黒之巣会の首領・天海が発動させた六破星降魔陣によって、帝都は壊滅の危機に瀕した。

成すすべもなく、絶望的な思いでそれを見ていた月組だったが、花組の決死の戦闘により天海は滅び・・・そして帝都にようやく平和が訪れた。

しかしだからといって、する事がないわけではない。

すべての真相を明らかにするため、月組は黒之巣会の本拠であったアジトに向かった。

 

潜む

 

「それにしても・・・酷い有様だなぁ・・・」

目の前の光景に、思わず漏れた言葉はそれだ。

花組との最後の戦いの余波を受けてか、アジトはほぼ壊滅状態。

崩れた天井がそこらかしこに残っていて、ほとんどが瓦礫の下だ。

こんな所で何を調べればいいんだ・・・と、思わず口から出た言葉に、隣にいたも同じ事を思ったのか小さくため息を吐くのが分かった。

そうは言っても、何にも収穫がありませんでした・・・なんて報告を米田中将にできるわけもなく。

かくして俺とは、とりあえず瓦礫に埋まっていないところの捜索を開始した。

今回ここに乗り込んできたのは、ごく一部の月組隊員のみ。

隊長の俺と、副隊長の

それに後3人の隊員たちだけだ。

まぁこんな所に何十人もいたら狭くて仕方がないから、今回は少数で来てよかったと思う。

「この辺りにはたいしたものはありませんね・・・」

しばらく調べた結果、この辺りにめぼしい資料はないということだけは分かった。

それもそうか・・・と思う。

ここはアジトの中で言えば玄関口だ。―――こんなところに重要な資料なんて、普通はおいておいたりしない。

ということは・・・。

「めぼしい資料を求めるなら・・・この奥に行くしかありませんね・・・」

まさに以心伝心。さすが副隊長。

「でも・・・奥は流石に無理じゃないですか?大きな岩でふさがれてるし・・・」

一緒に来たが、肩を落として呟いた。

俺たちの前には、まるで行く手を阻むが如く巨大な岩がある。

流石にこれは除ける・・・なんて訳にはいかないだろう。―――というか、動きそうにない。

「この奥に・・・資料があるかもしれないのに・・・」

ポツリと呟いたの言葉に、俺とは顔を見合わせた。

そして一拍の後、は大きくため息を吐いて腰に差した2本の剣を抜く。

「本当は・・・この手段は取りたくなかったんですけど・・・」

そう言いつつも構える姿勢に、嫌な予感を感じて思わず口を開いた。

「・・・何をするつもりなのかな??」

「退いていてください。崩れるかもしれませんから・・・」

さらりととんでもない事を言ったに、俺はサッと顔を引きつらせる。

崩れるって・・・崩れるって!?

「ちょっ!ちょっと待っ・・・」

「頑張って、さぁん!!」

俺の声を遮って、が黄色い声を上げた。

つーか、煽るなよ!!

!!」

「ああぁぁぁぁ!!」

俺がの名前を呼んだと同時に、の剣が岩へと振り下ろされた。

ガァン!と岩を粉砕する音と、視界を覆う土煙の中。

ガラガラガラ・・・と何かが崩れる音がした。

「・・・おぉい」

言葉もなくただ突っ込みの言葉を零す。―――少しづつ晴れてきた土煙の中、ようやく状況を確認できた俺は、呆然と口を開いたままその光景を眺めていた。

土煙がうっすらと残るその場所に立っている

そして彼女の前に、道を塞ぐようにあった大岩が今はその姿を消している。

「・・・ふぅ」

「ふぅ・・・じゃないっ!!」

満足気に息を漏らしたに、引きつった顔そのままに思わず突っ込んだ。

「どうかしましたか、隊長?」

「どうかしましたか?でもない!こんなことして崩れたらどうするつもりだったんだ!?」

「・・・ですから、『崩れるかもしれないから、退いていてください』と・・・」

そういう問題でもないだろう・・・。

悪びれた様子のないに、なんて言葉を掛けていいやら・・・。

思わず脱力する俺に心配そうな表情を向けてくるを見て、俺はさらにため息を零した。

しっかりしていて、現実主義者で、頼りになるのは間違いないが、は時々思いもよらない行動を取る事がある。

それがわざとではないから、余計に厄介だ。

きっとこんな方法は危ないから止めろ・・・と俺が言えば。

「でも、他に方法がありませんから・・・」

なんてあっさりと言うんだろう。

分かっているからこそ、言えない。―――予想通りのその答えを聞いた時、どう反応していいか分からないから・・・。

俺の隣で歓声を上げるをジロリと睨みつけると、どうしたんですか〜?なんて笑顔で返してくる。

の場合は完全に確信犯だから、余計に性質が悪い。

「・・・隊長?」

「いや・・・いい。うん・・・気にするな」

今さらどうこう言ったって、もう行動に移してしまったものは仕方がない。

幸いにも洞窟が崩れる心配はないし、今回は大目に見よう。―――でもちゃんとに言い聞かせておかないとな。

そんなことを思いながら、今さらながらに目の前に開けた道を見る。

所々崩れているところはあるが、それほど酷い状態ではないようだ。

こうなったらさっさと資料を回収して、とっとと本部に帰ろう。

「じゃあ、行くか・・・」

薄暗闇に包まれる洞窟の奥へと視線を向けながら、隊員たちを促して探索を開始した。

 

 

「うわぁ・・・気味の悪いところですねぇ・・・」

が本当に気味悪そうに呟くのを聞きながら、心の中だけで同意した。

元々それほど精巧な造りではなかったんだろう。―――そこにあるのは祭壇のようなものと、おそらくは天海が座っていたんだろう椅子と、帝都の地図など閑散としたものだった。

そのどれもが、天井が崩れた際に巻き起こった土煙にまみれていて、ついこの間までそこに人がいたとは思えないほどの荒廃ぶりだった。

「なんだかオバケでも出そうな雰囲気ですよねぇ・・・」

の声が、洞窟内に怪しく響く。

それに少しだけ身体を振るわせた俺に気付いたが、小さく首を傾げた。

「もしかして隊長・・・オバケ、信じているんですか?」

その信じられないと言わんばかりの声色に、思わず強い口調で反論した。

「何を言う!信じてなんか・・・!!―――ちなみには信じてたりするか?」

「いえ、全く。私はオバケを見たことがありませんから・・・」

キッパリと返され、そうだよな〜と乾いた笑いを浮かべる。

そうだよ、オバケなんて非現実的なもの・・・いるわけないって!

そう考えると少しだけ心が軽くなった。

気を取り直して捜索を開始しようかと思った俺が、ゆっくりと辺りを見回すに背を向けたその時。

「でもまぁ、私の祖母は幽霊がそこにいると口癖のように言っていましたが・・・」

少しだけ声の落としたの声が聞こえて、慌てて振り返った。

「・・・は!?」

「ですから、私の祖母は幽霊がいると言ってましたよ、よく」

サラリと無表情で告げられた言葉に、俺は引きつった笑みを浮かべる。

「幽霊がいるって?」

「ええ。例えば・・・ほら、隊長の後ろに」

「えぇ!?」

ゾクリと背筋に冷たいモノが走り、慌てて振り向けどそこには何もいない。

「・・・という風に、よく祖母が私にそう言っていました」

間を置いて付け足された言葉に、思わずがっくりと肩を落とした。

・・・お前まさか、俺を怖がらせたい訳じゃないだろうな?

いや、怖くなんかないぞ!?

俺は幽霊なんて非科学的なものは全く信じてないからな!

そんな俺の様子に、がクスクスと笑みを零すのに気付いて、俺は恨めしそうにを軽く睨みつけた。

「最初に、私はオバケを見たことがないと言ったはずですが?」

からかうような口調に、確かにそんな事を言っていたのを思い出す。

だけどあんな言い方されたら、普通怖くなるだろ!?

きっとわざとあんな言い方をしたんだろうと思うと、それにあっさりと引っかかった自分がとてつもなく情けなく思えた。

「隊長。人には1つや2つは苦手なものがあるものですよ?」

諭すように言われて、憮然とを見返す。

「・・・お前にもあるのか?」

「勿論です」

「そんな風には見えないけどな」

「それはまぁ、気付かれないように気をつけていますから」

にっこりと笑顔で答えられ、言い返す言葉が思いつかずに唇を噛んだ。

悔しいと思う。

俺の苦手なものはにはお見通しなのに、俺はの苦手なものがなんなのか想像さえ付かない。

「はいは〜い!あたしも苦手なものありますよ?」

はにんじんが苦手なのよね?」

「そうなんですよねぇ・・・」

恥ずかしそうに笑うを眺めて苦笑したは、「じゃあお喋りはこのくらいにして、さっさと調査を始めましょう」と行動を開始した。

それに習って、俺も手近な所を漁り始める。

いつかの苦手なものが解るくらい近い存在になれたら・・・なんて、そんな事を考えている自分に気付いて、俺は自嘲気味に笑った。

 

 

「結局めぼしい資料はありませんでしたね〜」

調査を終えて帰還する際に、がそう嘆いた。

あれほど苦労したというのに、めぼしい収穫は1つもなかった。

天海が何を企んでいたのか・・・それは奴自身の言葉で証明されてはいたが、どうして天海が甦ったのか、どういう経緯で四天王が現れたのか・・・―――その辺りの細かい経緯などは未だ謎に包まれたままだ。

あれだけ大掛かりな計画だったのだから、何かしら資料が残っていると踏んでいたんだが。

「・・・隊長」

考え込んでいた俺に、が遠慮がちに声を掛けてきた。

視線を向けると、なにやら考え込んだ様子のが目に映る。

「どうした?」

「何処か・・・腑に落ちない点があると思いませんか?」

告げられた言葉に、俺は首を傾げる。

「腑に落ちない?」

「ええ。資料がなかったことと言い・・・。これは気のせいかもしれませんが、資料がすべて持ち出されていたような形跡があったんです」

持ち出された形跡?

「棚の中が妙に荒らされていたり・・・」

言われてみれば、確かに散らかっていたなぁと思う。

あれだけの戦いがあったのだから、それの余波を受けてなのかと判断したんだが・・・言われてみれば荒らされたとも見れる。

じゃあ・・・資料を持ち出したのだとして、それは一体誰が?

「何か・・・嫌な予感がします」

ポツリと零れたの不安げな声に、俺は黒之巣会本拠地のあった日本橋へと視線を戻した。

霊力が極めて高く、勘の鋭い

そのが感じる、嫌な予感。

「何も起こらなきゃいいがな・・・」

願いを込めて呟いた言葉は、予想外に自分の中に影を落とした。

何も起こらなきゃいい。

漸く手に入れた、平和なのだから。

「とりあえず・・・帰りましょう、隊長」

同じく神妙な顔をしたにそう促されて、俺たちは月組本部に向けて歩き出した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

最初の方と最後の方では、えらい時間が開きました。

話が繋がってないところもあると思いますが、その辺はもうスルーで。

なかなか加山との関係は変化がありません。

甘甘は難しいなぁ・・・とか今更ながらに実感します(笑)

作成日 2004.8.2

更新日 2007.9.23

 

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