「なぁ、リカルドとってどういう関係だと思う?」

唐突過ぎる同僚の問い掛けに、青年は一瞬で固まった。

傭兵というのは、非常に過酷な仕事である。

戦場に身を置けば、死はとても身近に感じられるものである。

だからといって、普段から殺伐とした日々を送っているわけでもない。―――こうして身体を休めている時くらいは、緊張から開放されたいと思うのも当然の事だった。

だからある意味、彼と彼女は格好のネタだったのかもしれない。

傭兵の中でも近寄りがたい雰囲気を放っているリカルドと、反対に明るく誰にでも気さくで親しみやすい

しかもそのを戦場で拾ってきたのがあのリカルドというのだから、傭兵仲間は更に驚いた。―――が、敵の部隊に所属していたという事も含めて。

ここに、1人の青年がいる。

彼の名前はフィリップ。―――傭兵団の若き剣士である。

身を立てるために傭兵になった彼だが、勿論ハスタのように戦いを心から楽しめるわけもなく。

そんな彼がここで心の拠り所としているのが、だった。

傭兵団に若い女性などそうはいない。

それに加えて、は見目も麗しく気性も穏やかで・・・。―――そんな彼女へフィリップが淡い恋心を抱くのに、そう時間は掛からなかった。

恋人同士になれるなどと考えていたわけではない。

それでもこの淡い恋心を糧に、日々を生き抜いていこうとそう思っていた。

「なぁ、リカルドとってどういう関係だと思う?」

だというのに、そんな矢先にこの問い掛けである。

彼が思わず言葉に詰まってしまうのも仕方のない事だった。―――もう、なんと答えてよいのか解らないのだ。

それでもそう問い掛けた同僚に、フィリップは必死に引き攣った笑顔を浮かべて。

「・・・さ、さぁ?ただの仲間じゃないのか?」

「えぇ!?あのリカルドだぞ?あのリカルドがいつも傍に置いてるってのに、ただの仲間じゃなぁ・・・」

どうやらフィリップの答えはお気に召さなかったらしい。

不満げにそう呟く同僚を横目に、彼は小さくため息を吐き出した。―――そんな事聞かれたって、俺に解るはずがないだろうと心の中で独りごちて。

リカルドとの関係など、自分の方が知りたいくらいだというのに・・・。

けれどこれ以上話が進んでも、自分にとってプラスになるどころかマイナスになりかねないと解っていたフィリップは、どうやら終わりそうな会話にホッと安堵を息を吐き出した。

だというのに、どうやら神は彼を救う気はないらしい。

「なになに、リカルドとがどうしたって?」

どこから話を聞いていたのか、別の男が嬉々とした様子で会話に割って入ってきた。

「だから、リカルドとの関係だよ。俺はただの仲間ってだけじゃないと思うんだが・・・」

「そりゃ違うだろ、あんだけ仲良いんだからさ。リカルドだって、ありゃまんざらでもねぇ感じだぜ?」

「だよなぁ、あのリカルドだもんなぁ」

彼らのリカルドに対するイメージがどういうものなのかはこの際置いておくとして、どんどんと話の方向が望まぬ方へと向かっている気がして、フィリップは不安げに眉を寄せる。

しかし彼の災難はこれで終わりではなかった。

常に何か楽しい話題を待ち望んでいる他の面々もまた、興味津々とばかりに話に加わってきたのだ。

「俺、聞いた事あるぞ。がリカルドと一緒にいたいって言ったって」

「マジで!?くっそー、羨ましいなぁ」

「でもよぉ、な〜んかハスタの奴も最近にちょっかい出してきてる気がするんだけど」

「ああ、確かに。後ろから襲い掛かったりな。―――本気じゃないってのは一目瞭然だったから、俺らも何も言わなかったけど」

むしろ言えなかったという方が正しいかもしれない。

一応は味方であるはずの彼らも、ハスタの奇行を恐れていないわけではない。

「んじゃ、なにか?リカルドととハスタで三角関係?―――うわ〜、壮絶だな」

「こうなってくるとも災難だよなぁ。リカルドはともかく、ハスタに気に入られるなんてよぉ」

「だよなぁ。ハスタが行動に出る前に、リカルドにはしっかりしてもらわねーと」

「だな。ハスタをどうにか出来るのなんて、本人かリカルドくらいだからな」

もはや言いたい放題である。

そしてどうやら話はリカルドととハスタの三角関係説が濃厚になってきている。

この展開での話の先は、あっけないほど簡単に想像できた。

想像できたけれど・・・―――だからといって、フィリップに出来る事など何もない。

「じゃあよ。俺たちで協力してやるか」

そうしてとうとう、その結論が男の口から飛び出した。

それに口々に賛成を示す面々の中で、フィリップ1人が最悪の展開に頭を抱えた。

自分はそれほど多く望んでいたわけではない。

ただの笑った顔を見て、時々話をして・・・―――そんな他愛無い、思春期のような恋愛を楽しみたかっただけだというのに・・・。

なのに何が悲しくて、恋敵とも言えるリカルドの応援をしなくてはならないのか。

「んじゃ、フィリップ。お前も協力してくれるよな」

遠い目をしながら哀愁を漂わせるフィリップの肩に、ポンと軽く置かれる同僚の手。

それにゆっくりと視線を向けて・・・。

「・・・あ、いや。その・・・」

「どうしたんだよ、フィリップ」

不思議そうに自分を見つめる同僚を見上げて・・・―――そうしてフィリップは力なさげに微笑んだ。

「・・・ああ、もちろん」

その返事を合図に、場は一層の盛り上がりを見せる。

それを遠巻きに眺めながら、彼はがっくりと肩を落とす。

 

これはある若き傭兵の、淡い恋の結末のお話である。

 

 

マジョリティに抗する程の勇気もなかった自分

 


第三者から見た、2人。

副題、フィリップの受難。

作成日 2008.2.16

更新日 2008.3.28

 

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