「指揮官の暗殺、ねぇ・・・」

敵陣からほど近い場所にリカルドと共に待機していたは、逃げ惑う兵士たちを見下ろしながら小さく独りごちる。

ライフルを武器とするリカルドならともかく、剣で戦う自分はこの距離では何も出来ない。―――せいぜい、無駄口を叩くのが関の山だ。

「んで、撤退と見せかけて奇襲なんてせこい作戦立てたの?―――まぁ、効果的といえば効果的だけど、なんか地味だよねぇ〜」

「煩い。少しは黙っていられんのか」

ライフルを構えて敵を狙うリカルドにそう突っ込まれ、はやれやれとばかりに肩を竦めて視線を敵陣へと向ける。

今襲われているのは、かつては自分が所属していた場所。

しかしそれについて、不思議なほどに何の感慨も沸いてこなかった。―――元はといえば無理やりに連れて来られた上に扱いも酷かったのだから、愛着を持てという方が無理があるけれど。

リカルドの構えるライフルから、何発かの弾が放たれる。

それは逃げ惑う兵士に当たったり、何もない場所へ当たったり・・・。

きっと威嚇射撃のつもりなのだろう。―――リカルドの腕前で、的を外すとは思えない。

「あ、リカルド。あそこに指揮官がいるよ。―――でも警戒して地面に伏せてるから、ここから狙うのは難しいんじゃない?」

そんな中、漸く見つけた指揮官と共に数人の子供が一緒にいる事に気付いて、は僅かに眉を上げた。

戦場には似つかわしくない子供の姿。

それだけで、彼らがどうしてここにいるのかを察したは、不機嫌そうに表情を歪める。―――自分がいなくなった後も、ああして異能者と呼ばれる者たちが戦場に送り込まれているのだろう。

兵士は自ら兵となるべく志願したはずだというのに、異能者を送り込むとは一体何のための軍隊なのか。

「・・・行くぞ」

不機嫌そうなに気付いたリカルドが、言葉短くそう告げる。

それに同じく短い返事を返したは、素直にリカルドの後を付いていった。―――こうなれば、自分の分の恨みも込めてあの指揮官をぶっ飛ばしてやると、物騒な事を考えながら。

 

 

そうして指揮官の下へ向かった2人は、しかし無理やり戦場に狩り出されたであろう3人の子供と対峙していた。

律儀な事に、指揮官を守ろうというらしい。―――見るからに気弱そうな男の子と、勝気そうな女の子、それに一見ガラが悪そうに見える青年と・・・。

「・・・スパーダ?」

その中でふと見覚えのある顔を見つけた気がしてが声を上げると、その人物も不思議そうにを見返して・・・―――そうしてその人物は、心当たりがあったのか驚きに大きな声を上げた。

「あー!お前・・・か?だろ!?」

大きく目を見開いてそう声を上げながら自分を指差すスパーダを見返して、もまた驚きに目を見開く。

そうして周囲の視線が自分に集まっている事に気付いて、は慌てたように笑顔を取り繕ってから改めて口を開いた。

「人違いです」

「嘘付けっ!お前いま俺の名前呼んだだろーがっ!!」

すぐさま突っ込まれ、は不機嫌そうにスパーダを見やり、そうして深くため息を吐き出す。

なんだか面倒な事になってきた気がする・・・と心の中で独りごちれば、おそらくはそれを読み取ったリカルドが探るような視線を向けた。

「ちょっと、あんた!もしかして知り合いなの!?」

「え?そうなの、スパーダ?」

ルカとイリアが矢継ぎ早にそう問いかける中、スパーダはまっすぐへと視線を向けて。

2人の疑問も当然の事だけれど、それよりも自分の疑問を解決するのが先だ。

「お前、こんなトコで何やってんだよ。なんで・・・」

「見〜ツケタ」

そう結論づけてスパーダが口を開いたその時、彼の言葉を遮るように気の抜けた声が辺りに響いた。

一体なんだと視界を巡らせれば、どことなく危険な雰囲気を纏った男が怪しい笑みを浮かべて立っている。

それを確認したは、更に厄介な展開に思わず額を押さえてため息を吐き出した後、恨めしげにスパーダを見やった。

「ほら!スパーダが大声で騒ぐから、ハスタが来ちゃったじゃない!」

「俺のせいじゃねーだろ!ってか、ハスタって誰だよ!?つーか、やっぱり俺の事覚えてんじゃねーか!!」

「やだなぁ、スパーダ。今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ。問題はこの修羅場をどうやって被害を被る事無く切り抜けるのかが先決だから」

「わけ解んねぇ!!」

笑顔で言い切るにそう声を上げたスパーダは、思わず頭を抱えた。

彼の知るも昔から解らないところはあったが、年月を経て更にそれがパワーアップした気がする。

そんな2人を横目にため息を吐き出したリカルドは、呆然と立ち尽くすルカへ一言「立ち去れ」と告げた。

契約内容に彼らの始末は含まれてはいない。

それ以上に、今目の前で殺意を漲らせるハスタの方が厄介だ。―――正直なところ、彼らの相手までしている暇はない。

それを受けたルカは、戸惑いつつもイリアと視線を交わし、そうして地団太を踏むスパーダの腕を掴んで一目散に駆け出した。

「ちょ!なんだよ、お前ら!ちょっと待てって!!」

突然腕を捕まれ引っ張られたスパーダは渾身の力を込めてその場に踏みとどまり、そうして目の前で呆れた眼差しをハスタへと向けるへと手を伸ばして・・・。

「来い、!!」

「ちょっと、スパーダ!何するのよ!!」

突然腕を捕まれ強引に引っ張られたが抗議の声を上げるも、スパーダはその手を離す様子はない。

「スパーダ!!」

「話は後だ!とりあえずここから逃げるぞ!!」

まったく持って聞く耳を持たないスパーダを見て困ったように眉を寄せたは、しかし渾身の力を込めて彼の手を振り払った。

それに思わず目を見開くスパーダから視線を逸らして、はキッパリと言い放つ。

「ごめんね、スパーダ。私は君とは行けないの」

!!」

スパーダの抗議の声にもは振り返らない。

その間にもルカとイリアの必死の逃走に引きずられていくスパーダの姿を横目に見送って、そうしては自分へと注がれるリカルドの視線に笑顔を返した。

「さてと。それじゃハスタの方をどうにかしましょうか」

「・・・良かったのか?」

言葉少なく問い掛けられたは、しかし満面の笑みを浮かべて。

「いーの、いーの。今はリカルドの厄介な人間関係を清算する方が先でしょ?ほんと、この私を見習ってもうちょっと愛想良く日々を過ごしてれば、こんな展開にはならなかったかもしれないのにね」

釘を差す事も忘れずそう言い放ったに、リカルドは皮肉げに笑みを浮かべた。

「お前の方も、人間関係が良好だとは言えないようだが・・・?」

「スパーダは違うって。私が昔勤めてた貴族のお屋敷の坊ちゃんなの。いや〜、やっぱ私ほどの女となると、男の方もほっとかないのね〜。罪作りな女だわ」

「・・・言ってろ」

あっけらかんと言い放つに、リカルドはそう返しつつも意外そうに眉を上げる。

一切が不明だったの過去。

まさか貴族の屋敷に勤めていた経験があったとは思わなかった。―――確かに作法に問題はないが、彼女の気性は貴族のそれとは合わなさそうだ。

「もしも〜し。俺を無視しナイでくれナイ〜?」

会話を交わしていた2人は、改めて掛かった声に同時に振り返って。

そうして武器を構えてやる気満々の様子でこちらを見やるハスタを見返し、こちらも同時にため息を吐き出した。

「・・・仕方ないな」

「そうだね、仕方ないね」

お互い誰に言うでもなくそう呟き、各々己の武器を構える。

本来は予定になかった男との戦いに、2人はチラリと視線を交わすと、口元に小さく笑みを浮かべて同時に足を踏み出した。

 

彼と彼女の再会

 


うっかり明かされた、思わぬ事実。

作成日 2007.12.21

更新日 2008. 4.25

 

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