「素晴らしい!!」

マナの守護塔を前にし、リフィルが歓声を上げた。

素晴らしいほどの瞬発力で堅く閉じられている扉に近づくと、感極まるとでも言うように扉を撫でまわす。

「これがかつて救いの塔を望んだという、マナの守護塔か!!」

口調も行動も・・・さらには声のトーンまで変わってしまっているリフィルを、一同はまたかとでも言いたげに呆れた眼差しでその姿を見詰めていた。

ふとジーニアスは我に返る。―――このリフィルの姿を、彼女たちは知らないのだということを思い出し、恐る恐る背後を振り返った。

ジーニアスの目に映ったのは、ポカンと口を開いて呆気に取られているしいなと俯いて肩を震わせているの姿。

「・・・リフィルは、いつもああなのかい?」

「え!?ああ・・・えっと、まぁ・・・なんて言うか・・・」

しいなの疑問の声に、ジーニアスは口ごもり思わず遠くを見る。

そんなジーニアスを見て、は耐え切れず噴出した。

「も・・・もう、ダメ」

声を殺して苦しげに肩を震わせて笑うを見詰めて、ジーニアスは溜息を零した。

 

義務権利

 

の笑いが収まった頃、漸くリフィルが扉から手を離した。

「中を見てみたいものだ」

切望の眼差しで扉の奥を見通さんばかりに凝視するリフィルをそのままに、コレットは同じく扉を見上げる。

「再生の書によると、ここが封印である可能性が高いんですよね」

「・・・でも、神託の石版がないよ?」

コレットの言葉に、ジーニアスが辺りを見回しながら返事を返す。

「鍵が掛かっているな」

扉を軽く手で押しつつ、クラトスがポツリと呟いた。

それにふ〜んと頷き、ロイドが扉に近づく。―――鍵穴はすぐに見つかったけれど、奮闘する事数分、すぐにそれが簡単には開けられないことを悟ってロイドはさじを投げた。

「鍵を貰って来た方が早いんじゃないの?」

既にこの状況に飽きたが、階段に座り込み気のない声色で提案する。

「貰ってくるって言ってもなぁ・・・」

しかし鍵はルインが襲われた際、同じくルインに現れたクララによって奪われていた。

クララはディザイアンの手によって化け物と化したが、今はディザイアンの手の内にいるわけではない。―――広い世界に逃げ出し、現在行方不明中なのだ。

「そういやぁ、ピエトロさんに会いにハイマに行った時にクララさん居たよな」

「そうだね。あの時ここの鍵が必要だって解ってたら、クララさんから取り戻したんだけどね」

遠い目をして過去を思い起こすロイドとジーニアスを見詰め、しいなは何かを思い出したかのように恐る恐る自分のポケットへ手を伸ばす。

そこにある確かな感触に、視線をそれを握った手に向けた。

「・・・・・・もしかして、これじゃないのかい?」

おずおずと差し出された銀色の鍵を、一同は呆然と見詰める。

「・・・どうしたの、これ?」

その中で状況の読めないが、小さく首を傾げてしいなに問い掛けた。

「ああ、実は一度目にあんたを助けに行った時失敗したんだよ。それで・・・ほら、ちょっと前にピエトロっていう牧場から逃げ出してきた人助けただろ?その人に侵入方法聞こうと思ってハイマに行ったんだ。そしたらクララさんがいて・・・」

村人に退治されそうになってたクララを止め逃がした際、この鍵を落として言ったのだとしいなは続けて説明する。

「なんかよく解らなかったけど、とりあえず拾っといたんだ。まさかここの鍵だとは思ってもいなかったけどね」

「ふ〜ん・・・」

曖昧に相槌を打ち鍵を手に取って見詰めるから、今まで放置されていたリフィルがそれを奪い取る。

「よし!中に入ろうではないか!!」

意気揚々と鍵を鍵穴に差込み、見事開いた扉から中に駆け込むリフィル。

それを見送って、一同は溜息混じりに重い足取りでリフィルの後を追うべく扉をくぐる。

それよりも・・・と小さく呟いたの声に、一同は首だけで振り返った。

「そのクララさんって・・・どんな人なの?」

今の会話から解るのは、崩壊したルインでしいなたちに襲い掛かった後逃走し、再びハイマに現れ村人と戦闘を繰り広げた挙句、またもや逃走を図った人物。

名前から察するに女だという事は解るんだけど・・・と言葉を続けながら、それでどんな人なの?と好奇心を目に宿して首を傾げる

の推測だけを聞けば、確かにどんな人間なのかと突っ込みを入れたくなるのも無理はないだろうと思えたが、一同はその説明する気力もなく、ただ溜息を返す。

「何をしている!早く入って来い!!」

中から飛んでくる怒声に、のささやかな疑問は当然のことのように流された。

 

 

内部に入った一同は、その光景に思わず息を漏らした。

壁を覆い隠すように設置された本棚には、数え切れないほど大量の本が収められている。

広い空間に高い天井。―――床には何かの図が描かれており、一番奥と入り口から右手の方向に扉らしきものが・・・そうして部屋の中央には、意味ありげな小ぶりの台。

「あ、あれ!神託の石版なんじゃないの?」

ジーニアスの声に反応して、リフィルが石版へと駆け寄った。

「おお!再生の書の通りだ!やはりここが封印だったか。コレット、頼むぞ!」

リフィルの呼び掛けに、コレットが小さく頷いて石版に手をかざす。―――それと同時に床から淡い光が放たれ、床に描かれていた図が微かな光を放った。

「・・・開かねぇな」

けれどそれ以上何も起こらず、また扉も閉ざされたままなのに対しロイドが呟くと、クラトスは光を放つ図を指差して言った。

「いや、あの魔方陣のようなものを見ろ」

「素晴らしい!神託の石版によって、この装置が眠りから覚めたのだな!?」

しかしロイド達が図に視線を移す前に、リフィルが飛ぶ勢いで視界を遮る。

出鼻をくじかれたロイドは一瞬動きを止めたが、すぐさま気を取り直してリフィルの後ろから光を放つ魔方陣を見詰めた。

「じゃあ、あの魔方陣をどうにかすれば良いんだね」

「どうにかって・・・?」

リフィルから少しだけ離れた場所で事の成り行きを見守るしいなが、明らかに上の空のに同意を求めるけれど、当のは装置のことなど眼中にないようで本棚に収められた本の背表紙を目で追っている。

そう言えば・・・と、しいなはそんなを眺めながら思い出す。

は本が好きで、暇さえあればいつも何かを読んでいた。―――暇潰しにの部屋にあった本を開いてみたしいなは、その複雑な内容にまず読む気力が削がれたことを思い出す。

かと思えば、どうでも良いような下らない内容の本を読んでいたりするので、に対する謎は深まるばかりだ。

「ここが怪しいな・・・。ロイド、その丸い円の上に乗ってみろ!」

リフィルの指示が飛ぶ中、逆らう事は得策ではないと身に染みて解っているロイドは、何も言わずに言われた通りに円の上に移動する。

「ジーニアスはそっちの円に」

「うん」

ジーニアスは遺跡モードのリフィルに慣れているのか、躊躇いも見せずに円の上に立つ。

その瞬間、右側の扉が重い音を立てて開いた。

「「「おお〜!!」」」

歓声の声を上げる3人。―――ロイドが尊敬の眼差しを浮かべてリフィルに駆け寄ろうと円の上から出た途端、しかし先ほど開いた扉は再び音を立てて閉じる。

「あれ?閉まっちまった」

ポカンと口を開いて扉を見詰めるロイドに、クラトスは静かな声色で呟く。

「どうやら誰かが乗っていないと、扉が開かない仕組みのようだな。帰りのことを考えると・・・」

「3人はここに残らなければならないという事か・・・。危険だが、やむをえんな」

クラトスの言葉を引き継いで、リフィルが神妙な面持ちで答える。

問題は、誰がここに残るのかという事だ。

「コレットは除外として・・・。誰が残るんだい?」

今まで口を挟まず見守っていたしいなが、リフィルに問い掛けた。

「・・・誰がと言われてもな」

リフィルは口ごもり、そうしてチラリとコレットを見る。

彼女に重大な選択を任せては危険だという事は、アスカード人間牧場の一件で既に思い知っている。―――またジャンケンを持ち出されたのでは、頭痛の種が増すばかりだ。

「じゃあ、私としいなが残るわ」

唐突に、我関せず本を眺めていたが提案する。

「あたしたちがかい?」

「そう。後は・・・・・・ジーニアス、貴方も私たちと一緒にここに残りましょう」

「ええ!僕!?」

突然の指名に、ジーニアスが驚きの声を上げた。

そうよとにっこりと微笑むに、リフィルが真剣な眼差しで視線を返す。

「・・・何故その人選なのか、聞いても構わないか?」

口調こそまだ遺跡モードではあるけれど、幾分か冷静さを取り戻し通常状態に戻りつつあるようだ。

その視線を受けて、は動じる事無く笑顔を浮かべ続ける。

「ロイドが一緒にいた方がコレットも安心でしょうし、クラトスは護衛なんだから一緒に行かないわけにもいかないでしょう?」

「それはそうだが・・・」

「私たちよりもリフィルたちの方がコレットも心強いだろうし。どちらか2人を選ぶなら、リフィルが行った方が良いんじゃないかしら?ジーニアスは魔術専門でしょ?こんな限られた空間の中で大技使うわけにもいかないし、戦力的に見てもリフィルが行った方がね」

つらつらと並べられた言葉に、リフィルは一瞬口ごもる。

が言っている事は確かに正論なのだ。―――だからこそ、容易な反論が見当たらない。

「良いでしょう。ただし・・・貴女かしいなのどちらかにコレット達の方へ同行してもらいます。戦力的に見るなら、そちらの方が良いはずよ」

完全に元の口調に戻ったリフィルが、何かを含むような目でを見返した。

その視線の意味を正しく読み取って、は軽く肩を竦める。

「じゃあ、しいなが付いて行って」

「あたしかい?」

矛先を向けられたしいなが小さく首を傾げて言葉を返す。―――付いて行くのは別に構わないのだけれど、自分が行くよりもが行った方が色々と得なのではないかとしいなは思った。

は何故か様々な遺跡に詳しいし、また豊富な知識もある。

何か壁にぶち当たった時、自分よりもがいた方が・・・と考えるしいなに、しかしは至極あっさりと言い切った。

「しいなの特殊能力は、こういった場所でより発揮されるものよ。―――それに、私は一緒に行くよりもここで本を読んでいたいし・・・」

「あんた・・・それが本音だろう?」

「人聞き悪い事言わないでよ、しいな」

誉め言葉の後に付け加えられた小さな呟きに、しいながを半目で睨みながら突っ込む。―――それに対して楽しそうに笑うを目に映し、リフィルは溜息を漏らした。

「解りました。ではここに残るのは私とジーニアスと。良いわね?」

リフィルの下した決定に、全員が頷く。

すぐさま装置を作動させて、コレットたちは開いた扉に向かう。

その後ろ姿を見送って・・・―――は注がれる探るような視線を感じて、思わず苦笑を浮かべた。

振り返れば、無言で何かを問い掛けるリフィルの眼差し。

それを受けて、は流すようにやんわりと微笑む。

そんな2人の遣り取りに気付いていたのは、心配げに先に進む為に扉に向かったクラトスだけだった。

 

 

コレットたちが先に進んだ後、部屋の中は静寂に包まれた。

所在なげに辺りを見回したジーニアスは、する事も無く落ち着かない様子で部屋の中を歩き回る。―――同じくこの場に残ったリフィルは未だ装置を弄り続け、または何かの本を手にとってそれを読みふけっていた。

ジーニアスは小さく溜息を吐いて、コレットたちが向かった・・・既に閉ざされている扉を見詰める。

「この封印を解いたら、コレットはまた・・・人間性を失っちゃうんだよね」

ポツリと口から漏れた呟きに、とリフィルが顔を上げた。

「何とか・・・阻止する方法ってないのかな?」

誰にとも無く問い掛ける。―――不意にジーニアスと目が合ったは、読んでいた本をパタリと音を立てて閉じると、小さく首を傾げて言葉を返した。

「コレットの天使化を食い止めたいの?」

何の感情も篭らない声色で問われ、ジーニアスは呆気に取られてを見返した。

「当たり前だろ?」

「・・・どうして?」

「どうしてって・・・コレットは友だちなんだ。辛い思いなんてして欲しくないよ」

搾り出すように言うと、はふ〜んと頷きながら立ち上がり、持っていた本を元の本棚に戻す。―――その手で違う本を取り、なら・・・と言葉を続けて振り返った。

「そう思うなら、世界再生なんて止めなさい」

キッパリと告げられ、ジーニアスはただを凝視する。

「そんな・・・そんな事、出来る訳・・・」

「なら、コレットを諦めるのね。それ以外に方法は無いわ」

冷たく言い捨てられ、ジーニアスは言葉もなくを見詰め続けた。

その目に浮かんだ批難の色に、は表情を変えずに元いた場所に戻り座り込む。

「二兎を追う者は一兎をも得ず、よ。選択肢は2つしかないわ。何かを成すには犠牲は付きものだもの」

「だからって、そんな簡単にっ!!」

声を荒げて反論するジーニアスに、はただ感情の読めない目を向けるだけ。

リフィルは黙って事の成り行きを窺っていた。

の言う言葉は何処までも正論だ。―――正論過ぎて、恐怖すら感じるほどに。

ここまで割り切れる強さ・冷静さが、どこか諦めのようにも思えて、年齢にそぐわない老成した考えが違和感を誘う。

彼女は一体、何者なのだろうかと。

「本当に護りたいモノがなんなのか、よく考えなさい。何をしてでも失いたくないモノがなんなのか・・・。その為には切り捨てなければならないものも在るのだという事を。まだ幼い貴方には酷だけれど・・・この旅は遊びではないのだから」

「・・・・・・」

「別にコレットを想う気持ちを捨てろって言ってるわけじゃない。それは当然の感情だもの。ただ・・・何時何が起きても耐えられる心の準備は必要だというだけ」

そう言うの目には、ジーニアスに対する労わりが宿っていた。

どれほど冷たい態度であっても、それがジーニアスの為を思った上での言葉だと解っていたから、リフィルは大人しく口を噤む。

「でも・・・」

「すべての人を救ってくれるほど、神様は優しくなんてないわ。そうじゃなきゃ、こんな残酷な世界を作ったりなんてしない」

言い淀むジーニアスに、はキッパリと告げた。

その目には悲しみの色が浮かんでいる。―――もまた、世界再生故に失うものを抱えているのだろうと、リフィルはそれに興味を抱いた。

部屋の中に重い空気が漂う。

その沈黙を破ったのは、自ら重い空気をもたらしただった。

この際だから言っておくけど・・・と、はジーニアスからリフィルに視線を移す。

「心配しなくても、貴女たちを裏切ったりなんてしないわよ。裏切るつもりなら、最初から深入りなんてしない。だから、そんなに警戒しないで」

あんまり警戒されると肩が凝るのよねと苦笑して、肩を竦める。

唐突に話を切り替えられたリフィルは、我に返ってを見据えた。

「貴女たちが私たちを裏切らないという、その証拠は?」

「・・・証拠ね。誰も彼も、相手を信用するのにはみんな証拠が必要なのね」

過去何度か向けられた同じ問い掛けに、は溜息混じりに呟く。

リフィルに信用されていない事を、は知っていた。

今回もこの場に留まる人間に自分としいなをと決めた根拠は、リフィルに説明した通りの意味だ。―――それに裏も表もない。

しかしリフィルにしてみれば、信用ならない人物を脱出経路に配置するのには不安が大きすぎたのだろう。

確かにとしいなが扉を閉ざしてしまえば、容易に塔から出る事は難しいのだから。

同じく残るメンバーに選んだのがジーニアスだった事にも拍車をかけていた。―――接近戦闘に向かないジーニアスは、それを得意とする2人にしてみればどうこうするのに最適だった。

「別に信用してくれなくても構わないわ。必要以上の警戒心を向けられなければ、私はそれで構わない。私を疑う権利が、貴女たちにはあるんだから。―――お世辞にも、私はそう簡単に信用を得られるような人間じゃない事は承知済みだしね」

茶化すように笑って・・・けれど次の瞬間、は真剣な表情を浮かべる。

「だけど、しいなだけは信用してあげて。あの子は本気で、貴女たちの事を思ってる。自分の大切なモノを押し殺してでも、コレットを助けたいと思ってる。実際しいなはそう簡単に人を謀れるほど器用でもないし」

穏やかな表情で語るに、リフィルは口を開く。

「彼女の事が、とても大切なのね・・・」

リフィルの言葉に、は照れたように微笑んだ。

言葉は返って来なかったけれど、その表情だけで十分だった。

その笑顔だけで、抱いていた警戒心が薄らいだのをリフィルは自覚する。

そんな風に人を大切に思える相手ならば、信用しても良いのではないかと。

「あ!姉さん、あれ!!」

今まで黙って2人の遣り取りを聞いていたジーニアスが、唐突に声を上げた。

指差された方を見ると、先ほどまで堅く閉ざされていた正面の扉が開いている。

それと同時に今まで動いていなかった装置が動き始め、そこにロイドの姿が浮かび上がった。

相手の声は聞こえないけれど、こちらの声は確実に届いているのだとロイドの様子を見て察したリフィルは、映像が消えた後開いた正面の通路を見詰める。

「よし!私たちも先に進むぞ!!」

再び遺跡モードに変貌し、リフィルは勢い良く駆け出した。―――付いて来い!と声を掛けられて、そこに警戒心がない事を読み取ったは小さく微笑む。

数々の仕掛けを解きながら進む内に、遠くの方にロイド達の姿を認め、は考え込むようにコレットを見据える。

強制的に背負わされた義務と、1人の人としての権利。

彼女は一体どちらを選ぶのだろうと自問して、答えの代わりに苦笑を浮かべる。

そんなモノは問うだけ無駄だと、ロイド達には悟られない程度に笑顔を曇らせたコレットを見ては思った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

話を題名に合わせてるのか、それとも題名に話を合わせてるのか微妙な所ですが。(どっちでも一緒だ)

どうもシリアスな方へと行きたがる傾向にあるようで、なかなかギャグに出来ません。

そして肝心な部分をまたもやすっ飛ばし。

ゲーム沿いでありながら、本編すっ飛ばすとはどういう・・・。(笑)

作成日 2004.11.3

更新日 2008.5.21

 

戻る