、この間最高級のいい茶葉を手に入れたんだ。君と一緒に飲もうと取っておいたんだよ。どうだい?」

そう言って目の前に出されたのは、細かい細工を施された高級そうなカップ。

ふんわりと白い湯気が立ち上り、漂う香りは・・・確かに趙公明が高級品というだけはあるとは少しだけ表情を緩めた。

ここは趙公明の用意した『華麗なる戦いの場』、クイーン・ジョーカー二世号の最上階。

そのだだっ広い空間には、趙公明が用意したテーブルにイス。―――そして巨大な砂時計に閉じ込められた可哀想な四不象。

「お茶菓子もあるよ。これもなかなかの物でね」

差し出されたお茶菓子を1つ口に運んで、その美味しさにまたまた頬を緩ませる。

「・・・・・・っていうか、助けてくださいっスよ」

呆れているのか、それとも悲しいのか、呑気にお茶を楽しむに向かい、四不象は弱々しくそう訴えた。

 

ゴーイング・マイ・ウェイ

〜四不象の質問コーナーとの歴史講義〜

 

「そうは言ってもねぇ・・・」

この船について早々外してもらった手錠を弄びながら、涙ながらに訴える四不象には視線を向け困ったように呟いた。

「・・・さんでもこの砂時計は壊せないっスか?」

「いや、そんなことないけど」

眉をしかめて唸っているに不安を感じて恐る恐るそう問い掛けると、さらりとそう返事を返され、思わず言葉を失う四不象。

あっさりすぎるその対応に、四不象は情けない面持ちで声を上げた。

「・・・さ〜ん!」

「大丈夫、大丈夫。すぐに太公望が助けに来るわよ」

「間に合わなかったらどうするんスかっ!!」

「その時は諦めて、太公望を恨むなり呪うなりしてちょうだい」

この血も涙もない返答に、今度こそ四不象はガクリと肩を落とした。

趙公明は先ほどの映像宝貝を使って、どうやら船にたどり着いた太公望たちに挨拶をしているようだ。

パッと映像宝貝がと四不象を映し出すと、は頼りにならないと判断した四不象は必死に太公望に助けを求める。

こちらからは太公望たちの姿は見えないので、ちゃんと伝わっているかは不安だったが。

は映像宝貝など気にしていないようで、つまらなそうに頬杖をついている。―――趙公明の笑い声が響く中、手錠のチャリチャリと言う音がやけに耳についた。

「さぁてと、僕もお茶にしようかな?」

四不象がの様子に思考を奪われている間に、挨拶は終了したらしい。

コポコポと耳に心地よい音と共に温かいお茶をカップに注ぐと、ご満悦気味に微笑んで。

「どうしたんだい?なんだか元気がなさそうだけど?」

何処か上の空状態のに気付き、趙公明は紅茶をコクリと一口飲むと、優雅な動作でカップをテーブルに置き、の顔を覗き込んだ。

「いんや?ちょっと考え事をね・・・」

『いんや?』ってどこの言葉?―――と、日頃から何かとツッコミばかりしている節のある四不象は、自分の状況さえも忘れて思わず心の中でつっこむ。

しかしそんな四不象の密かな突っ込みなど気にするはずもなく、趙公明はふと傍らに視線を向けてやんわりと微笑んだ。

「ああ、そろそろ華麗なる戦いが幕を開けるよ。トップバッターは楊ゼンクンに任せてるんだよ」

テーブルの上に置いてある水晶球を見ながら、楽しそうに笑う趙公明。

その姿は本当に遊びを楽しむ子供のようで・・・―――悪気がないから余計に性質が悪い。

は『華麗なる戦い』に興味がないのか、ポケットから緑色の立派な装丁の古い本を取り出しそれを読み始める。

なんともマイペースな人である。

楊ゼンの戦いも気になるが、の読んでいる本も気になった四不象は、視線を水晶球からに移し、邪魔かな・・・と思いつつも声をかけた。

「何読んでるっスか?」

「ああ、・・・歴史書よ」

「へぇ〜、さんって歴史が好きだったっスか?」

「そうでもないわ。ただの暇つぶしだし・・・。この間通った関所でたまたま持ってた食べ物あげたらお礼にってくれたから」

ペラ・・・とページをめくる音。

暇つぶしにしては、結構真剣に読んでいるように見えるんスけど・・・とは思ったが、それでも何となく言わずにおいた。

広い部屋に趙公明の歓声や笑い声だけが響く。

そのある意味異様な雰囲気と沈黙に耐え切れなくなって、四不象はずっと前から聞きたかった事を口にした。

「あの・・・さん。前から不思議に思ってたんスけど・・・」

「ん〜?」

聞いているのか聞いていないのか分からないような、気のない返事が返ってくる。

それでもこの機を逃せば、今度いつ質問できるかわからないと自分を奮い立たせ、四不象は質問した。

さんと趙公明さんは、どういう関係なんスか?」

そう、四不象が気になっていたのはまさにそれだった。

確かにはずいぶんと長生きしているようだし、意外と顔も広い。

しかし相手は金鰲島の仙人である。―――崑崙山の道士であるとの接点が思い当たらない事も確かで・・・。

そんな四不象の素朴な疑問に答えたのは、質問を投げ掛けられたではなく水晶玉に見入っていたと思われていた趙公明だった。

「もちろん親友さっ!!恋人候補でもいいけどね」

「そうそう・・・ってだからいつの間にっ!?」

今まで話を聞いていなかったと思われた趙公明が突如会話に乱入し、四不象の質問に上の空で相槌を打っていたは即座に突っ込んだ。

「あんた・・・妲己といい勝負よ」

「ありがとう!」

満面の笑顔を浮かべてお礼を言う趙公明をジト目で睨みつけながら、誉めてない・・・と脱力しつつ突っ込む

いつも飄々としているの思わぬ姿が見られたと呆気に取られながらも、四不象は恐る恐る口を開いた。

「・・・え〜っと、それでどういう関係なんスか?」

「・・・う〜ん、昔馴染み?友達・・・みたいなものかな?この際、親友でもいいよ」

どことなく投げやりな感じでそう答えると、いつの間にか近いところにまで寄ってきていた趙公明の顔を、本を持っていない方の手で向こうに押しやる。

「あれよね・・・、いきなり戦いを挑まれたんだよね。今回みたいに人質捕られてさ」

「ああ、そんなこともあったね。懐かしいな・・・」

どこか恍惚とした様子で遠い目をする趙公明を横目に、は僅かに頬を引き攣らせて。

そんなに嬉しそうな顔で懐かしむような思い出じゃない。―――どちらかといえば面倒臭い部類に入る思い出のため、は同じように頷けなかった。

「それじゃあ、妲己さんとはどういう関係っスか?」

「妲己?妲己も趙公明と似たようなものよ」

「じゃあ、聞仲さんは?」

「聞仲も2人と同じ。聞仲とは・・・確か殷に遊びに行ったときに会ったのよね。あの頃から肩こりそうなほど真面目な男で・・・」

「じゃあ、申公豹さんは?」

延々と続く四不象の質問に、は読んでいた本からようやく顔を上げ訝しげに四不象に視線を向けた。

「・・・さっきから変な質問ばっかりね?今ごろ身元調査でも?」

「そ・・・そういうつもりじゃ!」

弁解しようと慌てる四不象を見て、は面白そうに笑った。

「ごめんごめん、冗談よ。そうね・・・申公豹との関係か・・・」

申し訳なさそうな四不象にそう言って微笑むと、彼はあからさまにホッとした様子に戻る。

それを確認してもう一度小さく微笑みかけたは、少し考え込むように宙を眺めた。

「難しいわね〜。言葉に表すなら趙公明たちと一緒だけど・・・。分かりやすく言うなら『一番親しい人』かな?」

「一番・・・スか?ご主人よりも・・・?」

「付き合いの長さが違うもの」

少しだけ表情を暗くした四不象に笑いかけ、あっさりとそう言い放つ。

そう、付き合いの長さが違うのだ。―――どれほど近くにいたとしても、それだけは超えられない。

「ふふふ・・・」

何となく重い雰囲気の中、四不象が少しだけ落ち込んでいると、不意に趙公明の不気味な笑い声が聞こえた。

それに引かれるように顔を上げると、いつの間にか水晶玉を見つめていた趙公明が至極楽しそうな笑みを浮かべながら顔を上げる。

「見たまえ四不象くんに。太公望たちは1階を突破したようだよ」

言われて水晶球を見れば、戦いが終わり次の階に向かっている太公望たちが映し出されていた。

「まぁ、もともと楊任くん(1階の敵)には期待していなかったけどね」

あっさりとしたその口調に、水晶玉に映る太公望たちの姿を視界に入れながらは小さくため息を吐き出した。

「・・・そんな身も蓋もない」

「結局、何があったか全然見れなかったっス」

ちょっと残念そうに呟く四不象に趙公明が何やら言葉を掛け、それに反論した四不象がここから出せと怒鳴り声を上げているのをよそに、はもう一度ため息を吐き出した後、読みかけの本に視線を落とした。

 

 

しばらく言い合いを続けていた四不象と趙公明だったが、ナタクが2階についたために一持久戦する事にしたらしい。

やっと静かになった室内にホッとしたのも束の間、趙公明はまたもや唐突に口を開いた。

「それにしても・・・ちょっと心外だね」

いきなりそう切り出した趙公明に、は顔を上げて不思議そうな表情を浮かべる四不象と顔を見合わせる。

「・・・(どうせロクでもないことだろうから、本当は聞きたくないけど)なにが?」

「ずいぶんと長い『間』だったね。まぁいい、さっきの君の発言についてだよ」

「・・・さっきって、どれ?」

「申公豹が『一番親しい人』という発言についてだよ!」

『傷心のポーズ』をしつつ、焦れたようにそう叫ぶ趙公明。

「君と一番親しいのは、この僕であるはずなのにっ!」

「・・・・・・・・・っていうか、まだその話?」

話のタイミングがあってない上に、微妙に話題が古い。

四不象と言い合いをしていた彼が、どうして『それにしても・・・』に話を結び付けたのかがには理解できなかった。

まぁ、それもいつもの事ではあるのだけれど・・・。

「趙公明さんが一番親しいってのは置いておくとして・・・僕もどうして申公豹さんと仲がいいのか気になるっス!付き合いが長いって、どんな風に友達になったんスか?何か趣味でも一緒とか・・・?」

「・・・・・・趣味ねぇ。よく一緒に『観察』はしたけど?」

「観察?何の観察っスか?」

「人の歴史」

普通は観察という言葉の後に、そんな言葉は出てこない。

しかし長く生きているからか、それともそれがと申公豹というある意味謎な人物から発せられた言葉だからなのか、妙に納得できてしてしまう。

は読んでいる途中になっている本をしおりも挟まずパタリと閉じて、それを四不象に見えるようにヒラヒラと振った。

「物事は、人によって見方が異なります」

「・・・は?」

いきなり話し始めたに、四不象は思わず間の抜けた声を上げた。

しかしそれを無視して、はつらつらと語り始める。

「100人いれば100通りの解釈が存在し、物事は人を通す事によって歪み、それ故に出された解釈は必ずしも真実ではない」

「・・・???」

「つまり物事を見たときに先入観や感情が混じって、結局は本当に何があったのか正しく判断出来ないって事。喧嘩をしている2人がいて、その一方が泣いていたら可哀想だと思うでしょう?どちらが悪いのか分からなくても、泣いてる方が弱い立場なんだと錯覚を起こす。もしかしたら被害者は泣いている方ではないかもしれないのに・・・」

最初の言い回しに首を傾げていた四不象も、だいぶ砕いた説明にコクコクと頷いた。

「分かりやすく、現状に例えましょう。四不象、貴方は周をどう思う?」

いきなり質問され慌てた四不象だったが、少し考えた後にポツポツと話し出した。

「いい人ばかりっス。みんな国民のことを考えて、平和の為に頑張ってる凄い人達っスよ!」

「それじゃあ、殷は?」

「殷の人たちはみんな可哀想っス。妲己に虐げられてて食べるものもなくて・・・」

四不象の言葉に、はクスクス笑う。

不思議に思った四不象は首を傾げたが、はごめんごめんと顔の前で手を振った。

「ずいぶんと率直な意見だな、と思ってね。つまり君にとっては、周が善で殷が悪なのね?」

そうきっぱり言われるとどうなのかと思ったが、自分の言った事は間違いなくそうだと思った四不象は1つ頷いた。

「今言った事は貴方の解釈であって、他の人も同じ事を考えるとは限らない。ここでもう何が真実なのか分からなくなったわね。―――貴方の言った事はあながち間違ってないけど、周にも悪人はいるかもしれないし、殷にだって民の事を考えて一生懸命になっている人もいるわ。ただ貴方にそれが見えないだけで、ね」

確かに、と四不象は思った。

の言う通り、殷の為に一生懸命になっている人間もいる。―――たとえば聞仲。

彼のやり方が正しいのか間違っているのかはわからないが、確かに彼は心の底から殷の為に戦っている。

自分で言った言葉に少しだけ後ろめたさを覚え、思わず俯いた四不象には笑いかけた。

「『歴史は勝者が作る』って言葉があるのを知ってる?」

四不象はフルフルと首を横に振った。

「この戦争で周が勝てば、周は悪政を行う殷を滅ぼし平和な国を作り上げた・・・とか歴史書に書かれるんだろうけど。―――でももし周が負ければ、臣下の身で王に反逆した愚か者・・・とか言われるんでしょうね」

「そんなっ!!」

「・・・とまぁ、こんな感じかな?」

思わず抗議の声を上げる四不象を見やり、先程の真剣な表情を悪戯っぽく崩して、はにっこりと笑った。

「・・・へぇ?」

展開が分からず、ポッカリと口を開けたまま呆然とする四不象。

それを真正面から見返しながら、は更に笑みを深めた。

「さっき『歴史書が好きか?』って聞いたでしょ?好きって訳じゃないけど、自分が今まで見てきた物事と実際に書かれてる歴史の違いとか、作者が違うだけで全然表現が違う内容とか?そういうのって結構面白くてね・・・、だから『観察』も楽しいし、暇があれば歴史書も読んでみたりね」

そう言えば趣味の『人の歴史観察』について聞いていたんだ・・・と今さらながらに思い出した四不象。

その時・・・―――急に天井が凄い音を立てて壊れ、瓦礫と共に黒い何かが降ってきた。

「何だい、一体・・・?」

の話をスルーして水晶球の向こうで繰り広げられる戦いを見物していた趙公明は、その騒がしい騒音に思わず振り返った。

そこにはの霊獣・が、威嚇するように身を伏せている。

「ずいぶん遅かったじゃない」

『うるさい。お前がいきなり消えるからだろうが』

他愛のない会話を交わしつつに近づき、四不象が呆然と見つめる中、ヒラリとその背に飛び乗ると極上の笑顔を浮かべて言った。

「ちょっと出かけてくるから」

「えぇーっ!!僕の事見捨てるんスか!?」

「大丈夫よ、戻ってくるつもりだから」

笑顔であっさりそう言い残すと、は四不象の抗議の声が上がる前に、かなりのスピードで壊れた天井から飛び出して行った。

(そんな『つもり』を強調されても、説得力ないんスけど!?)

心の中で叫んでみても、もうそこにいないに届くわけもなく。

そう言えば、結局申公豹とどういう経緯で知り合ったのか聞けなかった。―――と今さらながらに思いつつ、四不象は諦めたように水晶球の中で戦いを繰り広げるナタクと馬元の姿に視線を移した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

これって一体何の話でしょう?(おい)

今まで以上に意味不明の内容になってしまいましたが。

っていうか、主人公のうんちく長っ!!

そしてスープーの扱いが酷いです。助けてやれよ主人公、みたいな。(笑)

ちなみに昔、趙公明に戦いを挑まれた時、人質に捕られたのはです。

彼くらいしか思いつかないですしね。(←オイ)

作成日 2003.10.30

更新日 2008.1.6

 

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