帝国華撃団・月組の本部は今、大変な賑わいを見せている。

「ねぇねぇ、隊長の『理想のタイプ』ってどんな人ですか!?」

原因はこれだ―――休憩時間をのんびりと過ごそうと思っていた俺を、が無理やり休憩室に引っ張りこんで・・・・・・そして唐突にこの話を切り出した。

休憩室には俺と以外の月組隊員の姿もあって―――久々に一緒の休憩時間になったも、に強引に連れられてそこにいた。

の話を聞いているのか、いないのか・・・黙々と分厚い本を読んでいる。

半ば伏せられた瞳。

目元に落ちる長いまつげの影と真剣なその表情に、思わず目が奪われた。

「ちょっと、隊長!?目で訴えても駄目だからね。ちゃ〜んと言葉で言わなくちゃ!」

からかうように笑う―――なんだ、何が言いたいんだ?

俺は別にのことが好きだなんて・・・・・・って、何でそうなる?

俺はただ純粋に、のことを副隊長として信頼しているだけだ。

そこに恋愛感情は・・・・・・・・・ない・・・と思う。

 

の病

 

「ねぇ〜、隊長の『理想のタイプ』は〜?」

しつこく追求してくるを心の中で睨みつけて、しかし俺は極力口調を和らげる。

「い・・・いやぁ、この世には可愛い女の子がたくさんいて・・・難しいなぁ〜」

「もしかして隊長って女の子なら誰でもいいとか?」

途端とんでもない事を言い出して、俺は慌てて否定をするとため息を吐いた。

というか、今の俺はそれどころじゃないんだよ!

グルグルと混乱する頭を何とか落ち着かせようと、何度も深呼吸を繰り返す。

俺はまさか・・・のことが好きなのか?

いや、好きなのは好きだ。大切な月組の隊員だからな。

しかしそれが1人の女性として・・・となると・・・・・・・う〜、分からん!!

思わず頭をぐしゃぐしゃとかき回していると、標的を俺からへと変えたが再び楽しそうに笑みを浮かべる。

「じゃあ、さんの『理想のタイプ』ってどんな感じですか〜?」

その言葉に、思わず考え事も吹っ飛んでを見る。

って、これじゃあまるで俺が気にしてるみたいじゃないかっ!!

俺のそんな心の葛藤などまるで知らないは(知られたら逆に困る)読んでいた本から顔を上げて、少し考え込むとにっこりと微笑んだ。

「そうね。人に威張り散らしたりせず、努力を惜しまない。もちろん男女差別なんて持っての外。あとは・・・私より強ければ言う事ないわ」

次々と上げられていく条件に、俺は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。

「隊長、汚い〜!!」

声を上げるを無視して、できるだけ平静をよそってを見た。

なんていうか・・・その条件もかなりすごいが・・・。

「でも意外。さんが『理想のタイプ』にきっちり返答してくれるなんてさ。あたしはまた『そんなこと考えた事もない』とか言うと思ってたのに・・・」

そう、それだ!

はあんまりそういうのは興味なさそうに見えたから、逆に答えが返ってきたことに驚きを感じる―――しかも。

「それになんか具体的。もしかして・・・その『理想のタイプ』って誰かモデルがいるんですか?好きな人・・・とか?」

さっきから俺が言いたいことを全部言ってくれてありがとう、

さぁ、!その辺はどうなんだ!?

思わず詰め寄る俺とを呆れたように眺めて、はため息を吐いた。

「まぁ・・・モデルがいない事もないけど・・・」

「えっ!いるんですか!!やっぱり好きな人とか!?」

「違うわよ。その人はね、私の幼馴染で・・・・・・兄弟みたいなものよ」

あっさりと告げられた言葉に、思わず安堵の息をついた。

なんだ、幼馴染か・・・と安心したのも束の間。

「でも・・・兄弟みたいなものでも、兄弟じゃないんですよね?」

「そりゃ・・・まぁ・・・」

、俺に何か恨みでもあるのか?

何でそう、俺を追い込もうとするんだっ!!

イライラしながらも湯飲みに手を伸ばして、一気にお茶を飲む。

もうぬるくなってしまったそれは、お世辞にも美味しいとはいえない。

自棄酒したい気分だ。

「それで・・・その幼馴染は今どうしてるんですか?」

まだの『幼馴染』が気になるのか―――さらに言葉を続けるに、は至極当たり前・・・という風に、問題のその言葉を放った。

「ああ、彼なら・・・花組で隊長をしてるわよ」

 

 

答えが分かれば、問題なんてすぐに解けるもんだ。

そう言えばの出身は栃木だと言っていたし、あいつも確か栃木出身だ。

あいつと一緒にいた頃は、よく地元の幼馴染の話を聞いていたりもした。

ずいぶんと美人だけど、人見知りが激しくて人を寄せ付けない。

だけど実は面倒見がいいとか、笑うと可愛いとか。

剣術道場の一人娘で、剣の腕前はめっぽう強く、あいつも子供の頃からそこの道場で剣術を学んでいた、と。

そうだよ・・・が戦ってるのを見た時、どっかで見たことある剣術だな〜とか思ったんだよ。

確か二天一流・・・だったか?

実践向きの二刀流。

俺もよくあいつと試合をして、その技を食らったりしたもんだよ。

「まさかの幼馴染が、大神だったなんてなぁ・・・」

世間は広いようで狭いとは、よく言ったもんだ。

思わず深いため息を吐くと、背後でクスクスと笑う声が聞こえた。

振り返ると、そこには俺がたった今まで考えていたが・・・。

「屋根の上に上がるなんて・・・危ない事はやめてくださいよ?」

特に批難する口調ではなく、まるで子供の悪戯を咎める母親のような雰囲気で言う。

「腐っても月組だからな。屋根の上なんて危険でもなんでもないさ」

それに小さく笑みを返して、そこからの景色を眺めた。

他の都市よりは発達しているといっても、まだまだ未開拓の場も多い。

しかしあたりにポツポツと灯る灯りが、とても綺麗で。

俺はよくここに来て帝都を眺めていた―――それは、この帝都を絶対に守って見せると決意を新たにするために・・・なんだが。

今日に限っては、その決意も忘却の彼方だ。

そんなことを考えていると、立ったまま同じく帝都の景色を眺めていたが俺の隣に座って再び忍び笑いを漏らした。

「・・・どうした?」

「いえ・・・申し訳ありません。でも・・・そんなに物静かな加山さんは珍しいなと思いまして・・・」

穏やかな表情で、はポツリと呟いた。

最近、はよく俺に笑顔を見せてくれるようになった。

それはつい先日、魔操機兵に襲われていたの援護に入った頃からだ。

あの時、彼女は俺のことを『隊長』と呼んでくれた―――ということは、俺を『月組の隊長』と認めてくれたという事だろう。

正直かなり嬉しかった。

誰だって嫌われるよりは、好意を持ってくれる方が嬉しく思うに違いない。

「・・・どうかしましたか、加山さん?」

黙り込んでしまった俺の顔を覗き込んで、は不思議そうに首を傾げた。

突然のアップにびっくりして後ずさりしそうになったが、そうするとに変な誤解をされそうな気がして踏みとどまる。

ドキドキと煩く鳴る心臓を宥めながら、極力何でもない風をよそおっての顔を見返した。

「いや、何でもないよ」

「そう・・・ですか?ならいいですけど・・・」

納得できないといった顔をしていたが、それ以上追求してくる事はなかった。

余談だが、は仕事中とプライベートで呼び方を変える。

仕事中は『隊長』、普段は『加山さん』。

今は『加山さん』と呼んでいたから、プライベートなんだろう。

・・・ということは、聞いてみてもいいだろうか?

「なぁ、?」

「なんですか?」

「その・・・・・・さっき話していた『理想のタイプ』のことなんだが・・・」

後ろめたさもあり途中で口ごもると、は「・・・ああ」と思い出したように相槌を打った。

「それがどうかしましたか・・・?」

いや・・・そう聞かれると言いづらいんだが・・・。

「その・・・の『理想のタイプ』が大神だって・・・」

「そうですね。普段はあまりそういった事は考えないんですが、改めて考えてみると一郎にぴったり当てはまりますよね・・・」

あっさりと返される。

しかも大神のことを『一郎』なんて名前呼びだし・・・。

そりゃと大神は幼い頃から一緒にいたらしいし、名前呼びでもおかしくないが・・・。

なんていうか・・・ずるいっていうか・・・・・・いや!別に俺も名前で呼んで欲しいとか言ってる訳じゃなくて!!―――呼んでくれるならそれでもいいんだけど・・・。

「あれですかね?一番身近な異性だったので、それが基準になってしまったとか?一郎は私の初めて認めた男ですから・・・。まぁ、条件に上げた1つである『私より強い』は当てはまりませんけど・・・」

「・・・・・・は?」

さらりと言われた一言に、思わず間の抜けた返事を返すと、はにっこりと笑った。

「ですから、私より強い・・・は一郎には当てはまりません。私、彼には一度も負けた事がありませんから・・・」

おいおい、それはまた・・・。

大神の剣の腕前は、海軍士官学校で嫌というほど手合わせした俺がよく知っている。

全敗・・・とは言わないが、俺はほとんど大神に勝ったことがない。

ということは、なんだ?にとって俺は、大神よりも駄目ってことか?

何となく気分も落ち込んできた俺の耳に、再びの笑みが聞こえてくる。

どうでもいいが、今日はよく笑うな・・・と思っての顔を覗き見ると、彼女は少し悪戯っぽい表情を浮かべていて・・・。

「私の『理想のタイプ』がそんなに気になりますか?」

どこか確信的な口調で言った。

もしかして・・・その言葉の意味が分かって言ってるんだろうか?

どうにも判断がつきにくい。

は驚くほど鋭い時と、何でだ?と思うくらい鈍い時があるから。

「なんて・・・冗談ですよ、加山さん」

何も言えずに黙り込んでしまった俺に、は軽い口調で呟いた。

そしておもむろに立ち上がると、ゆっくりと伸びをしてから未だに座ったままの俺を見下ろす。

「それではそろそろ失礼します。明日も早いですから・・・」

「あ、ああ・・・」

「・・・・・・元気だしてくださいね、加山さん?」

謎の言葉を残し、はその場を去った。

その素早い行動に、さすが月組隊員だと思わず感心する。

もしかして・・・俺が落ち込んでいるのに気付いて、わざわざ俺を捜してここに来てくれたんだろうか?

多分その考えは間違いじゃない―――そうじゃなきゃ、がこの時間にここに来るなんてありえないから。

思わず浮かんだの笑顔に、知らず知らずのうちに笑みが浮かんでくる。

ああ、参った―――俺の負けだ。

仕方がないから、素直に認める事にするよ。

今まで必死になって否定してきたが・・・そうだ、俺はの事が好きだ。

大神に嫉妬もしたさ。

ゆっくりと息を吐いて、再び帝都の景色を目に写した。

「俺は絶対に、の心を手に入れてみせる」

いつもは平和を誓う帝都の夜景に、俺は今日・・・・・・への思いを誓った。

 

 

翌日、俺の些細な変化に目ざとく気付いたが、にんまりと笑みを浮かべつつ言った。

「隊長?女はいつも傍にいてくれる人に心惹かれるものですよ?」

「・・・・・・

「大丈夫!なんだかんだ言ったって、さんは隊長のこと認めてるんだから!!」

「・・・いや、だからな?」

「ともかくあたしに任せてください!ちゃ〜んと、2人をくっつけてあげますから!!」

「・・・・・・・・・ああ、分かったから」

何を言ってもには俺の言葉は聞こえていないだろう。

協力はともかく、邪魔をされないことに関してはありがたかったから、俺はの申し出を受ける事にした。

悪魔に魂を売ったような気分になったことは・・・・・・・・この際気にしない事にする。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

加山、恋心自覚編。

ヒロイン、思わせぶりな発言をしていますが、別に加山の恋心に気付いて言っているわけではありません。

寧ろ無自覚です。

そして名前だけ登場の大神に、恋をしているわけでもありません。

その内に花組を登場させて、そこで一波乱・・・なんて話も書きたいなぁ・・・。

オリキャラが妙に出張っているのは、そうしないと2人の仲がなかなか進まないから。

作成日 2004.2.18

更新日 2007.9.13

 

戻る