太公望が説得のため、北伯候の元へ兵を連れて西岐を出た。

そして後を追うように出発した姫昌は数日後、意識不明の状態で帰還。

風もなく音もない穏やかな日、多くの人に見守られ姫昌は逝った。

『これから大変なことになりそうだな・・・』

の言葉通り、すぐ後に西岐は周と改名し姫発を王に立てた。

それは曇り一つない、晴れ渡った日のこと。

「聞仲が・・・来る」

歴史が動き出した事を感じ、ここからは見えない遥か遠くにある朝歌を見据えて、は静かに呟いた。

 

第一回・作戦会議開催IN西岐

 

「今から作戦会議を始めたいと思う」

王が住む西岐城。

その一室に、豪華な顔ぶれが勢ぞろいしていた。

まずは西岐の王、武王・姫発。

そして西岐の太師である太公望を筆頭に、飛虎・天化を始めとする黄一族。

武官・南宮?に、姫発の弟・周公旦。

そして昼寝していたところを無理やり連れてこられた、

「そりゃいいけどさ。作戦会議って具体的にどんなことするわけ?」

厳かに宣言した太公望に胡散臭そうな視線を向けつつ、少しだけ楽しそうに姫発は口端を上げる。

それに太公望は1つ頷いて、おもむろに口を開いた。

「おそらく、近いうちに殷の太師である聞仲が、ここ西岐に攻めてくるだろう。臣下である西岐の民が王を名乗ったのだ。これは立派な反逆だと取られるだろうからのう・・・」

作戦会議とは到底思えないほど呑気な口調でそうのたまった太公望に対し、周公旦が怒りの形相で勢い良く椅子から立ち上がった。

「・・・太公望!お前は小兄さまをエサにっ!?」

「のほほ〜!まさにその通り!!」

「汚なっ!!」

『エサ』と断言された姫発は顔を引きつらせ、それでも余裕があるのか椅子から倒れると乙女座りをして泣きまねをしてみせる。

「・・・エサなんてヒデェ。―――・・・こうなったら死ぬ前に一回デートして、ちゃん!」

泣きまねから一転して、しまりのない顔で不機嫌そうな表情を浮かべているに抱きついた姫発は、そのまま彼女の頭に頬ずりを始める。

「ああっ!王様、何するさっ!?」

そう非難の声を上げる天化だったが、すぐに姫発とから距離を取った。

昼寝を邪魔されたの機嫌は、今最高に悪い。

その状態でそんなことをすればどうなるか・・・―――想像するだけで恐ろしい。

しかしそんな予想に反して、は一向に動かない。

それどころか姫発にされるがままになっていて・・・。

「・・・どうかしたさ?」

心配になって少しだけ2人に近づいた、その時。

ゴォォォォォォォォ!!

突然を中心に巻き起こった突風は、テーブルや棚を巻き込んで部屋の中の全てを飲み込んだ。

「どわぁぁぁあっ!!」

「コラ、!こんなとこで宝貝なんて使うんじゃないっ!!」

「やめるさ、っ!!」

数分後、部屋の中にあった家具は見るも無残な姿に変わり。

もちろん部屋の中にいた全ての人も、家具同様ずいぶんと可哀想な状態になっていた。

そんな中で涼しい顔をしたは、背筋が寒くなるような薄い笑みを浮かべて。

「わざわざこんなとこに連れてきておいてする事がこれなの?・・・姫発、今すぐに死にたいなら協力してあげるわよ?」

地獄の底から響くような冷たい声でそう言い放つ。

その後、全員が真面目に会議に参加したということは、言うまでもない。

 

 

めちゃくちゃになった部屋の中をどうにか片付けて、ようやく作戦会議が開始されたのは一時間も後のことだった。

「どうでもいいけどさ。作戦会議って・・・一体何を話し合うわけ?」

先ほどよりも少し機嫌が直ったは、淹れてもらったお茶を一口すすり、面倒臭そうにそう言った。

「ああ。その作戦会議なんだが・・・」

作戦会議うんぬんの前に、部屋の片づけでかなりの体力と精神力を奪われていた人々は、それでもその元凶であるに恨みがましい視線を向けると話を先に進めた。

今また何か言えば、今度こそ作戦会議どころじゃないことをよく知っていたからだ。

「話がズレた・・・というよりは、どっかに吹っ飛ばされてしまっていたが、早い話は聞仲だ。おそらく近いうちに聞仲が来る。その時の対策をだな・・・」

「対策って言ったって・・・具体的にどういうことを決めるんだ?」

太公望の言葉を遮って、今まで黙っていた飛虎が口を挟んだ。

それに太公望は小さく頷き返して。

「おそらく聞仲は兵を使って攻めてくるだろう。向こうがそう来る以上、こちらも兵を使って応戦せねばならん。わしたち仙道が人間と戦うわけにはいかんからな・・・」

「それはそうだけど・・・、それだと俺っちたちは一体何を話し合うために集まったさ?」

小さく首を傾げる天化に視線を向けて。

それからに目をやると、太公望と目があったは小さくため息をついた。

「姫発のことでしょ?相手がどう出てくる以前の問題に、姫発の安全を考えなくちゃね。こっちは姫発がやられれば全部がお終いなんだから・・・」

「お、俺?」

のその言葉に、その場にいた全員が一斉に姫発に視線を向ける。

その視線に居心地が悪くなった姫発は、とりあえず愛想笑いを浮かべた。

姫発は別に、王になりたかったわけじゃない。

王になると言ったからにはそれに伴う責任が生じるという自覚はもちろんあったが、なんだか急に重い何かがのしかかって来たようで。

「まぁ、とにかくだ。姫発の安全のために、誰かに護衛をしてもらいたい。腕が確かで、できれば仙道が襲ってきた時にも応戦できるような・・・」

「はいはい!だったら俺、ちゃんがいいっ!!」

「却下」

両手を上げて意気揚揚と推薦した姫発。

その彼の後頭部を思いっきり叩き、推薦された本人が速攻で却下した。

「え〜、何で!?護衛って言えば四六時中一緒にいるわけだろ?どうせなら可愛い女の子がいいじゃん!」

「王様!あんた自分の命がかかってるのに、動機が不純すぎさっ!!」

「小兄様!少しは真面目に考えてくださいっ!!」

天化と周公旦から声を揃えて怒鳴られた姫発は不満そうに頬を膨らませて。

しかし次の瞬間、サッと顔を青くし身体を硬直させた。

姫発の視線の先にいるのは、さっきまでのんびりとお茶を飲んでいた

不思議に思って全員がそちらに視線を向けてみると、ニコニコと笑みを表情に張り付かせたがそこにいた。

「どうして私がセクハラ男の護衛なんて面倒な事しなくちゃいけないのかしら?大体私は手を貸すためにここにいるんじゃないのよね・・・。じゃあ何でここにいるかって話なんだけど、それもこれも全部元始天尊の仕業なのよ。あのジジイ、封神計画なんて立てて自分は王宮の中でのんびり観戦してるのよ?こんな理不尽な事があって良い訳?私はあいつの召使いじゃないっての。まぁ、世間一般的に言えば弟子って事なんだけど」

麗しいほどの笑顔で、息継ぎなしに怒涛の勢いで文句を並べたてる

それに口を挟めない一同は、ただただ冷や汗を流しそれを聞くだけで精一杯で。

「・・・というわけで、護衛は天化が最適じゃないかしら?」

「・・・はっ?俺っち!?」

延々と続く愚痴の中、突如話を振られた天化は間の抜けた声を上げた。

「そう、天化。あなたなら一般兵が来ても仙道が来ても問題ないと思うのよね」

崑崙山でも実力のあるにそんなことを言われて、嬉しくないはずがない。

しかし・・・―――元来、誰かを守りながら戦うということを苦手としている天化は、少しだけ複雑な表情を浮かべた。

「・・・それって、もしかして俺っちに押し付けてるさ?」

「・・・・・・そんなことない・・・かも?」

「その間は何さ!?しかも『かも?』って、何で疑問系さ!?」

「深いことは気にしないで」

天化の言い分を一蹴し、口を挟めずにいる太公望に視線を向けたはにこりと微笑んだ。

「いいわね、太公望?」

「・・・・・・うむ」

まさに、鶴の一声。

ここ西岐でも、彼女の発言は最強を誇っていた。

 

 

「・・・

作戦会議を半ば強制的に終え、再び昼寝を再開したは日当たりのいい屋根の上でを枕に寝転がっていた。

しかし眠りにつこうとするの頭上から、聞きなれた声が降ってきて。

「なによ、太公望・・・」

やっぱり不機嫌そうに眉間に皺を寄せたは、いつもより低い声色で彼の名前を呼んだ。

しかし太公望は一向に気にした様子もなく、平然との隣に腰を下ろす。

その様子を見ていたは、小さくため息を吐いた後ゆっくりと起き上がった。

ぽかぽかと暖かい陽気が降り注ぐ。―――まさに絶好の昼寝日和だ。

城の中からは官が慌ただしく動き回る声が聞こえ、眼下には兵士たちの訓練の様が広がる。

城の外に目を向ければ、活気のある町並みが・・・そして農業に精を出す農夫たちの姿が。

彼らはすぐそこに戦乱の予感があることに、果たして気付いているのだろうか?

いや、気付いていないはずはない。

それでも彼らはいつも通り仕事をし、そしていつも通り暮らしていくのだ。

それがいつまで続くか分からない、一時の平和だとしても。

いつも通り・・・―――それをする事が、時にはどれほど難しい事なのかとはポツリと思う。

「なぁ・・・

「・・・だから、なによ?」

ぼんやりと空を眺めながら、太公望はやんわりと微笑んだ。

「平和・・・だな」

それは今まさにが思っていた事と同じで。

「・・・そうね」

小さく笑みを浮かべて、も穏やかな口調でそう返した。

そういえば、こんな風に太公望と2人で(正確に言えばもいるが)同じ時を過ごすのはいつぶりだろう?

の千里眼で太公望の動向をずっと観察してはいたが、こんな風に・・・。

は屋根の上についていた手を、太公望の顔へと伸ばした。

「・・・?」

不思議そうに首を傾げる太公望を無視して、そのまま手を頬に添える。

温かい。―――ふと心の中でそう呟く。

こんな風に触れたのは、いつぶりだろうか?

少しの間、考え込んでいたは・・・―――次の瞬間、太公望の頬に添えていた手で、彼の頬を思いっきり摘み上げた。

「いっ!痛い、痛いというにっ!!」

もがく太公望に手を振り払われたは、自分のその手をじっと見つめ。

それからにっこりと微笑むと、有無を言わせない口調できっぱりと言い切った。

「これから街に行こうと思うの。一緒においで?」

「・・・は?」

誘うカタチではあるが、やはりその強制的な言葉に太公望は目を丸くするだけで。

そんな彼を無視して立ち上がると、大きく伸びをしたはヒラリと屋根を飛び降りた。

「・・・ほら、行くの?行かないの?」

未だに屋根の上で呆然とする太公望を見上げ、ニヤリと口角を上げる。

「・・・行くに決まっておるだろう!」

それに負けじと太公望も屋根の上から飛び降り、ニヤリと笑みを浮かべた。

城から出て行こうとするのを目ざとく見つけた周公旦に怒鳴りつけられるが、そんなものは一向に気にする様子もなく。

久しぶりだ、と思う。

こんな風に、自由に振舞うなんて。

「さぁてと、まずは美味しいお茶でも飲みに行こうかな?」

隣を歩く太公望に笑いかけ、は先日見つけたお気に入りの茶店へ足を向ける。

今日は特別に、とっておきの桃の木の場所を教えてやろうかな?

人通りの多い街中を歩きつつ、はそんなことを思った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ギャグにしようと書き始めて、玉砕。

ちょっと太公望と絡ませようとかと思って、玉砕。

妙に姫発が出張ってたり?いや、姫発は結構好きなんですけどね。

作成日 2003.12.30

更新日 2007.10.1

 

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