楊ゼンを救い出すべく金鰲島に乗り込んだ太公望一行。

だというのにうっかりと孫天君の亜空間に嵌められ、気がつけば蝉玉と四不象の2人が人形に変えられてしまっていた。

そうして彼女たちを人質に取られ、放っていけるはずもない太公望たちは、否が応に戦いを強いられる。

そんな中、次なる勝負の相手に太公望自らが名乗り出た。

「この手の勝負なら、わしも少々たしなんでおる。さ〜て、何して遊ぼうかのう」

表情の読めない人形の姿をしている孫天君を前に、太公望はニヤリと口角を上げた。

 

背水の

 

「じゃ〜ね〜、『神経衰弱』しよ〜!」

「『神経衰弱』か・・・、よかろう」

孫天君が出した提案に、太公望は思いのほかあっさりと承諾した。

そんな2人のやり取りを見ていた玉鼎が、不思議そうに僅かに首を傾げる。

「・・・、『真剣水雀』とは何かの奥義なのか・・・?」

「・・・んな、ツッコミに困るような生真面目なボケかまさないでよ」

間違いなく本気で知らないであろう玉鼎に、は分かりやすく且つ簡単に『神経衰弱』のルールについて説明した。

真剣な面持ちでその説明を聞いている玉鼎を見て、崑崙の幹部である十二仙がこれで本当に大丈夫なのか?とは少々不安を覚えるが。

そうして簡単にではあるが説明を聞き終えた玉鼎が、今度は太公望へと視線を向ける。

「勝算はあるのか?負けたらお前までオモチャにされてしまうんだぞ?」

聞いた限りでは、ゲームではあるものの記憶力が試される類だ。―――太公望の記憶力を疑っているわけではないが、相手がどう出てくるのか解らない以上、油断は出来ない。

しかし当の太公望は、余裕ささえ感じさせるような笑みを浮かべて口を開いた。

「まぁ、任せておけ。なんとしても蝉玉とスープーを元に戻してやらんと・・・」

「がんばれ、太公望」

「そう思うのなら、少しくらい手助けをせんか・・・」

太公望は心配をする玉鼎に安心するようにと笑って見せてから、やる気の見えないに向かいそう呟いた。

3人が小声でどうでもいいようなことを話している間に、孫天君が部屋の隅からトランプを見つけて戻ってくる。

「トランプがあったよ〜、並べるね〜!!」

「待て、わしが並べる。イカサマをされてはかなわんからのう・・・」

「しないよ、そんなオモチャに失礼なことは!!」

文句を言う孫天君を無視して、太公望は奪い取ったトランプを念入りに繰った。

そしてどこから持ってきたのか、なんとも胡散臭い帽子を被る。

「マジシャン太公望のカードさばきをとくとごらんあれ」

そう言うや否や、懐から取り出した打神鞭でトランプを軽く叩いた。

その拍子に打神鞭から巻き起こった風がトランプを吹き上げ、部屋の中にヒラヒラと舞い上がる。

トランプは太公望が起こした風によって、床の上に見事に並べられた。

「すごいや、すごいや。太公望大尊敬!!」

その光景を眺めていた孫天君は、飛び跳ね賞賛の声を惜しみなく注ぎ大喜び。

「ふふふ、そうであろう?では、先攻・後攻をジャンケンで決めるぞ」

この様子を見ている限りでは、随分と和やかな雰囲気だ。

人形が喋ったり動いたりする様子は異質といえば異質だが、2人の楽しそうな雰囲気はただ遊びに興じているだけに見える。―――もっとも、この遊びはある意味命を賭けたものではあるのだけれど。

孫天君の賞賛を浴びてどこか得意気な太公望は、ジャンケンにも勝利し、見事先攻を手に入れた。

「ふふふ、わしからだのう・・・。こことここだっ!!」

先攻を手に入れた太公望が不敵に笑い、そして床に並べてあるトランプに打神鞭を勢い良く叩きつける。

すると叩かれたトランプは、打神鞭から起こった風によってひらりとめくられた。

そしてそのトランプの数は・・・2枚とも『5』の数字。

つまり太公望は同じ数字を引き当てたのだ。―――しかも1回で。

「・・・すごいな、どうやったのだ?」

さっき初めて『神経衰弱』の説明を聞いた玉鼎が、その確率の高さをどう思っているのかわからないが、それでも驚いたように声を上げる。

「ふふふ、ミスター太公望に不可能はない」

「・・・アホか」

得意気に言い放った太公望に、は呆れた表情を浮かべてツッコんだ。

初めから同じ数のトランプを引き当てる確率は、かなり低い。

偶然というのももちろんあるが、いやに自信がありそうにしている太公望に、おそらく偶然ではないだろうとに思わせる。

どうやったのだ?と不思議そうにしている玉鼎に、太公望は種明かした。

太公望の種明かしによると、トランプを並べる際に一度風によってトランプを上空に飛ばし、それが落ちる前に表の数字を全部見て配置を暗記したらしい。

「ははは、これはわしの優れた動体視力と暗記力があってのワザよ!!」

「・・・セコイイカサマだが、これはこれで凄いのかも・・・」

確かに・・・と、は心の中で玉鼎の意見に賛成した。

そして未だに高笑いを続ける太公望からトランプの前に佇む孫天君に視線を移し、さて彼はどう出るだろうか?と楽しそうに口角を上げた。

トランプの数字もその配置も完璧に覚えている太公望は、次々と同じカードを引き当てていく。―――このままで行けば彼の勝ちは間違いないのだが・・・。

何枚目までめくっただろうか?

今まで沈黙を守っていた孫天君が、楽しそうに『神経衰弱』を楽しむ太公望にポツリと言った。

「記憶なんてものは意外と曖昧且つ不確かなもので〜、人を裏切ることもあるんだよね〜」

その瞬間、孫天君の目が光ったような気がした。

「またまた〜、負け惜しみを。さぁて、先ずは一勝してスープーを元に・・・あれ?」

ご機嫌に『神経衰弱』を楽しんでいた太公望が、間の抜けた声を発した。

今まで順調に同じ数字を引き当てていた太公望が、初めて違うカードを引き当てたのだ。

「わーい、次はボクちゃんの番〜!!」

無邪気に飛び跳ね、外したことに驚いている太公望を無視して、孫天君は床に落ちているトランプを一枚めくった。

「え〜と、クラブの3・・・」

「うむ、確かにそこはクラブの3だのう・・・」

めくられたカードを何故か見つめる2人。

そして孫天君は何気ない様子で、近くにあったトランプを躊躇いもなくめくった。

そのトランプは、ハートの3。

は少しだけ眉をひそめた。

確かに『神経衰弱』は記憶力が頼りのゲームで、そのゲーム内容が進行すれば進行するほど同じ数のトランプを引き当てる確率は高くなっていく。

だから初めてトランプをめくる孫天君が同じ数のトランプを引き当てても、それ自体はそれほど不思議な事ではない。

しかしはしっかりと見ていた。―――孫天君がめくったトランプ、それはまだ一度もめくられた事がない。

思えば太公望はめくる数字めくる数字を引き当てていたのだから、結果的には最初の頃と同じようにどこにどんなカードがどこにあるのかは分からない筈だ。

孫天君はこちらの動揺など気にする様子もなく、次のトランプに手を伸ばした。

そしてそれも見事、同じ数字を引き当てる。

先ほどの太公望と同じように、一度も間違えることなく。

「おっ・・・おぬし、どうして・・・?」

「何を不思議がってんの〜?」

孫天君は場違いなほど明るい無邪気な声で、悪戯をした子供のように笑った。

「ここはボクちゃんの部屋だもん。思い通りになるに決まってんじゃん!『創造主に都合のいい空間』・・・それが十天君の十絶陣なのだからね〜」

そのセリフで、は大体のことを察した。

「へへ〜、こ〜んなこともできるよ〜?」

孫天君は勝ち誇ったように笑みを浮かべると、床に並んだトランプを一斉にめくった。

めくられたカードはすべて同じ数字・・・柄さえも同じだ。

普通トランプには同じ数字のカードが4枚あるが、同じ柄の同じ数字のカードなんて一枚もない。

つまりは・・・こういうことだ。

孫天君の宝貝・化血陣ではゲームに負けたものがオモチャ化する。―――しかしこの部屋の『主人』に負けはない。

空間の宝貝・十絶陣・・・『空間使い』、それこそが十天君の力なのだ。

太公望たちは、自分が絶対に勝てないゲームをさせられていたことに、今さらながらに気がついた。

孫天君が次々とトランプをめくっていくのを見て、太公望は背後に佇む玉鼎に・・・そしてに視線を向けた。

「後は頼んだぞ・・・」

その言葉が言い終わるか終わらないかの内に、孫天君は最後のトランプをめくり。

そしてゲームに負けた太公望は、軽い爆発音と共に白い煙に包まれた。

その時を見計らっては素早く立ち上がると、その煙に向かって何かを放り投げる。

「・・・何をしたのだっ!?」

戸惑った表情を浮かべた玉鼎の問いには答えず、その煙が晴れていくのを眺めながらは楽しそうに笑った。

煙がすっかり薄れ、そしてそこには太公望の人形が・・・・・・2体。

「・・・どういうことだ?」

それぞれ形は違うものの、そこにあるのはどちらも間違いなく太公望に似た人形。

「さ〜て、どっちが本物でしょうか?」

は明るくそう言うと、極上の笑顔を浮かべた。

 

 

は何が起こったのか理解できていない孫天君と玉鼎、そしてその状況を作り出したを見て、密かにため息をついた。

四不象や太公望が孫天君と勝負をしている間、ごそごそと何かをしているな・・・と思っていたが、まさか太公望の人形を作っていたとは・・・。

「私が作った方は、この部屋にあった人形に少しだけ手を加えたものよ」

短時間にしては上出来よね・・・と、は楽しげに笑う。

「・・・どっちが本物なの?」

「そんなの教えるわけないでしょ?」

孫天君の問いにあっさりとそう答えて、はゆっくりと部屋の中央へ歩み出た。

状況は以前芳しくないが、これでとりあえず太公望の命の危険の可能性が少しだけ減った。

万が一、孫天君が太公望の人形を操り自爆したとしても、その人形が本物の太公望である確率は二分の一。

上手く本物を見極められてしまえばそれまでだが、もしそれが偽物の方だったらその間に部屋の中を全部壊してしまえばいい。

そうすれば孫天君も無事では済まないだろうし、上手く封神できれば蝉玉や四不象も元に戻る事ができる。

しかしさっきも言ったが、この状況はあまり歓迎できたものではない。

孫天君がこのまま蝉玉の人形を操っている限り、状況に進展はないのだ。

そしてこの状況がこれ以上続けば、肝心の楊ゼン救出に踏み出せない。

『これからどうするつもりなんだ・・・?』

孫天君に聞こえないように小声で問い掛けると、は少しだけ微笑んだ。

「別にどうもしないわ。ただ待つだけよ」

『・・・・・・待つ?』

「そう。太公望が仕掛けた罠が発動するまで、ね」

太公望が仕掛けた罠?と心の中で反芻する。

一体いつの間に太公望は罠を仕掛けていたのだろうか?

はこの部屋で一部始終を見ていたが、彼がそんな動きをした様子はなかった。

「まぁ、とりあえずは時間稼ぎをしないとね。まだ時間がかかりそうだし・・・」

独り言のように小さく呟く

口ぶりからするに、その『罠』というものは、時限装置のようなものなのか?

「さてと、ゲームを続けましょうか?お望みどおり、今度は私が相手をしてあげるわよ?」

「なっ、何を言っている!この勝負に勝利など・・・」

の思わぬ発言に驚いたように声を上げた玉鼎を無言で制する。

「わざわざこの私が時間稼ぎをしてあげるって言ってるんだから、感謝してよね」

玉鼎の耳元でそう囁き、唖然としている玉鼎ににっこりと笑みを送った。

「なにコソコソ話してんのさ?」

「何でもないわよ〜?さ〜て、どんなゲームにしようかしら?」

不審気にこちらの様子を窺ってくる孫天君の視線を軽く流し、は部屋の中を物色し始めた。

「・・・そうそう、その前に聞いておきたいことがあるんだけど・・・」

思いついたように振り返り、手に持った人形を弄びながらが言った。

「さっき私をぜひオモチャにしたいって言ってたわよね?それって私を貴方のコレクションに加えるため?それとも・・・・・・私を連れて来いって誰かに頼まれた、とか?」

先ほどまで無駄とも思えるほど動き回っていた孫天君が、ピタリと止まった。

何も返事を返してこない事が、それが真実だと如実に語っているようで。

「誰に頼まれたのかしら?」

「・・・・・・」

「私の予想では、王天君辺りが怪しいんだけど・・・」

ピクリと孫天君が反応する。

それを確認して、しかし気に止めてないようで言葉を続ける。

「それとも・・・・・・大穴狙いで、聞仲とか?」

またもや孫天君がピクリと反応を示した。

その様子を見てクスクスと笑い声をこぼしたに、孫天君は少しだけ不機嫌そうに表情をゆがめた。

「・・・・・・両方だよ」

渋々といった風に答えた孫天君に、自分で質問しておきながらもは気のない返事を返した。

「・・・王天君・・・とは、十天君の1人か?」

「そうよ」

言葉を濁し尋ねにくそうにしながらも問いかけた玉鼎に、あっさりと返事を返す。

「・・・知っているのか?」

「少しはね。前に趙公明に十天君についての話を聞いたことがあったから」

その瞬間、その場にいた全ての人間が高笑いする趙公明の姿を思い浮かべただろうという事は簡単に想像できた。

孫天君に至っては、金鰲島内でも極秘扱いされている十天君の情報がそんなところから漏れているとは思いもしなかったようだ。

そんなに簡単に口を割るような(別に脅したわけではないだろうが)人物が幹部という位置にいたことに、玉鼎は他人事ながら思わず頭を押さえたが、気を取り直して未だオモチャを物色するに再び問いかけた。

「・・・・・・何故、王天君や聞仲がお前を連れてくるように言ったのか、心当たりは?」

「あると言えばあるし、ないと言えばないかな」

「・・・どう言う意味だ?」

至極曖昧な言い方をする

「聞仲はさ、昔からの・・・まぁ、友達だし。ほら、自分で言うのもなんだけど私って強いからさ。前々から手を貸してくれ・・・なんて言われた事もあったしね」

確かに言われていたな、とは心の中で思う。

が行くところには大抵同行していただから、彼が聞仲に会う機会もそれほどと変わらない。

その中で、会う度に本気か冗談かは分からないが(おそらく本気)殷に力を貸してくれと勧誘されていたのを思い出す。―――結局はいつものらりくらりと断ってはいたが。

「・・・王天君の方は・・・まぁ、心当たりって言ってもねぇ・・・」

『ない』と言い切らない辺りが怪しいと気付いたのは、この場ではだけだった。

は割りあい物事ははっきりと口にするタイプで、あまり嘘はつかない。

だからこそ言いづらいことがあれば、言葉を濁す。―――嘘をついた方が簡単だろうと思うが、何故かはその手段をあまり取らない。

それにはつい先ほど、に『王天君の動向を追え』という仕事を言いつけられていたこともあって、おそらくは知り合いなのだろうと確信していた。

しかしと出会ってかなり経つが、その間にが王天君に接触した事は一度もない。

長い間共に過ごしてきたでさえ、の素性は謎に包まれていると思う。

の過去について知っているものがいるとすれば、それはおそらく申公豹か元始天尊ぐらいだろう。

「さぁてと、それじゃそろそろ勝負をしましょうか?何にするか考えるのも面倒だし、将棋でもしましょうか。ちょうどそこに将棋盤出てるしね」

そう言って、一足先に将棋盤の前に陣取る。

それを見て、孫天君も特に反論するわけでもなく、将棋盤の前に座った。

部屋の中にパチリという駒を打つ音だけが響く。

誰も・・・孫天君も玉鼎もも、ですら無言で。

勝負も終盤に差し掛かった頃、ポツリと呟いたの声が不思議なほど部屋の中に響いた。

「王天君は・・・、私に会って何をするつもりだったのかしら?」

「さぁね。ボクちゃんはただキミを連れて来いって言われただけだし・・・」

そっけない返答だが、おそらくそれは真実なのだろう。

は何も言わずに、最後の駒を打った。

それと同時にの傍で軽い爆発音と煙が発生し・・・―――煙に包まれていくの横顔が、悲しそうに、辛そうに微笑んでいるのをは見た。

 

 

『おい、大丈夫か・・・?』

意識を取り戻したは、傍に佇むと少し離れた場所で同じく元の姿に戻った太公望たちに視線を向けて、ホッとしたようにかすかに微笑んだ。

どうやら玉鼎が無事に孫天君を封神してくれたらしい。

『まぁ、無事でよかったけどよ。上手く行かなかったらどうするつもりだったんだ?』

呆れたようにぼやくに、は軽く肩を竦める。

太公望が張った罠。―――彼がそれを仕掛けたのは、孫天君と勝負をする時。

相手がイカサマをしないように、という名目で太公望は孫天くんからトランプを奪い、それを打神鞭を使って床に並べた。

そのトランプを宙に舞わせた時、太公望は気付かれないように打神鞭で孫天君がいるだろうと思われる場所にあるオモチャ全てに微かな傷をつけたのだ。

もちろんオモチャに傷をつけても、それ自体はなんの変化もない。

しかし孫天君はオモチャなのではなく、オモチャのような外見をしているに過ぎないのだ。

それが生身の生きている人である以上、傷をつけられれば血が滲む。

後は待てばいいだけだ。―――太公望がつけた微かな傷から、血が滲んでくるのを。

あの後玉鼎はそれを見つけ出し、相手が抵抗する間もなく一瞬の内に切り裂いたのだとに説明を受けた。

「それにしても・・・」

今まで玉鼎と勝利を分かち合っていた太公望が、の方へと視線を向けて至極残念そうに呟いた。

「折角なのだから、わしものオモチャ姿を見てみたかったのう・・・」

「それは残念だったわね。・・・というかそれを見られないように、勝負をするのをあんたがオモチャに変えられた後にしたんだけどね」

は勝ち誇ったようにそう言って、床に落ちたままの人形を拾い上げた。

それは太公望の姿をした人形で・・・―――が即席で作り、太公望が人形にされた時に陽動の為に放り込んだものだ。

「・・・・・・なんだ、それは?」

「太公望人形よ」

「・・・そちらが偽物だったのか」

この人形については、玉鼎とだけしか知らない。

とりあえず簡単に説明をすると、太公望は感心したのか呆れたのか微妙な声を上げた。

「まぁ、太公望のことだからこんな可愛い姿のオモチャになるとは思ってなかったけどね」

手の中にある太公望人形を弄びながら、は軽く笑った。

「そんなことよりも、さっさとここを抜け出して楊ゼンを捜しに行きましょう?それが金鰲島に来た目的なんだし・・・」

の言葉にハッと本来の目的を思い出した太公望たちは、急ぎ四不象の背に乗って孫天君の亜空間・化血陣を抜け出した。

「ねぇ、楊ゼンはバリア装置の近くにいるんだったわよね?」

「うむ、そうだと思うが・・・。とにかく急がねば!」

化血陣を抜け出した後、蝉玉が勢い良く駆け出しそれを太公望が慌てて追っていくのをぼんやりと眺め、そして傍らに立つ玉鼎に視線を向けた。

その視線に気付いた玉鼎は、そのままを正面から見つめ返す。―――少しの間の後、は小さくため息を吐いた。

「さっきの・・・」

「・・・さっき?」

「さっき、孫天君と話していた・・・王天君と聞仲のことなんだけど・・・」

「・・・・・・」

「みんなには・・・、特に太公望には黙ってて欲しいの」

その言葉に、玉鼎はかすかに眉を寄せた。

そんな風に『黙ってて欲しい』というからには、聞仲だけでなく王天君とも何らかの関わりがあるのだろうか?と密かに思う。

その想いを知っているのかそうでないのか、は俯いたままポツリと呟く。

「今はまだ、言えない。いつかは話す時が来るだろうけど・・・今は言えないわ。だからその時まで・・・私が自分で話し出すまで待って欲しいの」

普段からは想像もつかないような真剣な表情で、しかしどこか追い詰められているような雰囲気で、は言った。

何か事情があるのだろうということは、玉鼎にも分かった。

その事情が、かなり複雑なのだという事も・・・。

そして玉鼎は、何があってもは太公望を裏切ったりなどしないということも分かっていた。

「ああ、分かった。お前が自分で話し出すまで黙っていよう」

だから玉鼎はこの結論を出したのだ。

「ありがとう、玉鼎・・・」

そう言って心の底からホッとしたように微笑むの笑顔を見て、玉鼎もやんわりと微笑んだ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

こんな微妙なものを2話に分けてアップって・・・!

そして山場もギャグもそして落ちさえもない、本当に微妙な話に仕上がったこの話ですが、最初はギャグてんこもりの予定でした。(爆)

しかし出来上がってみれば、こんな感じに・・・・・・何故でしょう?(聞くな)

次こそは楽しい話にしたいなと思いつつ、内容がシリアス編に突入してるからなぁと言い訳しながら、次は何とか頑張りたいと思います。

作成日 2003.11.11

更新日 2008.5.30

 

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