いつも当たり前に側におったから。

だからそれが当然やと思っとった。

あいつがおらんようになるなんて考えた事無かったし、そんなん有り得へんから考えたって無駄やって思っとった。

だからに『全寮制の高校に行く』って聞いた時も反対したけど、いまいち実感ちゅーもんは湧いては来んかったけど。

卒業式の、あの独特の雰囲気の中で。

ようやっとそれが現実なんやって、俺は自覚した。

 

去り行く

 

退屈な卒業式が終わって、俺らは最後のHRを受けてから教室を出た。

校舎の外に出た途端、俺も和葉もも待ち構えてた後輩たちに囲まれてもうて、身動きがとれんようになってもた。

ま、自慢やないケド、俺結構有名人やし?

こんな風に女子に囲まれる事も珍しないねんけど・・・流石に卒業式だけあって、人数が半端や無い。

すぐにの方に行こう思たけど、えらい勢いに身動きとれん。

「和葉ー!!一緒に写真撮ろうや!!」

女子の高い声が聞こえて、俺は視線だけでそっちの方を見る。

その先には俺と同じように女子に囲まれて(女子ってところが泣かせるわ)四苦八苦してる和葉の姿―――の高校進学問題で一時期はえらい元気なくしてたけど、最近は前みたいに元気になってきとる。

俺は和葉に送っとった視線をそのままずらして、同じように女子に囲まれて苦笑いしてるを盗み見た。

こっちもこっちでえらい人気や。

姉妹揃って同姓にもてるっていうのも、どうかと思うけど・・・―――とか言いつつ、ちょっとだけ安心してたり。

も和葉も男子に人気がないわけやないんやけど、この女子の勢いに押されて男子は誰も2人には近づけんのや。

だから恐ろしいほどもてんのに、親しい異性っちゅーたら俺だけなんや。

「・・・・・・はあ」

俺は困りつつも笑顔を絶やさず集まってくる後輩の相手をしとるを見て、重い重いため息を吐き出した。

今まではそうやったから、俺もそんなにヤキモキする必要もなかったけど。

高校に進学して俺の目の届かんところに行ったらどうなるか・・・―――それ考えただけでも胃が痛くなりそうやわ、ほんま。

「どないしたんですか、先輩。卒業式やっていうのに、ため息なんかついて・・・」

「あ?あー・・・なんでもないんや、なんでも」

俺を囲んでた女子の1人が、不思議そうな顔で俺を見上げて尋ねてくる。

それに軽い口調で返事して・・・俺はもう一回、気づかれんようにため息を吐いた。

ほんま・・・、は何で全寮制の高校なんか選んだんやろうな。

同じレベルの高校やったら、家から通える範囲でもあんのに。

よっぽどその高校が良かったんやろか?―――そういえばどんな学校なんか聞いてなかったな。

『私、平次たちと同じ高校行くなんて一言も言うてないやろ?』

ずいぶん前にに言われた言葉を思い出す。

確かに、一言も言うて無かったけどな。

でもな。

口に出して言うてなくても、そうやろうって当たり前に思ってたんや。

何処に行くのも一緒で。

示し合わせたわけやないのに、考えてる事も似てて。

特別なことなんてなんも無くても、一緒におるだけで楽しくて心地良くて。

俺がそうやから、もそうなんやと思ってたんやけど―――あいつにとっては違うかったんかな。

それともやっぱり、その居心地の良さを捨ててでもその高校に行きたい理由でもあったんやろうか?

は具体的なこと何も話さんから、俺には解らん。

いっつも1人で考えて、いっつも1人で勝手に決めて。

ほんで1人で勝手に、どっか行ってまうんやな。

ぼんやりと後輩に囲まれとるを見てたら、俺の視線に気づいたんか・・・がいきなり振り返った。

バッチリ目ぇ合って・・・吃驚したような顔してたは、一拍置いた後にやんわりと微笑んだ。

その笑顔が、えらい綺麗で。

でもなんか、えらい悲しそうで。

俺はに笑顔を返すなんて事、出来んかった。

胸の奥が、ズキリと痛んだ。

 

 

まだ街が寝静まった早朝。

控えめに門の開く音が聞こえて、俺は閉じてた目を開けた。

もたれてた他所の家の塀から身体を起して、ゆっくりと開く門を見据える。

「んな朝早ようから、何処に行くつもりや?」

「・・・っ!!」

ため息混じりにそう声を掛けたら、門の中から外を窺うように顔を出した人物がビクリと身体を震わせた。

「・・・平次?」

囁くような、小さい声で俺の名前を呼ぶ。

真昼間やったら聞こえへんような小さい声でも、こんだけ静かやったら耳を澄まさんでも簡単に聞き取れた。

遠くの方で走る、車の音が微かに聞こえる。

でもこの場所は吃驚するほど静かで・・・―――まるで外の世界と切り離されてるような違和感みたいなもんを感じた。

「・・・・・・なんで」

門から上半身だけ出してたは、完全に外に出て門をきっちり閉めてから俺を見て呟く。

その手にあるもんを見て、おれは漏れそうやったため息を飲み込んだ。

やっぱり、思った通りや。

「名探偵舐めんなよ」

俺は内心の脱力感を押し込めて、勝ち誇ったようにニヤリと口角を上げてからの手にあるキャスターつきのトランクに視線を送る。

はその視線に気付いて、困ったように笑みを浮かべた。

絶対は、誰にも見つからんよう朝早くに家を出ると思ったんや。

こいつはそういう奴や。

「見送りなんて気恥ずかしいやろ?苦手なんや、そういうの」

「だから言うて、誰にも挨拶せんと行くつもりやったんか?」

「そんな大袈裟な・・・。永遠の別れでもあるまいし」

苦笑を浮かべて気まずそうに俺から目を逸らしたに気付かれんよう、静まり返った遠山家を見ると、ある一室のカーテンが薄く開いてんのが見えた。

そこに人影を認めて、俺もと同じように苦笑を漏らす。

和葉のやつ・・・気ぃついてて、黙ってるつもりやったんか。

まぁ、今の前にして何言うてええんか解らんっちゅー気持ちは解るけどな。

俺がもっかいに視線を戻したんと同時に、俯いてたも顔を上げた。

「折角こんな朝早くに見送りに来てくれた平次には悪いんやけど・・・電車出るまであんま時間ないねん。私もう行くわ」

は俺を見て、申し訳なさそうに言うてからキャスターを引いて歩き出した。

ちょっと、待てや。

なんでそんな逃げるみたいに、俺に背中見せんねん。

口から出そうやった大声を何とか飲み込んで、俺は遠ざかるの背中を見詰める。

伸ばしかけた手を途中で止めて、痛いほど拳を握り締めた。

「・・・

名前を呼んだら、はピタリと足を止めて首だけで俺を振り返る。

「なに、平次?」

向けられる笑顔はいつもと変わらんように見えんのに。

口から出る声も、いつもと同じように聞こえんのに。

でも拒絶されてるような気になんのは、なんでや?

「お前・・・・・・ほんまに行くんか?」

色んな感情を押し込めて、俺は極力冷静な声でに向かって声を掛けた。

肩に力が入ってんのが、自分でもよう解る。

俺の問い掛けに軽く目を見開いたは、前を向いてた身体を俺の方に向けて、卒業式に見た困ったような笑みを浮かべた。

「当たり前やんか」

サラリと告げられた言葉に、俺の中で落胆が生まれる。

なんでや・・・が行くっちゅー事は、解ってたことやのに。

今更聞いてもしょーがない事やって解りきってんのに。

「行けへんかったら、私どうすんのよ。高校あそこしか受けてないんやし・・・浪人でもさせる気?」

茶化したように肩を竦めて、は相変わらず眉間に皺を寄せたまま笑う。

何時からそんな笑い方するようになってん、お前。

もう思い出されへんわ。

「せやな。変な事聞いてすまんかった」

心の中では問い詰めたい思いやったけど、俺はと同じように何でもない顔して笑った。

ああ、俺も人の事言えんわ―――本心を簡単に口に出せへんようになったんは、俺も同じなんやから。

「ほんならな、平次。また」

「ああ、また帰ってくる時はきっちり連絡せぇよ」

にっこりと作りもんの笑顔を浮かべて挨拶するに、俺も作りもんの笑顔を浮かべて送り出した。

一番近くにおった筈やのに・・・いつの間にこんなに遠くに感じるようになったんやろな。

チラリと横目で和葉の部屋を見上げる―――その部屋のカーテンはもう閉まってて、当たり前やけど和葉の姿も見えんかった。

ちょっとづつ遠くなってくの背中を見ながら、俺はぼんやりと立ち尽くす。

もし。

もし俺が、一番最初の時点で『行くな』っちゅーたら、お前は今もここにおったんか?

もし俺が、お前に『好きや』って言うてたら・・・お前は俺の側におってくれたか?

曲がり角を曲がって、の姿が視界から消える。

途端にどうしようもないほど苦しくなって、俺は乱暴に髪の毛を掻き毟った。

「・・・ざけんなよ」

吐き出すように、悪態をつく。

絶対、泣いてなんかやらん。

耳障りなくらい静かなそこに立ち尽くして、俺は睨み付けるように空を見た。

薄暗かった空は、ちょっとづつ青空に変わっていく。

がどう思てようと、もう知らん―――俺には関係ない。

絶対に、諦めてなんかやらんからな。

ちょっと位距離が離れたからって、それがなんやねん。

この服部平次様を甘く見んなよ、

俺は新たな決意を胸に秘めて、の去った方向を睨みつけた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

中途半端な終わり方(笑)

しかもなんかハッピーエンドとは言い切れない感が・・・。

でもこれは間違いなく平次夢です。

間違っても、悲恋なんかじゃありません!

この後もコナンや蘭を交えて、不毛な三角関係は続いていくのです(笑)

一応色々考えてはいるので、続きを書きたいなぁ・・・とか思いつつ、この話は中途半端なままで一応完結です。

作成日 2004.12.11

更新日 2007.9.13

 

戻る