俺たちが青春学園に入学してから、3年目の春。

空いた教室に集まったレギュラーの面々は、新たに青学に通う事になった新一年生を窓から見下ろして、とりとめのない会話をしていた。

どうしてこの教室にレギュラーが集まっているのか?

それは・・・―――ただいま、レギュラー限定のミーティングの真っ最中だからだ。

 

これ

 

「もう春よねぇ・・・」

窓から新入生を見下ろしながら、はポツリとそう呟いた。

ヒラヒラと舞うように散る桜の中、新しい制服に身を包んだ新入生たちは初々しい。

それを全員でなんとはなしに眺める。―――新入生ではなくとも、春というのはどこか心が浮き立つものだ。

最終学年に進級した俺たちにとっては、中学生活最後の春。

そう思うと、感慨深くない事もない。

全員同じような事を思っているのだろうか?―――それは俺には解らなかったが、そんな俺たちをチラリと横目に見て、彼女は小さく息を吐く。

「こんな時期が・・・あったのよね、みんなにも・・・」

ポツリと呟いて、チラリと視線を遣してからもう一度ため息。

というか、そんな疑わしい目で見るのはヤメテ欲しい。

俺だって3年前は、初々しい中学生だったんだから・・・。

そんな俺の内心とは裏腹に、その発言を聞いていたらしい菊丸がチラリとどこかへと視線を放って、こちらも小さく独りごちた。

「でも・・・手塚って昔から変わんにゃいよねぇ・・・」

「そんなことないよ。昔はもう少しあどけなさがあったし・・・」

「そう?にゃんか背が大きくなっただけって感じ〜!!」

声を抑えようともしない菊丸と不二の会話に、手塚の眉間に皺が寄る。

でも手塚には言い返す言葉がないだろう。―――なぜなら2人の言う通りだからだ。

「そうよね。最初に会ったときの手塚も今とはほとんど変わらないもんね・・・」

そんな2人の呟きを聞いて、窓の外をぼんやりと眺めたままそう呟く。

何でそんなやる気なさそうなの?

不思議に思って教室に視線を戻すと、みんながみんなどこかぼんやりとしてる。

あれだな。―――春だからってボケッとしすぎだ。

まぁ、それも仕方がないかもしれないけれど・・・と、俺はぽかぽかと暖かい日差しが射す窓際に立ちながら欠伸を噛み殺す。

しかしそんな空気を払拭するかのように、この場で最大の発言権があるだろう手塚が口を開いた。

「それよりも、今日集まってもらったのは他でもない。俺たちは今年で引退だ。全国に行くためにも気合を入れなおして・・・」

「ああ・・・そういえばそろそろ新入部員が入ってくる時期だね。今年はどれくらい来るかな?」

手塚の言葉を遮って、不二がのんびりとした口調で言う。

訂正しよう。―――この場で最大の発言権があるのは、手塚ではないかもしれない。

「そういえば去年はあんまり入ってこなかったんだよね・・・」

「そうなの?」

「仮入部の時点では毎年結構いるんだけどね。ほら、うちって練習厳しいから・・・みんなついて来れなくて結局やめちゃうんだよ・・・」

「ふ〜ん・・・」

そう呟いて、は再び新入生に視線を向けた。

この中の何人がテニス部に仮入部へ来るかは解らないが、おそらく去年同様残るのは少人数だろう。

生半可な決意じゃ、テニス部の練習をこなせるとは思えない。―――まぁ、練習メニューを作っている俺が言うのもなんだけど。

「それじゃ、あたしが帰って来るまでに何人残ってるか・・・楽しみだなぁ」

不意に隣からそんな声が聞こえて視線を向けると、声色に違わぬ様子で楽しそうに笑っている。

はこれから各校に偵察に行くことになっていた。

青学だけじゃなく、他の学校にももちろん新入部員はいるだろうから。

もしかしたらそこで、とんでもない大物が入っているかも・・・というわけだ。

「でも・・・が部活に出にゃいなんて寂しいなぁ」

「何言ってんの。同じクラスなんだから毎日顔合わすでしょ?」

言葉と同時に背中にのしかかる菊丸に呆れたような視線を向けて、は小さくため息を吐く。

お前はまだいいだろう、菊丸。

彼女の言う通り、同じクラスなら必ず顔を合わせる事になるんだから。

俺はともかく、他の連中なんてしばらく顔を合わせる機会もないかもしれないからな。―――2年なんか、特に。

「ともかく、他校の情報収集は任せたよ。良いデータ期待してるからな?」

とりあえず場をとりなすようにそう言葉をかけると、嫌そうな表情を浮かべる

それに僅かに口角を上げて笑みを返し、俺は再び窓の外へと視線を戻す。

新入生を見て俺たちが思うのは、良い人材がいればいいな・・・という事だ。

そうは言っても、一年が大会に出る事はないだろうけど。

これからの青学を支えていくのは、間違いなく彼らなんだから。

「さてと、それじゃそろそろ練習を始めますか・・・」

の言葉に、レギュラーたちは重い腰を上げる。

ロクなミーティングができていないけど・・・まぁそれも俺たちらしい。

「それじゃあ、練習頑張るんだよ?」

も偵察頑張ってねぇ!!」

と菊丸が軽い口調で話しているのを横目に、俺たちはコートに向かう。

その足で、は校門の方へ。

与えられた仕事は違えど、それはすべてこれからの青学のため。

そう・・・―――俺たちは今、全国への道を歩き出した。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

3年目突入の閑話。

あってもなくてもいいような話。

ただこれからは偵察に行くのでいないよ〜ということが書きたかっただけ。

作成日 2004.2.18

更新日 2008.3.8

 

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