謎の男による襲撃はあったものの、それでもなんとか五体満足でナーオス基地を脱出する事に成功した一行は、一路ナーオスの町へと向かっていた。

今後の行き先を決めるにも、とりあえず落ち着いた場所でなくては話にならない。―――ひとまずそんな理由を付けてはいたが、落ち着いた場所で一休みしたいというのが本音だ。

その道程の中で、最後尾を歩いていたはすぐ前を歩くアンジュとリカルドの会話に耳を傾ける。

最も、わざわざ意識せずとも聞こえてくる距離であり、また声量だったのだが。

「私との契約で、ひとつの契約を駄目にしてしまいましたね。貴方の誇りを傷つけませんでしたか?」

アンジュの気遣いに、は僅かに口角を上げる。

さすが聖女と呼ばれるだけあって、心優しい少女だ。

あの状況で不利だったのはアンジュ側の方で、支障があればリカルドは簡単に提示された契約を蹴る事が出来たのに。

それを受けたという事は、リカルド的には何の問題もなかった事は一目瞭然なのだが、それでも彼女はリカルドの傭兵としてのプライドまで気にしてくれる。

確かに一筋縄ではいかないタイプだとは認識したが、はアンジュに更なる好感を抱いた。

リカルドも同じだったのだろうか。―――表情は変えずに、けれど声色はいつものものと比べれば少しだけ柔らかい色を含んで。

「金銭で俺を雇う者は、損得勘定を愛する者が多い。違約金さえ払えば依頼主は得をする、俺に仕事をさせた以上にな。依頼人を儲けさせたのなら、何も問題はない」

「え、そういう問題?」

なんとなくほんわりとした心もちで2人の後ろで黙って会話を聞いていたは、しかし聞き耳を立てていたという事さえも忘れて思わずそう口走っていた。―――それに気付いたリカルドが、僅かに振り返って軽くを睨む。

っていうか、あのアルベールとかいう男はアンジュが目的であって、いくら莫大な違約金が返ってこようと絶対に得したなんて考えそうな人には見えなかったけど。

先ほどの言葉に加えてそう口にしそうになり、は咄嗟に言葉を飲み込んだ。―――アンジュがホッと安堵したように表情を緩めたからだ。

「そうですか。それなら安心しました」

「いや、まだだ。セレーナを守る仕事はこれからも当分続く」

「そう、ですね。せひ私を守り抜いてください。貴方の誇りを守るために」

「了解した。依頼人よ、俺に任せてもらおう」

アンジュの申し出に、リカルドは力強く頷く。

またもやそれをぼんやりと眺めていたは、次の瞬間僅かに眉を寄せる。

見知らぬ誰かに狙われているなど、いかにアンジュといえど不安に思わないわけもないだろう。

アルベールがアンジュを狙う目的が、転生者関係である事は間違いない。

彼が口にした『創世力』というものが原因なのだろうが、生憎とには心当たりがない。

彼女に聞いても、特別思い当たる事はなさそうだ。

嘘をついている様子はないから、まだ思い出していないか、本当に知らないかのどちらかだろう。

「・・・創世力」

誰にも聞こえないよう口の中で小さく呟いて、は脳裏にアルベールの穏やかな笑みを思い浮かべた。

穏やかに微笑んでいるというのに、どこか油断ならない雰囲気。

あれだけ友好的に接せられて、それでも少しも気を許す気になれないなんて。

「・・・う〜ん」

彼はきっと、アンジュを諦めたりはしないだろう。

リカルドとが彼を裏切っても、きっと彼は諦めない。

自分たちと同じような傭兵を再び送り込んでくるか、もしくは問答無用でアンジュを手に入れる為に軍を動かすか。

軍を動かすにはそれなりの理由がいるが、見るからに地位の高そうな彼ならば問題ないだろう。

もっとも、今現在レグヌムと戦争中のテノスにそれだけの余裕があるかは解らないが。

「どうしたの、?」

1人、悶々と考えていたは、ふいにかけられた声にハッと顔を上げた。

目の前には、心配そうに眉を下げたアンジュの姿。―――どうやら今の自分は余程深刻な表情をしていたらしい。

「ううん、なんでもない。お腹空いたから、町に着いたら何を食べようかなって考えてたとこ」

「あら、私とっても美味しいお店知ってるの。あとで一緒に行ってみる?」

「ホントに?ぜひ、お願いします!」

がっつりアンジュの手を握ってそう言えば、少女はおかしそうにクスクスと笑う。

確かにお腹空いたなぁ・・・とそう呟くアンジュは、聖女と呼ばれていてもどこにでもいそうな普通の女の子だった。

だからこそ、は思う。―――彼女を、守ってあげなければと。

自分だってそれなりに剣を扱えるとはいえ、特別腕が立つわけではない。

転生者である故の能力と、短期間ながらも戦場で培った経験と勘。

それだけがの武器だ。―――だから今までは、自分が誰かを守るだなんて、そんなおこがましい事は考えた事もなかったけれど。

契約があるからではない。

ただ自然に、は目の前のアンジュを守ってやりたいとそう思ったのだ。

「・・・相手があの男なのは、ちょっと・・・いや、かなり厄介だけど」

出来るならば敵に回したくないタイプの男である事は確かだ。

それでも・・・。

「あまり気負いすぎるな」

ふいに聞こえた声に顔を上げれば、いつもと変わらない無表情でこちらを見下ろすリカルドの顔。

けれどその瞳に労わりと心配の色を見つけて、はにっこりと微笑んだ。

「それは勿論。私は傭兵業に関しては基本的にリカルドの補佐だから」

戦闘ではどちらかというと切り込み隊長だけどね。と付け加えて笑う。―――武器の性質上、それは当然なのだけれど。

「頑張ろうね、リカルド」

「当然だ。依頼は必ず遂行する」

素直ではないリカルドの言葉に、は堪えきれず軽く声を立てて笑う。

そんな2人を、先を歩く4人と1匹が不思議そうに眺めていた。

 

傭兵たちの決意


ゲーム中のリカルドのセリフに突っ込んだのは私です。(2回目)

どうしてもリカルドが契約に重きを置く傭兵に思えない。金の問題なのか、と。

でもまぁ、プロの目線はそういうものなのかもしれませんね。(笑)

作成日 2010.10.12

更新日 2011.2.13

 

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