半年前の夜、絡んできた男をぶちのめしたという少女・と、薄暗い公園で男たちが転がる中、ある意味衝撃的な出会いをした半屋工。

自分を『見つけてみろ』と言ってのけた少女を、自分らしくないと思いつつも半年間探し続け、けれど一向に見つける事が出来ず苛ついていた。

そして実はあの夜の帰り道で車に跳ねられ、危うく臨死体験をしたという少女と再会したのは、つい最近の事。

お互いの想いを(一応)伝え合い、晴れて恋人同士となった2人。

その日から、半屋はある悪夢にうなされ続けていた。

 

サヨナラ

 

は非常にマイペースな人間だと、付き合い始めて一週間経った頃半屋は理解した。

文句なしに晴れた空の下、半屋はいつも通り授業には出ずに、いつもの場所でのんびりと空を見上げていた。

校舎裏にあるこの場所は、一般の生徒はめったに寄ってこない。―――なぜならば、ここに半屋がいるからだ。

時折柄の悪い連中が喧嘩を売りにやってきたりはするけれど、それ以外は実に静かなものだった。

もそんな静かなところが気に入ったのか、最近ではよくこの場所に顔を出している。

ここで半屋は、が半屋に会いたいからこの場所に来ているのかもしれないとは微塵も思わない。―――実際はがどう思っているのかは解らないが、そう思われるところがたる所以なのかもしれない。

今日も今日とて、半屋と同じように授業をサボってこの場所に来ているは、隣に寝ている半屋など気にした様子なく、真剣な表情で持参した文庫本に視線を落としていた。

そんなの様子を横目で窺いながら、半屋は小さく溜息を吐く。

溜息と同時にあくびが出た。―――最近寝不足気味なのだ。

「・・・どうしたの?」

文庫本に視線を落としていたが、そのままの体勢で半屋に話し掛けた。

「・・・・・・何が?」

「さっきからあくびばかりしてるから」

聞かれた意味が解らずに聞き返すと、そう簡潔な返事が返って来る。

気付いてたのかと内心驚きながらも半屋が適当に返事を返すと、「あっそ」とこれまた素っ気無い言葉が返って来た。

俺が寝不足なのは、誰が原因だと思ってんだ。

あまりにも自分に関心がないかのようなの態度に、少しばかりの苛立ちを感じながらも乱暴に寝返りを打った。

仮にも告白してきたのはの方からだというのに(とは言ってもその時点で半屋はに惚れていたのだけれど)、この態度はどういうつもりなのかと心の中で毒づく。

それでも決してそれらの文句を口にしないのは、半屋にしてみれば奇跡に近い。

だというのに、はそれを解っているのか解っていないのか、やはりいつも通りの飄々とした態度でパタリと文庫本を閉じると片手で目を抑えた。

「目がチカチカする」

「んなとこで読んでりゃ、当たり前だろうが」

さんさんと降り注ぐ太陽の光の下で本など読んでいれば、目が疲れるのは当然のことだ。

半屋のごく当たり前の指摘に「なるほど」と1つ頷いたは、そのまま立ち上がり半屋を見下ろす。

「どこ行くんだ?」

「教室。もうすぐ昼休みだから、教室で読むわ」

半屋を見下ろしたまま、は当然とばかりに言い放つ。

「じゃ、さよなら」

無表情のまま、文庫本を片手に踵を返したは、半屋の返事など待たずにその場を去っていく。

その後ろ姿を無言のまま見送った半屋は、重い重いため息を吐いてマットに力なく身体を預けた。

半屋がここ最近眠れない理由。

毎晩飽きもせずに見る悪夢の原因は、の去り際の挨拶にある。

『さよなら』

は別れ際、必ずそういうのだ。

『またね』でも『後でね』でもなく、『さよなら』。

これならまだ『バイバイ』の方が幾分もマシだと、半屋は心の中でひっそりと思う。

の挨拶は、まるで別れを告げられているような気分になる。―――いや、実際に別れを告げられてはいるのだが、半屋が感じているのはいつもの別れではなく。

夢の中で、は半屋に向かい『さよなら』を告げる。

それは挨拶の『さよなら』ではなく、拒絶さえ感じられる『さよなら』。

半年の間探し続け、そして漸く見つけた

何とか想いを通わし、こうして付き合うまでに至ったというのに・・・―――半屋の夢はいつもそんな2人の関係に終止符を打つ。

我ながら、なんて情けないんだと半屋は思う。

これほどまでにに執着し、失う事を恐れているなんて、今までの彼からは想像もつかない。

「・・・くそ」

力なく悪態をついて、ゆっくりと目を閉じた。

寝不足の半屋に襲い掛かる急激な睡魔。―――それに身を委ねたいと思いながらも、眠ればまたあの夢を見るのだろうと、そんなことを思う。

こんな夢を見るようになったのは、決しての挨拶だけが原因ではない事に半屋は気付いている。

付き合うことになってからも、付き合う以前(と言っても一回会っただけだが)と何ら態度が変わらない

あまり他人に関わろうとしないからすれば、普段よりも半屋と一緒にいる時間が増えている事は十分な意思表示なのかもしれないけれど。

けれどいつも崩れる事のない飄々とした態度や素っ気無い返答に、本当に自分のことが好きなのだろうかと疑ってしまうのも仕方のない事だった。

ゆるゆると意識が薄らいでいく中、半屋はぼんやりと思う。

にとって、自分はどれほどの存在なのだろうかと。

 

 

薄暗い場所に、半屋は1人立っていた。

ここはどこだろうと辺りを見回す。―――目に映る景色から、そこが初めてと会った公園なのだと解った。

「・・・・・・」

何気なく辺りを眺めていると、その場に1人の少女が現れた。

だ。

初めて会った時と同じように、ぼんやりと空を眺めている。

「・・・おい」

声を掛けると、はゆっくりと半屋の方へと視線を向けた。

向けられる表情のない顔に、無性に不安が募る。

するとは、寒気さえするほど冷たい目で半屋を見据えて『その言葉』を呟いた。

その冷たい目を、半屋は知っている。―――絡んできた男たちに向けた目と同じだ。

自分にとってどうでもいい相手に向けられる、無感情の目。

「サヨナラ」

口元に薄い笑みさえ浮かべて、ただ一言それだけを告げると、半屋に背中を向けてゆっくりと歩き出す。

「おい、待て!」

そう声を掛けてもは振り返らない。

咄嗟に伸ばした手は、しかしに触れる事無く空しく宙を掻いた。

「待てっつってんだろうが!!」

声を張り上げ力の限り怒鳴りつけても、は振り返らない。

!!」

絶望の中での名を呼んだと同時に、半屋は目を覚ました。

 

 

「うわっ!!」

すぐ近くでそんな声が聞こえて、半屋は荒い息のままそちらに視線を向ける。

額にはびっしりと汗をかいていた。―――それを拭って、驚いたように目を見開く見知った顔に、半屋は不機嫌そうな表情を浮かべる。

「・・・何の用だ?」

そこにいたのは、生徒会員のクリフ。

一体何の用で自分の所に来たのかと怪訝に思う中、クリフは気を取り直したかのように立ち上がり、必死の形相で半屋が驚くに足りる言葉を告げた。

ちゃんが、喧嘩してるんだ!!」

「・・・喧嘩だと?」

訝しげに聞き返す半屋に、クリフは焦れたように強引に半屋の腕を引いた。

あの半屋を相手に、緊急事態だからといってこんな事ができるのは彼くらいだろう。

そして、だからこそクリフが半屋を呼びに行く役目を与えられたのだが・・・。

「いいから、とりあえず来て!!」

有無を言わさぬクリフに、半屋は渋々腰を上げた。

 

 

クリフに強引に引っ張られて向かった先は、校庭。

眠っている間にいつの間にか授業は終わっていたらしい。―――部活動を行う生徒たちの姿がちらほらとそこらに見られた。

そんな中、校庭のちょうど真中辺りに、異様な人だかりができている事に半屋は気付いた。

「ちょっと!ちょっとごめん!!通して!!!」

クリフが声を荒げて人ごみを掻き分ける。

そんなクリフの声を聞いて振り向いた野次馬たちは、彼と共にいる半屋を見るや否や恐怖に顔を歪ませながら逃げるように道を開けた。

「ああ〜、もう始まってる!!」

野次馬たちの最前列に来た頃、クリフが脱力したように呟いた。―――それに引かれて、半屋もクリフの視線の先を目で追った。

「・・・あいつ、何やってんだ」

野次馬たちに囲まれた、まるで特設リングのような状況。

そこにいた人物に、半屋は思わず呆然とその光景を眺めた。

半屋の彼女である。―――彼女と向き合っているのは、半屋も見覚えのある人物。

明稜四天王・御幸鋭児。

御幸は鋭い視線をに注ぎ、四天王と呼ばれるだけはある強さで以って、に彼女(彼?)最大の攻撃である蹴りを繰り出していた。

自分に向かって繰り出される攻撃には大して驚いた様子もなく、いつもの如く飄々とした態度でその攻撃を避けている。

そしてその応酬を楽しそうに笑みを浮かべながら見ているのは・・・。

「・・・梧桐」

半屋の搾り出すような憎々しげな声に、クリフは僅かに身を竦めた。

「何でこんなことになってんだよ」

そんなクリフにこれ以上はないほど鋭い視線を向けて、半屋は今にも掴みかからんばかりの勢いで問う。

「・・・実は御幸ちゃんがちょっと誤解しちゃったみたいで」

別に自分が悪いわけでもないというのに、クリフは恐る恐るそう答える。

ここで下手なことをすれば、明日の無事は保証されないと知っているからだ。

クリフの説明によると、ホームルームが終わると同時に、梧桐がを生徒会室に呼び出したらしい。―――あの明稜帝と親しいの存在に驚いたクリフと青木は、が梧桐と香澄の幼馴染だと聞いて納得したのだが・・・。

そこにいつもの如く、御幸が梧桐に会いに生徒会室にやってきた。

鉢合わせたと御幸。

最近明稜に帰って来た御幸が、最近まで入院していたの存在を知るわけもなく。

面白がった梧桐は、を『一番親しい女』だと御幸に紹介した。

そしてキレた御幸が、に決闘を申し込み現在に至ると。

「・・・梧桐の野郎」

強く拳を握り締めて、半屋は梧桐を睨みつける。

ニヤニヤと笑みを浮かべる梧桐と目が合った。―――すると梧桐は更に笑みを深くさせる。

半屋は解っていた。

梧桐が自分をからかっている事を。

暇つぶしの材料にされているという事を・・・―――だからこそ、ここで自分が割って入れば、彼を喜ばせるだけだろうという事も。

けれど我慢など出来る筈もなかった。

元々あまり気が長い方ではないのだ。

あの梧桐に・・・あの一番気に食わない笑顔を浮かべる梧桐を前に、黙っている事など出来るわけもない。

それ以上に、が梧桐の女だと思われていることが気に食わなかった。

「退け!」

半屋は自分の前に立つクリフを強引に押しのけると、戦いを繰り広げる2人の元へと足を踏み出した。

 

 

どうしたものかと、は繰り出される強烈な蹴りを避けながらぼんやりと思った。

御幸が何に対して怒っているのか、それは理解しているつもりだ。

しかしと梧桐の間に、御幸が心配するような関係は勿論無い。

けれどそれを言っても納得してなどくれないことは見れば解るので、はひたすら無言を通した。―――無駄な事はしない主義だ。

それが御幸の誤解を更に煽っているのだとは、人の感情の機微に疎いに察せられる筈もない。

「このアマ!」

御幸の怒声と共に、蹴りが繰り出される。―――それを紙一重で避けると、耳元で風を裂くような音が鳴った。

この蹴りを食らえば、また病院に逆戻りだろうか?なんて呑気なことを考える。

「何で反撃してこないわけ!?」

尚も攻撃を続けながら、御幸が不機嫌そうにに問うた。

「だって・・・攻撃する理由が無いもの」

「何ですって!?私はライバルにもなりえないとでも言いたいつもり!?」

「・・・そんな事、言ってないし」

更に怒りのボルテージを上げた御幸に、は困ったように呟く。

以前のならば、例え相手が誰であろうと向かってくれば叩き伏せていた。

『反撃する理由』なんて必要ない。―――にとって相手に必要なのは、『攻撃しない理由』だ。

その『攻撃しない理由』が、にはあった。

御幸が梧桐に想いを寄せている事に、鈍いと称されるも気付いている。

そして御幸が自分に攻撃してくる理由が、それに関係しているという事も。

はそんな御幸の気持ちが解るから、攻撃しないのだ。

以前のなら解らなかっただろう。―――誰かに恋する気持ちというものを。

一見そうは見えなくとも・・・例え相手にそれが伝わってなくとも、は確かに恋をしていた。

もし半屋に誰か別の相手が現れたら、も御幸と同じ事をするかもしれない。

いや・・・・・・実際そうなったとしても、は御幸と同じ事はしないだろうが。

けれど・・・―――御幸の気持ちが多少なりとも理解できるから、はただ攻撃を避けるに留めているのだ。

例え御幸の勘違いから始まった事なのだとしても。

だからこそ、こちらまで喧嘩を始めるわけにはいかない。

「勢ちゃんは、私のものなのよ!!」

御幸の声に、はぼんやりとしていた思考を現実に引き戻す。

それと同時に、今までとは違う攻撃に思わず体勢を崩した。―――振り回された鞄を慌てて避け後ろにふら付いた身体に向かい、ニヤリと笑みを浮かべた御幸から渾身の蹴りが放たれた。

喧嘩を始める前に、クリフが言っていた言葉を思い出す。

御幸の靴の踵は、鉄で出来ているのだと。

普通の蹴りなら吐き気がするほどの苦しさで済むだろうが、いくらでも鉄で出来た靴の攻撃を受ければ一たまりも無い。

内臓破裂か、それとも肋骨が折られるか。

なんにせよ、長期の入院は確実だろう。―――などとまるで他人事のように思いながら、はボーっと自分に向かってくる蹴りを眺めていた。

ガァン!!

まるで蹴りがヒットしたとは思えない音が辺りに響く。

は驚きに目を見開いた。

予想していた痛みは無かった。―――何故ならば、の腹に入るはずの蹴りは、突然現れた半屋によって防がれていたから。

「・・・半屋君」

「てめぇ、何やってんだよ」

視線を御幸に向けたまま問い掛ける半屋に、は少しばかり考える仕草を見せた。

「何って・・・見ての通りだけど」

「見ての通りじゃねぇ」

やはりあまり感情の篭らない口調で返すに、半屋は怒りを込めて呟く。

そして思わぬ人物に攻撃を防がれ驚きに目を見開く御幸を睨みつけて、受け止めた蹴りを乱暴に振り払った。

「ちょ・・・なんで邪魔するのよ、半屋君!!」

抗議の声を上げる御幸を無視して、半屋は乱暴にの腕を掴む。

そして・・・―――未だにニヤニヤと笑みを浮かべる梧桐に向かい、半屋は野次馬たちに聞こえるほどの大声で宣言した。

「こいつは俺の女だ!!」

辺りがシンと静まり返る。

そんな居心地の悪い空間から逃げ出すように、半屋は掴んだの腕を乱暴に引いて歩き出す。

背後から聞こえる梧桐の高笑いと、何がなんだか解らない御幸の叫び声を聞きながら、は自分の腕を掴む半屋を見て微かに微笑んだ。

前を見詰めて早足で歩く半屋には、その笑みは見えなかったけれど。

 

 

「どういうつもりだ!!」

「・・・どうって?」

「何で否定しねぇんだよ!!」

無抵抗のをいつもの場所に連れてきた半屋は、振り返りざまにそう怒鳴りつけた。

それに何のことだか解らないと言った風に首を傾げるに、怒りは更に募る。

そんな半屋を見て、は深い溜息をついた。

「言っても納得してくれないと思ったから」

あっさりとの口から出てきた言葉に、半屋は絶句する。

それが何か?とでも言いたげなに何も言う事が出来ず、半屋は力なくその場に座り込んだ。

そんな半屋の頭上から、の声がポツリと落ちる。

「手、大丈夫?」

「・・・ほっとけよ」

「骨、折れてるんじゃないの?」

「うるせぇ!!」

思わず怒鳴ると、の声はピタリと止んだ。

無言の中、ただの視線だけを感じながら、半屋は冷静になろうと心を宥める。

けれど冷静になろうとすればするほど、気持ちは焦る一方で。

ふと不安が募る。―――もしかしたら、はこのまま去ってしまうのではないか?

また『さよなら』を告げて、自分の前からいなくなってしまうのではないかと。

今の半屋に、それに耐えられる自信はなかった。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

無言のまま、時間だけが流れる。

しかしが立ち去る様子はなかった。―――無言で半屋を見下ろしたままだ。

訝しげに半屋が微かに顔を上げると、そこには穏やかに微笑むの笑顔がある。

「・・・何で笑ってんだよ」

「嬉しいから」

簡潔に返って来た言葉に小さく首を傾げる。

するとは、より一層嬉しそうに笑みを浮かべて一言呟いた。

「だって、ヤキモチを焼いてくれたんでしょう?」

その言葉に、半屋は思わず目を丸くする。―――次の瞬間、顔が真っ赤に染まった。

「なっ!!」

二の句が告げずに、口をパクパクする半屋に嬉しそうに微笑んで、は座る半屋の横に腰を下ろした。

と一緒にいるようになって一週間。

彼女がどれほどマイペースな性格をしているか、半屋は理解している。

そして・・・が他の人間の前では滅多に表情を崩す事がないことを、半屋は漸く理解した。

自分だけに見せてくれる表情の変化。

それは自惚れでもなんでもなく、の解り辛い愛情表現なのだと今更ながらに思う。

「・・・嬉しいかよ」

「とても」

頭を抱えたまま不本意そうに聞く半屋に、はキッパリとそう答えた。

なんて厄介な女に惚れたのだろうかと、半屋は今更ながらに悪態をつく。

けれど後悔なんて微塵もしていないから、救い様がない。

「半屋君は安心だね」

唐突に漏れたの言葉に、半屋は無言で視線を向ける。

その視線を受けて、は飄々と呟く。

「だって半屋君はガン飛ばしまくるから、女の子は怖がって近づいて来ないもの」

だからヤキモチを焼かずに済むと、は笑った。

「・・・納得いかねぇ」

「そう?」

「俺ばっかり割に合わねぇ・・・」

半屋の呟きに、はより一層笑みを深める。

そんなの笑顔を見ていると、今までの不安が嘘のように消えていくみたいで。

やっぱり割に合わないと、半屋は思う。

「手、大丈夫?」

再度尋ねられて、半屋は自分の手に視線を向けた。

赤くなってはいるが、目立った怪我はない。

「・・・大した事ねぇよ」

「よかった」

言葉通りホッとしたようなの口調に、半屋はの身体を引き寄せた。

自分の腕の中の確かな存在に、安堵しながら。

「・・・おい」

「なに?」

「『サヨナラ』って言うの止めろ」

唐突なその言葉に、は訳が解らず首を傾げる。―――そんなに、半屋は強く抱きしめながら乱暴な口調で言葉を続けた。

「別れ際に、『サヨナラ』って言うの止めろっつってんだよ」

「・・・じゃあ、なんて言えば良いの?」

「何でも良い。・・・・・・『サヨナラ』以外なら」

控えめな半屋の主張に、は考え込むように1つ頷く。

どうして半屋が挨拶に拘るのか、には解らない。

会った時には『おはよう』と言い、別れる時には『さよなら』と言う。

それが当たり前なのではないかとは思うし、今までそれに対して何かを言われた事は一度もない。

半屋が何に拘っているのか、には解らない。

解らないけれど、わざわざそう言うということは、半屋にとっては何か特別な意味があるのだろう。

「解った」

考えた末、は承諾の意を伝える。

それに対して半屋が安堵したようにホッと息をつくのを、不思議そうに眺めながら。

「・・・変なの」

ポツリと呟いた言葉に、半屋が少し眉を顰めたのをは知らない。

その日の別れ際、は約束通り挨拶を交わした。

「また、明日」

向けられた言葉に、半屋は満足そうに微かに口角を上げる。

もう、悪夢は見ない。

 

―――かもしれない。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

どんな終わり方だ。(汗)

やっぱり半屋が半屋じゃない。どうせなら単行本読み返してから書けよ、みたいな。

そしてヒロインがどんどんと変わっていく気が・・・。(気のせいじゃないし)

書くつもりは無かった続編。―――この2人の付き合いは、この先もきっとこんな感じで半屋が振り回されるんでしょう。

クリフが梧桐の事をなんて呼ぶのか解らなくて、セリフの一部を変えたという事は誰にも言えません。(言ってるし)

作成日 2004.7.23

更新日 2008.9.29

 

戻る