金鰲島に侵入したまま戻ってこない楊ゼンを救出するため、崑崙山の指揮官である太公望は、霊獣の四不象、楊ゼンの師匠・玉鼎真人、そして元金鰲島の道士であり金鰲島の地理に詳しいと思われる蝉玉の3人+1匹と、金鰲島に直接乗り込むことに決めた。

「私も行こうかな?」

金鰲島と崑崙山が衝突した後、何食わぬ顔で作戦室に戻ってきたは、珍しく自分からの同行を申し出た。

今までにない積極的なその行動に、一同は首を傾げたが、

「うむ。それでは一緒に行くか」

太公望だけは大して困惑もせずに、の同行を受け入れた。

彼は何も知らないはずだ。―――けれども気付いていたのかも知れない。

の抱える問題、想い、そして・・・密かに固めた決意を。

 

カピバラ襲撃!

 

金鰲島に侵入した4人+2匹は、内部の様子に驚きの声を上げた。

崑崙山とは圧倒的に違う。―――格段に差をつけられた文明に、これでは金鰲島の主砲の射的距離の目測を誤っても仕方がないだろうと玉鼎はひそかに思っていた。

金鰲島内部は縦横無尽に道が張り巡らされてあり、そこら中に大小の無数の丸い球体が浮かんでいる。

その球体は『星』と呼ばれている。―――言わば部屋のようなものらしい。

一行は楊ゼンがいると思われるバリアの制御室に向かい、歩き出した。

「まぁ、ここはあたしの庭みたいなものだからさ。案内はまかせてよ!」

意気揚揚と歩き出した蝉玉に、辺りを見回していた四不象は小さく首を傾げる。

「スパイさん。どうしてこの辺には人がいないっスか?」

その素直な・・・しかし的を得た質問に、蝉玉と玉鼎はハッとしたように振り返った。

「そう言えば・・・、いつもはかなり賑わってるはずなのに・・・今は気配すらないわ」

戸惑ったように慌てて辺りを見回した蝉玉に、と太公望は真剣な表情で告げた。

「多分、私たちの侵入は気付かれてるわ」

「うむ。この辺りの仙道を引き上げさせたのも作戦なのだろう。気を引き締めねば!」

「罠でもなんでも、敵がうじゃうじゃ出てこないのは好都合よね!あたし金鰲島の人と戦うのは気が進まないもん」

やはり元金鰲島の道士としては、複雑なものもあるのだろう。

しかし蝉玉は一向に気にした様子もなく、逆に明るくそう言って飛び跳ねるように先を歩き始めた。

「待て」

そんな一行に、玉鼎は少し緊張した面持ちで反対側にある道に目を向けた。

「・・・誰かいる」

そこには少し大きな黒い物体。

よく目を凝らして見てみると、それは・・・。

「あぁ!何故こんなところにカピバラのぬいぐるみがっ!?」

太公望が脱力したように、それを見た。

カピバラ。―――パナマからパラグアイまでの地域に生息する大型のげっ歯類。

その姿はクマのぬいぐるみに似ていて、どこか愛らしさを感じさせる。

それが今まさに、少し向こうの方に見える通路をボテボテと歩いているのだ。―――奇妙なことこの上ない。

「いやぁぁぁぁっぁぁぁぁっぁっぁ!!!」

そんな事をぼんやりと考えていると、何の前触れもなく突然蝉玉が大声で悲鳴を上げた。

何事かとそちらに目を向けると、すでにそこに蝉玉の姿はない。

慌てて辺りを見回すと、感動を隠す事もなくカピバラのぬいぐるみに向かって突進する蝉玉の姿が・・・。

「・・・そういえば、蝉玉ってああいう可愛いの好きなんだったっけ?」

四不象も蝉玉のお気に入りだし、土行孫だって・・・・・・彼は可愛いとは違うか、と好き勝手な事を思う

「蝉玉っ!?」

「待て、不用意な行動はっ!?」

の言葉にハッと我に返った太公望と玉鼎は慌てて制止するが、そんな声が蝉玉に聞こえているわけもなく。

「・・・・・・あら?どわぁ!!」

カピバラのぬいぐるみの前に降り立った蝉玉は、その場に描かれた八角形の図の中に引きずり込まれた。

「もしかして、あの八卦図が亜空間の入り口になっているのか・・・」

「敵は蝉玉の性格を知っててぬいぐるみの姿で出て来たのね。見事というべきかなんというか・・・」

「呑気な事を言っとる場合か!蝉玉が危ない。わしらも行くぞ!!」

蝉玉の趣味って金鰲島でも結構有名なのかしら?などとのんびりと考えていると、慌てた様子の太公望と玉鼎が同じく八卦図の中に飛び込んでいった。

静かな空間に残された

『お前は行かないのか・・・?』

動く様子のないがポツリとそう呟いた。

「行かないわけじゃないけど・・・」

は昔聞いた十天君情報を思い出していた。

十天君の中に玩具を武器に扱う人物がいるらしい。(趙公明情報)

じっと何かを考え込むを訝しげに眺めていたは、ふと彼女が浮かべた何かを企むような笑みに思わず固まった。

「・・・面白いことになりそう。よし、行くわよ!」

ポツリともらしたその言葉に少し嫌な予感がしたが、そんなことを考えても無駄だと悟っていたは、先に八卦図に飛び込んだの後を追って自らも身を投じた。

 

 

八卦図の中は大変メルヘンな世界に仕上がっていた。

そこら中に置かれた玩具やぬいぐるみ。―――床や壁も可愛らしく装飾されてあって、一見した限りでは小さな子供が住んでいそうな場所だ。

その中ではすでに戦いが・・・―――いや、楽しい遊びが繰り広げられていた。

「・・・何やってんの?」

「ああ、何でもカピバラのぬいぐるみがクイズをしようとか言い出してな。蝉玉が乗り気で参加しておるのだ」

部屋のど真ん中に設えられた巨大なルーレット。

そのルーレットが示す番号の札を先に取り、その番号カードに書かれてあるクイズに答えると勝ちというルールらしい。

ルーレットが示した番号のカードに先に飛びついたのは、カピバラのぬいぐるみだった。

しかし蝉玉はカピバラのぬいぐるみに容赦ない蹴りをいれカードを奪い取ると、何食わぬ顔で当然とばかりに言い放った。

「甘いわね、カピバラ!クイズは知力・体力・時の運よっ!!」

妙に体力が強調されたような気がしたが、気にしないことにした。

「そう言えば、蝉玉ってクイズとか得意だったっけ?」

「本人は得意だと言い張っとるが・・・」

小声でひそひそと話していると太公望には気付かず、蝉玉はカードに書かれてあるクイズを無言で読み、そして勝ち誇ったような笑みを浮かべて高らかと叫んだ。

「奈良漬っ!!」

―――なんとも言えない沈黙が、部屋の中に沈んでいった。

「・・・・・・一体どんな問題だったのだ?」

「・・・・・・さぁ?」

その答えに思わず固まってしまった太公望と玉鼎が、ステージの上で決めポーズをとったまま悦っている蝉玉を見て呟く。

その直後、ボンという音と共にステージに煙が充満していった。

「きゃっ!!」

聞こえるのは蝉玉の短い悲鳴だけ。

いきなり何が起きたのかと、ステージに近づく前に煙はなくなっていき・・・―――そうしてそこにはすでに蝉玉の姿はなかった。

「あれ、蝉玉は?」

その姿を探すようにステージに視線を這わせると、そこには一体の人形。

どこか蝉玉に似ている気がするのは、果たして気のせいなのだろうか?

不思議に思い考え込んでいると、先ほど蝉玉に強烈な蹴りを食らわせられ地に伏していたカピバラがゆっくりと起き上がった。

「ぶぶーっ、ハズレ。答えは『人間』だよ。言い忘れてたけど、ボクちゃんにゲームで負けたらオモチャになってもらうからね」

カピバラはとても楽しそうに笑った。

言い忘れたなどと言っているが、もちろん意図的に言わなかったのだろう。

言えばこんな馬鹿らしいゲームなどするハズがない。

まぁ、敵地に来て呑気にゲームをする蝉玉も蝉玉だが。

「さぁ、君たちも遊ぼ。ボクに勝ったらこの子を元に戻してあげるよ」

まるで悪魔の囁きのよう。

この状態で蝉玉を見捨ててなどいけない以上、カピバラとゲームをするしかない。

人形になってしまった蝉玉を、四不象が涙目になりながら拾い上げた。

それを確認した玉鼎は、未だに笑うカピバラの前に一歩踏み出し、キツク睨み付ける。

「お前、何者だ・・・?」

玉鼎の質問に、カピバラは珍妙な動きで一礼すると、ヒタリと視線を返した。

「申し遅れちゃったね。ボクちゃんは金鰲島十天君の1人、孫天君。ボクちゃんの亜空間『化血陣』にようこそ」

カピバラの言葉に、太公望と玉鼎の顔つきが変わる。

今まで可笑しなぬいぐるみだとばかり思っていたカピバラが、十天君だとは思いもしなかったのだろう。

しかし事前に趙公明から十天君の情報を仕入れており、ぬいぐるみの状態で姿を現した相手を見たときにうすうす感付いていたは、表情を変えずカピバラを見つめていた。

「ここはオモチャの世界なんだ〜。崑崙十二仙の玉鼎真人と崑崙の総司令官・太公望、君たちにはボクちゃんのオモチャのコレクションになってもらうよ。それから・・・」

カピバラ=孫天君はチラリとの方を見てニヤリと笑う。

「それから崑崙の道士・。君には是非にオモチャになってもらうよ?」

そのセリフに、は思わず首を傾げた。

孫天君はコレクションとして太公望や玉鼎の人形が欲しいのではないのか?

何故自分が別物のように名指しでそう告げられるのだろう?

その言い回しに、何か別の思惑がありそうな気がした。

そんなことをつらつらと考えていると、玉鼎が自身の宝貝・斬仙剣を構え、瞬きするほどの間もなくカピバラを切り裂いた。

「おお、さすが玉鼎。十天君も一閃とは、相変わらずの腕よのう・・・」

「いや・・・」

感心の声を上げた太公望に、玉鼎はお世辞にも明るいとは言えない返事を返した。

「見ろ、太公望。あれは本物のぬいぐるみだ」

床に転がっているのは、玉鼎に切り裂かれ綿を巻き散らかされたカピバラのぬいぐるみ。

「アハハハハ、その通りだよ、玉鼎真人」

突如、頭上から声が聞こえ上を見上げると、天井から吊り下げられた操り人形がケタケタと笑っている。

「すべてのオモチャがボクちゃんなんだ。いくら切っても無駄だよ〜」

「・・・という事だな、玉鼎?」

玉鼎が何を言いたいのかをようやく察した太公望は、操り人形を睨みつけそう言った。

どうやらオモチャは敵の実体ではないようだ。

孫天君自体は隠れ、どこからかオモチャを操っているのだろう。

どこかの寝ぼすけ仙人がしている普段の行動と少しだけ似ているな・・・とぼんやりと思いながら、部屋の中を見回した。

部屋の中には無数のオモチャが、所狭しと置かれている。

孫天君がオモチャを操っているのなら、壊してもキリがなさそうだ。

しかし玉鼎は孫天君が操っている操り人形をギロリと睨みつけ、瞬時に剣を振り抜いた。

部屋の中にあるオモチャが次々と切り裂かれていく。

「姿を現さぬとは卑劣な奴よ。ここにある物を全て切って、借り物の身体を無くしてくれるわ・・・」

その言葉通り、一瞬にして部屋の中が半壊した。

「イ・・・イアイ抜きっスね・・・」

「さすが十二仙。そこらの仙人とはわけが違うわ・・・」

「太公望もこれくらい出来ればね〜」

「・・・・・・オイ」

感心する太公望に、少しだけ嫌味を言ってやると、ギロリと睨み返された。

それにやれやれといった風に肩を竦めると、部屋中にクスクスという笑い声が響く。

直後、玉鼎の足元に1つのオモチャが転がって来て・・・。

「そうそう、またいい忘れてたけど・・・ボクちゃん自爆も出来るんだ」

そういうや否や、玉鼎の足元に転がってきたオモチャが爆発した。

「なっ、自爆だと!?」

「いかんっ!奴の狙いは・・・っ!!」

「もう遅いよ・・・」

うろたえる太公望と玉鼎をあざ笑うかのように、四不象の腕の中にいた蝉玉の人形が動き出した。

「今度はこの子の身体を借りちゃった〜」

「ぎゃーっ!!!」

突然の出来事に、四不象は蝉玉の人形を投げ捨て太公望の背後に逃げ込む。

「もう分かってるよね。この子を自爆させたくなかったらボクちゃんと遊んで?ボクちゃんに勝ったら、この子を元に戻してあげるよ」

一見優勢だと思われていた状況が一変した。

まさに蝉玉を人質にとられたこの状態では身動きのしようがない。

どこにいるかも分からない孫天君を倒す前に、蝉玉の身で自爆でもされれば・・・。

「分かった・・・」

重々しい口調で太公望は1つ頷く。

そうして太公望は真剣な表情をそのままに、ゆっくりと四不象へと視線を向けて。

「・・・スープーよ、おぬしが遊んでやれ」

「えぇ!?嫌っス、嫌っス!負けたらボクもオモチャにされちゃうっスよ!!冗談じゃないっス、怖いっス!!!」

「おぬしそれでも蝉玉の友人か・・・?」

「うっ!!」

「太公望、人に押し付けるのやめなさいよ」

パニック気味に騒ぎ出す四不象に、太公望は止めとばかりに孫天君との勝負を押し付けた。

押し付けられた四不象は恨みのこもった目で太公望を睨み返したが、そんなものに太公望が怯むわけもなく。

「やぁ、四不象くん。君が遊んでくれるんだね?」

未だ納得のいかない様子をしていた四不象だったが、孫天君に無理やり話を進められて、彼自身よく分からないうちにゲームをする事になってしまった。

「ねぇ、何して遊ぶ〜?」

「ボクはオセロが得意っス」

「じゃ〜ね〜、将棋しよ〜!」

「オセロっス!!」

「じゃあね〜、将棋くずしね〜」

何が『じゃあ』なのか分からないが、孫天君はオセロだと言い張る四不象を無視して、部屋の隅から将棋盤を運んで来る。

そして小さな箱に入ってある駒を将棋盤の上に出すと、

「先攻・後攻はジャンケンポイで決めよ〜?」

「・・・・・・・・・了解っス」

あっさりと押し切られ、将棋崩しをする羽目になった四不象。

「相変わらず押しに弱いの、スープー」

その一連の動作を見ていた太公望は、呆れたように呟く。

そんな外野の感想を他所に、孫天君と四不象の『ゲーム』は始まった。

先攻はジャンケンで勝った孫天君。―――最初から崩れている駒を順調に取っていく。

それを少し離れた場所で眺めながら、太公望は傍らに立つ玉鼎に小声で言った。

「玉鼎よ、もう少しで敵の居場所がわかるかもしれぬ・・・」

その言葉に、玉鼎は驚きの表情を浮かべる。

「それは・・・」

どういうことかと聞こうとしたその時、太公望は先ほどまでの真剣さなど微塵も見せず、将棋くずしをしている2人の歩みよった。

ふと見れば、孫天君は四不象側にある崩れた駒は狙わずに、自分の前にある取るには難しいと思われる場所から駒を取ろうとしていた。

「孫天君よ、こっち側の方が取りやすいのではないか?」

「もー、いいの!ボクちゃんはボクちゃんのやりたいようにやるのっ!!」

思わず助言してしまった太公望に、孫天君は子供が癇癪を起こしたように怒鳴る。

「ご主人!敵に助言するなんて、何考えてるっスか!?」

四不象が太公望に突っかかっていくのも気にせず、孫天君は将棋くずしを続ける。

しばらく難しい位置の駒に挑戦していたが、ちょっとしたミスで駒を倒して音を立ててしまった。

「やったっス!今度はボクの番っス!!」

四不象が喜びの声を上げて、目の前にある散らばっている駒を取り始めた。

なんだかんだいいつつも、ゲームにはまっているように見えるのは気のせいだろうか?

は部屋の片隅に腰を下ろし、傍にあるオモチャをいじりながらその光景を眺めていた。

「ねぇ・・・玉鼎ってゲームとかする方?」

「いや、私はそう言った遊びはほとんどしない方だ」

「・・・ええ、そうでしょうね」

予想通りの返答に、オモチャをいじる手を止めずにあっさりと頷く。

そんな他愛もない話をしていると、四不象の傍にいた太公望が2人の傍に戻ってきた。

それを確認した玉鼎は先ほどの話の続きを聞こうと口を開きかけるが、しかしそれは太公望の目配せに制される。

この部屋は物で溢れかえっているが、それほど広い部屋ではない。

よほど小声でなければ、会話は筒抜けだろう。

それを改めて確認した玉鼎は、無言のまま視線だけで先ほどの話を促す。

すると太公望はゲームに熱中している2人に気づかれないよう声を潜めて、孫天君の外見はオモチャのような姿をしているだろうと告げた。

「・・・何故、分かる?」

「これまでの奴の行動や発言からの推測だ」

太公望の言い分は、簡単に言えばこういうことだ。

さっき玉鼎が部屋の全てのオモチャを壊そうとした時、孫天君は蝉玉を人質にとってまでそれを止めようとした。

『大切なコレクションを壊されたくなかったからなのでは?』という玉鼎の疑問に、太公望は確信をもって否定した。

コレクションを壊されたくないのなら、オモチャの姿で自爆はしないだろう。

では何故止めようとしたのか?―――それはオモチャを壊されては困るから。

考えられる原因として、先ず自分の身が危険だったからだということだ。

「では、やはり斬るか?」

「やめておけ。その前に蝉玉がやられる」

すぐさま剣を構える玉鼎を、太公望は静かに制止した。

「せめてどのオモチャが本体なのかわかればな。一瞬でそいつだけを斬れるのだが・・・」

「・・・大体の位置はわかっておる」

悔しそうに剣を下ろし呟く玉鼎に、あっさりとした返事を返す太公望。

それに対し、玉鼎は思わず大きな声を上げた。

それに一瞬ヒヤリとするも、どうやら幸いにも将棋くずしに熱中している孫天君には聞こえなかったようだ。

それを確認して、太公望は更に言葉を続けた。

「蝉玉がやられた時を思い出せ。カピバラはクイズの問題が見えぬ位置におったのに答えを言いおった。本体はあのステージの上のクイズ問題が見える場所におったのだ。まずヤツは上にいる」

太公望のその言葉に、玉鼎はふと天井を見上げた。

もちろん天井にもたくさんのオモチャが吊り下げられている。

その中から本体を見つけるのは難しいだろうと思われ、玉鼎は密かにため息を吐いた。

一方はと言えば、太公望の話を聞きながらも『最初は4本足で、成長すると2本足になり、最終的には3本足になる動物ってな〜に?』というクイズに対し、どうして蝉玉は『奈良漬』と答えたのだろうかと思考を巡らせていた。

その思考回路がかなりの興味を引く。

初めて会った時から面白い発想をする娘だなと思ってはいたが、予想だにしないその答えにある種の尊敬の念さえ覚えた。

まぁ今のこの時にそんなことはまったく関係がないのだが、一度疑問に思うとなかなか頭から離れないもので・・・。

「・・・、聞いておるのか?」

太公望に訝しげな視線を向けられ、とりあえずはその疑問を頭の外に追い払う事が出来た。

一応はちゃんと話を聞く体制を示したに少しばかりの不安を感じつつも、太公望は先ほどの話を続ける。

「え〜と、どこまで話したか?・・・・・・そう、ヤツは上にいる。しかもさっきの将棋の駒の取りやすい方を取らずに失敗した。上と言っても死角があるということだろう」

「・・・と言う事は、あの辺りのどれかなのか?」

玉鼎はステージの上の・・・そしてそこから将棋盤が見えるであろう位置に吊るされてあるオモチャに視線を向けた。

大体の位置はわかったものの、その場所にも数体のオモチャがあるので、どれが孫天君なのか見極められない。

太公望たちが真剣に孫天君の実体について話し合っている頃、四不象も将棋くずしに全力を注いでいた。

初めてやったゲームにも関わらず、なかなか順調な滑り出しが出来た四不象は、傍目に見てもかなり浮かれているようで。

一気に勝負に出ようと、駒がいくつも重なり合った塊に手を伸ばした。

それを取れればこのゲームに勝てると期待を抱いて、ゆっくりと駒に触れた指を動かす。

―――と、その時。

バチン!!

慎重にと力を入れすぎたのか、駒の塊は勢いよく跳ね飛ばされ、しかも運の悪い事に跳ね飛ばされた駒が中央にある駒の本体部分にぶち当たり、音を立てて崩れ去った。

「やったー!くずしてくれてありがと〜!!」

孫天君は喜びの声を上げ、崩れた駒を難なく取っていき。

「ひょひょいと、半分以上取った!ボクの勝ち〜!!」

高らかに宣言すると同時に、哀れ四不象はぬいぐるみと変わってしまった。

これで2人目〜、とクスクス楽しそうに笑う孫天君。

そして彼は座ったまま様子を窺うに視線を向けて、ニヤリと笑った。

「次はキミがボクと遊んでよ、

直々に指名を受けてしまったは面倒臭そうに表情を歪めると、ゆっくりと立ち上がって孫天君に少しだけ歩み寄った。

「あなたが私の相手をするなんて百年早いわ」

「なに言ってんの〜?この娘たちが自爆しちゃっても良いわけ?言っとくけど、君たちには選択権なんてないんだよ〜?」

その言葉には至極楽しそうに笑みを浮かべる。―――それと同時に、部屋の中に緩やかな風が吹いた。

「ずいぶんと大きな口を叩くのね?こっちも言わせてもらうけど、私がこの部屋を破壊するのにそれほど時間がかからないわよ?」

「も〜、だからそんなことしたらこの娘たちが・・・」

「自爆する・・・でしょう?それが私に対しての脅しになると本気で思ってるの??蝉玉たちの魂魄が飛ぶときは、貴方もご一緒させてあげるわよ・・・」

が浮かべた笑みに、部屋の中は氷付いた。

背筋を走る悪寒。―――彼女の身体から発せられる殺気にも似た気配は、それだけで相手を竦みあがらせることが出来た。

そんな重苦しい沈黙を破ったのは、他の人よりはその気配に慣れていた太公望だった。

「わしがやろう」

「・・・・・・太公望かい?」

「この手の勝負なら、わしも少々たしなんでおる。さ〜て、何して遊ぼうかのう」

名乗り出てそう呟く太公望に、孫天君はなんの反論もしなかった。

それを確認したはクルリと孫天君に背中を向け、先ほど自分が座っていた場所まで引き返した。

はその途中で、一部始終を黙って見ていた玉鼎とに悪戯っぽく笑みを向ける。

「・・・・・・まさか、演技か?」

「当たり前でしょ?いくら私だって、蝉玉たちを見捨てたりはしないわよ」

玉鼎に疑われていた事に、は少しだけ顔をしかめた。

太公望はもちろん、もおそらくは分かってくれていたというのに・・・。

それも付き合いの長さかと思い、上手く騙されてくれた玉鼎にしてやったりとウインクを1つしてみせた。

 

◆どうでもいい戯言◆

というわけで、第一回金鰲島潜入の回です。

そして変なところで切れててごめんなさい。

最初は本当は次にアップするものと1つだったんですが、あまりにも長すぎたので。

まぁ、結局は全部続いているのであまり気にならないといえばそうなのかもしれませんが。(開き直り)

作成日 2003.11.11

更新日 2008.5.2

 

 

戻る