殷の中心部、朝歌・禁城の上空に2つの影があった。

「ここに来るのも久しぶりだな〜」

「そうですか?私は結構頻繁に来ていますが・・・」

『そりゃあ、申公豹はそうだけど・・・』

『お前の場合は、いつもいつも昼寝ばっかりしてるからだよ、

「いやぁ、それほどでも・・・」

『誉めてねぇ・・・』

なにやら無駄な言い争いを繰り広げる2人と2匹。

それを眺めていた1人の女性は、小さく笑みを浮かべていた。

 

豪華絢爛・の会合

 

「・・・何をしに来た、お前ら」

禁城内を飛び回り、ようやく目的の部屋を見つけ中を覗き見た瞬間、部屋の主からそう声を掛けられと申公豹は顔を見合わせた。

「おや、バレていましたか」

「隠れてたわけじゃないんだけど・・・」

「何をしに来た・・・と聞いているんだが?」

この部屋の主は、相変わらずのようだ―――どんなに長く生きたとしても、基本的な性格はそれほど変わるものではないらしい。

「そんなにぴりぴりしないでよ、聞仲。久しぶりに会ったんだからさ・・・」

が幾分声を和らげて話し掛けると、聞仲は諦めたのか、持っていた筆を置いて2人に視線を向けた。

「久しぶりだな、。お前は昔も今も全然変わらないんだな・・・」

「聞仲もね。ってこれだけ長く生きてると、よっぽどのことが無い限りそうそう劇的な変化なんて無いだろうけど・・・」

「確かにな・・・」

「まぁ、私以上に昔から全然変わらない人もいるけどね・・・」

そう言って、は自分の隣で2人の会話を聞いているピエロの姿をした青年へと目を向け小さく笑った。

「おや?それは私のことですか??」

「それでお前たちは一体何をしに来たんだ?」

申公豹の言葉をあっさり無視した聞仲は、さっきから何度も繰り返している質問を再びに投げかけた。

するとは悪戯っぽく笑う。

「聞仲とお茶しようと思って・・・」

「・・・それだけか?」

「そう、それだけ」

「・・・・・・それだけの為に、禁城まで来たというのか?」

「そう、それだけの為に禁城に来たの」

きっぱりあっさり言い切るに、思わず脱力した聞仲だったが、すぐに気を取り直してきっぱりと告げた。

「私は忙しい」

「お茶くらいいいじゃない。たまには休息も必要よ?」

押し切って、部屋の中から廊下にいるであろう女中に向かって、お茶の用意をしてくれるように頼む。

「おい、勝手に!!」

「まぁまぁ、そんな堅い事言わずに・・・」

止めようと聞仲が立ち上がると、いつの間に部屋の中に入り込んでいたのか、申公豹がその行動を邪魔した。

するとそれを合図にしたかのようにすごい勢いで部屋のドアが開き、

「はぁ〜い、お待たせぇん。お茶の用意よ〜ん」

フリフリレースのついたメイド服を来た妲己が、お茶セットの載ったカートを手に乱入してきた。

「妲己!!」

「ああ、妲己。久しぶり〜」

「お久しぶりねん、ちゃん。相変わらず可愛らしいんだからん!!」

「妲己!!何故お前が私の部屋に入ってくるのだ!!」

「よかったですねぇ、妲己。念願のと再会できて・・・」

「あれ?そんなに私に会いたかったの?」

「そうですよ。はめったに崑崙山から降りてこないから会えないって、よく嘆いていましたから・・・」

「もう、申公豹ちゃんったら!恥ずかしいじゃない!!」

「私の話を聞け!!」

部屋の中は、かつて無い混乱に見舞われた。

仙人・道士の中でも最強の位置にいる申公豹・妲己・聞仲と、どこか普通でない謎な部分を持つ

それが今、一同に解してなにやら訳のわからない言い争い(?)を繰り広げている。

と黒点虎は他人事のようにその光景を眺めて、人知れずため息をついた。

 

 

あれから30分後、勢いに乗った再会を済ませ、渋る聞仲を何とか説得しお茶会をする事になった4人は、仲良く(1名は不機嫌そう)テーブルを囲んでいた。

「何かあれよね〜。大変なことになってるよね、今・・・」

呑気にお茶をすすりながら、明らかにのんびりとした口調で呟く

「武成王造反ですからね〜」

「その名前を口にするな・・・」

の言葉を引きついた申公豹に、聞仲は冷たい視線を向けてきっぱりと言った。

「何を今さら。口にしても口にしなくても事実は変わりませんよ?」

その言葉を無視して、聞仲もお茶を一口飲んだ。

「それよりも、ちゃんはどうしていきなり聞仲ちゃんとお茶をしようと思ったのん?」

ぴりぴりとした空気を醸し出す申公豹と聞仲をあっさりと無視して、妲己は何もなかったかのように平然とお茶を飲んでいるに問いかけた。

「何でって・・・。実は私、太公望の補佐をするように言われてね?」

「え〜、太公望ちゃんの補佐ぁ?・・・ってことは、わらわとちゃんは敵同士になっちゃうってことぉ〜ん??」

「そういう事になるわね」

あっさりと返し、お茶菓子をつまむ

「まぁ、私としては申公豹的位置が理想だから、深くは関わらないつもりだけど」

「・・・私的位置って何ですか?」

「片方に片足突っ込みつつも、傍観者決め込んでる所?まぁ申公豹は妲己側に片足突っ込んでるわけだから、私は太公望側に片足突っ込もうかなと思ってる次第・・・」

なるほど―――と、申公豹は納得したのか頷く。

酷いようだが、にとっては人間界がどうなろうと知った事じゃない。

それどころか、崑崙山も金鰲島も仙人も道士も妖怪仙人もどうでもいい。

それを知っている申公豹は、は『彼』に良く似ているとそう思った。

「でもまぁ、一応太公望側につくんだから、そうそう気安くお茶なんか飲みに来れないかな?とちょっと思ったから、本格的に足つっこむ前にお茶飲みに来たってわけ」

はそう話を締めくくった。

「え〜、そんなこと言わないで、わらわに力を貸してよ〜ん!」

「何を言っている。お前などに力を貸させる訳がないだろう?それよりも、私の元へ来い。お前が力を貸してくれれば、この女狐をすぐにでも追い出せる」

「だ〜め。んなことしたら均衡が今以上に崩れちゃうでしょう?それにやっぱり太公望はあたしの可愛い弟弟子だからね。ほっとけないわよ」

それにそんなことしたら、妲己・聞仲側の方が断然強くなって面白くなくなっちゃうでしょ?―――と心の中で呟く。

面倒くさがっていても、結局は面白い事がそれなりに好きなのだ。

退屈するよりは、全然いい。

そんなの思考を全て承知しているのは、この場では一番付き合いの長い申公豹だけだ。

短いような長いような、不思議な時間はあっという間に終わりを告げ。

「またね〜」

そう挨拶をして、と申公豹は禁城の聞仲の部屋から飛び立った。

『また』こうして4人でお茶を飲む事はあるのだろうか?―――という考えは、頭の隅に追いやって。

「さぁてと、これからどうするの?」

上空を並んで飛んでいる申公豹に向かいそう尋ねると、

「私はちょっと西岐の辺りまで行ってみます。あちらの方で面白そうな事がありそうなので・・・」

それは間違いなく太公望がらみだろう。

申公豹が太公望を(一方的に)ライバルだと決定したのはも承知している。

「そう?まぁ大丈夫だとは思うけど、気をつけて」

「貴方はこれからどうするんですか?」

「私はもうちょっとぶらぶらするよ。その内太公望と合流する予定」

予定は未定、と心の中でごまかしつつはにっこりと笑った。

「そうですか。それでは・・・また」

申公豹のその言葉を合図に、2人は正反対の方向へと進んだ。

特にそっちに用事があったわけではなかったが、とりあえず別れを口にしたのだから同じ方向に行くのはどうかと思ったからだ。

「・・・!」

不意に大声で声を掛けられそちらを振り返ると、先ほどとほとんど変わらない位置でこちらを見ている申公豹と目が合った。

「・・・どうしたの?」

「貴方はきっと『歴史の道標』さえも、興味の範疇外なんでしょうね・・・」

突然の質問に、思わず首を傾げた。

いきなり何を聞いてくるのだろうか?

そしてそんなことを聞いてどうしようというのだろう??

疑問はいくつもあったが、とりあえずは肯定とも否定とも取れる、思わず見惚れてしまいそうなほど綺麗な笑みを浮かべた。

申公豹はどっちの意味に取るだろうか?と思ったが、しかし彼は何も言わずにそのまま西岐の方角へと飛んでいってしまった。

「・・・聞き逃げか」

思わずそう呟く。

『なぁ、。<歴史の道標>ってなんだ?』

まるで謎掛けのような申公豹の言葉の意味を疑問に思ったのか、が不思議そうに尋ねてくる。

はため息を1つついて、そして何もない宙を眺める。

「難しい質問だねぇ・・・。まぁ、その内話してあげるわ・・・」

『・・・・・・?』

はそれ以上、聞いてこなかった。

柔らかい風がの頬を撫でるように、やんわりと吹き抜けていく。

「本当に・・・ややこしいことになったものね」

これから起こる出来事を想像しているのか、ポツリと呟くともう一度大きくため息を吐いた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

聞仲がとても偽物チック(爆)

申公豹のいう、『彼』とは誰なのか?

何となく展開が読めてきてる人がいそうで、何となく怖い。

今度は再び太公望に出演していただく予定です。

なんて言ったって、これは太公望よりの逆ハー(の予定)ですからね(笑)

更新日 2007.9.13

 

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