人には決して越えられない壁というものがある。

それは年齢だったり、性別だったりして・・・。

どれだけ努力しようとも、それらは絶対に取り除かれる事はなく。

いつまでもいつまでも、あたしの前に立ちふさがっているんだ。

そう、それはまるで・・・。

 

フェンスの向こう

 

「・・・よいしょっと!」

まだ若いというのに、おばさんのような掛け声をかけて、あたしはサッカーボールが山ほど積まれた籠を抱え上げた。

あたしは久保。―――名前からも分かるように、掛川サッカー部の主将・久保嘉晴の妹にして、掛川サッカー部のマネージャーでもある。

子供の頃からサッカーばかりしていたお兄ちゃんの影響を受けて、何故かあたしの周りもサッカー関係者ばかり。

気がつけばどっぷりとサッカーの世界に足を踏み入れていて、そう簡単には抜け出せないところまで来ていると察したのはいつの頃か。

ともかくも、あたしは当然のように掛川高校に入学し、そして当然のようにサッカー部のマネージャーをさせられている。

まぁ・・・『させられている』なんて言ってみても、サッカー部のみんなの事、あたし好きだし。

お兄ちゃんは、あたしがマネージャーをする事に関して当然と思っている節があるにせよ、強制されたわけではなくて・・・寧ろ自主的なところがあるから文句も言えない。

いろいろ言ったけど、結局は。

サッカーが好きなんだ、あたしは。

 

 

だけど・・・だからこそ、ふと思うことがある。

どうしてあたしはここにいるんだろう、って。

なんでなのかな?昔はあたしもお兄ちゃんと一緒にボールを追いかけてたのに。

サッカーの技術だって、サッカー部のメンバーに引けは取らないのに。

いや、それはあたしが女の子だからなんだけど・・・それは分かってるんだけど。

やっぱり、ちょっと悔しいのも事実で。

「・・・なにやってんだ?」

不意にかけられた声にびっくりして、持ってた籠を落としそうになる。

勢いよく顔を上げれば、すぐ近くには神谷さんの顔が・・・。

神谷篤司。―――お兄ちゃんの親友で、1つ上の先輩で、サッカー部の副主将で、あたしの・・・彼氏でもある人。

あたしはボーっとしてた事を気付かれないように小さく深呼吸して、それから神谷さんににっこりと微笑みかけた。

「どうもしないよ?」

「・・・そうか?」

「そうです。それよりも・・・もうそろそろ練習始まるんじゃないの?」

未だ疑わしそうな表情であたしの顔を覗き込んでいる神谷さんに、視線でグラウンドを差すと、神谷さんも同じようにグラウンドを見た。

そこには既にサッカー部の主な選手が集まって、柔軟をしている姿がある。

それを目に映してから、再びあたしに視線を戻して・・・。

「ボールがないと練習になんねぇだろ?」

呆れた口調で呟いた。

ああ、そうですね。

そのボールを取りに来たんだよ、あたしは。

あたしは腕に抱えてるボールの入った籠を胸の高さぐらいあるフェンスの上まで何とか持ち上げて、それを無言で見ている神谷さんに押し付けた。

「・・・・・・俺に持っていけってか?」

「早く練習したいんでしょ?」

有無を言わさずにっこりと微笑めば、神谷さんは小さくため息を吐いて。

だってこのフェンスどこまで続いてると思ってるの?

自慢じゃないけど、それほど力があるわけじゃないのよ、あたしは。

これを入り口まで運んでたんじゃ、どれだけ時間がかかるか。

グラウンドの入り口まで約300メートル。―――15分はかかると思ったほうがいいね。

「ちっ、しゃーねぇなぁ・・・」

何だかんだ言っても、神谷さんは結構優しい。

口は悪くて目つきも・・・お世辞にも良いとは言えないけど、実はあたしに甘い事も知ってる(そしてそれを大いに活用させてもらってる)

神谷さんは面倒臭そうにそう呟くと、フェンスの上で微妙な安定を保っているボールの入った籠をいともあっさりと持ち上げた。

ああ、神谷さんは力持ちだね。

あたしが運ぶのにも苦労する籠を、いとも簡単に持っちゃうんだから。

これが男と女の差なんだろうか?

ううん、そんなこと思うこと自体、あたしは甘えてるんだ。―――女であるということに。

ぼんやりと籠を運ぶ神谷さんの背中を見つめる。

―――と、歩いていた神谷さんはピタリと足を止めて振り返り。

「おい、何やってんだよ。さっさと来い」

あたしに向かい、そう言った。

ふと、前にあるフェンスを目に映して。

それに気付いた神谷さんが、当然のことのように口を開いた。

「それくらいなら乗り越えられんだろ?」

胸の高さくらいしかない、緑色のフェンス。

小さい子供ならまだしも、高校生ともなれば神谷さんの言う通り、これくらい何の障害にもなってなくて・・・。

だけどあたしはそのフェンスの上に静かに手を置くと、自分の手の甲を見つめた。

「・・・そうかな?」

呟いた言葉は、神谷さんに届いただろうか?

「・・・なにが?」

聞こえてたらしい。

顔を上げると、こちらを怪訝そうに見る神谷さんの顔。

それがなんだか可笑しくて・・・だけど、悲しくて。

誰に言うでもなく、ポツリと呟いた。

「神谷さんが思ってるより、このフェンスは高いんだよ?」

そう・・・・・・あたしにとっては、とてつもなく高い。

決して越えられない。

どんなに望んでも、どれだけ努力しても。

この向こうにある世界に、あたしは足を踏み入れることは出来ない。

この向こうにある世界に、あたしの居場所は・・・どこにもない。

お兄ちゃんや神谷さんたちと一緒にボールを追いかける事なんて、できないんだ。

「・・・?」

窺うようにあたしの名前を呼んだ神谷さんに精一杯の笑顔を送ると、300メートル先にある入り口に向かってゆっくりと歩き出した。

 

 

「何ボーっとしてるんだ?」

頭上から降り注ぐ声に、あたしはゆっくりと顔を上げた。

部活が始まって30分。―――あたしはグラウンドの傍のベンチに座って、ぼんやりと自分の足元を見ていただけで。

ようするに、サボってるわけなんだけど・・・。

あたしの声をかけてきたのは、サッカー部の主将であるお兄ちゃん。

お兄ちゃんはサッカーボール片手に、苦笑してあたしを見下ろしている。

「・・・別に?」

「別に、か。そうは見えないけどな・・・」

そう言うや否や、お兄ちゃんはあたしの隣に勢いよく座りこんで。

ベンチから、グラウンドで懸命に練習に励んでいるサッカー部員たちを眺めた。

ああ、トシがまたボールをとんでもないところに飛ばしてる。

和広と新田くんは一生懸命ボールを取り合ってるし。

健二は・・・・・・もう、ケンカばっかり。

一美もマネージャーの仕事なんて二の次で、トシに絡んで・・・。

まぁ、それを言えばあたしだってこんな所でサボってるんだけど?

そう言えば洗濯物溜まってたなぁ・・・。

買出しにも行かなきゃ・・・消毒液もバンドエイドも切れてるし。

部室もかなり汚くなってきたから、そろそろ掃除しなきゃ。

――――――なにやってるんだろう、あたし。

思わず出た深いため息に、隣に座っているお兄ちゃんの小さく笑う声が聞こえた。

それを恨めしげに見ると、お兄ちゃんは慌てて口を抑えて。

「・・・何?」

「いや・・・何でも?って時々すごくやる気なくす時があるなぁと思ってね」

やっぱり堪えきれずに笑い出したお兄ちゃんを無視して、あたしはもう一度ため息を吐いた。―――多分お兄ちゃんは分かってる、あたしが何を考えているのか。

立ちはだかる壁。

越えられないフェンス。

絶対に手に入れられない、光り輝く世界。

―――別にさ、毎日こんな事思ってるわけじゃないのよ。

マネージャーって言っても結構大変な仕事で、普段はそんなこと考えてる暇もないくらい忙しくて・・・。

だけどさ、今日みたいにぽっかりと空いた時間ができるとね・・・ふと思う。

なんていうのかな・・・・・・上手く言えないんだけど。

すぐ傍にいるのに、寂しいっていうか。

疎外感・・・っていうの?

一緒に頑張ってても、笑ってても、悔しがってても。

いつもあたしは蚊帳の外にいるみたいで・・・。

試合にしても、あたしはただ見てることしか出来なくて。

悔しい・・・そう、とても。

あたしは・・・うん、あたしはね。

「・・・お兄ちゃんに・・・なりたかった」

思っていたことが、思わず口をついて出た。

言ってしまってから、あたしはしまったと思った。

これは言ってはいけない言葉。―――お兄ちゃんを、とても傷つけてしまう言葉。

恐る恐るお兄ちゃんの顔を覗き込むと、案の定寂しそうに笑みを浮かべていて。

謝りたかったけど、何でか言葉が出てこなくて。

その内にお兄ちゃんはいつも通りの表情を取り戻して、あたしの頭をクシャリと撫でた。

「・・・お兄ちゃん・・・ごめん・・・」

「気にしてないよ」

ようやく出てきた謝罪の言葉は、お兄ちゃんの優しい声に遮られて。

泣きたくなった。―――自分の勝手さ加減に。

「さてと、俺はそろそろ練習に戻るよ。主将がいつまでもサボってるわけにはいかないからな」

「・・・うん」

「お前は今日はゆっくりしてろ。たまにはそういうのもいいだろう?」

「・・・・・・ありがとう」

小さくお礼を言うと、お兄ちゃんはにっこりと笑顔を浮かべて、もう一度あたしの頭を撫でた。―――そして一言。

「神谷の奴が心配してたぞ?」

そう言い残して、あたしが言葉を発する前にグラウンドに向かって歩き出した。

後ろ手に手を振って、明るい光の中へ。

あたしは眩しいその背中をじっと見詰めていて。

ごめんね、お兄ちゃん。

お兄ちゃんの気持ちも考えずに、あたしは残酷な言葉を吐いた。

だけど・・・あの言葉はあたしの嘘偽りない本音なの。

あたしはお兄ちゃんになりたかった。

ううん、別にお兄ちゃんじゃなくてもいい。―――男の子になりたかった。

そうすればあたしは、お兄ちゃんや神谷さんと一緒に戦える。

いつでも傍で、力になることができる。

男の子にさえなれれば、その世界が手に入ると・・・あたしはそう信じていたんだ。

だけど所詮それはないものねだりで。

あたしはどうあがいたって女の子で・・・―――男子サッカー部の選手にはなれなくて。

そこに・・・あたしの居場所はなくて。

それは仕方がないってこと、十分にわかってるからさ。

たまには・・・ちょっと落ち込んだって・・・ヘコんだっていいでしょ?

明日からはちゃんとするからさ。

きっと明日からは、そんなこと考える間もなく動き回ってるだろうから。

今日くらい・・・許してよ。

あたしはゆっくりとした動作で立ち上がると、グラウンドで練習をしているサッカー部員たちを眺めて。

あたしはその場を去った。

今日くらい、サッカーに関係のないところにいたかった。

 

 

そのまま学校の屋上に向かって、あたしは不貞寝を決め込んだ。

聞こえてくる運動部の元気な声と、吹奏楽部の聞き覚えのある音楽をBGMに、あたしはゆっくりと目を閉じる。

だけどそう簡単に眠れるわけもなくて。

特に胸の中にもやもやしたものを抱え込んでる時は、なおさらで。

結局何をするでもなくぼんやりと空を眺めていたら、いつの間にか青かった空は赤く燃えるような色に変化していた。

運動部の声も、吹奏楽部の音楽も聞こえない。

辺り一帯が妙に静かで―――もちろん風の音とか葉が揺れる音とか聞こえてくるんだけど、それさえも静かに思えて。

まるでこの世にあたし1人何じゃないかって気さえしてくる。

ああ、結構やばいよあたし。病んできてるかも・・・。

そう自分にツッコミをいれて・・・―――さぁ、そろそろ帰ろうかな?と思ったその時に、あたしはようやく気付いた。

鞄を・・・部室に置き忘れてきたということに。

お兄ちゃんが気付いて持って帰ってくれないかな〜?なんて期待を抱いてみるけど、期待通りにならなかったときが大変だ。

あたしは渋々部室に向かって歩き出す。

時計を見ればもう7時過ぎ。―――思ったよりも時間が時間でびっくりした。

夏は時間を計るのが難しい・・・まだ6時くらいかと思ってた。

でもまぁ、この時間ならみんな帰ってるでしょ。

今日はみんなに会わずにすむ・・・なんて。

別に会いたくないわけじゃないんだけどね、会ってもどう対応していいか分からなくなりそうで・・・ってあたし誰に言い訳してるのよ。

重い足取りで部室についた頃には、うっすらと暗くなり始めていて。

やっぱりというかなんというか、グラウンドには誰もいなかった。

部室に入って自分のロッカーを開けて鞄を取り出す。

やっぱりお兄ちゃんは持って帰ってくれなかったんだ。―――何てことを思った時。

ポーン!

部室の外で、軽くボールの跳ねる音が聞こえた。

まだ誰かいるの?

野球部?バスケ部??

考えて、そのどれでもない事に思い当たる。

だって、あたしは今サッカー部の部室にいるのよ?

何で部室の鍵が開いてるの?

みんな帰って誰もいないなら・・・鍵がかかってるはずなのに・・・。

ポーン!

また聞こえてきた。

今度ははっきりと、それがサッカーボールの音だってわかる。

あたしは持っていた鞄を机の上において、視線をドアの方に向けた。

誰が残ってるのか、想像ができる。

ううん、それはあたしの願望で・・・だけど間違いないと思えるのは何でだろう?

あたしは妙な確信を持って、部室を出た。

さっき見たときには誰もいなかったグラウンドに、1つの影。

「・・・神谷さん」

呟いたその名前が、あたしの中で大きく響いた。

それが聞こえたわけではないだろうけど、神谷さんはふと顔を上げて。

何気なくあたしの方に顔を向けた。

「・・・よお」

「・・・・・・何やってるの?」

「自主練。見れば分かるだろ?」

とサッカーボールを器用に操って。

それはあっさりと神谷さんの手の中に収まった。

「・・・1人で?」

「ああ。久保の奴、今日は用事があるとか言っててよ・・・」

言われて思い出す。

そうだ、あたしも付いていこうと思ってたのに・・・自分のことで頭の中がいっぱいで忘れてた。

あんまりにも薄情な自分に、思わず苦笑する。

それを怪訝そうに見ている神谷さんは、小さくため息を零して。

「お前はなにやってんだ?」

逆にそう聞き返してきた。

「・・・何って」

聞かれても困る。―――だって何をしていたわけでもないんだから。

あたしはゆっくりとグラウンドに近づいて、フェンスの前で立ち止まった。

このフェンスの行く手を阻まれるのは、今日で二度目だ。

フェンスに手を付くと、カシャンと小さな音が鳴った。

「なぁ、

急に名前を呼ばれて顔を上げると、さっきと同じ場所に立ったままの神谷さんがあたしの方を見ていて。

けれど夕日が逆光になっていて、その表情は見えない。

「・・・何?」

「久しぶりにしないか、これ?」

神谷さんはそう言うと、手に持っていたサッカーボールを軽く上げた。

「あたし・・・制服なんだけど・・・」

「じゃあ着替えてこいよ」

あっさりと言い返される。

別に制服でも良いんだけどね。―――多分そう思ってることは気づかれてるんだろうけど。

「ほら、やろうぜ。こっちこいよ」

誘うカタチの言葉なのに、どこか有無を言わさない雰囲気。

あたしは反論する事を諦めて、グラウンドに入ろうと入り口に足を向けた。

「おい、!」

「・・・何?」

「わざわざ回ってくるつもりか?そこ飛び越えちまえよ」

そこ・・・と視線で差されたのは、緑色のフェンス。

「・・・無理だよ」

「無理じゃねぇって。たいした高さじゃねぇんだから・・・」

神谷さんは、分かって言ってるんだろうか?

あたしが高々胸の高さしかないこのフェンスに、拘っていることに。

どうなんだろう・・・判断できない。

「ほら、さっさと来い」

言われて渋々フェンスに手をかける。

冷たいその感触。

あたしは手に力を入れて、フェンスの足をかけると一気にそれを飛び越えた。

フワリと宙に浮く身体。―――目に映る景色が、スローモーションで。

着地して振り返ると、後ろにはいつもあたしの行く手を阻んでいたフェンスがある。

あっさりと飛び越えてしまった。

それはそうだ。だってあたしは本当にこのフェンスを飛び越えられないんじゃなくて。

それはあたしの心の問題。

本当にあたしを阻んでいたのは、心の中に立つ大きな壁。

このフェンスは、物理的には何の障害にもなっていない。

「飛び越えられたじゃねぇか・・・」

不意に近くに気配を感じて振り返ると、いつの間にか神谷さんがすぐ傍に立っていた。

「な、簡単だったろ?」

そう言って笑う神谷さんが、どういう意味でそう言っているのかやっぱり分からない。

分からなかった・・・けど。

頭の上に置かれた手が温かくて、なんだか泣きたい気分になった。

胸の中はさっきと比べてすっきりしてる。

物理的には何の障害にもなってなくても、それを飛び越えるだけでこんなにも気が楽になるものなんだろうか?

それとも、ここに神谷さんがいるからそう思うの?

なんてことを考えていたら、急に腕を引っ張られて。

気がつけばあたしは神谷さんの腕の中にいた。

「か、神谷さん?」

「・・・ちょっと黙ってろ」

小さな声でそう言われて思わず押し黙る。

こんな展開、びっくりだ。

だって神谷さんってかなり照れ屋で、しかも頑固って言うか硬派っていうか・・・普段はこんな風に抱きしめてくれたりする事めったになくて。

こっそりと神谷さんの顔を覗き込めば、その顔は真っ赤に染まってて。

それは決して夕日が赤いからだけじゃなくて、思わず笑みが零れた。

それと同時に何でか涙まで零れてきて・・・―――あたしは神谷さんの胸を借りて、少しだけ泣いた。

 

 

「田仲俊彦く〜ん?」

「・・・は、ハイ」

目の前で小さくなるトシに、あたしは一枚の紙を突き出した。

そこには3やら5やら不規則な数字が並べられていて。

「これが何かわかる?」

「え・・・え〜っと」

視線を泳がせて口ごもるトシに、あたしは極上の笑顔を浮かべて言った。

「これはね、あなたが今月ダメにしたボールの数よ」

「あ・・・あはははは」

「笑い事じゃないっ!!」

そう一喝すると、トシは再び小さくなって素直に謝った。

「トシ・・・あなたの左足、威力があるのは十分に分かったから、もう少しコントロールを身に付けてちょうだい」

サッカーボールって結構高いのよ?

校長に直々に掛け合ってサッカー部の部費はそれなりにもぎ取ってるけど、お金なんていくらあっても足りないくらいなんだから。

わざとじゃないから仕方ないけど、たまには言い聞かせておかないと・・・。

「そうだ、そうだ。や〜い、怒られてやんの!」

「一美もちょっかい入れない」

それも愛情表現の1つだって事は分かってるけどね。

あなたも人の事いえないよ・・・マネの仕事してないんだから・・・。

「ごめん、。今度から気をつけるから・・・」

「なんだよ、。いいじゃんか、トシにはこれくらい言った方がちょうど良いんだって」

「一美ちゃ〜ん?そろそろマネの仕事やってくれないかしら〜?」

「・・・悪かったよ」

にっこり笑顔でそう言えば、一美も案外素直に謝ってくる。

なんでかしら?脅してるつもりは・・・多少はあるけども。

「お前ら何してる!さっさと練習始めるぞっ!!」

今まであたしたちの言い合いを黙ってみていた神谷さんが、グラウンドに響き渡るほどの大声でそう叫んだ。

それに反応して、トシが慌ててグラウンドに戻っていく。

それを見送って・・・―――あたしはやんわりと微笑んだ。

あたしの前には、越えられないフェンスが今もある。

だけどそれは、逆にいつでも越えられるような気もしていた。

確かにあたしは女で・・・だからみんなと一緒にサッカーをしたりは出来ないけど。

居場所がないわけじゃないと、今ではそう思える。

眩しいほどの世界も、手を伸ばせば触れられる気がした。

それでもやっぱりヘコんだりするときもあるけど、その時はまた飛び越えればいい。

その向こうで、きっと神谷さんは笑ってあたしを待っていてくれるから。

「お〜い、?仕方ないからマネの仕事してやるよ・・・」

渋々といった感じでそう言う一美ににっこりと笑いかけて。

あたしは籠いっぱいに溜まった洗濯物を、全部一美に押し付けた。

ずっとサボってるんだから、たまには働いてもらわないとね。

 

 

あの日。―――神谷さんの腕の中で泣いた、あの日。

「やっぱり好きだなぁ・・・神谷さん」

そう呟いた時、神谷さんの顔が真っ赤に染まった事は、あたしだけの秘密です。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

神谷ドリのはずが、妙に久保が出張ってたり(でも名前はほとんど出てないし/汗)寧ろドリームじゃないような?最後の方だけ無理やりこじつけた・・・みたいな(笑)

名前もほとんどうろ覚え状態で書いたので、かなり偽物度アップですがいかがでしょう?

作成日 2004.2.3

更新日 2008.3.22

 

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