「「「「「「「「最初はグー、じゃんけんポイ!!」」」」」」」」

「あ〜!!」

「・・・フシュー」

俺はじゃんけんの勝敗を見て、思わず声を上げた。

「じゃあ買出し係りは菊丸と海堂に決定だ」

俺と海堂は、乾から差し出されたメモ用紙を手にテニスコートを出た。

 

逃亡少

 

「あ〜あ、ツイテナイにゃ〜」

青学の最寄のコンビニに向かう道すがら、誰に言うでもなく思わず呟いた。

海堂は何にも言わないで、ただ俺の後ろを歩いてる。

やっぱドリンク作ってくれるマネージャーが欲しい!!って声を上げると、海堂はちょっと俺の顔を見てから、いつものため息(?)を吐いた。

だってだって!!

マネージャーがいれば、休憩時間にドリンクとタオルがないなんてことないし、洗濯だって部室の掃除だって、未だに俺たちが交代でやってるんだよ!?

俺がそう言うと海堂は、

「マネージャーは家政婦じゃないんすよ?」

と俺を見て呆れた風に言った。

そんなこと分かってるよ!

「それにドリンクなら、乾先輩が作ってくれてるじゃないっすか」

それを遠慮したいから、今俺たちが買出しに行ってるんでしょ?

乾の作るドリンクは、日に日に凄いことになっていってる。

このまま行けば、近いうちにとんでもないことが起きるかもしれない。

俺は嫌な予感をひしひしと感じて、思わず身を竦めた。

 

 

やっとコンビニに辿りつくと(そんなに遠くないけど)、異様な光景に直面した。

いや、別に珍しいとか言うわけじゃないんだけど。

まるで通せんぼするみたいに、コンビニの入り口のところで高校生らしい男たちがたむろっていた―――そんでもって、その中心には絡まれてる様子の女の子が1人。

「・・・海堂」

「・・・うっす」

これは助けなきゃいけないでしょ!?という意味をこめて海堂を呼ぶと、おんなじことを考えてたのか、海堂もやる気満々で返事をした。

さて、行くか―――と気合を入れて一歩踏み出した瞬間、男たちの1人が勢いよく吹っ飛んだ。

「は?にゃに!?」

俺たちが驚いて固まってる間に、次々と男たちが吹っ飛んでいく。

最後に残ったのは、男達に絡まれていた女の子と、俺たちだけだった。

「はぁ〜、すっきりした」

その女の子は言葉通り晴れ晴れとした表情で、手を叩いてコンビニに入ろうと踵を返した。

そんでもって、俺たちに気付いたのか驚いた表情を浮かべてから恥ずかしそうに笑う。

びっくりした。

男達に囲まれてた時も姿は見えなかったし、さっきも後ろ姿だけだったからわからなかったけど、すっごい美少女だ。

髪の毛は腰まであるさらさらロングヘアーで、身長は他の女子に比べると高い方だけど体つきは華奢だし、顔も整ってて凛としてる。

基本は美人系なんだけど、さっきみたいに恥ずかしそうに笑うと可愛い感じ。

なによりも、こんな女の子が男たちを吹っ飛ばした方に余計びっくりした。

「あはは、いや〜な所見られちゃった?もしかして助けようとしてくれてたんでしょ?もうちょっと我慢してれば良かったかな?」

女の子は俺たちの様子を見てそう思ったらしい。

いや、そのつもりだったんだけど。

「ううん、俺らのほうこそさっさと助けなくてごめんね?でもおかげで面白いものがみれたにゃ〜」

「・・・菊丸先輩」

俺がそう言うと海堂が慌てたみたいに口を挟んだけど、当の女の子の方はあんまり気にしてない様子で、そりゃよかった、とか言って笑った。

「俺、菊丸英二。英二でいいよ。そんでもってこっちが海堂。君は・・・?」

「あたしはって呼んでね?」

は可愛らしく笑って、俺たちと一緒にコンビニに入った。

俺たちはさっそくメモ用紙を見ながらドリンク類を籠に入れて、その間にはアイスを物色する。

ほとんど同時に買い物を済ませた3人は、なんだか成り行きで一緒に歩くことになった。

「歩いてたらすっごく暑かったからアイスでも食べようかと思ってコンビニ行ったのよ。そしたら変な男達にからまれちゃって・・・」

買ったばっかりのアイスを頬張りながら、はさっきの状況の説明をしてくれる。

そのお返しって訳じゃないけど、俺たちも自分の事をに話した。

するとは驚いたように俺たちの顔を見て・・・それから「ふ〜ん」とどうでもよさ気な返事を返してくる。

「そんなことより、俺たちに付いてきていいんすか?」

ほとんど口を開かなかった海堂が、隣を歩いてるを見て言った。

「ああ、いいのいいの。あたしの目的地はエージたちと一緒だからね」

は俺たちが着てるレギュラージャージの背中の部分を指差して言った。

背中には『SEIGAKU』と大きな文字で書いてある。

「にゃに?青学に用事でもあるの?」

「そういうこと。ちょっと知り合いがいてね。会いに行こうかと思って」

「ふ〜ん」

「エージたちとおんなじテニス部で、レギュラーやってると思うんだけど」

「ふ〜ん・・・って、えぇ!?」

テニス部でレギュラー!?

ってことは、手塚か不二か大石かタカさんか乾か桃の知り合いってこと!?

この発言には海堂もびっくりしたみたいで、の顔を凝視してる。

「それで・・・、誰と知り合いなの?っていうか、どういう関係?」

「さぁ・・・、どう思う?」

ちょっと人の悪い笑みを浮かべて、はからかうように言った。

 

 

買出しの荷物を持ってテニスコートにつくと、みんな待ってましたと言わんばかりに買ってきたばっかりのドリンクを奪い取っていった。

こうなることがあらかじめ分かっていた俺と海堂は、自分の分のドリンクは確保してあったから何も言わない。

そんなことよりも、誰の知り合いなのかテニスコートに着いたら教えてくれるって言ってたに、答えを聞こうと振り返って・・・。

「あれ?海堂・・・は?」

「えっ?いないんすか?」

慌てて周りを見回してみても、の姿がない。

もしかして逃げた?

でもテニス部に知り合いがいるんだったら、逃げてもしょうがないと思うんだけど。

「どうしたの、英二?」

傍目から見てたらすっごい挙動不審だったのか、笑顔を浮かべた不二が首を傾げる。

俺と海堂は、さっきあったことの全部を説明した。

不二だけじゃなくて、ドリンクの奪い合いをしてた他のレギュラーたちも聞いていた。

「へぇ、面白そうな子だね?」

「誰の知り合いかは教えてくれなかったのか?」

不二と大石が顔を見合わせる。

そうなんだよ、誰の知り合いか教えてくれなかったんだよ!

すっごく、すっごく気になる!!

「・・・菊丸、名前は聞かなかったのか?」

いつも通りノートを手に、乾が言った。

一体、何のデータとるつもりなのさ!?

「・・・聞きましたよ。たしか・・・とか・・・」

ちょっと恐怖に怯えていた俺の代わりに、海堂が答える。

その瞬間、乾はノートに書き込んでた手を止めて、海堂をじっと見つめる。

「・・・・・・?」

「・・・そう言ってたっすけど?」

なんだかいつもとちょっとだけ様子が違う乾。

もしかしての言ってた知り合いって、乾のことなの?

「知り合いなのか、乾?」

黙って話を聞いていた手塚が、ピクリとも動かなくなった乾に不審を抱いて声をかける。

「ああ、まぁね」

いつもと違ってはっきりと答えない乾―――・・・おかしい。

そんな俺たちの視線に気付いたのか、乾は小さく笑った。

は俺の幼なじみだよ。物心ついた頃から一緒にいたんだ」

乾の幼なじみ!?

すっごく普通の子に見えたのに・・・。

「へぇ、乾に幼なじみなんていたんだ?この学校に通ってるの?」

「いや・・・、は小6の夏休み頃にアメリカに留学してね。今はアメリカにいるはずなんだけど・・・」

アメリカに留学?

でもさっきいたじゃん、青学最寄のコンビニに。

しかもナンパしてきた男たちフッ飛ばしてたじゃん。

「・・・は今、行方不明中なんだよ。突然アメリカの住まいから姿を消してね」

ああ、だからいたんだ・・・青学最寄のコンビニに。

・・・って、行方不明!?

「それって大変じゃん!多分まだ近くにいると思うから、俺捜してくる!!」

俺は慌ててコートを飛び出した。

海堂も同じように心配になったのか、俺の後についてくる。

とにかく早く見つけなきゃ!!

 

 

探し回って10分後、意外にあっさりとは見つかった。

中庭の木陰で寝転がっているは、まるで行方不明中の人物とは思えないほど呑気。

!急にいなくなるからびっくりしたじゃん!!」

近くまで寄って声をかけると、はそのままの体勢でバツが悪そうに顔をしかめた。

「だってさ・・・、やっぱ気まずいじゃん?心の準備とかあるし・・・。絶対怒られると思うから、出直してこようかなと・・・」

「もう遅いよ?」

の言葉を遮って、俺の背後から低い声が聞こえてきた。

振り返れば乾がいた。(某ドラマ風に)

「こんな所で何をやってるのかな?」

「光合成でもと思いまして・・・」

「人間は光合成しないよ?それに『ちょっと散歩に行って来る』って書置きだけ残していなくなったらみんな心配するでしょ?」

「散歩はあたしの趣味なの」

「『ちょっと散歩』で、どうしてアメリカにいるがここにいるんだい?」

「やっぱ世界を又にかける女としては、散歩もこのくらいのスケールがないと」

淡々と会話を続ける2人。

話に入る隙がない。

俺と海堂は、ただただその場を見守る傍観者。

「取りあえず話は後でゆっくり聞くから。部活が終わるまでおとなしく待っててくれ」

「・・・はぁ〜い」

ため息混じりにそう言う乾に対して、は気の抜けたような返事を返す。

テニスコートに向かって移動中、俺はに話し掛けた。

「ねぇねぇ、どうして日本に帰ってきたの?」

「・・・話せば長くなるんだけどね」

さっきとは比べ物にならないくらい真剣な顔つきで、はため息を一つ。

「実は・・・ものすごくとろろソバが食べたくなっちゃったの」

「・・・は?」

「やっぱり夏といえばざるソバでしょ?あたしはとろろソバが好きなんだけど・・・」

何か真剣な表情の割に、話がすっごい低レベルな気が・・・。

「・・・ソバならアメリカにもあるんじゃないの?」

「あたしは日本のが食べたかったの!!」

乾のため息が聞こえた。

「・・・それだけ・・・っすか?」

おそるおそる海堂が聞く。

返事は聞かなくても分かるような気がしたけど、の顔を見れば真剣な顔で一つ頷いた。

「書置きのこともね、考えたんだよ?正直に『とろろソバを食べに行って来る』って書こうかなって?でもそれだとやっぱり意味がわからないかと思って、『散歩に行って来る』って書くことにしたの」

それでも十分意味わかんないよ。

っていうか、さっき『散歩が趣味』って言ってなかったっけ?

「取りあえずアメリカの方に早く連絡をいれて、明日にでも帰ったほうがいい。向こうでもみんなすごく心配してるからね」

「は?あたし帰んないわよ、アメリカ」

「「「は?」」」

見事に俺たちの声が揃った。

普段協調性なんて微塵もないのに・・・ってそういう場合じゃなくて!

「帰らないの!?」

「うん。あたしちょっとの間こっちに帰ってきて、しみじみ分かったんだよ。やっぱりあたしは日本人だなって。アメリカもいいんだけど、食生活とかはやっぱりこっちの方が合ってるし。・・・っていうか、もう留学飽きちゃった」

飽きちゃったって・・・、そもそも留学って飽きた飽きないでするもんじゃないでしょ?

それに食生活が何とかっていろいろいってたけど、それが第一の理由じゃないの?

「・・・

「ご意見はただ今募集しておりませんよ?あたしはあたしの道を生きるのだ!」

何か言いた気な乾の視線を手で遮って、おどけた調子で言う。

「じゃ・・・じゃあ、もしかして青学に通うことになるとか?そうなったら同級生だよね?」

何とかこの場の雰囲気を盛り上げたくてそんなことを聞いてみると、はにっこりと可愛らしい笑顔を浮かべる。

「っていうか、明日から通うから、青学。もう転入届も出したし」

「「「は?」」」

再び、俺たちの声がハモった。

「転入届って・・・いつ出したの?」

「う〜んと・・・昨日?」

何で疑問系なの?

っていうか、行動早っ!!

「どうしてそう大切なことを相談もなしに決めるのかな?」

「乾ってば親みたいなことばっかりだね、若さが足りないよ?中学生なら中学生らしく、『わぁ、一緒の学校に通えるの?やったー!!』位言ったらどう?」

乾がそんなこと言っても怖いだけだと思うけど。

何かよくわかんない言い合いを延々と続けてる2人。

海堂が疲れたようなため息を吐いた。

わかるよ、海堂。

なんか見てるだけで気力が吸い取られてく気がするんだよね。

「・・・何であの人が乾先輩の幼なじみやってられるか、分かった気がします」

海堂のその言葉に、激しく同意。

すっごい普通の女の子に見えたけど、やっぱりそれなりにしっかりしてる。

その前に、コンビニで高校生吹っ飛ばした時点で気付くべきだったんだよね。

 

 

テニスコートに着いて、は部活が終わるまで練習を見学することになって。

フェンスの向こうから、じっと練習を眺めてる。

練習を抜け出したことに対するお咎めは、手塚には珍しくなかった。

まぁ、事が事だしね。

いくらなんでも『行方不明の幼なじみ』が姿を現したって言う理由でちょっと抜けたぐらいじゃ、手塚でもバツは与えられなかった。

いつの間にかの隣には竜崎先生がいて。

何か話していて、それが気になった俺はバレないように練習しながらも2人の話に耳を澄ました。

「あんたがかい?」

「・・・どちらさまで?」

「男子テニス部の顧問をやっとる竜崎スミレだ」

「竜崎・・・スミレ?ずいぶんと可愛らしいお名前で」

俺は吹出しそうになるのをこらえるのに、一苦労した。

「はは、ありがとよ」

「あたしのことをご存知ですか?」

「ああ、あの乾の幼なじみだってえらい噂だよ?どんな娘なんだろうってね」

「そう・・・ですか」

2人の間にちょっとした沈黙。

柔軟をしながらだから2人の表情が見られないことが気になる。

「明日から青学に転入してくるんだってね?」

「はい、思い立ったが吉日って事で!」

の場合、もうちょっとそれは控えた方がいいかもしれない。

とろろソバが食べたいばっかりに帰ってくるなんて『思い立ったが吉日』実行しすぎ。

「アメリカの方はもういいのかい?」

「・・・・・・」

返事は聞こえない。

ただちょっとだけ笑ってる声が聞こえた。

「あんた・・・、テニスは好きかい?」

しばらくの沈黙の後、竜崎先生がなんともいえない声でそう言った。

「・・・さあ?」

どこか含むようなの声。

その後に聞こえる苦笑したような小さな声。

さっきからの表情を見たいと思ってたけど、今ほど強く思ったことはなかった。

結局は見られなかったけどさ・・・、手塚が凄い顔で睨んでたから

俺は手塚の雷が落ちる前に、さっさと練習に戻った。

その後も先生とは何かを話してたけど、もう俺には聞こえなかった。

 

 

練習が終わって。

乾はいつもよりも早く着替えて、外で待ってるをつれて帰っていった。

「じゃね〜、また明日!」

ほとんど引きずられるようにその場を去っていくは、会った時と変わらない笑顔で俺たちに向かって手を振る。

そう言えば、明日から青学に転入してくるって言ってたっけ?

俺の第六感が、何か大変なことになりそうだとひしひしと警告する。

でもそれと同時に、面白いことが起こりそうだという予感もしたりして。

取りあえず一緒のクラスになれたらいいなぁとか思いつつ、さっきあった事の一部始終をレギュラー陣に話し始めた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

テニスの王子様、連載スタート!

主人公は乾の幼なじみです。趣味入りまくりです。(笑)

時期で言えば、手塚たちが2年、海堂・桃城が1年生。(リョーマはまだいません)

夏の大会が終わって今のメンバーがレギュラーになった頃です(手塚が部長になった頃)。

よく分かりませんが、9月くらい?

どこまで続くか分かりませんが、のんびりやっていきたいと思います。

よろしければお付き合いくださいませ。

 

更新日 2007.9.13

 

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