騒乱真っ只中の時代であるはずの西岐。

しかしそんな中でも、穏やかな時間がないわけではなく。

その日も天化はいつも通り鍛錬を終え、手持ち無沙汰にうろうろと歩き回っていた。

「・・・あれって、もしかして?」

広い屋根の上にポツリとある人影―――その傍らには人影の3倍は大きい黒い霊獣の姿。

天化はそれがすぐに誰か思い当たり、にんまりと笑うとその人物の元へと駆け出した。

まだ西岐に着てからそれほどたってはいないというのに、その存在感故かほとんど知らない人間はいないのではないかと思うほど有名になった少女。

「やっぱりだったさ!」

屋根によじ登り何とか顔だけ覗かせた天化は、怪訝そうな表情を浮かべながらも閉じていた目を開いた少女に向かい、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

最強ナンパ師撲作戦

 

「はぁ〜、さすが西岐。すごい賑わいよう・・・」

市場を歩くは、感心したように辺りを見回しながらそう呟いた。

天化とは今、西岐の街に繰り出している。

それというのも天化が昼寝中のを見つけ、ほとんど強引に街へと連れ出したのだ。

「いつも昼寝ばっかしてて飽きないさ?」

と、問いかける天化に対し。

「全然」

は気持ちいいくらいにきっぱりと言い切り、再び昼寝へ戻ろうとする。

しかしそれくらいでめげる天化でもなく、更に笑顔を輝かせて身を乗り出した。

「たまにはどっか遊びに行くさ。俺っちまだ街に出たことないし、せっかくだから一緒に行こうぜ?きっと楽しいさ!!」

「・・・面倒くさ「さぁ、行くさ!!」

渋るを軽く流し、強引に彼女の手を引いて。

こうして天化はを連れ出す事に成功したのだ。

最初は呆れたような表情を浮かべていただったが、街に出てからは至って機嫌よさそうに鼻歌なんか歌っていたりする。

そんなを見て、天化も楽しそうに顔を緩めた。

この間会った時から、ずっと気になっていた少女。

おそらくかなり強い力を持っていて、しかしその力を使おうとしない。

何にも興味がなさそうに見えるのに、それでも人と関わるのをそれほど嫌がっている風でもない。

外見に相応しない大人びた表情と(仙人・道士は年を取らないから実際はかなり年上なのだろうが)時折見せる子供っぽい表情。

そのアンバランスさが、の容貌と相まって天化の好奇心を煽ってくる。

できればもう少し親しくなりたい―――そう思っていた天化にとって、今回と出かけられるのは少し・・・いや、かなり嬉しかった。

(いつもはスースが傍にいて、ろくに話し掛けられねぇし・・・ちょうどいい機会さ)

そんなことを考えながらもぶらぶらと街を歩き、手ごろな店を発見した2人は、ちょうど良いとばかりにそこでお茶する事にした。

店の中はシンプルな作りで、何となく落ち着く雰囲気がある。

店の主人に勧められるままに席について、何を頼もうかとメニューに手を伸ばしたその時。

「おっじょおさん、1人?」

に満面の笑みを浮かべた青年が声をかけ、返事も待たないうちに隣の席に座り込んだ。

「あんた誰さ?っていうか、明らかに1人じゃないさ!!」

「ねぇ、お嬢さん〜、お名前は?」

「・・・聞いてないさ」

目の前にいる天化がまるで見えていないような―――もしかしたら本当に見えていないのかもしれないが、あっさりと無視してメニューを眺めるに話し掛けた。

「ねぇ〜、名前は??」

青年が再度声をかけると、はメニューをパタリと閉じ、にっこりと笑顔を浮かべる。

「邪魔」

「そんな事言わないで〜、ちょっとお話しようよ〜」

「・・・これからも楽しい人生を送りたいなら、さっさと去りなさい」

「俺は君と楽しい人生を送りたいんだけど〜」

ああいえばこういう、という言葉がぴったりと当てはまるような青年の言動に、はよりいっそう笑みを深くした。

ヤバイ。

なんとなく危険を察した天化は、心持ち椅子を後ろに引いて距離を取った。

それと同時には青年の顔を鷲づかみにし、ぎりぎりとこめかみを押す。

「イタ、痛い痛いって!ギブ、ギブ!!」

「ふふ、楽しいわ〜(棒読み)」

「イタタタタ、た、楽しい??んじゃ俺も楽しいかも〜、イタタ・・・」

本当にそれで楽しいのか?と天化は心の中で突っ込んだ。

の方は・・・これと言って楽しそうには見えない。

しかし青年の方は・・・痛そうに顔をしかめつつも、それなりに楽しそうだ。

(この男、危ないさっ!!)

、とにかく店を出るさ!!」

天化はまだ青年の顔を掴んだままのの手を引いて、勢い良く店を飛び出した。

「待ってよぉ〜、プリンちゃぁん!!」

「プリンちゃんって何さ!?」

「ああ、あそこのお茶・・・美味しそうだったのに・・・」

それぞれの思いを抱き、3人は街の中を爆走する。

 

 

街の中を縦横無尽に逃げ回っていた天化と手を引っ張られていたは、前方に見知った影を見つけた。

「あれって、スースさ!?」

「ほんとだ、何やってるんだろうね・・・?」

太公望は爆走してくる天化たちに気づく様子なく、俯きながら何かをぶつぶつ呟いている。

その姿はある意味、変な人のようで恐ろしい。

「天化、ちょっと手離して」

あれだけ走っていたにも関わらず少しも息を乱していないは、ピタリと足を止めて追いかけてくる青年に向かいにっこりと微笑みかけた。

「やっと俺の気持ちに気付いてくれたんだね〜!!」

感極まってそのまま抱きついてくる勢いの青年から少し身を引いて、ちょうどいいタイミングで青年の足元に自分の足を差し出した。

「どわっ!!」

上手い具合にの足に引っかかった青年は、そのままぶつぶつと呟き続ける太公望へ。

「ごわぁ!!」

「ぐふぅ!!」

それは見事に激突し、2人は縺れ合いながら盛大に地面へとダイブした。

「ふぅ、これでしつこいナンパ師は片付いたか」

「一緒にスースもやられたさ・・・」

手の甲で額の汗を拭き取る真似をして爽やかな笑顔を浮かべるに、脱力し呆れたように天化は呟く。

しかしは平然とした面持ちで今もまだ地面に転がる2人を見、そうしてニヤリと口角を上げてそれはそれは綺麗に微笑んだ。

「何言ってんの?それも狙いの1つなんだから、結果はバッチリOKよ」

狙ってたのか!?と、口に出すのが怖いのでやっぱり心の中だけで突っ込み、しかし太公望に見つかったらと街を散策するのに邪魔が入ると思い直した天化は、さっさとこの場を離れようと決心した。

、とりあえずさっきの茶店に戻るさ」

「そうね〜、結局お茶まだしてなかったし・・・」

「・・・おぬしらなぁ!!」

未だに倒れたままの太公望をあっさりと見捨てて行こうとするに、太公望は思わず自分の上に乗っていた青年を跳ね飛ばし起き上がった。

「あら、太公望?偶然ねぇ〜、いつからそこにいたの?」

「さも今気づいたような言い方をしても無駄だ。おぬし気付いておっただろう!!」

「当たり前じゃない」

サラリと流す

その返答を聞き、思いっきり脱力した太公望。

曖昧な笑みを浮かべるしかない天化。

そして倒れたまま「幸せ〜」とどこか逝った様子の、謎の青年。

その場にしらけたような、緊迫したような、何とも言えない間が生まれた。

 

 

「へ〜、姫昌の次男を捜してね・・・?」

とりあえず済し崩しに先ほどの事はなかった事にして、お互いが何故ここにいるかを報告し合う太公望たち。

「・・・おぬしら、わしが苦労しておるというのに遊び歩くとは・・・」

「何言ってんの。昔からそういう役回りだったでしょ?」

恨めしそうな視線の太公望をチラリと見て、は爽やかに言い切った。

そう、元始天尊からのお呼びがあれば太公望を囮にし、は名の通った道士なので挑戦者が来ることが多い為、誰か挑戦者が現れれば太公望を生贄にし逃げる。

「い・・・嫌な思い出が・・・」

「そうやって太公望を鍛えてたのよ、私は」

「・・・スース」

過去の嫌な記憶を抹消しようと唸る太公望に、天化は哀れみの視線を送った。

しかしは一向に気にした様子もなく、ゆっくりと辺りを見回して。

「さぁて、姫発はどこかなぁ〜?」

意味ありげに呟きながら辺りを見回していたは、ふと未だに倒れている先ほどのナンパ青年に目をやり、何かを企むようにニヤリと笑った。

ゆっくりとした動作で青年に近づき、青年の服の襟を掴み顔を上げさせ、太公望たちには聞こえないように囁く。

「君、お名前は〜?」

ピクリと青年の体が硬直したのを確認して、太公望が持っていた似顔絵を青年と見比べる。

「・・・似てないわね」

「お嬢さん、もしかして俺が誰だか知ってたり〜?」

「ん〜、どう思う?」

くしゃりと似顔絵を握り潰して、素敵な笑顔で微笑みかけた。

ここまで言われて、ただのカマかけ・・・なんて考えができる筈もなく。

青年は「ハハハ・・・」と誤魔化すように曖昧に笑みを浮かべる。

としては面白いオモチャが出来たと内心思いながら、さてどうやって遊んでやろうか・・・と未だに打ちひしがれている太公望と、この状況をどうすれば丸く収まるかを必死で考えている天化へ視線を向けた。

その時、遥か彼方からすごい土煙と轟音が聞こえ、それが何かと思案する前に聞き覚えのある声が辺りに響いた。

「お師匠さま〜!!」

やってくるのは自称太公望の弟子・武吉と霊獣四不象。

「姫発様を捜してるんでしょ?手伝います!僕近くで見たから顔知って・・・」

急停車した武吉の目が、の横にいる青年へと移り・・・。

徐々に驚きに染まっていく武吉の表情を眺めながら、出来れば何も言わずにこの場を去ってくれないかと心の片隅でそんな事を考える。

しかし心の中で祈るの声はもちろん届くはずもなく。

「姫発様!!?」

武吉のでかい声が、街中に響いた。

 

 

「あ〜あ、せっかく面白いことになりそうだったのに・・・」

「おぬし、知っておるのなら何でもっと早くに言わん!」

「面白そうだから」

最近返ってくる言葉はこんなのばっかだ・・・と、太公望は諦めのため息を吐いた。

「私もね、気付いたのは武吉くんが来るちょっと前だったのよ。まさかしつこくて危なそうな変態ナンパ師が姫昌の次男だとは思わないしね」

それよりも・・・と前置きをして。

太公望としては、何故が姫発を知っていたのか―――それが知りたかった。

しかしそれを素直に教えてくれるような人物ではない事を、太公望は誰よりもよく承知していて・・・。

それでも万が一という希望を捨て去れずに問いかければ、返ってきた言葉は、やっぱり「さぁ、知らないわ」というなんとも素っ気無いものだった。

「さて、姫発も無事見つかった事だし、私はこれで・・・」

「どこへ行く?」

手を軽く振ってその場を去ろうとするの肩をがっしりと掴み、返ってくる言葉は予想は出来たが一応質問する。

「どこって・・・さっきの茶店。まだお茶してなかったしね」

「おぬし・・・ちょっとはわしの手助けをしようとかいう殊勝な気持ちはないのか?」

「ないわね」

「・・・・・・」

「せっかく昼寝の時間を潰してまで出てきたんだから、お茶くらいしていかないと・・・」

「・・・じゃあ、俺も・・・」

「「「お前は来る(行く)な!!!」」」

便乗して一緒に行こうとする姫発に向かい、見事にハモる太公望・天化・の声。

「ほらさっさと行くよ、天化」

「・・・ああ」

何気に従わされている天化は、太公望に少しだけ同情の視線を向けつつも先を歩くを追いかけた。

「薄情者〜!!!」

背後に聞こえる太公望の悲痛な叫び声に、流石の天化も無視は出来ずに思わずに声をかける。

「あれで・・・良かったさ?」

「いいのいいの」

相変わらず軽い調子で答える

「すぐに手を差し伸べてもらってると、いざという時に自分で起き上がれないものよ?ただでさえ太公望が相手にしようとしてるのは、今の時点では遥かに敵わない相手なんだし」

「・・・でも、俺っちたちは一緒に戦ってるさ」

「モチロン仲間は必要だもの。1人じゃ戦えるものも戦えないわ」

じゃあなんで・・・という言葉を飲み込んで、の顔を覗き込む。

そこにはさっきまで浮かんでいたいたずらっ子のような笑顔はない。

ただ柔らかく嬉しそうに微笑むの姿。

思っても見ないその笑顔に、天化は思わず咥えていた煙草を落とした。

「ただね、私が手を貸すと太公望の為にならないから」

「それって・・・あーたが強すぎるって事が言いたいさ?」

「そういうこと」

そう言いきったに、天化は苦笑した。

あながち間違ってはいなさそうなので、余計性質が悪いと心の中で呟く。

「これは太公望が始めたことなんだから・・・」

そう、これは太公望自身が望んで始めた事なんだから・・・と心に強く思う。

たとえその結果がどうなろうと、その過程でどれだけの犠牲がでようと。

太公望自身の問題なのだから。

だから自分にできる事などないのだと、彼女はそう考えている。

もしできる事があるとするならば、それは―――辛い時に傍に在り、支えになり、そして彼の背中を押してやるだけ。

そんなことができるのかと、そう自問する事もあるけれど。

未来は誰にも予測できないから。

未来は決して決まっているものではないから。

「そうだよね・・・?」

は遥か彼方に在る人物へ、答えのない問いかけを放った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

意味が分かりません(←それ言うの何度目!?)

行き当たりばったりで書いてるからこういう目に・・・。

じゃあちゃんと考えろよ・・・とかいうのはナシの方向でお願いします。

さてこれからどうなるんでしょう?(聞くな)

天化が出張り気味ですが・・・、これはもう趣味なので。

本格的に太公望(前提の逆ハー)ドリームなのか、怪しくなってきましたが。(それよりもこれをドリームと言っていいのかどうか)

更新日 2007.9.15

 

 

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