太公望たちが、四聖との戦闘中に現れた聞仲にコテンパンにやられてから3日後。

プライドが痛く傷つけられた楊ゼンは、再び修行を積むために崑崙山へと向かっていた。

その途中―――。

「あれ?あれって、もしかして・・・」

いつもと変わらず、霊獣・の背で昼寝をするを発見した楊ゼンは、慌てて近くに寄り声をかけた。

自分よりも遥か前に太公望の元へと向かった彼女が、どうして未だにこんな所でのんびりと昼寝をしているのだろうという疑問が、めまぐるしく頭の中を通り過ぎる。

さん!こんな所でどうしたんですか?太公望師叔の応援の為に崑崙山を出たハズなのに、どうしてまだこんなところにいるんです??」

もしもっと早くが合流していれば、聞仲が来た時にもっと何とかなっていたかもしれないのに、という思いも湧いてくる。

「ん〜?今向かってるところよ・・・」

楊ゼンの胸中を知ってか知らずか(絶対前者だと楊ゼンは思った)相変わらずのんびりとした口調でそう告げる

には何を言っても軽く流されるだけだと分かっている楊ゼンは、

「師叔、今意識不明状態なんですから、できるだけ早く行ってあげてくださいね?」

と念を押して、再び崑崙山へと進路を向けた。

 

は彼女と共に

 

「・・・・・・誰さ?」

天化は上空に浮かぶ大きな影を見上げ、呆然と呟いた。

それほど高い位置にいないそれは、おそらく霊獣だろう。

その霊獣はゆっくりと降下し、やがて天化の目の前に着地した。

霊獣の上には気持ち良さ気に眠る、一人の美少女。

「え〜っと・・・」

何気に霊獣に視線を向けてみるが、何かを喋る気配はない。

この状況をどうしたものか・・・と考え込んでいると、何の前触れもなしにその少女がぱちりと目を開けて起き上がり大きく伸びとあくびをした。

「・・・・君だれ?」

「俺っちは天化。あんたこそ誰さ?」

「私は。この子は。すごく怪し気に見えるかもしれないけど、実は怪しくない?」

「いや、俺っちに聞かれても・・・」

話が噛み合っているようで、何となく噛み合っていないような気がするのは気のせいか?

「私は一応、元始天尊の2番弟子って事になってるの。だから多分怪しくないわ」

多分ってなんだ、多分って―――とつっこみたくなったが、それだと話が先に進まない気がしてならなかった天化は、軽く流す事にした。

「・・・って元始天尊様の弟子?もしかしてあーた、っていう名前さ?」

「さっきそう言ったじゃない」

確かに・・・と思い返して、天化はにへらと笑みを浮かべた。

元始天尊の2番弟子・の名前は、崑崙山においてそれなりに有名だ。

崑崙山を統べる元始天尊の弟子だという事もそうだが、かなりの古株だという事も理由の一つだろう―――竜吉公主に負けるとも劣らないとされるその容姿も要因の一つだ。

しかし天化が興味を引かれたに対する噂は、そのどれでもない。

自分の師匠・道徳真君から聞いた真実とも噂とも判断のつかない話。

『崑崙山で一番強いのは誰か?』天化は以前、道徳にそう質問をした事がある。

その時に道徳はこう答えたのだ。

『この崑崙山で一番強いのは・・・多分、じゃないかな?』と。

はっきりいって驚いた。

天化は、元始天尊という名前が返って来るのではないかと思っていたからだ。

それからというもの、彼の中に『一度でいいから戦ってみたい』という思いがあった。

会いに行けばよかったのだが、は誰にも自分の居場所を明かさなかったらしく、知っている人間は限られていたし、その限られた人間も何故か教えてくれなかったのだ。

そんなずっと会いたいと思っていた人物が、今目の前にいるのだ。

「ちょうどいいさ。スース、俺っちと手合わせするさ!!」

「却下・・・」

「何でさ!!」

「面倒くさい」

簡単な言葉で、しかしきっぱりと断るを睨みつける。

しかし当のはどこ吹く風で、緩慢な動作でから降りた。

「そんなことよりも、太公望はどこ?案内してくれると助かるんだけど・・・」

「・・・案内したら、手合わせしてくれるさ?」

「やっぱりいいわ、自分で捜すから・・・」

ひらひらと手を振って当てもなく歩いていくを慌てて呼び止めて。

天化は1つ大きくため息をついた。

どうやら何を言っても、手合わせはしてくれそうにない。

潔く諦めるさ、今は―――と心の中で呟いて、少し離れたところでこちらを見ているに向かい笑いかけた。

「スースはこっちの建物にいるさ・・・」

 

 

「あれ?その人誰ですか、天化さん!?」

四不象と一緒に屋根の上で話をしていた武吉は、天化の隣に立っている見知らぬ少女に目をやってからそう声をかけた。

「おお、武吉っちゃん。この人はスースの姉弟子でスースさ」

「天化くん、『スース』はやめてよ。呼び捨てにしてくれていいから」

「んじゃ、俺っちのことも天化でいいさ」

屋根の上から勢いよく飛び降りてくる武吉を無視して、と天化はのんびりと言い合う。

「へ〜、師匠のお姉さんなんですか?はじめまして、武吉です!!」

お姉さんじゃないし・・・、っていうか師匠って・・・??

というつっこみと疑問がひしひしと湧きあがってきたが、このかなり素直そうで純真そうな武吉を相手に説明をしだすと長くなりそうだと判断したは、そのまま流すことに決めた。

「それよりも、スースが目ェ覚ましそうだぜ?」

天化がそう告げると、目を輝かせた武吉と四不象がすごい勢いで太公望がいるであろう部屋へ向かい走り出した。

「あいつらの後に着いて行けば、スースの部屋まで簡単にいけるさ」

「そうみたいね・・・」

は傍らに佇んでいるに待っているように言って、先を歩いていく武吉たちの後を慌てて追った―――と、その前に。

「ありがとう、天化」

「いやいや、その内手合わせしてくれればそれでいいさ」

「まだ言ってるし・・・。まぁ、そのうちにね(気が向いたら)」

呆れたように笑い、そのまま踵を返して武吉たちの後を追った。

「・・・すごい可愛い人さ。噂は嘘じゃなかったんだな・・・」

の浮かべた笑顔に見惚れて呆然と立ち尽くす天化に目をやって、はバレないようにひっそりとため息をついた。

こういう反応を返す人間を、は数え切れないほどたくさん見てきた。

確かには可愛い。美人と言ってもいいだろう―――外見は。

しかし中身は面倒くさがりで(いろんな意味で)冷たくて、マイペースで・・・。

の中身を熟知していて、それでも彼女に思いを寄せている人間は、おそらく太公望と申公豹くらいだろう。

それほどは外面が良かった。

天化が早くの本性(?)に気付く事をかすかに祈りつつ、は自分の昼寝ポイントを探すべく身を起こした。

一方は、喜びを抑えきれない様子で前を歩く武吉と四不象を追っていた。

さすが西岐、しかも姫昌の住む城というべきか―――かなり広い。

散々歩いてようやく太公望の部屋についた頃には、はウンザリとした様子をしていた。

そのまま部屋の片隅に置いてある椅子に腰を下ろし、太公望に目をやる。

最近ちょっと運動不足だなとかどうでもいいようなことをしばらくの間考えていると、小さなうめき声を上げて太公望が目を覚ました。

武吉と四不象が目覚めたばかりの太公望に勢い良く抱きつく。

けが人に対して容赦がないな・・・などと思っていると、嬉しさを隠し切れない様子の武吉が人を呼んでくると部屋を飛び出していった。

部屋には目覚めたばかりの太公望と、その間の事情を説明する四不象。

そして気配を消してその光景を静かに見守る

3日前の四聖と太公望たちの戦い、そしてその後の聞仲との戦いを、の千里眼でちゃんと見ていた。

はっきり言ってしまえば、今太公望たちが生きている事自体が不思議で仕方がない。

聞仲との実力差ははっきりとしており、もし聞仲が変な義理立てをしなければ、確実に敵は1人減っただろう―――まぁとしても、聞仲がそうするであろうと思ったからこそ、慌てて駆けつけたりしなかったのだが。

そもそも昔妲己を取り逃がしたせいで今大変な思いをしているという事に、彼は気付いているのだろうか?

本当に不器用な男だ―――とはしみじみと思った。

説明が終わりようやくの存在を思い出した四不象が、部屋の隅で静かに座っているに視線を向けると、太公望は言葉もないのか眼を見開いたまま硬直した。

はゆっくりと立ち上がりベットに歩み寄ると、そんな太公望に優雅な笑みを向けた。

「ご主人。この人がご主人の姉弟子のさんなんすね?」

「私のことを知ってるの?」

「はいっす。前にご主人が少しだけ話してくれたことがあったっすよ!」

「へぇ、それは・・・」

未だに固まったままの太公望に視線をやって、

「ぜひ、どんな話だったか聞きたいわ・・・」

いつも以上に可愛らしい、余所行きの声でそう告げた。

しかし太公望は気付いていた―――長い付き合いなのだ、気付かないわけがない。

笑顔のハズのの、しかし目が笑っていない事に。

「な、ななななな、何でお前がここに・・・?」

「ねぇ、太公望?」

「・・・ハイ」

「貴方、崑崙山を出るときにあたしに言った言葉、覚えてるかしら?」

傍目から見ていればすごく穏やかな光景のはずなのに、この部屋の雰囲気は何故か重い。

それに何故太公望がこんなにも怯えた様子なのか?

四不象は小さく首を傾げ、しかし黙って事の成り行きを見守る事にした。

何となく口を挟んではいけない空気が、ここにはある。

「・・・わしが言った言葉?」

「そう。貴方はこう言ったでしょ?『別れじゃなくて、ちょっと留守にするだけだ』って」

確かに言った。

「なのにあのざまは何かしら?うっかり永遠の別れになりそうだったけど?」

これに反応したのは、黙って事の成り行きを窺っていた四不象。

「でもご主人はみんなを守るために!!」

「ちょっと黙ってなさい」

しかし絶対零度の笑みを向けられ、あっさりと口をつぐんだ。

「出来ない約束はするなって、言い聞かせてあったでしょ?」

元始天尊を師匠に持つ2人。

しかしその師匠は常に忙しく、他の道士と同じように師匠に稽古をつけてもらうことなどめったにない。

実際、太公望を鍛えたのはである。

崑崙山に来たばかりの太公望の世話を命じられ、が彼を鍛えた。

その時に言い聞かせておいた事の1つが、『出来ない約束はするな』なのである。

「・・・わかっておるよ。約束を破るつもりはない。だが・・・」

「そう、それは良かった!」

太公望がため息と共に搾り出した言葉を、はあっさりと打ち切った。

「・・・は?」

「そうよね。約束は破っちゃいけないわよね。それなら太公望は絶対に封神されないようにする義務があるってことよね?」

「・・・う、うむ」

心なしか、冷や汗を流しながら返事を返す太公望。

「それじゃあ、さっそくこのメニューからやってもらいましょう」

そう言って差し出された一枚の紙。

そしてそこにかかれてある、昔やった修行よりも3倍はキツイであろう修行メニュー。

「・・・

「やるわよね?」

「・・・・・・・・・モチロン(汗)」

その日から、軍師の仕事に翻弄されつつもの用意した修行メニューを必死にこなす太公望の姿がみられるようになった。

 

 

本人にも、あの時太公望がどれだけ懸命だったのか分かっている。

仲間を守ろうと必死で―――自分が傷つくのも構わずに。

しかしそれではダメなのだ。

本人にも絶対に死ねないと強く思ってもらわなければ、この戦いを勝ち抜くことなどできはしない。

何よりも死んで欲しくない。

何にも執着を持たないと言われているが、唯一執着するもの―――それは太公望の『生』そのもの。

「責任持って、がんばって強くなってもらわないとね?」

私にこんな思いを抱かせたんだから・・・と1人ごち、必死で修行をする太公望へ笑みを向けた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ドリーム?最後だけ・・・ちょっと・・・(言い訳)

どうにも甘くならない。

そして太公望が被害者に・・・。ちょっとしか出てきてないのに(笑)

うちの太公望は、主人公に対してかなり弱いです。

っていうか、主人公が黒く最強っぽい方向で・・・。

何気にどこかの女将さんと被ってたり?(笑)

そして意味なく楊ゼンと天化が出てくるのは何故?

更新日 2007.9.13

 

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