

「・・・・・・?」

「ナタクのお腹に穴を開けるほどのキズをつけた宝貝はどれ?元始天尊様にもらったその宝貝じゃないでしょう?」

の右手にはまっている手甲に視線を向け、ニヤリと笑う。

「大体その宝貝だって、もともとはそれほど威力があるものじゃなかったでしょ?君が改造したの?」

太乙の問いには答えずに、はクスクスと笑った。

「ナタクに使った宝貝はどこで手に入れたの?それとも自分で作ったとか?」

「・・・さぁね」

「できれば見せて欲しいなあ。その手甲と一緒に・・・」

「解体して精度を確かめたい?」

「もちろん。僕は宝貝開発者だからね」

2人は口を閉ざし、お互い笑みを浮かべたまま見つめ合った。

どれほどの時間が経っただろうか?―――ふとナタクに視線を落としたは、にっこりと笑顔を浮かべて。

「また今度。機会があれば、ね」

短くそう言い残し、殊更にっこりと微笑んで静かにその場を去った。

ヒラリ、と白いコートが翻る。

「・・・・・・逃げられたか」

の背中を見送った太乙は、しかしそれ以上追求する事もなく苦笑交じりにそう呟いて、ナタクの修理に使った工具を片付け始めた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ちょっとだけ主人公の謎がチラリ?

今回はナタクとの出会いと、ちょっとだけ仲良くなってもらいました。

最初の方に天化が出てきたのは、もちろん贔屓で(笑)

主人公の仕掛けた罠がちゃちいのはご愛嬌。

なんせ考えてる人間が阿呆なものですから・・・。

題名がちょっと原作風。(笑)

 

更新日 2007.11.18

 

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