翻る白いコート。

靡くは漆黒の髪。

すべての敵を打ち倒し剣を腰に差した鞘へと収めたは、まるで何事もなかったかのようにわざとらしく息を吐き出した。

「やっと片付いたね〜」

のその言葉にぐるりと辺りを見回せば、そこには既に息絶えた大勢の兵士の身体が転がっている。

同じく構えていたライフルを下ろしたリカルドは、そんなを横目に小さくため息を吐き出した。

戦場に出る事を渋っていたとは思えない戦いぶりに、呆れれば良いのか感心すれば良いのか・・・―――まぁ、傭兵であるリカルドにとっては、そう悪い結果ではないけれど。

「・・・随分と派手にやったな」

「え〜、そう?だってものすごい剣幕で向かって来るんだもん。そりゃ、しょうがないでしょ」

あっけらかんとそう返すからは、出会った時に見た陰りは見えない。

別にリカルドとて彼女に取り乱して欲しいわけではないが。

それにしても・・・とリカルドはを見やり、そうして彼女の腰に差されている長剣を認めて、今更ながらに疑問を投げ掛けた。

「以前から聞こうと思っていたのだが、どうしてお前は剣を使っているのだ?」

「どうしてって。―――どうしてって言われても・・・」

何の前置きもないリカルドの問いに、は困ったように眉を寄せる。

剣を使っていてはいけないのだろうか?―――戦場に無理やり出された時だって、そんな事は一言も言われなかったが。

「・・・なんで?」

「男と女では力の差があるだろう。剣術ではその差は致命的だ。何故女の身でも扱いやすい銃を武器に選ばなかったのだろうかと思ってな」

それはほんの些細な疑問だった。

けれど疑問である事には違いなく、気になるかならないかといえば前者だろう。―――そうでなければ、わざわざ問いかけたりはしない。

そんなリカルドの質問の意図を読み取って、は納得したように1つ頷いた。

「ああ、そういう事か。大丈夫、大丈夫。力の差はスピードでカバーするから。結構いないもんなんだよ、私のスピードに付いてこれる人って」

自分で言うだけあって、の動きは素早い。

確かにあのスピードに付いてこれる相手はそうはいないだろう。

「それにねぇ・・・、銃って扱った事なかったし。剣術は昔ちょっと人に教えてもらった事があったから」

だからは、戦場に出る事になった時に迷わず剣を選んだ。

命が掛かっているのだ。―――誰だって使った事のないものよりは、少しでも扱った事のあるものに手を伸ばすだろう。

「お前の集中力と器用さがあれば、銃の扱いなどすぐに覚えられそうだがな」

「へ〜、リカルドが褒めてくれるなんて珍し〜い」

素っ気無く言ったリカルドの言葉に、は嬉しそうに頬を緩める。

しかしすぐさま思い直したようにリカルドを見返すと、ゆっくりとした足取りで彼の元へと歩み寄った。

「ま、自分の器用さは自覚してるし、リカルドの言うようにもしかしたらすぐに覚えられるのかもしれないけどさ。―――でもやっぱり、私はこれの方が性に合ってるよ」

「・・・何故だ?」

「何故って・・・そうだね。銃は何発か撃っちゃえば弾が切れちゃうし。肝心なところで弾切れなんて考えられないでしょ?」

「そんなお粗末なマネはしないと思うが?」

さらりと言い返されて、思わず苦笑する。―――確かに意識している間は、そんな初歩的なミスなど犯さないだろうが。

「それにねぇ・・・」

まっすぐに自分を見下ろすリカルドを見上げて、意味ありげに微笑んだは、躊躇いなく一歩を踏み出した。

ただでさえ近い位置にいた2人の距離が更に縮まる。

その彼女の最大の武器でもあるスピードで一気に間を詰められたリカルドは、目の前にまで迫ったの顔に思わず身体を強張らせる。

ほんの少し動けば触れてしまうかもしれない距離で、はにっこりと微笑んだ。

「それに、ほら。こ〜んなに間合いを詰められたら、銃じゃ太刀打ち出来ないでしょ?リカルドのライフルみたいに大きい銃を持ってるならなおさらね」

そう言って首元に突きつけられた小ぶりのナイフ。

勿論、どうこうするつもりはないのだろう。―――ナイフを握る手に力がこもっていないのを認めて、リカルドはため息混じりにライフルを持つ手を振り切った。

「それで勝ったつもりか」

「痛っ!・・・った〜。なにすんのよ、もう!」

ライフルの銃身で遠慮なく頭を叩かれたは、頭を押さえながらリカルドを睨み上げる。―――相当痛かったのか、大きなその瞳にはうっすらと涙が滲んでいる。

普段は色気のいの字さえ感じられないのそんな姿に僅かに動揺したリカルドは、すぐさま彼女から距離を取り視線を逸らした。

「・・・馬鹿な真似をするからだ」

「なによ〜、ちょっとした冗談じゃん」

どうやら機嫌を損ねたらしい。

ぷいとそっぽを向いてそう愚痴を零すを認めて、リカルドは己の僅かな心情の変化を悟られていないと気付いてホッと安堵のため息を零す。

本当に・・・―――相手に色気を感じるなど、どうかしていると己に言い聞かせて。

「・・・まぁ、ともかくそういう事。いつだって新しいものが一番いいとは限らないでしょ?私はこれが性に合ってるの」

不貞腐れたようにそう結論を出したにひとつ頷いて、リカルドは納得したと態度で示す。

確かに彼女の言う事も最もだ。

彼女ほどのスピードがあるならば、剣術でも何の問題もない。

既に廃れ始めていると思っていた剣術も、意外にまだ使えるようだ。

しかし、もったいないとも思う。

彼女が銃を持てば、きっと素晴らしいスナイパーになるだろうにと。

「まぁ、お前がいいなら構わんさ。銃を扱いたくなったら声を掛けろ。俺が教えてやらん事もないぞ」

「・・・ぜ〜ったい、リカルドにだけは頼まない!」

ぷいと顔を背けたまま、は不機嫌そうにそう答える。

それを横目で窺いながら、リカルドはほんの僅かに笑みを零して。

自分が蒔いた種ではあるが・・・―――さて、これからどうやって彼女を宥めるか。

単純なようで複雑。

そして複雑なように見えて、実は意外と単純なところがある彼女の・・・。

「・・・

以前美味しい店を見つけたとそう言っていた事を思い出し、仕方がないとそう自分自身への言い訳を並べ立てながら、リカルドは彼女の機嫌を取り戻すべく口を開く。

数分後には輝くような笑顔を浮かべるの姿が、いとも容易く想像できた。

 

 

 

君には一生敵わないのだろうと、

びによく似た諦めで、笑ってしまった

 

 


それぞれの戦い方について。

作成日 2007.12.19

更新日 2008.2.16

 

戻る