空に舞い上がる7匹の虹色の竜。

これこそが金蛟剪の本来の力であり、そして金蛟剪は趙公明が使う事によってその力を十二分に発揮する事が出来る。

その攻撃を受けるたびに、太公望の宝貝・打神鞭にヒビが入っていった。

その光景を眺めながら、は先ほどに言われたばかりの言葉を思い出す。

『もし・・・太公望が封神されたら・・・・・・どうする?』

思わず背中にゾクリと悪寒が走る。

その可能性がどれほど高いのかという事は、考えずとも想像できた。

趙公明だけではない。―――太公望が相手にしているのは、それだけの力を持っているものなのだ。

そんな嫌な想像にが眉を顰めている間に、戦況は変わったらしい。

趙公明は、太公望の戦いを見る為にかその場に現れた元始天尊を姿を確認し、次なる標的を彼に変更すると一気に勝負をつけるために7匹の竜を1匹に合体させた。

「スープー!!」

力を増したそれは躊躇う事無く太公望に襲い掛かり、彼の悲痛な叫びと共に、石にされた四不象はこなごなに砕け散る。―――そして・・・。

耳を劈くような破壊音と共に、虹色の竜は瓦礫と共に太公望を飲み込んで。

そうして周囲を破壊し尽くした虹色の竜が消えた後、その場から1つの魂魄が空に飛んだ。

 

封神する者と封神される者

 

「やったわ、いい気味。太公望が死んだ!」

空を飛ぶ魂魄を見送り、クイーンがガッツポーズを作った。

その横でビーナスが力なく跪き、両手を顔に当てて静かに涙を流す。

「うそだ。またいつもの策ですよね、お師匠様、四不象」

武吉が呆然としたようにそう呟き、叫ぶのを遥か上空で聞いていたは、ゆっくりと目を閉じた。

『・・・マジかよ』

決して太公望に好意を持っていたとは言いがたいですら、信じられないのか唖然とし、そして思い出したかのようにチラリとに視線を向けた。

はなにを考えているのか非常に読みづらい無表情そのままで、じっと趙公明を見つめている。

趙公明は感極まって涙を流すと、映像宝貝を使いエンディングロールを流し始めた。

最後に『完』という字が空中に浮かび上がり、その後はどうでもいいようなわけの分からない映像が延々と流れている。

それを無視して、右手を顎に当てた状態で何かを考え込んでいる

武吉が悲痛な叫び声を上げ、趙公明に殴りかかったその時も、無表情のままその体制を崩さない。

趙公明は宝貝を持たない武吉を簡単に片付けるため、ビーナスに混元金斗に封じるように命じた。

物凄い吸引力で引っ張られ、武吉がピンチに陥っても一切動じず。

「お師匠さまーっ!!」

一体どういうつもりなのかとが様子を窺うのもさらりと無視して、成す術もなく武吉が太公望の名前を呼んだ瞬間、瓦礫の中からすさまじいほどの光が放たれ、それを確認したはニヤリと口角を上げた。

光と共に姿を現したのは、一匹の白い霊獣。

どこかで見たことがあるようなその姿に、は小さく首を傾げた。

『・・・あいつは?』

「あれは四不象よ」

『・・・は!?』

の淀みのない言葉に、しかしは間の抜けた声を上げた。

「・・・でも、あいつは・・・」

「石にされて吹き飛ばされた・・・でしょう?でもね、四不象には切り札があったのよ。―――まぁ、本人が知っていたかは別として」

『・・・切り札?』

「そう。四不象がいつも大切に持っていた、あの玉がね」

そう言葉を並べて、未だ状況を理解できていないに丁寧に説明を始めた。

四不象が持っていたあの玉は『復活の玉』。

金鰲島と崑崙山の中心部にある巨大宝貝から偶然に発生する軌跡の玉。

この世に2つしかないといわれる、仙人界の至宝。

その玉を持つものが生命の危機にさらされた時、自ら破裂してその者の肉体を最高レベルにまで高めてくれるという。―――まさに最終アイテム。

『それじゃあ・・・あの霊獣はその復活の玉とやらの力で甦ったって事か?』

「簡単にいえば、ね」

進化を遂げた四不象は混元金斗の吸引力をものともせず、そして趙公明の放った虹色の竜をも食らいつくしている。

『・・・スゲェ』

が思わずもらしたその言葉に、は小さく笑った。

『笑うなっ!―――話を元に戻すが、復活の玉を使ったって事は、太公望の奴も生きてるって事か?』

。一度魂魄が飛べば、生き返らせることなんて出来ないわ。例え復活の玉の力を使ったとしても・・・」

『じゃあ・・・』

何かを言いかけたの言葉を遮って、はにっこりと笑顔を浮かべた。

「魂魄が飛べば・・・ね」

その意味ありげな口調に、は自ら千里眼を使い太公望の姿を探した。

同時に武吉も何かを察したのか、必死に瓦礫をどかして太公望を探している。

そして―――。

「あっ!!」

武吉とが太公望の姿を見つけたのは、ほぼ同時だった。

瓦礫の中で、膝を抱えて蹲っている太公望。

その様子は普段の彼ではなかったけれど、生きている事に違いはない。

千里眼でそれを確認したは、不思議そうな・・・訝しげな視線をへと向けて。

『・・・・・・なんで太公望が生きてるって分かったんだ?』

「太公望の気配が・・・まだそこにあるもの」

は四不象に金蛟剪が効かないと知り、最後の手段として妖怪仙人の原型に今まさに戻ろうとしている趙公明を見据えたまま、穏やかに笑い言った。

少しづつ趙公明はその姿を違うものへと変化させていく。

趙公明の原型。―――巨大花は辺りの養分を吸い取り、どんどん巨大化していった。

楊ゼンが変化の術を使い攻撃するが、その大きさには敵わず。

そして破壊されたところを補うように、どんどんと種を吐き出し増殖していった。

「太公望は・・・?」

『武吉の奴が言うには・・・おそらくあの植物の中だ』

「それなら・・・」

は未だ増えつづける趙公明の森を強く睨みつけ、はっきりとした口調で言い放った。

「あそこへ行ってちょうだい」

 

 

「まったく・・・。人型もそうだけど、原型はもっと非常識なのね・・・」

趙公明の森を1人歩き、はぶつぶつとぼやいた。

何故1人なのかというと、趙公明の森が鬱蒼と生い茂っている為、比較的身体の大きなは入って来れなかったからだ。

ただでさえ広い森の中、どこにいるとも分からない太公望をひたすら捜す。

こうなった以上、勘だけが頼りだ。

しばらく歩き続けると、不意に妙な気配を感じ取りそちらに視線を向けた。

そこにはこぶし大ほどの大きさの光る球体。

ゆらゆらと誘うように揺れて・・・―――まるで着いて来いと言っているようだ。

は少し躊躇った後、光に向かいゆっくりと一歩踏み出した。

光に導かれるように歩いていると、遠くで爆発音が聞こえる。―――それがまるでどこか遠くの出来事のように思えて小さく苦笑を漏らした。

どれくらい歩きつづけただろうか?

突然ゆらゆらと揺れて先導するように漂っていた光の玉が、スっと姿を消した。

「・・・どこに?」

突然消えた光を捜すように、はキョロキョロと辺りを見回して・・・―――そして・・・・・・やっと見つけた。

捜し求めていた、太公望の姿。

木の茎と茎の間に挟みこまれたように・・・まるで自分自身を隠すように蹲っている太公望を前に、は僅かに目を細めて。

そうしてはゆっくりと側に寄り、そっと太公望の頬に手をやった。

そしてそこにある確かな温かさを感じとり、は自然と頬を緩ませたのだった。

 

 

『わしは死んだのだ』

太公望は闇の中で小さくそう呟く。

光も音さえもない、真っ暗な世界。―――ただ意識だけがぼんやりとそこにあるような・・・。

『ずいぶん中途半端に死んだものよのぉ・・・』

そう独りごちて、そして苦笑した。

平和な人間界を作るという夢も挫折し、妲己や聞仲どころか趙公明にやられて。

この永遠に続く時間の中で、ただ後悔だけを抱いて過ごしていくのだろうか?

『・・・を・・に来・・れ・・?』

太公望がそんな事を考えたその時、何もないはずの世界に微かに声が響いた。

どこかで聞いたことのある声だと気付き、太公望は耳を澄ませる。

『お別れを言いに来てくれたの?』

今度はさっきよりもはっきりと聞こえた。―――これはの声だ。

『これは確か・・・封神計画を任されたその時に、に言われた言葉だ』

聞こえてきた言葉の意味を思い出し、太公望は微かに微笑んだ。

確か自分はこの言葉にこう答えたのだ。―――『別れを言いに来たのではない。少し留守にするという事を伝えに来ただけだ』と。

結局、その約束さえも守れなかったな・・・と思ったその時。

『出来ない約束はするなって、何度も言ったでしょう?』

が西岐に来た直後。―――そして昔から、耳にタコが出来るほど言われ続けた言葉が太公望の元へ届いた。

『しかし・・・わしはもう死んだのだ。わしにはもう、何の力もない』

そう思った瞬間、今まで冷たく凍っていたような身体に暖かな光が注がれる。

『このまま死んでもいいのん?』

身体の自由が少しづつ戻っていくのを感じていた太公望に、とは違う声が聞こえた。

堅く閉じていた眼を開くと、そこにはうっすらとした光に身を包んだ妲己の姿が。

挑発的な笑みを向ける妲己に、太公望は大きく目を見開いた。

『わらわを倒すんじゃなかったのん?』

『妲己!!』

『さぁ、わらわを捕まえるのよん・・・』

手を差し伸べてくる妲己に、太公望はゆっくりと手を動かした。

これは現実なのか・・・それとも幻?

まるで操られているかのように動く手が、妲己の手を掴んだ。

それと同時に、ハッと意識が戻る。

周りには緑色の茎に囲まれており、そして手には・・・―――壊れたはずの打神鞭。

なにが起こったのか瞬時に理解できず、しかし自分がまだ死んではいない事を理解した太公望は、壊れた打神鞭を強く握り締めて。

その目に確かな光を宿して、太公望は駆け出した。

 

 

「これでよかったのん?ちゃん・・・」

「はは・・・うん、ありがとう・・・妲己」

太公望からは目に付かない茎と茎の間に身を寄せていたにゆっくりと近づいて、妲己は先ほどが太公望にしたようにソっと手を頬に当てた。

それはゆっくりと彼女の頬を撫で、ゆっくりと離れていく。

そうして少しだけ青い顔をして疲労しきっているを見て、妲己はクスクスと笑った。

「・・・なに?」

ちゃんって相変わらずねん。太公望ちゃんには甘いんだからん」

言われた言葉に、は何も言わずに苦笑した。

確かになんのかんの言っていてもついつい助けてしまうのは事実で、それを知る人たちから見れば間違いなくそう思われても仕方がない行動を取っているのだから・・・―――おそらく本人にはそう思われてはいないハズだが。

「それよりも、早くここから脱出した方がいいんじゃないのん?すぐに太公望ちゃんの攻撃が始まると思うけどん・・・」

そう声を掛けられたが、は曖昧に笑みを浮かべてヒラヒラと手を振った。

「そうしたいのは山々なんだけどね・・・」

未だ体調が優れない。

立ち上がろうとしてもすぐに眩暈が襲い、お世辞にもさっき通ってきた道を引き返せるだけの体力がないことは自分自身が一番よく分かっている。

「まだまだ修行が足りない・・・かな?」

「もうちゃんってば。しょうがないわねん」

茶化すようにそう言ったに同じような表情を浮かべた妲己は、先ほど太公望にしたように手を差し出す。

その意味を察し、少しだけ複雑そうな表情を浮かべながらも、諦めたように妲己の手を握り返した。

その瞬間、眩しいほどの光が2人を包み込んで・・・。

『うおっ!?・・・・・・か?』

ゆっくりと眼を開けると、そこはの背の上。

いきなり自分の背中の上に人が現れれば驚かないわけがない。―――も例外ではなく、突然感じた重みに思わず声を上げた。

そんなの声を耳にしながらも、頬に感じる柔らかい毛皮の感触に僅かに笑みを零して。

「今回の事は貸しにしとくわん」

「・・・・・・厄介な人物に借りを作っちゃったな」

姿は見えどもそこにある気配に向かい、はやんわりと微笑んだ。

「ありがとう、妲己」

心からの感謝の気持ちを述べ、優しくの背を撫でる。

「ここはすぐに戦場になるから・・・取りあえず安全なところまで避難してくれる?」

『突然戻ってきてそれかよ・・・』

呆れたようにそう呟くだったが、言われた通りにその場から飛び立つ。

しばらくした後、頭上から尋常ではない冷たい風が吹き付け・・・―――の宝貝が起こした風で完全に防御されていたとはいえ、その光景を見ただけでもは寒さを感じ取った。

原型に戻り植物と化した趙公明が、植物には天敵とも言えるその冷たい風に抵抗できるはずもなく。

見事に凍らされてしまった趙公明は、崩れていく自分の身体を見て負けを悟った。

当たり一帯に広がった趙公明の森が音を立てて崩れていく中、一筋の魂魄が勢いよく空へと飛び出して。

封神台へと向かう趙公明に視線を送り、複雑な表情を浮かべていたは、ふと感じたその気配に視線を巡らせる。

そこには向こう側が透けて見えるほど薄い趙公明の姿。―――いや、幻というべきか?

『やぁ、。僕は封神台へ行かなければならない』

いつもと変わらない挨拶をし、どこか満足気に笑う趙公明にも笑みを浮かべた。

「ええ、そうね」

『だけど楽しかったよ。君の弟弟子は強いね』

「・・・かなり危なかったけどね」

がそう言葉を返すと、趙公明は自慢気に胸をそらす。

『ふふふっ。・・・僕は君が大好きだったよ。もうこうして会えないかもしれないのは残念だけど・・・・・・―――君がいつでも幸せであるように祈っているよ』

その言葉を最後に、趙公明の姿は風に流されるように静かに消えていった。

静けさの中、もうそこにはない気配に向かいは口を開く。

「私も貴方の事、嫌いじゃなかったわ」

その言葉を向けられた人物はもうここにはいないが、それでもの耳に『そんなの知ってるさ』と、あの自信満々な声と笑い声が聞こえてくるような・・・そんな気がした。

 

 

「すまなかったな・・・」

全ての雑用を終えた後、太公望は1人だらだらしているの側に寄り、それだけ言った。

言葉には出さないが、『なにが?』と言いた気なの視線に苦笑する。

「わしは・・・あと少しでおぬしとの約束を違えるところだった・・・」

「・・・・・・」

「それにわしは・・・、全てを諦めそうになっていた」

あの暗闇での出来事を思い出し、太公望は大きく息を吐いた。

あの時、の声が聞こえなければ。

あの時、温かな光を感じなければ。

あの時、妲己が現れなければ・・・―――自分は今でもあの暗闇の中にいたかもしれないと、そう思うから。

「私は・・・」

自分の思考に没頭していた太公望は、の呟く声で我に返った。

視線を向けると、そこには微笑んでいるという予想外の光景があった。

てっきり怒られるとばかり思っていたのに。

そう言いた気な太公望の視線を無視して、は言葉を続けた。

「私は・・・趙公明の実力を認めてる。あんたがそう簡単に勝てないことぐらいお見通しよ。いくら私だって楽勝しろなんて無茶言わないわ」

は寝転がったままそう言い、それからゆっくりと上体を起こすとふんわりと太公望を抱きしめた。

「お帰り・・・望」

太公望は普段めったに呼ばれる事のない名前に嬉しそうに微笑み、躊躇いがちにの身体を抱き返した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

趙公明編、これにて終了です。

なんか悔いの残る場面もそこら中に残っていますが、それはそれ(笑)

今回少しだけ主人公謎の動きを見せております。まぁ、それもおいおい。

次は待ちに待った仙界大戦!!さて、どうやって主人公絡ませようかな〜??

今さらながらに、大変な連載を始めてしまったことに気付きました。(←本当に今さら)

○原作を読んでいない人の為に補足○

どうして魂魄の飛んだはずの太公望が無事だったのかというと、実はクイーン・ジョーカー・二世号の1階で戦った楊任さんが庇ってくれたからです。(説明飛ばしてすいません)

飛んだ魂魄は楊任さんのものだったのです。(詳しくは原作を読んでください)←オイ

作成日 2003.11.4

更新日 2008.3.2

 

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