「うぉっ!俺の隠れ家が、こんなになってる!」

工業地帯での聞き込みを終えた3人は、当初の予定通り合流場所である下水道へとやってきた。―――のだけれど、下水道に足を踏み入れた途端のスパーダの声に、は訝しげに眉を寄せる。

見たところ、ごく一般的な下水道にしか見えない。

確かにところどころに生活の跡が見られるけれど、それがスパーダがここを使用していた時とそれほど違うのだろうか?

そんな疑問を投げ掛けようと口を開きかけたは、しかし直後響いた高い声に大きく目を見開いた。

「なんや、自分やったんか。ここ、場所作ってくれたん。ありがたく使わせてもろてるで」

まだ幼さを残した声。

振り返ったの視界に飛び込んできたのは・・・。

「エル!」

思わず上がったの声に、少年のような姿をした少女がパッと視線を上げる。

そうしてその眼差しがの姿を捉えた瞬間、その瞳は大きく見開かれた。

「・・・?―――姉ちゃん!!」

大きく彼女の名を呼んで、反射的に駆け出した少女は躊躇いなくへと飛びつく。

そうしてもう離さないとばかりにギュッと抱きつきながら、不安と喜びが交じり合った眼差しでを見上げた。

「大丈夫やったんか!ウチ、めっさ心配したんやで!!」

「エル・・・。ごめんね、心配かけちゃって。貴女こそ大丈夫だった?」

眉を下げてそう訴える少女に、は困ったように笑いそう告げる。

その姿は、とても仲の良い姉妹のようにさえ見えた。

「誰だよ、このちっちゃい子は」

2人の様子を見ていたスパーダが、不満そうに眉を寄せながらそう呟く。―――その不満は、果たして自分が無視された事によるものなのか、それとも・・・。

そんなスパーダを見上げて、少女はに向けていたものとは違う少し警戒を含んだ眼差しを向け口を開いた。

「あんたはウスラデカイなぁ。ウチはエルマーナ言うねん」

「・・・で、コイツとはどういう関係だ?」

「この子は・・・」

「おっちゃんこそ、姉ちゃんとはどういう関係やねん!」

徐に口を挟んだリカルドになんと説明するべきか言葉を濁したとは対照的に、エルマーナが噛み付くようにそう声を上げる。

そんなエルマーナの様子が可笑しいのか、リカルドは微かに口元に笑みを浮かべて。

「関係、か。一言では説明の難しい質問だな」

「まぁ、それはおいおい話すとして。―――それよりも、エル。どうしてここに?ここで一体何を・・・」

明らかにからかう気満々なリカルドの言葉を遮って、は仕切りなおしとばかりにエルマーナにそう問いかけた。―――これ以上話がややこしくなるのはごめんである。

けれど彼女を心配しているの気持ちは伝わったのか、エルマーナはにっこりとに笑いかけ明るい声色で口を開いた。

「さっきこのルカいう人に話は聞いた。あんたら、取引せえへん?」

「・・・取引相手として信用置けんな。だが、一応話は聞こう」

突然話の矛先を向けられたリカルドは、少しだけ考える素振りを見せた後、口角を笑みの形に保ったままそう告げる。―――けれどその瞳がからかってなどいない事をエルマーナは瞬時に察した。

「あんな、ウチら、情報収集はお手のもんやねん。必要な情報、拾といてあげるわ」

「その代わり?」

すぐさま返ってきた言葉に、エルマーナは目を丸くした後破顔する。

「自分、話早いなぁ。鍾乳洞の奥に金目のモンがあるっちゅう話やねん。それ、とって来てもらえへん?」

「金目の物って、宝石とか?」

これまで話に加わってこなかったイリアが、僅かに瞳を輝かせながら問いかける。

こんな洞窟にある宝石など怪しい事この上ないのだけれど、そこはあまり考えないらしい。

「宝石なぁ!エエなぁ、女の子の憧れやねぇ。でも、そんなん違うねん」

そんなイリアの問い掛けに、エルマーナは他人事のようにうんうんと頷いて。

「キレイな地下水と湿気で生える長寿の霊薬とか、なんかそんなキノコがあるらしいんやわ」

「キノコ・・・?キノコって、あの?」

「他にどんなキノコあんねん。そうそう、ソレや、多分。なんかめっさ高い値段で売れよんねんて。めっさ」

よっぽど高く売れるらしい。

『めっさ』と何度も口にして、エルマーナはキラキラと瞳を輝かせた。

「それあったら、もうちょっとマシな暮らし出来んねん。ほら、悪い事せんでエエような暮らし」

「エル・・・」

エルマーナのその言葉に、は表情を曇らせる。

自分が居なくなった後、エルマーナがどんな暮らしをしていたのかなど、今のこの状況を見れば聞かずとも解る。

繁栄しているように見えるこの王都は、けれど全ての住民に優しいわけではない。

豊かな暮らしをしているのは貴族や一部の裕福な人間たちだけで、その影でエルマーナのような孤児は日々暮らしていくのにさえ困窮しているのが現実だ。

その現実をは嫌というほど知っている。―――本当に、嫌になるほど。

そんなの想いを感じ取ったのか、エルマーナは困ったように眉を寄せて。

「そんな顔せんとって、姉ちゃん。ウチ、いつか姉ちゃんが帰ってくる思て、一生懸命がんばっとったんやから」

必死にそう言い募るエルマーナを見て、自分の方が気遣われている事に気付き、もまた困ったように微笑んだ。

「・・・そう。偉いわね、エル」

そっと頭を撫でてやれば、エルマーナは嬉しそうに笑う。

それだけでも幸せな気分になるのだ。

そんなほのぼのとした雰囲気を漂わせ出した2人を横目に、リカルドは小さくため息を吐き出すと、仲間へと向き直り口を開く。

「どうする?このガキの言う情報の精度がまるでアテにならないが?」

「やってあげましょう、リカルドさん。みんなも構わない?」

すかさずアンジェはそう言い、グルリと周りを見回す。

先ほどのエルマーナの言葉を聞いていたからか、それに反対する者はいない。―――たった1人を除いては。

「ただ働きは御免被りたいな」

「リカルド・・・」

皮肉げな笑みを浮かべてそう告げたリカルドに、エルマーナと微笑み合っていたも話を聞いていたのか、困ったような声色で彼の名を呼ぶ。

けれどそれに一切動じる事無く、アンジェは天使のようににっこりと微笑み、リカルドが決して抗うことの出来ないその言葉を放った。

「あら、あなたの雇い主が誰だか、どうすれば思い出していただけます?」

「・・・仕方ない」

わざわざ問うまでもない問い掛けに、リカルドはため息混じりに頷く。

それに明らかにホッとした表情を浮かべるをこっそり横目で見やって、アンジュはクスクスと小さく笑った。

「最初から断るつもりなんてなかったんでしょう?それなら素直に頷いておけばいいのに」

もう1度チラリと喜び合うとエルを見やって、アンジュがリカルドを見て笑う。

なんだかんだ言いながらも、彼がに弱い事をアンジュは知っている。

きっとそれを彼女にも、そして周りにも悟られたくはないが為なのだろう。―――そう思えば、目の前のこの強面の傭兵が少し可愛らしく思えた。

「じゃあ、エルマーナ。取引成立ね」

気を取り直して、アンジュは今もまだと楽しそうに笑いあうエルマーナへとそう声をかける。

それに輝くような笑顔を浮かべて、エルマーナはひとつ大きく頷いた。

「ほい来た!ほな、この水路の奥から鍾乳洞に繋がってんねんで」

「マジかよ?オレ気がつかなかったぜ」

「あかんなぁ、兄ちゃん。観察力不足やで。案内するから付いてきぃ」

そう言って一行を先導するように歩き出した小さな身体を見つめて、アンジュはにっこりと微笑む。

「・・・なんだか、とっても賑やかになりそうね」

彼女の弾むような声が、小さく地下道に木霊した。

 

地下道での再会


エルマーナとの意外な繋がり。

OPで初めて見た時、男の子かと思いました。(どうでもいい)

作成日 2011.3.13

更新日 2011.6.12

 

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