いつもは押さないチャイムを押すと、ピンポーンという軽快な音が鳴った。

の家のチャイムはこんな音だったんだな・・・と新鮮に思う。

そう言えばの家のチャイムを押した事なんて、記憶の中にはない。

正直言って、玄関から入るよりも窓から入った回数の方が多いような気がする。

そんな事を考えているうちに、の声と共に玄関のドアが開き、

「・・・なんでチャイムなんか押すの?」

不思議そうに首を傾げたは、俺の隣に立っている人物を見て眉をひそめた。

 

これが本当のまり

 

「それで・・・、何の御用ですか?」

玄関で話すのもなんだから・・・とリビングに通された手塚は、神妙な面持ちで出されたお茶を睨みつけたまま。

俺は一旦自分の家に戻って着替えてからまたの家に戻ったが、どうやら俺がいなかった間も何の進展もなかったらしい。

勝手知ったるなんとやら・・・で、俺は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出すと、それをコップに入れて一気に飲み干した。

ふとキッチンを見れば、今日の夕飯の用意が途中になっている。

置いてあるトレイには、均等の大きさに切られた白ねぎやらジャガイモやら糸こんにゃくやら―――それからいかにも高そうな牛肉が置いてある。

今日の夕飯はすき焼きか・・・と材料と今までの経験から察した。

は嫌な事があると、ストレス発散のためか食に走る。

それはヤケ食いとかいう類ではなく、高級なものの類。

別に高級な物って言ってもあからさまにじゃなくて・・・、まぁ大抵の場合は今日と同じメニュー・すき焼きだ。

いつもなら買わない良い肉を買って、その美味しさで苛立ちを紛らわせる。

の頭の中では『高級=すき焼き』という図式があるみたいだ―――なんでそうなったのかは分からないけど。

「あ〜、もう!言いたい事があるなら、はっきり言いなさい!!」

いつまでも黙ったままの手塚に焦れたは、おもむろに立ち上がって手塚の頭を叩いた。

すごいな、

平気で手塚の頭を叩けるヤツはそうはいないぞ?

手塚は叩かれた頭を手で抑え、それからと同じように立ち上がって一言。

「お前の退部は認められん!」

きっぱりとそう言い切った。

ちょっと待って、手塚。

確かお前、謝りたいからの家に案内してくれって言わなかったか?

それがお前なりの謝り方なのか??

っていうか、謝ってるようには聞こえないんだけど???

案の定、も謝罪には聞こえなかったようで。

「あんたねぇ!何そのでかい態度は!!あんたそれだけ言いに家に来たわけ?それってあたしに喧嘩でも売ってるの!?」

ああ、なんか話がおかしくなってきた。

俺はこれ以上話がわき道にそれないように、が帰った後テニス部でどんな事があったか、手塚がそれを聞いてどう思ったかを詳細に話してやった。

するとはおとなしくソファーに座りなおし、未だ立ったままの手塚を見上げてため息をついた。

何となく口を挟める雰囲気じゃなくなって、俺もそれに習って口を閉じた。

部屋に静けさが広がる。

「・・・すまなかった」

その沈黙を破ったのは手塚で、一言謝罪の言葉を口にすると小さく頭を下げた。

それを黙ってみていたは困ったように頭を掻いて、それからもう一度ため息をついた。

「もう別にいいよ。そんな困った顔されると・・・なんていうか・・・ねぇ?」

いや、俺に同意を求められても。

「それにあたしだってちゃんと説明してなかったのがいけないんだし・・・。なんていうの?ちょっと頭に血が上っちゃっただけで・・・別に本気で辞めるつもりじゃなかったし」

「・・・は?」

の言葉に、手塚が普段じゃ考えられないような間の抜けた声を出した。

「何よ、その顔。あたしだって進んで始めたマネージャーじゃないけど、やると決めたからにはちゃんと最後までやるよ。そんな途中で放り出すようなマネしないって・・・」

「・・・ということは、アレは嘘だったという事か?」

「それは言葉が悪い!勢いって言ってよ」

呆れた表情を隠そうともしない手塚と、開き直った

まぁ、どっちが強いかなんて考えるまでもないけど・・・。

脱力したようにソファーに座る手塚。

ふと視線を感じて目を向けると、手塚が探るような目で俺を見ていた。

その目は『お前、もしかして知ってたんじゃないのか?』と言われているみたいだった。

「まぁね。ならそう言うんじゃないかとは思ってたけど?」

そう言い返してやると、恨めしそうな顔をされた。

あんまり意味が分かっていないは不思議そうな顔をしていた。

 

 

ひとまず誤解も解けて和解(?)した後、せっかくだからと夕飯を食べて帰ることになった手塚は、テーブルを囲んでいる俺とを見て小さく首を傾げた。

「どうかした?」

「いや、なんだか自然に食事をしているが・・・いつも2人で食べているのか?」

「・・・そうだけど、変?」

俺とにとっては日常だが、それが一般で言う所の常識とは少し違うと言う事に気付いてないは、サラリと言った。

の両親は海外赴任で家にいないことが多いんだ。俺の両親も仕事で家にいないことが多くてね。だから小さい頃から一緒に飯を食ってるんだよ」

ちゃんと説明してやると、手塚は納得したのか1つ頷いた。

「いつもが作ってるのか?」

「大抵はね。前は交代制にしてたんだけど・・・」

「・・・?」

「一度、乾にすごいもの食べさせられてね。何でも何かの実験とか言ってて・・・今でも思い出すと鳥肌が立つよ」

そんなにすごいものだったっけ、あれ。

まぁ、味の方はかなりのものだったけどね。

「それ以来、乾はキッチン立ち入り禁止なの。あたしは金輪際、乾の作ったものは食べないって心に誓ったわ・・・」

なんとなく哀愁が漂ってそうな雰囲気の

手塚は同情したような視線をに送っていた。

「お前は昔も今も変わらないんだな・・・」

余計なお世話だよ、手塚。

 

 

食後のお茶を飲み終わった頃、そろそろ帰るという手塚を玄関まで見送った。

「ほんとに1人で大丈夫?途中まで送ろうか??」

「大丈夫だ。お前も一応は女なんだから、あまり夜に外には出るな」

「一応は余計だよ・・・」

は手塚の言葉に思いっきり顔をしかめてから、もう一度今日のことを謝る。

「いや、俺の方こそ悪かった。こうして押しかけて夕飯までご馳走になって却って世話になってしまったな・・・」

「そんなに気にすることないよ」

「まさかが料理をするとは思わなかったが・・・上手かった」

「そりゃ最高級のお肉だからね。・・・っていうか、すき焼きで誉められても料理上手って言われてる気しないんだけど・・・?」

確かにすき焼きってそれほど手の込んだ料理じゃないしね。

「まぁ、また今度食べに来てよ。その時はあたしの料理の腕がどれほどか、たっぷり思い知らせてやるから!」

思い知らせるんだ・・・、味あわせてあげるじゃなくて。

手塚はいつもの無表情のまま、礼を言って帰っていった。

去り際にちょっと表情がやわらかくなってたみたいなのは、見間違いじゃないよね?

手塚を見送って、後片付けをしようと張り切っているの後ろ姿を見て、

「・・・

俺は思わず声を掛けてしまった。

「ん?なに〜??」

振り返って首を傾げる

何って言われても・・・、特に何かあって声を掛けたわけじゃないんだよね。

ただ・・・なんていうか、日常のを知ってたのは今まで俺1人だったのに、それを知ってるヤツがもう1人いるって思うと・・・。

なんだかよく分からない感情が腹の中でグルグルと回っていて。

「どうした、乾?正気か〜?」

いつの間にかボーっとしていたみたいで、気がつくとが目の前に立っていて、手を俺の顔の辺りでひらひらと振っていた。

「・・・いや、なんでもないんだ」

「・・・・・・」

その目は疑ってるな?

でも本当に特に用事なんてないんだよ。

ただちょっと訳がわからなくなってるだけで。

「乾〜?」

だけどどうやら簡単には諦めてくれないらしい。

俺はにはバレないように小さくため息をついて、

「もう一杯お茶が飲みたいんだけど、付き合ってくれない?」

と提案してみた。

するとは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべて、

「なに〜?もしかして1人でお茶するのが淋しかったとか??」

そう言うとわざわざ段の上に上って俺の頭を撫でた。

「それじゃ、ちゃんが付き合ってあげましょ。仕方ないから、とっておきのお茶菓子も出してあげるさ〜」

なんだか楽しそうにリビングに向かうに、つられて微笑んだ俺。

「ほら、早くおいでよ〜」

聞こえるの声に惹かれるように、俺はリビングに向かった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

申し訳ありませんでした(いきなり)

なんていうか、意味もなければ訳もわからない不可解なお話になってしまいました。

予定では主人公をテニス部に馴染ませ、手塚とも接点を持たせて。

それから乾とも幼なじみの空気を放出させつつほのぼの〜って感じに(意味分からん)

わかってます、私の腕が未熟なのです。

 

更新日 2007.9.13

 

戻る