高い音を立てて鳴った電話の音に、店内の掃除をしていたはふと顔を上げた。

反射的に時計を見れば、時刻はもう昼前を指している。

「・・・静信かしら?」

午前中に顔を出すと言っておいたというのに来ないを心配して、連絡を寄越したのかもしれない。

の営む仏具店は1日に数人程度しか客が来ないこじんまりとしたもので、それほど時間は掛からないだろうと出かける前に掃除を始めたのだけれど、やり始めるとあっちもこっちも気になってしまい、そうこうしている内に思ったよりも時間が掛かってしまっていたらしい。

遅くなるなら連絡くらいしろ、と少し眉を寄せて説教をする静信の顔が簡単に想像できて、は小さく笑みを零した。

こんな平和な村で何をそんなに心配する事があるのかと、は常々思っているのだが。

そんな事を考えている間にも、電話は鳴り止む様子もなく声を上げ続ける。

「はいはい、少し待ってね」

それに返事が返ってくる事などないと解っていながらも声をかけながら、は持っていたタオルをカウンターに置きつつ部屋へと向かった。―――1人で暮らすようになると、途端に何故か独り言が増えてしまうのだ。

「はい、です」

特別急ぐでもなく電話の元へと歩み寄り、取った受話器を耳に当てる。

しかしそこから聞こえてきたのは、予想外の人物の声だった。

「・・・敏夫?どうしたの、こんな時間に電話なんて珍しいじゃない」

いつもならば診療中のはずだ。

一応は昼の時間も区切られているが、それを過ぎる事など珍しくはない。―――こんな時間に敏夫から連絡が来るのは、思えば初めての事だった。

「・・・え?」

受話器の向こうから聞こえるどこか張り詰めたような声に、浮かんでいた笑みが一瞬で凍りつく。

受話器を握り締めた手が、微かに震えた。―――同じように、僅かに開かれた唇も。

言われた言葉が、一瞬理解できなかった。

否、理解する事を脳が拒否したのかもしれない。

「・・・恵ちゃんが、死んだ?」

の震える声が、店内に静かに響いた。

 

最悪の可能性は

 

枕経をする為にと先に清水家へと向かった静信の後を追うように、納棺の準備を済ませたは悲しみに沈んだ清水家の前に立ち僅かに目を伏せた。

「どういう・・・どういう事なの、敏夫!恵ちゃんはただの貧血だって・・・!」

敏夫から連絡を受けたが咄嗟に上げた声に、敏夫はただ黙って彼女の言葉を受けていた。

きっと辛そうに、そして悔しそうに眉間に皺を寄せているのだろう。―――それが簡単に想像できて、はすぐさま冷静さを取り戻した。

敏夫は言い訳をしない。

きっと自分と同じように声を上げた恵の両親にも、何の言い訳もしなかったのだろう。

そんな敏夫を責める気にはなれなかったし、またにその権利があるとも思えなかった。

「・・・ごめんなさい、敏夫」

小さく深呼吸をして、謝罪を口にする。

敏夫はただ短く、いや・・・と呟いただけだった。

「・・・敏夫、一体何があったの?」

彼が恵の治療に手を抜いたとは思えないし、致命的な何かを見逃したとも思えない。

では、何故恵は命を落としたのだろうか。

貧血で人が死に至るなど、は聞いた事がない。

では病気かとも思うが、それならばまず敏夫が気付くはずだ。

それ以前に、恵は学校でも健康診断を受けているはずである。―――その時点で発見されていても可笑しくはない。

ごく最近恵の身に起こった事と言えば、山で遭難した事か。

崖から転落したという話だし、もしかするとその時に頭を打っていたのかもしれない。

考え出せばきりがないが、それで答えが出てくる事もない。―――は医者ではないのだ。

の問いに、敏夫は少しだけ躊躇いつつ口を開いた。

「単なる貧血のように見えたし、そうじゃなかったとしても血液検査の結果を待つくらいの余裕はあるように見えた。実際のところ、俺が一番驚いている」

「・・・そう」

「病理解剖を勧めたが、清水さんは拒否された。―――結局、具体的な原因は解らないままだ」

解剖を拒否したという恵の両親の気持ちは、にもよく解った。

恵はまだ若い。―――死して尚、身体を傷つけるようなマネはしたくないのだろう。

「・・・・・・そう」

敏夫の押し殺したような声を聞きながら、はただ相槌を打つ。

今の彼に掛けるべき言葉が見つからなかったからだ。―――きっと敏夫は、慰めの言葉など望んではいない。

「解ったわ。連絡をくれてありがとう、敏夫」

はたった一言それだけを告げて、短く返ってきた返事を聞くと静かに受話器を置いた。

そうしては今、清水家の前に立っている。

静信は既に枕経の準備に入っているだろう。

自分もすぐにお邪魔し、納棺の支度を済ませなければならない。

解っているというのに、それでもはその一歩が踏み出せないでいた。

「・・・恵ちゃん」

ポツリと少女の名を呟けば、少し勝気な笑顔が脳裏に甦る。

と恵の交友は、それほど古くはない。

親しく会話をするようになったのは、彼女が高校に上がってからの事だろうか。

葬儀などがない限りは基本的に時間を自由に使えるは、その日も買い物の為に街へと下りていた。

村では売っていない日用品の買出しに、自分の楽しみの為の買い物。

そして普段は忙しく買い物どころではない静信や敏夫からの依頼で、彼らの普段着を買う事もあった。―――どちらも母親に任せる気にはならないらしい。

そうしてその日もたくさんの荷物を手にバス停を下りたところで、は恵と会ったのだ。

「あっ・・・!!」

突然上がった声に何事かと振り返れば、そこにはまだ真新しい制服に身を包んだ少女が立っていた。

あまり話をした事はなかったけれど、もちろん顔は知っている。

清水恵。

あまりこの村が好きではないようで、村の中では少し浮いている存在。

良くも悪くも、村人たちの噂話によく上がる名前だ。

「こんにちは」

彼女が一体何に驚いて声を上げたのかは解らないが、とりあえず彼女の意識がこちらに向いているらしいという事は解り、は困ったように微笑みながら声を掛ける。

しかし恵の意識が向かっているのは、どうやらではなくの持ち物らしい。

一体何に・・・と思う間もなく、早足で歩み寄ってきた恵はがっちりとが持つ紙袋に手を掛けた。

「このブランド、好きなんですか!?」

「・・・え?」

突然の問い掛けに呆気に取られたはまじまじと恵の顔を見、そして次に指定された紙袋に視線を落として、なるほどとコクリと頷いた。

「ええ、まぁ。このブランドは基本的に可愛らしいものが多いでしょう?私には可愛すぎるものばかりかと思ったんだけど、見てみれば意外と着れそうな物も多かったから」

そういえば、恵ちゃんはこういう服を着ている事が多いわよね、と偶に見かける恵の姿を思い出して声を掛ける。

それにコクコクと何度も首を縦に振りながら、キラキラと輝く瞳でジッとを見つめたのだ。

「どんな服買ったんですか?雑誌に載ってた・・・あの、この服って買いました?」

そう言って徐に鞄から雑誌を取り出した恵は、ある一点を指して声を上げる。

あまりの食いつきように若干困ったように眉を寄せながらも、問われるままに雑誌を覗き見たは苦笑を漏らした。

「流石にこの服は私にはちょっと若すぎるわ。恵ちゃんなら似合うでしょうけど」

「そうですよね!この服、私に似合いますよね!私もこれ見た瞬間、絶対に私に似合うと思ってたの!!」

きゃあきゃあと声を上げて笑う様は、どこにでもいる女の子だ。

村の中で見る恵はいつも不満そうで、直接接した事が少ないが彼女の笑顔を見る機会などほとんどなかったから・・・。

だからこそどこかホッとして、思わずその提案を口にしたのだ。―――「良かったら、今度街に行く時に買って来てあげようか?」と。

その提案を恵が断るはずもなく、そうして2人の交流は始まった。

村の中でも割と服装に気を遣うタイプだったの事を恵も知っていたようで、2人はすぐに仲良くなった。

妹、とまではいかなくとも、無邪気に慕ってくれる恵を素直に可愛いと思っていた。

そんな彼女の納棺をこんなに早くする事になるなど、ほんの欠片も思っていなかったけれど。

伏せていた目を再び清水家へと向け、ひとつ深呼吸をするとはインターフォンに手を伸ばした。

小さな箱から聞こえてくる消沈した声に挨拶をして、閉じられた門を開き。

感傷は全てその場に置いて。

納棺師として、は清水家に足を踏み入れた。

 

 

当然の事だが、恵の両親は酷く疲れているようだった。

娘が行方不明になり、無事に保護されたかと思えば数日後には原因不明の急死。―――2人の精神的負担は計り知れない。

「・・・始めます」

そんな中、は恵の両親を前にそう告げると、恵の旅立ちの準備を始めた。

まずは身体を丁寧に拭いて、死装束を着せる。

身なりに酷く気をつかっていた恵だ。―――最後は出来る限り綺麗に送ってやりたいと、は丁寧に恵の身体を拭いていく。

その過程で、は何か違和感を感じてふと手を止めた。

恵はずいぶんとやつれているようだった。

貧血だと聞いてはいたけれど、たった数日でこれほどまでにやつれてしまうものなのだろうか?―――いや、勿論敏夫の診断を疑っているわけではないのだけれど。

「・・・これは」

思わず呟いて、恵の腕へと手を伸ばす。

赤い湿疹のようなものが2つ、綺麗に並んでそこにある。

山で遭難した時に、虫にでも噛まれたのだろうか?

それにしては随分とはっきりと跡が残っている。―――恵が遭難したのは、少し前の事だというのに。

「・・・あの・・・、どうかしましたか?」

ふいに声をかけられ、ジッと恵の腕を見つめていたはハッと我に返った。

慌てて顔を上げると、恵の母親が不思議そうな面持ちでこちらを見ている。

それに慌てて首を横に振って、失礼しましたと言葉を添えてからは改めて支度を再開した。

何をそんなに気にしているのか。

腕の湿疹など、夏なのだから蚊に刺されただけの話だろうに。

そう自分に言い聞かせながら、は小さくため息を吐く。―――どうやら今もまだ、恵の死に納得がいっていないらしい。

それでも恵の両親の思いを無視してまで解剖する事など出来るはずもない。

これは仕方のない事なのだと、そう諦める他なかった。

そうして死装束を着せ終え、最後に丁寧に化粧を施してから、は決して目を開ける事のない恵を見つめて目を細める。

つい先日まで生き生きとしていたのが嘘のようだ。

可愛い服を見つけたのだと雑誌を持って駆けてくる恵の姿が、まるで昨日の事のように思い出せる。

「・・・あの」

ジッと恵を見つめていたは、その視線を恵の両親へと向けて控えめに声をかけた。

それにどうしたのかとこちらを見やる2人を見返して、は傍らに置いておいた荷物から小さな包みを取り出して。

「これを、一緒に棺に納めさせていただきたいんです」

「・・・これは?」

不思議そうな表情を浮かべる恵の両親に、は淡く微笑んだ。

「以前、恵ちゃんにお願いされていた服なんです。最近忙しくてなかなか買いに行けなくて・・・―――元気になったら渡そうって、そう思ってたんですけど」

けれど結局、この服が恵の手に渡る事はなかった。

瞳を輝かせて服を着る時の事を語っていた恵はもういないのだ。

「この服は恵ちゃんの為のものです。誰にも着られる事無くタンスの中で眠るよりは、恵ちゃんと一緒の方がいいと思うんです。だから・・・」

の言葉に、楽しそうにファッション雑誌を見ていた恵の姿を思い出したのか、母親が再び嗚咽を漏らした。

父親の了承と共に服を棺の中に納めて、は静かに目を閉じて彼女の死を悼む。

どうして、こんな事になってしまったのだろう。

山入の3人の死から、これまで。―――悪い何かが連鎖しているような気がしてならない。

そこまで考えて、はブルリと身を震わせる。

そんな恐ろしい事を考えてしまった自分が恐ろしい。

「・・・大丈夫よ。きっと、大丈夫」

誰にも聞こえない小さな声でそう呟きながら、は僅かに瞳を開く。

聞こえてくる恵の両親のすすり泣く声が、いつまでもいつまでも耳に残っていた。

 

 

恵の死後、には悲しみに浸る時間さえ与えてもらえなかった。

安森義一が亡くなり、後藤田ふきもまた亡くなった。

続く死。

家の電話が鳴る度に、嫌な予感がして怖くなる。―――また、仕事の電話なのではないかと。

「こんなに自分の仕事を怖く感じたのなんて、初めて」

はそうポツリと呟いて、店のカウンターに座りながらぼんやりと表の通りを眺める。

これ以上ないほどいい天気だ。

外はきっと、とても暑いだろう。―――今年の夏は、特に厳しいように思えるから。

だからなのだ、これほどまでに死が続いているのは。

お年寄りが多い村だし、体力的にも厳しいだろう。―――現に医者である敏夫もそう言っていたではないか。

そう自分に言い聞かせるけれど、それだけで気分が晴れてくれる事はない。

もうずっと前から胸の奥で燻っていた不安の火種は、もう知らん顔できないほど大きくなってきている。

「一体、この村で何が起こってるのかしら・・・?」

何もないはずがない事は明白だ。

どうして死が連鎖しているのか?

その原因は、本当に猛暑だけなのか?

それならば、どうしてあんなにも若い恵が・・・?

そこまで考えて、はふとある可能性に思い至り、勢いよく立ち上がった。

ガタンと座っていた椅子が抗議するように音を立てる。

しかしそれすらも耳に入っていないのか、はどこを見るでもなくジッと宙を凝視して・・・―――そうして眉を寄せると唇を噛み締めた。

「・・・まさか、そんな」

そんな事あるはずがない。

そう言い切ってしまいたいが、そうと決め付けるだけの理由がない。―――最も、そうだと断言できるほどの何かがあるわけでもないけれど。

しかしそこに考えが至ってしまっては、知らん顔を出来るはずもない。

そしてこんな時に相談できる相手など、には2人しか思い出せなかった。

その内の1人は本職だ。―――きっとの疑問にも答えてくれるはず。

そう結論を下すと、は手早く準備を整えて店を飛び出した。

何かに追い立てられるように、ただ目的地に向けて歩き続ける。

不思議と暑さは感じなかった。―――それを感じるだけの余裕がなかったのかもしれない。

そうして目的の場所・・・―――尾崎医院へ辿り着いたは、そこに立つ見慣れた姿を認めて小さく安堵の息を吐き出した。

「・・・静信」

「・・・?」

振り返った静信は、酷く厳しい顔をしている。

どうして彼がここにいるのか。

そして、どうしてがここにいるのか。

それはお互いが語らずとも、理解できたような気がした。

「・・・さっき敏夫を呼んでもらった。すぐに来ると思うよ」

「・・・そう」

お互い必要以上の事は口にせず、呼び出された敏夫が来るのをただ無言で待つ。

そうして数分後、一見しただけでは何も変わった様子のない敏夫が姿を現した事で、場の空気は更に緊張を含んだものに変わった事には気付いた。―――それは本当に微かな変化ではあったけれど、長年一緒にいる彼らにはその変化は十分に察せられるのだ。

「すまないな、敏夫。昼休みに・・・」

「いや、いい。―――で、なんだ?2人揃って」

もう既に本題がなんなのかを彼は察しているのだろう。

余計な話を挟む事無く単刀直入に切り出した敏夫に、静信もまた心得たようにひとつ頷いて。

「去年の夏は老人が4人亡くなったね」

「詳しいな」

「寺だからね」

短くそう答えて、静信はまっすぐに敏夫を見据える。

「そして今年は・・・秀司さん。山入の3人。恵ちゃん、義一さん、ふきさん」

淡々とした口調で告げられる現実に、は辛そうに眉を寄せた。

「たった半月で、7人も・・・」

「多いな」

「しかも秀司さんは39歳。恵ちゃんに至っては15歳だ、若すぎる」

確かに去年と比べれば人数もさることながら、その内容もかなり違う。

老人が猛暑に耐え切れなくなった、というだけではないのだ。

しかも秀司も恵も死因がはっきりしていない。

「ふきさんの死因はなんだったんだ?」

「おそらく急性腎不全だろう」

日陰にいても感じる暑さは大して変わらない。

あまりの暑さに汗を拭いながらあっさりとそう答えた敏夫に、けれど静信は重い口調で問いかけた。

「正確な死因は?」

静信の問い掛けに、敏夫がピタリと動きを止める。

それが何かを物語っているようで、は握り締めた拳に更に力を込めた。

一瞬訪れた静寂。

こめかみをゆっくりと流れていく汗が、妙に気持ち悪かった。

「解らない」

今まで一見気楽な様子を見せていた敏夫がその態度を一変させ、険しい表情でジッと静信とを見返す。

「秀司さんも急性心不全、正直に言うと死因不明だ。義五郎さんもそう。秀正さんも三重子さんもそう。恵ちゃん、ふきさん・・・―――疑問の余地がないのは義一さんだけと言っていい」

安森義一はもうずっと長く病を患っていた。

誰も口には出さなかったが、いつどうなっても可笑しくなかったのだ。

確かに敏夫の言う通り、今現在死亡が判明している中で一番不自然ではないのは義一ただひとりだ。

「・・・じゃあ、どうして?」

が震える声でそう呟いた。

じゃあどうして、他の人たちは亡くなったのか。

野犬に襲われたから?

暑さに負けたから?

本人も気付かない内に、何か病を抱えていた?

それらの可能性は必ずしもゼロではない。

しかしそうではないのだろうと、もう既には気付いている。―――だからこそ彼女はここにいるのだ。

「疫病じゃないのか?」

そしてが恐ろしくて口に出せなかった言葉は、代わりに静信が口にした。

ポロリと、敏夫が咥えた煙草の灰が音もなく崩れ落ちる。

「・・・疫病」

今考えうる中で最も恐ろしいその答えに、は瞬きさえも忘れてその言葉を口にした静信を見つめた。

敏夫へと視線を移すのが怖い。

彼が今、どんな表情をしているかを知るのが・・・。

「とにかく・・・」

敏夫の声に、の肩がピクリと跳ねる。

それを認めた敏夫と静信は、けれどあえてそこには触れずに言葉を続けた。

「俺はもう少し情報を集める。まだ結論を出すには早すぎるだろう」

「そうだね。確かに疑わしい点はあるけれど、まだ疑問の余地はある」

「・・・そう、よね」

それがどれほど希望的観測なのか解っていても、今はそれに縋りたい気分だった。

もし現在続いている死の原因が疫病なのだとしたら?

そしてそれが未だ発見されていない類のものであったとしたら?

一体どれだけの人の命が失われてしまうのだろう。

この村は、果たして無事でいられるのだろうか?

最悪の想像にギュッと唇を噛み締めたを認めて、顔を合わせた敏夫と静信は揃ってため息を吐き出す。

こんなに不安になるくせに、顔を突っ込むことは止めないのだから性質が悪い。

本当は自宅で大人しくしていて欲しいのだけれど・・・―――それを彼女に望む事は意味のない事なのだと2人は知っている。

今を誤魔化せたとしても、彼女はいずれ自分で真実に辿り着くだろう。

たとえどれほどの危険を冒したとしても、彼女は疑問をそのままにしておくような人ではないから。

ならば必要な情報はしっかりと伝えた方がいい。

しっかりと危険を伝え、彼女の行動を把握し、危険があればそれらから気付かれないよう遠ざける。

そうする以外、見た目とは裏腹に行動派の彼女を守る術などない事を知っているから。

「・・・また、連絡する」

咥えていた煙草を押し消して、敏夫は短くそう告げて立ち上がる。

未だ消えない不安を抱えて、はただ頷くしか出来なかった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

もう少し恵の死をクローズアップするつもりでしたが、意外とあっさりで。

まだまだ序盤なので、なかなか話が膨らみません。

早く辰巳とか沙子とか出したいなぁ。(笑)

作成日 2011.1.23

更新日 2011.3.13

 

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