強い風を受け止めて、窓ガラスがガタガタと鳴った。

その物音には作業の手を止めて、先ほど鳴った窓に視線をやる。

カーテンの向こうから悲鳴のような風の音が聞こえてくるのを確認して、ロードワークに行った乾はさぞや寒い思いをしているだろうとぼんやりと思う。

そんな事を考えていたの耳に鍋が噴く音が届き、慌てて鍋の蓋に手を伸ばした。

中の具材はもうすっかり煮えているようで、手早く灰汁を取り味付けをしようと冷蔵庫に手を伸ばす。―――毎日の夕飯の準備も、日課となっては手馴れたものだ。

冷蔵庫を開けて中に手を伸ばしたは、そこにあった思ったよりも軽い容器を手に取り、困ったように呟いた。

「醤油が・・・ない」

 

君の家に着くまでっていく

 

視点)

スーパーを出たあたしは、容赦なく吹き付ける冷たい風に思わず身を縮こませた。

寒い・・・尋常じゃなく。

それはそうか、だって冬だし。

だけども、今日は一段と風が強くて冷たい気がする。―――こういうのを北風って言うんだろうな・・・なんて思わず現実逃避してみたり。

そんなことしても寒さが柔らぐわけじゃないんだけど。

ガサガサと音を立てる袋を持ち直して、醤油が無いこと忘れてなきゃ学校帰りにでも買って来たのに・・・と少しばかり後悔しながら、家への道を急ぐ。

醤油が無いことを思い出した時、ロードワークに出てる乾に買って来てもらおうかなとちょっとばかり思ったけど、ロードワーク中の彼にそんな事を頼むのも悪いかと思い直して自分で買いに来る事にしたのだ。―――まあ、どうせ財布持って行ってないだろうとか、帰ってくるの待ってたら夕飯遅くなっちゃうしとか思ったなんてことは秘密の方向で。

それにしたって、言ってもしょうがない事は解ってるけど、とにかく寒い。

寒さのあまり早足になるのを自覚しながらも、そのまま家路を急ぐ。

家の傍にある小さな公園を横切って・・・―――ふと何気なく視界に入ったその小さな公園の中で、等間隔に設置されているベンチに寝転んでいる人影を見つけ、あたしは思わず心配よりも先に感心してしまった。

よくこんな寒いところで寝れるな・・・なんてぼんやり思う。

もう辺りは暗いからはっきりとは見えないけど、何となく若い感じの男の子で。

真っ白のダッフルコートが、暗い中で妙な存在感を主張している。

そういえばあのダッフルと同じようなやつ着てた人いたなぁ・・・なんて思って。

金色のふわふわの髪が見えて・・・―――そうそう、確かジロー辺りが似たようなの着てたなぁなんてことを思い出す。

そういえば最近会ってないけど、ジローたちは元気にしてるんだろうか。

なんでか跡部とは妙に街中で会う気がするんだけど、まさか待ち伏せとかされてるんじゃないよね?―――よし、今度忍足辺りにでも聞いておこう。

な〜んて軽く考えてはははと乾いた笑みを浮かべたあたしは、ジローを思い出させてくれた公園で眠る人にこっそり感謝して・・・。

・・・っていうか、あれジローじゃない!?

思わずスルーしそうになった足を止めて、慌てて振り返って立ち尽くしたままその人物の様子を窺ってみたあたしは、「・・・まっさか〜」と無駄な抵抗だと知りつつも現実逃避する。

だけどそれで現実が都合の良いように変わってくれるはずもなく、視線の先には今もまだ寒空の中眠る男の子の姿があって、あたしは思わず引き攣った笑みを浮かべた。

うん、なんか・・・凄く嫌な予感がするんですけど・・・。

それでも確かめないわけにもいかない。

そう判断したあたしは、ポケットに入れてある携帯を取り出して、おもむろにメモリを検索・発信。

どうかあたしの予感が外れてますように!と心の底から祈りながら、早く発信先の相手が出てくれる事だけを願っていた。

それがかなりの無駄だと自分でも自覚してたけど、ともかくもそう願ってみる。―――そうでなければ、大変な事だ。

・・・が、やっぱりあたしの祈りは無駄だったみたいだ。

あたしが発信を押した数秒後、静かな公園の中に能天気な携帯の着信音が響き渡る。

手の中にある携帯の画面に表示されてるのは、『芥川滋郎』の文字。

間違いなく、あたしが今電話をかけてる相手はジローで。

メチャクチャナイスなタイミングで鳴り始めた、公園で寝ている人の携帯。

それからその公園で寝てる人の姿形が、とても彼によく似ているという事実。

こうなったら、仕方がない。

儚い願いをその辺に捨てて、恐る恐るその人物に近づいて見ると・・・。

「・・・・・・やっぱり」

そこには幸せそうな寝顔を惜しみなくさらした、ジローがいた。

「・・・なんで?」

思わず呟いたその言葉には、いろんな意味が込められている。

たとえば、何でここにいるのか?とか。

何でこんな寒い中で寝てるのか?とか。

何で手にムースポッキーを握り締めてるのか?とか。

いろいろ・・・そう、いろいろあったんだけど・・・。

「・・・ジローちゃん、起きろ」

とりあえず全部を後回しにして、彼を起こす事に決めた。

流石にこのまま眠らせておくわけにはいかない。

「ジロー!起きろ!!」

大声でジローの名前を呼びながら、思いっきり肩を揺する。―――・・・があんまり効果なし。

「起きろ!こんな所で寝てたら凍死するぞ!!」

脅しを含んだあたしの言葉にも、ジローは一向に起きる様子さえ見せない。

そういえば前に忍足が言ってたっけ?

ジローは一回熟睡に入ったら、大抵の事じゃ起きないって。

多分忍足のことだからいろんな方法を試したんだろうけど・・・―――そんな忍足にそこまで言わせるほどの寝汚さなのか、ジローは!

何をやっても無反応なジローに、あたしは少しばかり心配になって首元に手をやる。

うん・・・大丈夫、ちゃんと生きてる。

あんまりにも無反応だから、もしかして・・・とか思っちゃったじゃない。

だけどこれで一安心。―――少なくとも、最悪の事態は免れた。

それはそれとして、けれど事態が好転したわけでも勿論なく。

あたしが目の前で気持ち良さそうに眠るジローを見下ろして思いっきりため息を吐くと、白い息が辺りに漂って消えた。

ジローは起きない。

だけどジローをこのまま放って帰るなんてことはもちろん出来ない。―――いくらあたしでも、友達をこんな寒い中平気で放って帰るなんてことは出来ない。

担いで帰るか?とも思ったけど、すぐに思い直した。

あたしの方が身長が高いって言ったって、いくらなんでも抱えて帰るのは無理だろう。

相手は男の子なのだ。―――しかもバリバリのスポーツマン。

だからといって、いつまでもこのまま・・・ってわけにもいかないし。

「どうしようかな・・・」

困り果てて、ジローが寝てるベンチの端に座り込む。

とりあえず、あたしは醤油がないことを忘れてた自分に心の底から感謝した。

 

 

(乾視点)

「・・・何をやってるんだ?」

「それはあたしが聞きたいわ」

呆れた口調で呟けば、妙に覇気のない声が返ってきた。

目の前には、こんな寒さの中なのにも関わらずぐっすりと眠り込んでいる少年が1人と、必死に寒さに耐えているの姿。

それもそのはず。―――のコートは今、眠っている少年の上にかけられているんだから。

ロードワークに出ていた俺に、から連絡が入ったのはついさっきのこと。

「すぐに来て!」とだけ告げられた俺は、訳もわからず指定された場所まで急いだ。

家からなら数分の距離にあるこの公園は、だけどロードワーク中の俺にとっては遠い距離にあって。

駆けつけるのに少しばかり時間がかかったんだけど、それを少しだけ悔やんだ。

目の前で顔を青くするまでに凍えてるをみて、頑張ればもう少し早く来れたんじゃないかという思いが湧いてくる。

「・・・寒い」

歯をガチガチと鳴らしながら呟くに自分が着てたジャージを着せて、湧き上がった思いを押し殺すように俺はわざとらしくため息を吐いた。

「そんな格好してれば、寒いに決まってるだろう?」

「しょうがないじゃない。起きてる人間よりも寝てる人間の方が危ないんだから」

そう言いながら寝ている少年に視線を向ける

確かにそれはそうだけど・・・―――でも、この寒さの中コートなしでじっとしてたら、起きてる人間だって危ないと思うけどね。

そう思ったけど言わないでおいた。

言っても無駄だし、そういうところがらしいところでもあるからね。

諦めたようにヤレヤレとため息を吐いて、そうしていまだに眠り続ける少年に目をやって・・・。

「それで・・・これ、誰だい?」

一番気になってることを聞いてみた。

青学の生徒じゃないよな?―――だって見たことないし。

「ああ、この子はジロー。芥川滋郎っていって・・・氷帝テニス部のレギュラーだよ」

「・・・氷帝の?」

しかもレギュラー?

寝てるところをみれば、全然そんな風には見えないんだけど?

というか、彼はこんな寒い中でよく寝ていられるもんだ。

「取りあえず話は後にして、早く家に帰ろう。あたしもう限界・・・」

は俺のジャージを着込みながら身体を震わせる。―――ついでに声も震えてる。

「もしかして、俺が・・・?」

何となく予想はついていたが、コクリと頷くに思わず頭が痛くなる。

彼を抱えていけと?

まぁには無理だろうけど・・・。

「ほら、早く早く!」

急かされ、俺は諦めて芥川を背中に背負う。―――比較的小柄な体型とは言っても、やっぱり重いものは重い。

背中に背負われた芥川は、けれど一向に起きる気配さえ見せない。

のコートをその上に掛けられて、俺は思わぬ荷物を背負いながら白い息を吐きながら歩き出した。

一体何がどうなってるのか現状を把握できていないまま、急かされるように歩調を速める。

「・・・ん〜」

背中で唸る芥川にチラリと視線を送って。

とりあえず体重のデータは取れたかな・・・と、どうでも良い事を考える。

どうでも良い事くらい考えてないと、何となくやりきれない気分だった。

 

 

(忍足視点)

部活も終わって家で寛いでた俺に、電話がかかってきた。

鳴り出した携帯の画面を見てみたら、相手はで。

実際から電話がかかってくんのはそんなに珍しい事でもなかったから、普通に携帯に出る。―――まぁ、ちょっと嬉しかったってのは俺だけの秘密で・・・。

「もしもし?か?どないしたんや?」

テンション上がんのを何とか抑えて、ごく普通の口調で話し掛けると・・・。

『ジローを引き取りに来て』

電話の向こうから聞こえてきたの声に、俺は思わず間の抜けた声を出した。

はっ!?なんでや??何がどうなっとんねん!?

イキナリの事で訳分からんかったけど、とりあえず急いでコートを着て家を飛び出した。

 

 

ピンポーン。

に教えてもらった住所を頼りに走り回って、ようやく見つけた一軒の家。―――その家のインターホンを押しながらも、ほんまにここがの家なんかと暗い中でその家を見上げた。

結構大きい家や。―――氷帝の中でも上にランクインされるんちゃうかと思うくらい。

まぁ俺の家も関西の方やったら結構でかいとは思うけど・・・―――そういうたらの両親って何やっとる人なんやろな?

そんな事をぼんやりと考えてたら、インターホンから返事が返ってきて。

「俺や・・・」

ここまで走ってきたおかげで荒れた息を何とか抑えつつ、俺は口を開いた。

それからちょっとして、玄関のドアが開いて・・・―――そこから顔を覗かせたんは、やのうてつんつんの髪したえらい背の高い男。

でかっ!鳳もでかいと思ってたけど、こいつもかなりでかいなぁ・・・。

つーか、こいつ誰や?

俺が不審に思ってたんを察したんやろか?―――そいつは眼鏡を押し上げて、

「初めまして。青学テニス部の乾です」

丁寧な自己紹介をしよった。

「青学のテニス部?なんでテニス部のやつがん家おんねん・・・」

「俺の家は隣でね。まぁ・・・俗に言う『幼馴染み』ってやつだよ」

淡々と話す乾に促されて、家の中に入る。―――外の寒さとは対照的に暖かい家の空気に、思わずホッと息が漏れた。

「おじゃましま〜す」

乾に案内されるままに家の中に入った俺はリビングに通されて。

そこに置いてあるソファーに寝かされた見知った姿を発見して、思わず脱力した。

別にを疑ってたわけやないけど、まさかほんまに寝とるとは・・・ジロー。

何でお前こんなとこおんねん・・・と思わず突っ込みたくなんのを抑えて、俺は部屋の中を見回した。

するとが苦笑してこっちを見てるのが目に映る。

「ごめんね、忍足。こんな時間にわざわざ来てもらって・・・」

「いや、迷惑かけとんのはこっちやからな」

お茶の用意をしてくれてたんやろう。―――椅子に勧められるままに座ったら、目の前に暖かい湯気のたった紅茶を差し出された。

それを遠慮なしに頂く。

「あ〜、あったまるわぁ・・・」

尋常じゃないくらい凍えた体が、じんわりとあったまっていく。

それにしても・・・とジローに視線を向けて。

何でこいつ、こんなとこにおるんやろうと改めて不思議に思った。

まぁ、ジローの行動なんてほとんど読めたためしなんかないんやけど。

でも珍しい事に、今日のジローは朝から覚醒状態で。

何があったんやと不気味に思ったけど、朝練にもしっかりと顔見せてたし練習も真面目にしとった。

跡部とか岳斗とかは『今日は雨が降るんじゃねぇ?』とか言うて笑ってたけど・・・まぁその代わりにこの寒さか?―――笑われへん。

「なあ、

乾はジローの正面にあるソファーに座って、なにやらノートを書いとる。

それに気付かんフリをして・・・―――夕飯の準備しとんのかキッチンに戻ったの背中を見ながら、俺は声を掛けた。

「ん?なに〜?」

「そんで結局ジローのやつ、何でに会いに来たん?」

「・・・・・・さあ?」

さあ・・・て!!

「分からんのか?」

「だってジロー、起きないし・・・」

ソファーで寝続けるジローを見て、は困ったように呟いた。

なんや、ジローのやつに発見されてから一回も起きてへんのか!?

「ほんならどうやってここまで連れて来たんや?」

「俺が運んだんだよ」

今まで俺らの会話を黙って聞いてた乾が、会話に割って入ってきた。

視線を向けてみたら、ノートを書く手を止めてこっちをじっと見とる。

「そら・・・・・・悪かったなぁ・・・」

「・・・いや、思ったよりも珍しい経験をさせてもらったよ」

・・・もしかしてそれは嫌味か?

それともほんまにそう思てんの??―――なんや話し方が淡々としとるから判断が出来へん・・・。

「あそこにいたんだから、あたしに用事があったんじゃないかとは思うんだけどね。まぁこの辺に他に知り合いがいるなら話は別なんだけど・・・」

言いながらぎょうさん皿をテーブルに運んでくる。

話の合間に「忍足も食べるでしょ?」とか言われて、即答で頷いた。

部屋の中にええ匂いが漂っとる。

最初電話もらった時は、ジローの寝汚なさに思わず頭が痛なったけど、こうやっての家に来れて手作り料理まで食べれるんやから、もしかしたらついとんのかもしれんな。

この後、ジローのやつを担いで帰らなあかんかもしれんことを思うと、手放しに喜ばれへんけど。

テーブルがいっぱいになるくらい料理が並べられて、食欲をそそるええ匂いの中、がよそってくれたご飯を受け取って手を合わせる。

「ほんじゃあ、まぁ遠慮なく。・・・いただきます」

しっかりと挨拶をして、さぁなにから食べよかなと迷いながらも煮物に手を伸ばしたその時。

「・・・おれも・・・たべる〜」

弱々しい・・・ていうか、寝ぼけたジローの声が聞こえてきた。

 

 

(芥川視点)

なぁんかすっごくいい匂いがして。

誘われるように目を開けたら、見たことない天井が見えた。

えっと〜・・・・・・ここってどこだろう?

フシギに思って横向いたら、そこも見たことなくて。

置いてあったテレビはついてて、なんかドラマがやってた。

俺はそのドラマ見たことないけど、たしかがっくんが『面白い〜!』って言ってたなぁ、って思い出す。(そんでもってあとべにバカにされてた)

えっと・・・じゃあドラマやってるってことは9時?あれ10時だったかな??

よく覚えてないけど、そのどっちか。

そんなことを考えてたら、

「ほんじゃあ、まぁ遠慮なく。・・・いただきます」

ていう侑士の声が聞こえてきて。

「・・・おれも・・・たべる〜」

思わずそう言っちゃった。

ゆっくりと起き上がって侑士の声がした方を見てみたら、そこには侑士とがいて。

なんか知らない人もいたけど、俺はを見て嬉しくなって飛び起きた。

〜!!」

一気に覚醒してに飛びつく。―――そしたらはびっくりしてたけどちゃあんと俺を受け止めてくれた。

「ジローちゃん、ようやく起きたの?」

「うん、俺起きた!ばっちし!!」

にっこり笑ったら、もにっこりと笑い返してくれた。

「そう。それじゃあご飯よそるから、座って待ってて」

「はぁ〜い!」

俺は元気良く返事を返して、言われた通りちゃんと椅子に座って待った。

「はい、どうぞ」

白いふわふわのご飯が目の前に置かれて、それはほこほこしてて。

「いただきまぁ〜す!!」

ちゃんとアイサツしてから、いきおいよくご飯を食べ始めた。

となりで侑士が呆れたように何か言ってたけど、そんなの俺は無視して。

「おいC〜!」

目の前に並んだいっぱいのおかずを食べて、俺は声をあげた。

ってスゴイね!こんなにおいしいご飯作れるんだもん!!

きっといいお嫁さんになるねっていったら、照れたように(俺にはそう見えた)ありがとうって言われたから、俺はどういたしましてって言っておいた。

 

 

「ほんで?ジロー、お前なんでに会いにきたんや?」

ご飯食べ終わってちょっと眠たくなったけど、侑士のその言葉に俺はパッチリと目を開いて我慢した。

だってここでまた寝ちゃったら、ここに来た意味ないもんね。

そう思って俺は自分の手を見て・・・。

大事なものがないことに気付いて、俺はいきおいよく立ち上がった。

あれ?あれ?どこに行った〜??

「何探してんの?」

不思議に思ってそう声をかけてきたに軽く返事を返して。

「あ、あった〜!!」

俺はソファーの上に置いてあったムースポッキーを手にとってにっこり笑った。

「なんや?それがどないしたんや?」

「うん。これがね、俺がに会いに来た理由なんだよ」

そう言って、小さく首を傾げてるのところに言って、ムースポッキーを差し出す。

「これ、にあげる」

「・・・あたしに?」

「うん!そう!!」

元気良くそう言うと、は首を傾げたまま・・・でもちゃあんと受け取ってくれた。

俺の大好きなムースポッキー。

「・・・で、なんでムースポッキー?」

の隣に座ってたメガネかけた人が、フシギそうに聞いてきたから、俺はニコニコと笑って。

「俺、ムースポッキーが好きなんだ!」

「・・・うん、知っとる」

「それでね?今日朝コンビニ行ったら、その新製品が出てたんだよ!」

俺の言葉に、みんながムースポッキーを見る。―――そこにはでっかい字で『新製品』って書いてある。

「・・・・・・それで?」

「俺すぐに買って食べたんだけど、それがすっごくおいC〜んだよ!!だからにも食べさせてあげようと思って!!」

「・・・それだけなんか?」

侑士が呆れたように言うから、俺はそれだけなんて失礼だな〜って思って。

だってすっごくおいC〜んだよ!?

新発売だからも食べた事ないだろうし!!

早く教えてあげなくちゃって思ったんだよ!!

だけど・・・侑士があんまり呆れた顔するから・・・ちょっと不安になって。

「ねぇ、?・・・・・・もしかしてうれしくない?」

そう聞いてみたら、はにっこりと笑って。

「ううん、嬉しいよ。ありがとう、ジローちゃん」

そう言ってくれた。

だから俺も嬉しくて、もう一回どういたしましてって言った。

 

 

(再び視点)

あたしは手の中にあるムースポッキーを見て、小さく笑った。

まさかジローが、ただこれをあたしに渡すためだけに、こんな寒空の中会いに来てくれるなんて思っても見なくて。(そしてそのまま公園で寝るなんて思っても見なくて)

なんでも、前に住所を聞いてて、それを頼りにここまで来てくれたそうだ。

迷ったんなら電話してくれればよかったのに・・・っていうと、どうやら携帯を持っていることを忘れていたらしい。

何のための携帯だと思ったけど、それもまぁ・・・ジローらしいっていえばジローらしいか。

もう夜も遅くなったからってことで、ジローの強い要望もあって2人は家に泊まっていく事になった。

子供みたいなジロー。―――あれだけ慕われてると、何となく甘やかしたい気持ちになる。

そんな事を思いつつ。

明日の朝はムースポッキーのお礼もかねて、ジローの好きなものを作ってあげようと思った。―――ちゃんと起きてくれるかは、ちょっと疑問だったけど。

ムースポッキーのふわふわの触感と、口の中に広がった甘いチョコレートの味を噛み締めながら。

「ねぇねぇ、侑士!一緒におふろはいろ〜!!」

「アホ!なんで一緒に入らなあかんねん!1人で入れ!!」

「え〜、なんだよ・・・冷たいなぁ・・・。じゃあイヌイくん、一緒にはいろ〜!」

「・・・俺?いや、折角だけど遠慮しておくよ」

「え〜!2人とも冷たいなぁ・・・。じゃあ、

「「それもダメ!!」」

階下で騒ぐ3人の声を聞きながら、込み上げてくる笑いを何とか抑えて。

いまだに駄々をこねるジローを宥めるために、ムースポッキーを持って部屋を出た。

さっきまで耳についていた風の音は、にぎやかな声にかき消されて聞こえてこなかった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

前回の氷帝偵察の時にはあんまりジローとの関わりがなかったので、今回はジローが主役で・・・妙に忍足が出張ってますが。

本当はチョタも出す予定だったんですが・・・あんまりにも長くなりすぎたのでカット。

結局何が書きたかったのか、意味不明な内容に・・・(←いつもの事)

作成日 2004.3.26

更新日 2008.2.5

 

戻る