何でこんな事になってるんや・・・なんて、本当に今更な気がするけれど。

目の前には恐ろしい形相を惜しみなく向けてくる幼馴染と、色々といわくありげな小さな名探偵。

ビルの屋上、フェンスのすぐ傍に立つ私と、その私の身体に巻きついている白い腕。

いや、白い腕なんかじゃなくて、白いタキシードを着た腕といった方が正しいか。

チラリと視線だけでその人物を見やれば、噂よりも随分と若い、最近ではとても有名な白い怪盗がにっこりと柔らかく微笑んだ。

事の発端は一体何やったか・・・。

ともかく和葉と平次が東京に遊びに来るっていう連絡を受けて、私は蘭ちゃんに誘われて久しぶりに2人と再会した。

勿論コナン君も一緒に。

それともう1人、蘭ちゃんの友達の園子ちゃんも一緒に6人で遊園地に遊びに行った先で、園子ちゃんが問題発言をしたのがきっかけやったと思う。

曰く、そういえばキッド様が予告状を出したんだって〜!やった気がする。

それに反応を示したんが、傍迷惑な2人の探偵や。

ほっとけばいいものを、2人して絶対に捕まえたる!なんて。

渋る私たちを強引に連れまわしてその怪盗と遭遇出来たんが、ついさっき。

それでなんでかその怪盗に拉致されて、こうして追い詰められて現在に至る、と。

「お久しぶりですね、お嬢さん。まさかこんなところで会えるとは夢にも思っていませんでしたよ」

「私も・・・まさかもう一度会う事になるとは思ってなかったわ。その上こんな風に拉致されて人質に取られるなんて・・・」

ため息と共にそう吐き出せば、怪盗は小さく苦笑して私を抱く腕に力を込めた。

「それは本当に申し訳なく思っています。しかし、思わぬ再会についつい手が・・・」

ああ、怪盗やから手が早いんやなとほぼ嫌味で構成された言葉を向けて、もう一度大きくため息を吐き出す。

東京とは恐ろしいところや。―――こうも頻繁に怪盗に出くわすんやから。

そんな事を考えながら、さてこれからどうしようかと考えを巡らせ始めたその時、隠す事無く怒りを撒き散らしてる平次が私に・・・いや、私を拘束している怪盗に向かって指を突きつけ怒鳴り声を上げた。

「お前なにしとんねん!さっさとから手ェ離さんかいっ!!」

必死な形相の平次に、思わず胸がジンとする。

幼馴染やからなんやと解ってても、こんなにも心配してくれるのはやっぱり嬉しい。

私のせいでなかなかこの怪盗を捕まえられへんって事は解ってても、もうちょっとこの状況に浸ってたいとも思う。―――未練がましいとは思うけど、それくらいは許して欲しい。

「人には手を出さないがお前の信条じゃなかったのか、怪盗キッド」

こんな状況やというのにじんわりと浸ってた私をそのままに、コナン君が怪盗にそう言い放った。

そうや、それどころじゃなかった。

なんて思いながらも、見た目高校生の平次よりも小学生のコナン君の方が冷静に見えるのはどうなんやと突っ込みを入れる。―――まぁ、問題は中身の方やねんけど。

「なんて事を言うてるけど、そこのところどうなん?」

それでもさすがに自分の身も心配になってそう問いかければ、けれど怪盗はただ穏やかな笑みを浮かべるだけで。

その表情を見てると身の危険はなさそうやとも思うけど、だからといっていつまでもこの状況はいただけない。

いい加減に離すなりなんなりして状況を進展させてくれへんかなーとぼんやりと思ってると、背後から抱きしめるように私を拘束してた怪盗が私の身体を反転させて、正面から抱き締めるように体勢を変えた。

いきなりなんなんやと目を丸くした瞬間、悲鳴とも取れる平次の叫び声が。

「お前、調子乗ってんちゃうぞ!それは立派なセクハラやセクハラ!俺だって最近ではそんな事した事ないのに何しとんねん!さっさと返さんかい!!」

「ちょ、服部!今はそれどころじゃねーだろ!」

「お前も黙っとけ!あんなセクハラ泥棒にベタベタ触りまくられて、が穢れてしもたらどないするつもりじゃ!」

「おやおや、男の嫉妬は見苦しいですよ」

「やかましいわ!ええからさっさと返せっちゅうとんじゃ!いてもうたるぞ!!」

「・・・平次、ちょっと落ち着いて」

「お前もお前や!何でおとなしくどこぞの変態に抱き締められとんねん!ちょっとは抵抗するとか助けを求めるとかせんかい!」

「何言ってんの。大体私が捕まったんは平次がもたもたしてたからやろ。文句を言うのはお門違いってもんやで」

「怒りに任せて女性にまで怒鳴りつけるなど、男のする事とは思えませんね。どうですか、お嬢さん。これから私と優雅に空の散歩など?」

「だーかーらー、調子乗んなって言うとるやろがっ!!」

「何をおっしゃる。素敵な女性をデートに誘うのは紳士の務め。流石の私も本気になってしまいそうですよ」

「・・・ええ度胸や!今日という今日は絶対に許さへんで、クサレ怪盗!そこまで言うんやったら勝負せぇ!言うとくけど俺は負けへんからなっ!!」

「いいでしょう。望むところです」

2人睨み合ったまま、お互いがお互いを牽制するようにそのまま動きを止めて様子を窺う。

すっかり2人の勢いに置いてかれたコナンくんは、呆然と平次を見詰めてる。

「・・・お姉ちゃん、モテモテだね」

すっかりと毒気を抜かれて小学生に戻ったコナン君がポツリと呟いて、私は思わず引き攣った笑みを浮かべる。

喜べばいいのか、嘆けばいいのか。

さて、怪盗に捕まったままの私はこれからどうすればいいのか。

「「さぁ、勝負や(だ)!!」」

なんかもう大事な事全部そっちのけで勝負を開始した2人を見て、私は身の危険なんてその辺に放置しつつ深く深くため息を吐いた。

 

 

さあレッツ薔薇色の人生!

(なんか流石にアホらしくなってきたわ)

 


名探偵コナン。

『空の落し物』直後くらいの話。

幼馴染と怪盗の、アホらしくも真剣な戦い。