「天化、おぬしらは先に帰って太乙に見てもらえ。趙公明はわしがなんとかする」

余化の攻撃を食らい動くのもままならない武成王とまだ子供の天祥。―――そして余化の原型から攻撃を受けた天化の身を案じて、太公望は3人にそう告げた。

一方、そんなことを言われて「はい、そうですか」と納得できるほど天化は素直ではない。―――まっすぐに自分を見据える太公望を見返し、『まだ戦える』と主張するために口を開こうとしたのだけれど。

「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」

「待て」

しかし天化が口を開く前に爽やかな笑みを浮かべてそう言い放ち、便乗して颯爽とその場を去ろうとしたの肩を、逃がさないとばかりに太公望はがっしりと掴んだ。

「おぬしは何もしとらんだろうが」

僅かに頬を引き攣らせながらもそう告げるが、しかしは平然とした様子で振り返り、あまつ非難の眼差しを太公望へと向けて。

「じゃあ、なに?あんたは私に趙公明と戦えって言うの?相手はあんたに戦いを挑んでるのに?何てことを言うのよ、太公望」

「そうは言っておらんだろう?」

「じゃあ私が行く理由ってあるの?折角抜け出してきたのにわざわざ戻る馬鹿がどこにいるってのよ」

「「いいからさっさと行け!!」」

状況を無視して繰り広げられる2人の口喧嘩を遮って、武成王と天化の親子攻撃は見事に重なる。

そうして激しい突っ込みと遠慮のない蹴りを入れられた(蹴りは太公望だけ)2人は、今もまだ口げんかを繰り広げたまま降り注ぐ光に引かれ天井に吸い込まれていった。

 

趙公明の婚約者

〜雲霄三姉妹と太公望のの行方について〜

 

天井に吸い込まれ着いたのは、床がタイル張りされた無駄に広い部屋。

つい数時間前までがいた部屋である。

「ああ、戻ってきちゃった。なんとなく落ち着かないのよね・・・この部屋」

「さてと、趙公明はどこ・・・・・・うおっ!?」

の呟きを無視して部屋の中を見回した太公望は、部屋の中央でこれでもかというほどの存在感を示している舞台階段のようなものを見て声を上げた。

太公望の驚きの声に視界を巡らせたもまたそれを目にし、呆れたような面持ちでため息を吐き出す。

「・・・・・・さっきまでこんなものなかったのに」

その言葉を合図に、どこからか音楽が流れ舞台階段のようなものの中央部分がニュっと姿を現したかと思うと、ワイヤーで吊るされた趙公明がポーズ付きで空中からゆっくりと降りてきた。

それをなんともいえない様子でただ眺める太公望と

そうして先ほど出てきた中央部分に着地した趙公明は、高い場所から呆然と立ち尽くす2人を見下ろしたまま口を開いた。

「よく来てくれた、太公望くん。待ちわびたよ・・・」

そう告げると、趙公明は爽やかな笑顔を浮かべて舞台階段を一段一段ゆっくりと下りてくる。

それをなんともいえない面持ちで見上げていた太公望は、痛み出した頭を押さえながら小さく小さく呟いた。

「・・・アホか」

「それにしても。どこに行っていたんだい?急に姿を見えなくなったから心配していたよ」

太公望が呆れた様子で搾り出したコメントを軽く無視して、趙公明は同じく呆れた様子のに声をかけた。

「あれだけ派手に抜け出したのに気付かなかったの?・・・それにその演出はどうなのよ・・・って、そうね。それが貴方だものね。もう何も言わないわ・・・」

ツッコミどころが多くてどこから突っ込んでいいのか分からなかったは、とりあえず思いついたところから突っ込んでみたが、それさえも面倒臭くなり放置する事にした。

「僕の美を理解してくれて嬉しいよ。さすが

「断じて違うから」

どこまでも思考が斜め45度を突き進む趙公明にはなにを言っても無駄だと理解してはいたが、それでもはとりあえず笑顔でキッパリと言い放つ。

彼に付き合うには忍耐が必要だ。―――もうこの際、細かいことは気にしない方が自分のためなのかもしれない。

そんなと趙公明の会話を聞き流していた太公望は、まるで何事もなかったかのようにきつく趙公明を睨みつけて。

「それよりも趙公明、四不象を返すのだ。さもなくばどんな手を使ってでもおぬしを倒す」

と趙公明の会話を無視して、太公望が普段からは想像できない程真剣な表情で言った。

趙公明はそんな太公望をみて小さく笑うと、パチンと指を鳴らして傍にあったカーテンを開ける。―――そこには巨大な砂時計と、ほとんどその砂に埋まっている四不象の姿。

「ああ、かなり埋まっちゃったわね」

「スープー、鼻があったとは・・・」

おそらく必死な状態の四不象とは反対に、と太公望はのんびりとした様子。

このあまりの温度差が哀れだったが、残念ながらそれを突っ込んでくれる人間はここにはいない。―――そして趙公明もまた、何事もなかったかのようにキラリと歯を輝かせて微笑みながら改めて太公望へと視線を向けた。

「さて、太公望くん。あの砂時計は宝貝を使わない限り、天然道士にしか壊せない。確か君は今宝貝が使えない・・・そういうシナリオだったよね?」

何かを企むように・・・―――なにを企んでいるのかは一目瞭然だが、ニヤリと笑って趙公明は太公望に視線を向けた。

先の殷郊との戦いの際力を使いすぎた太公望は、一時的に力を失い宝貝を使う事は出来ない。―――と言う事になっている。

しかし太公望はそんな趙公明の言葉にも動じた様子はなく、チラリと傍らに立つを見やって納得したように頷いた。

「じゃあにやってもらうか」

「寝言は寝てから言え」

軽く言った冗談なのにきっぱりと返され少しヘコんだ太公望は、それでも気を取り直し懐から取り出した打神鞭を構えると、風を生み出し四不象が閉じ込められている砂時計をあっさりと破壊した。

「スープー、待たせたのう」

笑顔で四不象の元へ歩み寄る太公望に、しかし四不象は感動の再会とはかけ離れた奇声を上げながら飛び掛かった。

「遅いっスよ!死ぬかと思ったっス!!」

「なんだ、折角助けてやったというのにっ!!」

必死な様子の四不象に、太公望は僅かに不機嫌そうに眉を寄せた。―――折角の感動の対面なのに・・・とその表情が語っている。

しかし四不象にも言い分があった。

「だから遅いって言ってるっス!!もう少しで完全に埋まるところだったっスよ!!」

「文句があるならに言え!そもそも最初にお前を見捨てたのはだろう!?」

そうして取っ組み合いながら再会を喜ぶ太公望と四不象を微笑ましく見守っていたは、その矛先が自分に向いた事を悟るとすぐさま趙公明に向き直った。

「ねぇ、これからどうするの?太公望と戦うんでしょう?」

「ああ、そのつもりだよ。その前に少し話でもどうだい?隣室に食事の用意をしてあるからね」

未だ怒りが収まらないのか・・・睨んでくる四不象を宥めて、一同は趙公明の言う隣室へと移動した。

そこにはやたらと長いテーブル。

その端と端に座った趙公明と太公望・は、出された料理を堪能する。

料理の味は悪くない。―――こんな状況でなければ、もっと楽しめたのだろうが。

そんな場違いな感想を抱いていた太公望とに気付いてか、趙公明はまっすぐに太公望を見据えて口を開いた。

「ところで太公望くん。君は何の為に戦っているんだい?」

料理を食べる手を止めて、趙公明はテーブルに肘を付き唐突にそう尋ねる。

テーブルは無駄に長さがあるため、声が少々聞こえにくい。

話をするには向かないな・・・と呑気に考えながらも、はまたもや我関せずとばかりに出された豆腐ステーキを黙々と食べ続ける。―――そんなの傍らで、問いを投げ掛けられた太公望は面倒臭いとばかりに口を開いて。

「ひんふぇんふぁいふぁら、ふぇんふぃんふぉひふぉひふぉふぉはふふぉひふぁふぁふはへは」

「食べるか喋るかどっちかにしなさいよ。何言ってるのか分からないわ」

「通訳をお願いできるかい?」

すかさず申し出られた提案に私が!?と抗議したくなったが、これ以上話をややこしくするのも後々面倒だと判断したは、渋々フォークを置いて口を開いた。

「『人間界を仙人のお笑い芸人育成所にするために日々頑張っておる。笑いは生きる活力源だからのぉ』」

「ブブーっ!!」

の口から飛び出た言葉に、太公望が口に含んでいたものを勢いよく吹出した。

そうしてゴホゴホと咳き込みながらも、恨めしげな視線を彼女へと向ける。

「・・・おい」

「冗談よ、冗談。『人間界から仙人を1人残らず追い払うため』・・・だったかしら?」

「そうじゃ。人間界に仙人は不要じゃからのう・・・」

それに軽く笑みを零しながら仕方がないとばかりに訂正を加えたの言葉に頷いて、太公望はナプキンで口元を拭うと気を取り直したように楽しそうに微笑んでいる趙公明に向かってきっぱりと言った。

しかし趙公明はその答えでは納得できないらしい。

あからさまに不満気な表情を浮かべ、ため息混じりに呟いた。

「僕にはそこが分からないんだよね・・・」

ゆるゆると首を振って、呆れたような仕草を見せる。―――何が言いたいんだと無言で問い掛ける太公望の視線を受け、趙公明は輝くような笑顔を浮かべてキッパリと言い放つ。

「戦いたいから戦う。それでいいじゃないかっ!!」

勢いよく椅子を跳ね除けて立ち上がり、持っていた棒のような物で太公望を突きつけると必要以上の大きな声でそうのたまった。

「僕には妲己や聞仲くんのやっていることに興味が持てない。どうしてそう人間界に拘るんだろう?」

そりゃあんたはそうでしょうね。―――とは唐突に演説を始めた趙公明を眺めながら心の中でそう呟き、水を一口飲んだ。

そんなの様子など気にした様子もなく、趙公明は陶酔したように熱弁を奮った。

「僕にとっては華麗に戦う事こそが全て。目的があって戦うなんてナンセンスなことはしない!!」

それのどこがナンセンスなのか。

むしろ人の都合構わず戦いを挑む方がよっぽど迷惑だと心の中で独りごちるが、勿論それを口に出すような事はしなかった。―――趙公明を相手にした説得ほど無意味なものはない事をは知っている。

もともと、素直に人の話を聞くタイプではないのだ。

そんな趙公明を正面から見つめながら、太公望は小さくため息を吐き出した。

「やれやれ、面白い奴だが・・・おぬしとは何千年経っても意見が合わぬやものう・・・」

太公望のそんな呟きにその場の雰囲気を読んで、もうすぐ戦いが始まりそうなことを察すると、はナプキンで口元を拭いてから音もなく席を立った。

それと同時に先ほどまで座っていたテーブルが、音を立てて床の穴へと降下していく。

「最強道士の申公豹は君をライバルだと公認しているようだね?妲己も聞仲も君には一目を置いている。実力者たちはみんな何故か君を高く評価している。―――君もそうだね、?」

突然話をふられたは太公望が傍にいる為どう言うべきかと悩み、とりあえずにっこりと微笑んで誤魔化しておいた。

しかし趙公明はそれを肯定ととったのか、それとも最初から返事は期待していないのか、そのままの口調で話を続ける。

「しかし僕は君をよく知らない。だからまずは僕のライバルになりうるかどうか確かめさせてもらうよっ!!」

趙公明がそう言い放った途端、先ほどテーブルが沈んだ場所から眩しいほどの光が放たれた。―――嫌な予感がを襲う。

「出でよ、僕の可愛い妹たち!!」

その言葉を合図に、光り輝くその場所から3人の女性が現れた。

「私は長女、ビーナス!!」

声を上げたのはナースに似た服装をした筋肉モリモリのゴツイ女性。―――たて巻きロールが印象的だ。

「私は次女、クイーン!!」

鷲鼻が特徴的なかなり細身の小柄な女性が続けて名乗りを上げる。―――見た目はお婆さんっぽい。

「そしてこの子が三女、マドンナよ!!」

そしてクイーンに紹介されたのは、次女とは対照的にかなりの肥満体の女性。―――その体の大きさは長女の3倍はありそうだ。

「「3人揃ってセクシータレント集団、雲霄三姉妹」」

この状況にも関わらずお菓子を食べつづけるマドンナは放置して、ビーナスとクイーンはそれぞれが一番美しく見えるポーズをとって悦状態に突入。

そんな3人を前にさっそく逃げ腰になっている太公望を何とか押さえ込んで、は三姉妹を見た。

はこの三姉妹とも面識がある。

以前よりも数段パワーアップしている気がするは、痛み出した頭を押さえた。

そうして今さらながらに自分の交友範囲の広さに自分で驚く。―――意外と自分は自分で思っているよりも社交的なのかもしれないと、現実逃避しようとする思考をなんとか引き止めた。

は三姉妹の事を決して嫌いではない。

あまりお目にかかれるタイプではないので寧ろ興味深いと思っているが、自分が今ここにいることによって違う意味で大変な事になりそうなのを察したは、太公望をその場に放置したまま素早く逃げようと踵を返す。―――ここにいるべきなのは、太公望だけで十分なはずだ。

「あら、お姉さま?お久しぶりでございます」

しかしあっという間に見つかった。

背後から掛けられた声に僅かに肩を揺らすも、は観念したとばかりに大きく息を吐き出しながら、ぎこちない笑顔を浮かべつつゆっくりと振り返る。

このまま逃げてもよかったが、見つかった以上自分というネタで勝手に話を進行されるのはやはり都合が悪いと判断したのだ。

「・・・久しぶりね、三姉妹。前に会ったときよりパワーアップしたわね。・・・いろんな意味で」

「まあ、前よりも美しくなったなんて!なんて正直なお方なんでしょうっ」

「ふふふっ・・・」

恥らうように頬を染めるビーナスを見返して、はやんわりと笑みを浮かべた。

ここはあえて突っ込まない方がいいだろう。―――どうせ突っ込んでも聞いていないのだから。

?・・・こやつらと知り合いなのか?お姉さまとは・・・?」

「ああ、それは・・・」

しかしそんなビーナスとのやり取りは、やはり不思議だったのだろう。

一番突っ込んで欲しくないところを太公望に突っ込まれ、さてどう説明しようかとが頭を悩ませたその時だった。

お姉さまは、お兄様の婚約者なのですわ。いずれ正式にお姉さまとなられるのですから、今からそう呼ばせて頂いているのです」

何のためらいもなく、ビーナスの口からサラリと一番言って欲しくない言葉を告げられる。

それに更に頭痛が増した気がして思わず頭を抱えるの傍らで、太公望が驚愕に表情を染めて声を張り上げた。

「なにーっ!?」

「あっはっはっは。驚いたかい、太公望クン?」

そんな太公望を見て、趙公明が至極楽しそうに笑う。

そりゃ驚くでしょうよ、事情を知らない人にとったら・・・と心の中で突っ込みつつ、は重いため息を吐いた。―――これまで趙公明と3姉妹の説得は無理だと放置し続けてきた問題だが、このまま放っておくわけにもいかないだろう。

案の定、太公望の必死の眼差しを感じて、はうんざりとした様子で振り返った。

「・・・・・・・・・

「いろいろ事情があるんだけど・・・・・・取りあえず違うから」

「事情ってなんだっ!?」

必死な様子で声を張り上げる太公望に、は何かを話し続けている趙公明と三姉妹を放置して『事情』を話し始めた。

昔、趙公明に『華麗なる戦い』を挑まれた事がある。

最初はそれを素っ気無くあしらっていたのだが、あまりにもシツコイ上に人の話など聞かない趙公明にムカついたが、怒りのままに趙公明を返り討ちにした時の事。

懲りる事無くそれは定期的に続き、とうとうある日三姉妹が返り討ちにあった趙公明を迎えに来た。

そしてボロボロになった趙公明をさすがに哀れに思い、親切にも傷の手当てをしてあげていたに感動し、こう叫んだのだ。

「なんてお似合いなお二人なんでしょう!!」と。

それ以来、会うたびに(三姉妹の中で)2人の仲は(勝手に)進行し、ある日を境にいつのまにか『趙公明の婚約者』と認識されるようになったのだ。

最初の頃は律儀に否定していただったが、相手の性格が性格なのでまったく聞き入れてもらえず・・・―――その内に否定するのも馬鹿らしくなりそのまま放っておいたのだ。

放置しておいてもさほど支障がないと思ったのも確かなのだけれど・・・。

「・・・なんとまぁ」

「私の苦労も察しなさい・・・」

から『事情』を聞き終えた太公望が、呆れと感心の入り混じった表情で呟く。

それに遠い目をしながら返したに、太公望は彼女の言葉通りこれまでの苦労を察した。―――それはきっと、想像するよりも大変だったのだろう。

嫌が応にも下がる2人のテンションも一向に構わず、兄である趙公明と話を終えた三姉妹は、太公望に向き直り高らかにこう告げた。

「覚悟なさい、太公望!この仙人界のプリンセス、雲霄三姉妹がお相手よっ!!」

「ゲフゥ!!」

三姉妹のあまりのインパクトの強さに、太公望は戦うまでもなく吐血し倒れた。

それを見やり、ビーナスとクイーンが身をくねらせて顔を見合わせる。

「まぁ、私たちのあまりの美しさに戦わずして倒れるなんて・・・」

「私たちって罪な女よねぇ・・・」

「・・・何故そうやって自分の都合のいい方へ解釈するかのう」

三姉妹には決して聞こえないよう、ゆっくりと身を起こした太公望は呆然と呟いた。

「それくらいにしておきたまえ、妹たちよ。色香ではなく実力で勝負しないと、いつまで立っても立派な仙女にはなれないよ?」

趙公明はいつの間に用意したのか、趙公明とド派手な看板の下がったスペースに移動し、優雅に足を組んで三姉妹にそう言い放つ。

それに心得ているとばかりに頷いて、三姉妹は改めて太公望と向かい合った。

「言わずもがなですわ。太公望さま、宝貝勝負と行きましょう!!」

そういうや否や、クイーンが曲刀のような宝貝を手に持ち、もう1つをお菓子を食べつづけているマドンナへと手渡す。

これにはマズイ、と流石のも思わず一歩引いた。

雲霄三姉妹。―――見た目と性格はさておき、その実力は趙公明の妹と言われるだけの事はある。

彼女たちが使う宝貝は一般的にスーパー宝貝と呼ばれる部類の物で、三大仙人もビビると言われるほどの威力を持っている。

申公豹が持つスーパー宝貝・雷公鞭に次ぐ破壊力を持ち、宝貝から生み出された竜は全てを食らいつくすという。

出来れば相手にしたくないほど、厄介な代物である。

「「この才色兼備な三姉妹が誇る、スーパー宝貝!!」」

三姉妹が高らかに声を上げた。

「「金蛟剪!!!」」

「ぬぉっ!?」

クイーンとマドンナの声を合図に、2人が持つ曲刃から黒と白二匹の竜が生み出され、それは部屋の中を暴れまわりながら慌てた様子で逃げ回る太公望の後を追いかける。

ふと四不象の方に目をやると、どうやら趙公明が庇っているらしい。

は少しだけ安堵して、再び逃げ惑う太公望に目をやった。

逃げても逃げても追いかけてくる二匹の竜。

どうするのかと眺めていると、太公望は無くしたはずの左腕を普通の腕ではありえないほど伸ばしマドンナの駄菓子袋を奪い取った。―――おそらくは太乙の発明品なのだろう。

「う・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ほんとに太乙はいろんなものを作るわね〜と半ば感心しながらそれを眺めていると、駄菓子袋を奪い取られたマドンナは、禁断症状でも起こしたかのようにブルブルと震えだし、大きな唸り声を上げると金蛟剪を放り出し暴れだした。

すると部屋の中を暴れまわっていた二匹の竜は跡形もなく姿を消し、その手法に流石の太公望も少しだけ複雑そうな面持ちだったが、それでも気を取り直して攻撃を仕掛けた。

しかしその攻撃も、ビーナスの持つ宝貝・混元金斗により無効化される。

三姉妹の主な戦い方は、金蛟剪で攻撃・混元金斗で相手の攻撃を吸い取り防御という実に単純な構造になっている。

しかし攻撃をする方と防御をする方が分かれているため、また姉妹という事もあって息もぴったりなのか・・・出し抜くのは少し面倒だ。

目の前で繰り広げられる宝貝勝負を完全防御しながら見ていたは、ふと違和感を覚えて辺りを見回した。

こんな場には必ず現れそうなあの人物の姿を、まだ一度も見ていない。

そういえば・・・と、最近まったく会っていないことを思い出し、一体今どこでなにをしているのだろうかと疑問を抱いた。

がそんな事を考えているうちに勝負は続き、気がつくと三姉妹が喧嘩を始めている。

なにがあったのかと様子を窺っていると、ビーナス曰く。

「女心を弄んだのねっ!!」

・・・らしい。

その言葉を向けられた太公望は、まったく気にする様子もなく愉快そうに笑う。

「見たか。わしのこの見事な心理作戦」

「ご主人・・・。ご、極悪な上にセコイっス・・・」

が推測するに、おそらく太公望がビーナスに色目を使って惑わし、三姉妹を不仲に陥れたのだろう。

つい先ほどチームワークが良いと評した三姉妹が、今は見るも無残なほどの兄弟喧嘩を繰り広げている。

確かに見事だが・・・・・・その手法に少なからず三姉妹に同情してしまうのは、も同じ女だからだろうか?―――太公望の手段を選ばない戦いぶりは、いっそ感心するほどだが。

そんな中、太公望の手によって混元金斗に吸い込まれるクイーン。

駄菓子袋を奪われて以来、泣き叫ぶマドンナ。

そして太公望に騙されたと嘆き悲しむビーナス。

もはや戦いどころではない。

流石に罪悪感を感じたのか、はたまたその勢いに押されたのか。―――少し引き気味の太公望は趙公明に視線を向けた。

視線を向けられた趙公明はニマリと笑い、椅子から立ち上がるとゆっくりと太公望の元へ歩み寄る。

「太公望くん、どうやら君は僕のライバルになりうる男らしいね」

趙公明は長剣ほどの長さの鞭のような武器を手にもち、静かに言った。

「でもこの僕に小細工は通用しないよ?力対力、それしかないことをまずは言っておこう」

そう言い放ち趙公明がパチンと指を鳴らすと、船の各地から激しい爆発音が響き始めた。

「さて、主役同士の決戦の場にしてはここはふさわしくない。場所を移そう」

どうやら船を破壊してしまうつもりらしい。―――どの辺りが趙公明のいう『ふさわしい戦いの場』なのか理解に苦しむが、自分の身に多少の危険が迫っている事だけは理解した。

もう一度パチンと指を鳴らすと、再び天井から光が降り注ぎ、ゆっくりと体が浮いて行く。

気がつけばそこはクイーン・ジョーカー・二世号の上。―――悦状態に入っている趙公明は、何事かを呟きつつ・・・その姿はまるで悲劇の主人公さながら。

完全に己の世界へ没頭している。

ここが趙公明の一番厄介なところであり、また一番恐ろしいところなのだが。

「ダァホ。人質は全部取り返した。これ以上付き合ってられるか!」

そんな趙公明を一瞥し、しかし太公望はそれには一切取り合わず、四不象に飛び乗るとすぐにその場を離れようとした。

しかしそれを見逃してくれるほど、趙公明という男は甘くなかった。

彼の戦いに対する意欲は、並みのものではないのだ。

そうして趙公明は再び指を鳴らし・・・―――その直後、何の前触れもなく四不象の真下から妙な煙が噴射された。

その妙な煙を避け切る事が出来ず、四不象に振り落とされ地面に尻餅を付いた太公望は、一体何事かと四不象に目を向けて。

そして目の前の光景に、思わず目を見開いた。

「スープー!?・・・何のつもりだ、趙公明!!」

おそらくは先ほどの妙な煙が原因なのだろう。―――石にされてしまった四不象を確認し、趙公明をきつく睨みつける。

「ふふふ、簡単な事さ。僕は今から四不象くんの像を壊そうと思う。本気を出して僕を食い止めたまえ、太公望くん!」

「おぬし・・・わしに本気を出させるために!?」

趙公明もまた、己の信念の為には手段を選ばない。

そういうところは、もしかすると太公望と似ているのかもしれない。―――どちらがより性質が悪いかといえば、それは明白だったけれど。

けれど、もう逃げ場はない、―――はそう思った。

太公望に四不象を見捨てて逃げるなんて芸当は出来ないだろう。

見事なまでの趙公明の用意周到さに、は内心感心した。

『・・・おい』

不意に声を掛けられ思わず上空に目をやると、そこには黒い霊獣が一匹。

それに僅かに口角を上げて、は小さな声で呟いた。

「・・・ナイスタイミング」

『いいからさっさと乗れ』

こんな状況でも余裕さを失わないに焦れたように声を放つの言葉に従い背に飛び乗ると、素早い動きでその場から飛び去った。

戦いの余波が来ないだろうと思われるところまで避難すると、少し遠めに見える趙公明の船に視線を向ける。

『・・・やっぱりお前に手助けしようなんて心がけは一切なかったんだな』

呆れたように呟くに、はかすかに笑みを向けた。

「私が手助けする必要なんてどこにもないわ。寧ろ・・・するべきじゃない」

趙公明は強い。―――それは何度も彼に戦いを挑まれたは嫌というほど知っている。

しかし太公望もそれに負けないほどの力を持っているだろうと、は思っている。

『もし・・・もしも、だぞ?』

クイーン・ジョーカー・二世号上空に巻き起こった巨大な竜巻から眼を逸らさず、しかし言葉を濁しながらは口を開いた。

「・・・なに?」

『もし・・・太公望の奴が封神されたら・・・・・・お前どうする?』

その言葉に、はピクリと眉を動かした。

その可能性は、ゼロではない。

今までもそうだが、今回は特に相手が悪すぎる。

は太公望が起こした風の余波で乱れる髪をそっと押さえ、静かに目を閉じた。

「・・・さぁ?」

「さぁ・・・って・・・」

「・・・・・・考えてないわ」

そう告げたその言葉は、嘘だ。

太公望の生を強く望む時、やはりその願いが届かなかった場合・・・―――死のことも当然頭の中に浮かんでくる。

しかしいくら考えても答えなど出るはずもなかった。

太公望が封神された、その時は・・・。

「まぁ、その時になったら考えるわよ」

幾分か口調を和らげて、は笑う。

その時が来ない事を・・・心の中で祈りながら。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

い、いかがでしょう?(聞くな)

めっきりギャグ度が下がる一方。しかしシリアスという訳でもないようで・・・。

妙に雲霄三姉妹が長かったり・・・?もちろん贔屓以外の何者でもありません(笑)

そして主人公、『人を寄せ付けない』という設定だったにも関わらず、交友関係広すぎです。

そして話をカットしすぎ?この連載しか読んでいない方には少し分かりづらいかも?

次はどうやって主人公を絡ませようかしら?(悩)

作成日 2003.11.2

更新日 2008.2.9

 

戻る