今、月組の一部隊員の間で流行っている遊びがある。

それはちょっと前に、大帝国劇場に行った時に見たもので・・・。

あんまりにも楽しそうだったから、興味を引かれてやってみたんだけど、これが結構楽しくてはまっちゃってさ。

それが何かというと・・・。

 

こいこい

 

「やったぁ、あたしの勝ち!!」

取った手札を見せてそう言うと、対戦相手はがっくりと肩を落として賭け金を支払う。

それを受け取って・・・あたしは手の中にある大量のお金に、にっこりと笑みを浮かべた。

「なんだよ〜、ちゃん強ぇなぁ・・・」

「負けなしじゃねぇか・・・」

ぼやく隊員に微笑んで。

そりゃあね、あたしがこの遊びを始めたんだから。

そう簡単に負けるわけにもいかない―――あたしにだってプライドってもんがあるからね。

なぁんてことをさんに言った日には、『もっと違うところでプライド持ちなさい』とか呆れた表情で言われるんだろうなぁ・・・なんて思う。

まぁ、それは置いといて。

ごっそりと巻き上げた・・・モトイ、戦利品であるこのお金で何を買おうかな〜なんて思ってたその時。

「何やってんだぁ?」

休憩室に明るい声が響いて、思わず手の中でチャリチャリと鳴らしてたお金が床に落ちた。

ヤバイ・・・この声は・・・。

恐る恐る振り返ると、そこには予想通り隊長がいて・・・。

不思議そうな顔で、固まるあたしたちと床に散らばったお金を見比べている。

「あ・・・いや、これはその・・・・・・」

月組内で賭け事なんてしてた事がバレたら・・・やっぱ怒られるよねぇ?

と言う事は、このお金も没収かなぁ?―――折角いろいろ買う計画立ててたのに・・・。

黙り込んだ隊長を見つめながらそんなことを考えていると、当の隊長はあたしの予想とは裏腹ににんまりと笑みを浮かべた。

「面白そうな事、してるじゃないか〜」

「・・・・・・は!?」

「なぁんで俺のこと呼んでくれなかった訳?ずるいぞ〜?」

言われた言葉の意味をすぐに理解して、あたしは隊長と同じようにニヤリと笑った。

・・・訂正。

そうだよね、隊長はこういう人だったよね。

それなら話は簡単だ。

「・・・どうです?隊長も一口乗りません?」

テーブルの上に散らばった花札を一枚手にとって、それをヒラヒラと隊長の目の前で振ってみせる。

「いいのか?折角手に入れた金を失う事になるぞ?」

「ふふふ・・・そういうのはあたしに勝った後に言ってくださいよ」

「おー、ずいぶん自信満々なんだなぁ・・・」

「隊長こそ・・・」

お互い見詰め合って怪しい笑みを浮かべる。

周りを取り囲む月組隊員たちが青白い顔をしていたり、はたまた楽しい事になったとあたしたちをはやし立てたりする中。

「「勝負!!」」

バン!とテーブルの上に手をついて、あたしと隊長はしっかりと睨み合った。

 

 

「・・・・・・嘘」

目の前に並べられた札を、あたしは呆然と眺めていた。

テーブルの上には青い札の絵が描かれた札が3枚―――つまり『青タン』。

「ふふふ・・・これで俺の勝ちだな」

勝ち誇ったように呟く隊長の顔を見返して。

なんでなんでなんで!?

さっきから『三光』とか『猪鹿蝶』とか、何で高い役ばっかり!

もしかして・・・ズルしてるんじゃないでしょうね!?

あたしが考えてることが分かったのか、隊長は両手を頭の上にあげて。

「おいおい、人聞き悪いこと言うなよ・・・」

おどけるように肩を竦めて、苦笑い。

「・・・んじゃ、なんで?」

「俺は運も良い男なんだよ、。運も実力のうちってな・・・」

そう言って豪快に笑う隊長に、ムカっと来たけれど。

負けは負け。

例え隊長がイカサマしてたとしても(だってあたしが素で負けるなんて信じられない!)それを見抜けなかったあたしが悪いんだ。―――月組の隊員ともあろうモノが、そんな小細工さえ見抜けないなんて・・・!!

「さぁ、観念したか?」

「・・・・・・ちぇ、分かりましたよ」

隊長に促されて、あたしは渋々掛け金を支払った。

折角臨時収入手に入れたと思ったのに・・・結局今の時点で半分を隊長に持ってかれちゃった。

さて、これからどうするか?

このまま引き下がって確実に半分を手に入れるか?

それとも・・・もう一回隊長に勝負を挑んで、巻き返すか?

でも後者を選んだ場合、全部持ってかれることも計算に入れないと・・・。

どうしようか・・・と悩んでいたその時。

「・・・何をやってるの?」

またまた休憩室に声が響いた。

だけど今回はさっきとは違う。

少し咎めるような低い声色で、あたしの背後から聞こえたこの声は・・・。

「・・・・・・さん」

さっきとは比べ物にならないほど顔色を悪くした隊員たちと。

同じように顔色を変えて固まった隊長を尻目に、あたしは誤魔化すように乾いた笑みを顔に貼り付ける。

「あはは・・・えっと、これはですねぇ・・・」

眉間に皺を寄せてあたしを見下ろすさんの視線から逃れるように俯いて、あたしは必死に言い訳を考えた。

けれどテーブルの上に散らばった花札と、同じように散らばったお金を見られた今、どんな言い訳をしても無駄な事くらいあたしにだって分かってて・・・。

さんって、決して頭が固いほうじゃないんだけど・・・。

でもやっぱり賭け事とかは嫌いだろうな・・・なんて思う。

これはお金没収どころじゃすまないだろうな・・・なんて、まるで他人事のように思ったりして・・・。

「あ・・・?これはだな・・・」

「・・・なんでしょう?」

「なんていうか・・・隊員同士の交流っつーか・・・」

一応弁解しようと頑張ってるのは分かるけど、そんなにしどろもどろじゃ説得力ナシですよ、隊長。

しかもさんと目線、合わせようとしないし・・・。

「・・・・・・交流、ねぇ」

何かを含むようにポツリと呟いて。

さんの目が、花札に、お金に、あたしに、隊員に、そして隊長に流れていって。

その後、クスリと笑う声が聞こえて、あたしは思わず顔を上げた。

見ればさんが楽しそうに笑ってる。

なんで・・・とか思う暇もなく、さんはゆっくりと口を開いた。

「それなら・・・私も参加させてもらおうかな?」

悪戯っぽく微笑むさんに、あたしは思わず目を見開いて。

だってさんが・・・あのさんがこんな事言うとは思ってもみなくて。

だけどすぐに、さんがあたしたちを咎めるつもりがないって事を悟ったあたしは、一も二もなく賛成した。

「じゃあ、誰と対戦します?」

そう提案すると、さんは隊長に視線を向けた。

「この中で一番強いのは加山さんなんでしょう?なら加山さんにぜひお願いするわ」

おお、もしかして自信アリか!?

「えーっと・・・掛け金はどうします?」

怒られるかなと思いつつも聞いてみると、さんは少し考えて。

「お金は要らないから、私が勝ったら1つお願いを聞いてもらえますか、加山さん?」

挑戦的とも言える態度でそう告げるさんに、隊長の目がキラリと光る。

「・・・ということは、俺が勝ったらお前が俺のお願いを聞いてくれるんだな?」

「ええ、もちろん」

「なら、いいさ」

「交渉成立、ですね」

どんどんと話を進めていく2人を呆然と眺めながら。

一体2人はお互いにどんなお願いをしようとしてるんだろう・・・なんて興味が湧いてきて、あまりの楽しさに頬が緩む。

「それでは、始めましょうか?」

「望むところだ」

そうして、月組のこいこい大戦頂上決戦は幕を開けた。

 

 

そしてそれは、あっという間に幕を閉じた。

テーブルに整然と並べられた、普段ではめったに見ることの出来ない札の羅列。

「・・・ご」

「ご・・・」

「『五光』って・・・」

すごい・・・、こんなの生で初めて見た。

それは花札の中で最強の役、『五光』。

一番点数が高くて・・・だからまぁ、一瞬で終わっちゃったわけなんだけど。

隊長もあんまりの事で固まってる。

そんな空気の中、周りなんて一切気にした様子のないさんがキッパリと言い放った。

「それで・・・お願いの件なんですけど・・・」

うわっ!絶望に浸る暇もないなんて!!

だけどあのさんが・・・いつもあんまり自己主張しないさんがするお願いってなんなのか凄く気になって、あたしたちはピタリと私語を止めて次の言葉を待った。

「実は・・・この間『煉瓦亭』という洋食屋さんが開店したらしんですけど・・・」

あ、それ知ってる。

凄くおいしいって評判で、だからなかなか食べにいけないんだよね。

「加山さん、次の木曜日お休みでしたよね?連れて行ってもらえますか?」

「「・・・は?」」

さんの口から飛び出した言葉に、思わず間の抜けた声が飛び出た。

だってそれって・・・お願いって言うか・・・。

「・・・それで、いいのか?」

「ええ。もちろん加山さんのおごりで・・・」

にっこりと微笑んださんは、そりゃあもう綺麗で。

それって隊長にとってはお願いじゃなくて、願ったり叶ったりじゃない。

案の定、嬉しそうに顔を綻ばせた隊長は即答で返事をして。

任務の時間だからと、他の月組隊員を連れて意気揚揚と休憩室を出て行った。

残されたあたしは、同じように残されたさんの顔を覗き見る。

「あの・・・さん?」

「何・・・?」

「本当にあのお願いで良かったんですか?」

だってさん、どっちかって言うと和食派でしょう?

そりゃ洋食だって嫌いじゃないだろうけど・・・行列に並んでまで食べに行こうと思うほどじゃないよね?

そういう意味を込めて聞くと、さんは困ったように笑った。

「・・・最近、加山さん休みナシで働いてるでしょう?休みの日でも何だかんだ言って仕事してるし・・・」

「だから仕事から解放してあげようと思って、あんなお願いしたんですか?」

それって隊長の為に?

するとさんはにっこりと笑みを浮かべて、人差し指を唇に当てる仕草。

それって、内緒って事ですね?

わかりました、さん。

あたし結構口堅いほうですから、安心してください。

「・・・私、洋食も好きよ?」

「知ってますよ」

お互い顔を見合わせてクスクス笑う。

隊長とさん。

進展してないように見えて、実は結構進展してるのかも。

――――――本人に自覚があるかないかは、また別として。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

こいこい大戦を月組でやってみたら〜編です。

見事に失敗の色が濃くなっていますが・・・(笑)

ヒロインが最後の方まで出てこない・・・・・・これは一体誰夢??

作成日 2004.4.5

更新日 2007.9.16

 

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