「ぐわぁぁぁぁぁあぁ!!!」

今日もコートに絶叫が響く。

その原因は・・・まぁ、今さら言わなくても分かるだろうけど。

そして今日犠牲になったのは、いつもと同じ。

「な・・・何入れたらこんな味になるんだよ〜!!」

「食べ物だよ。大丈夫、ちゃんと味の調整もしてあるから」

毎日同じやり取りしてて飽きないのかな、あの2人。

 

新たなる敵手

 

〜、なんとかしてよ、あれっ!!」

朝練が終わって教室に帰ってくるなり、にそう訴える英二。

そんな英二をちらりと見て、はおもむろにため息を吐いた。

「あのね、エージ。この世知辛い世の中で、いつも誰かが手を差し伸べてくれるわけじゃないのよ」

「にゃんだよ、それ〜」

「つまり、『自分の身は自分で守れ』ってことだよね?」

「その通り」

の発言にそう付け足すと、彼女は大きく頷いた。

「冷たい!は乾の幼なじみでしょ?ちゃんと教育しといてよ〜!」

「幼なじみにそこまで求めるな、エージ」

他人事のように、サラリと流す

それでも最初の頃は、ちゃんと英二の話にも耳を傾けてあげてたのに。

乾が朝練にまで『乾汁』を持ち出してきたのは、一ヶ月くらい前だったっけ?

それで毎朝犠牲になってるのは、もちろん英二。

なんていうのかな・・・、英二には学習能力が足りないよね、致命的に。

手塚や越前なんかは上手く立ち回ってるっていうのに、英二と桃だけはどんなに同じ目にあっても次の日にはまた同じことで飲まされてる。

英二なんて末っ子で立ち回りはすごく上手いのに・・・なんでだろ?

そんな事を考えてる内にチャイムが鳴って、英二はしぶしぶ自分の席に戻って行った。

「ほんと、困ったもんだよねぇ・・・」

たぶん独り言なんだろうけど、の呟いた一言はちゃんと僕の耳に届いていて。

同感だよ・・・と心の中で呟いて、隣に座ってるにバレないように苦笑した。

 

 

「なんか、ぎゃふんって言わせてやりたい!!」

昼休み、お弁当を食べていると、突然英二がそう言った。

「・・・何が?」

「だから、今朝のこと!乾にもぎゃふんって言わせたい!!」

まだ忘れてなかったの?

英二って根に持つタイプじゃないし、大抵は昼にもなれば忘れてるのに。

今日はどうしたんだろ、珍しい。

別に関係のない僕がそんな事を考えてるって言うのに、英二に話を振られている当の本人は特別表情を変えずにきっぱり一言。

「・・・エージ、『ぎゃふん』は古い」

着眼点はそこなんだ、

「っていうか、乾は別次元に生きてるようなやつだからね・・・。エージじゃ無理なんじゃない?」

「何気に酷いこというよね・・・」

思わずそう呟くと、が呆れたような表情を向けた。

その目は『僕には言われたくない』って如実に語ってる。

僕にそんな目を向けられるのはくらいだよ。

「でもでも!なんかびっくりさせてやりたいの!!」

今日の英二は諦める事を知らないのか、いつにもまして食って掛かる。

目が驚くほど真剣で・・・、熱意を向ける場所が違うんじゃない?

にもそんな英二の気迫が伝わったのか、持っていた箸を置いてため息をついた。

「んじゃ、ヤツがいつもやってるのと同じことすれば?」

「・・・いつもやってる事って?」

「ストーキング・・・じゃなくて、データ収集よ」

今、サラリと爆弾発言しなかった?

もしかして・・・とは思ってたけど、乾って本当にそんなことしてるの?

でも英二はそんな事には気付きもしないで、

「それいい!!」

なんて無邪気に笑ってる。

「よし、俺も乾のデータ集めて、乾の弱点を見つけ出してやる!!」

妙に意気込んで、やる気満々な英二。

「はいはい、ガンバッテ・・・」

それとは対照的に、どうでもいいと思ってるのがバレバレな

そんなに、英二はさらに言葉を続けた。

「ねぇ、もやろうよ!」

「・・・あたしはいいわよ」

「にゃんで!?乾に『ぎゃふん』って言わせたくないの!?」

だから『ぎゃふん』は古いってば、英二。

「・・・っていうか、もう慣れたし」

そうさらりと言ったを、なんともいえない表情で見返す英二。

「な・・・慣れた?」

「そ。人間の順応能力はね、格段に優れているものよ、エージ。もう恐ろしいほどにね」

はお弁当をつつきながら、妙に真剣な顔でエージに言い聞かす。

「逆に普通の人じゃ物足りなかったり・・・?」

「そうそう。もうかなりやばいところまで来てるのよ、あたし」

からかうつもりで言った言葉なのに、あっさりとに返された。

ぼやくようなに、とうとう英二も仲間に引き入れる事を諦めたのか、気を取り直して拳を握り締めると。

「よーし!!見てろよ、乾ぃ!!」

教室中に響くほどの大きな声で、叫んだ。

クラスメートたちが何事かと英二に視線を向ける中、僕とは声を揃えて。

「「ま、頑張って・・・」」

その声が英二に聞こえたかどうかは、知らないけど・・・。

 

 

そして運命の部活が始まった。

乾の情報を集める事に決めた英二は、まず仲間を捜し始めた。

テニス部員たちに次々と声をかけていくけど、なかなか賛同者は集まらないみたい。

そりゃそうだよね。

もしこのことが乾に知れたら、どんな報復が待っていることか・・・。

このまま仲間なんて集まらないんじゃないかと思われたその時、ようやく1人の賛同者が現れた。―――誰かといえば、英二同様・致命的に学習能力が足りない男、桃。

どうやらいつも乾汁を飲まされてる同士、連帯感が出来てるみたい。

どんな結末になるやら・・・―――そう思うと、思わず笑みが零れてくる。

「・・・ちょっと、不二」

不意に声をかけられて振り向けば、そこには呆れた表情を浮かべたがいた。

「どうしたの?」

「どうしたの?じゃないわよ。どこか見てたかと思ったら急に1人でクスクス笑い始めて・・・はっきり言って怖いんですけど・・・」

そんな手塚みたいに眉間に皺を寄せるほど嫌がらなくったっていいじゃない。

どことなく冷たい目で僕を見るににっこりと笑いかけて、僕はある方向を指差した。

そこにはさっき同盟を組んだばかりの英二と桃の姿が。

それに何でか女の子がいる。―――あれってよく越前の応援にきてる・・・・・・小坂田さん、だったっけ?

「何やってんの、あいつら?」

「何って・・・乾の情報集めてるんでしょ?英二がそう言ってたじゃない」

「うそっ!あれって本気だったわけ?てっきり冗談かと・・・」

感心したような、でもやっぱり呆れたような口調ではため息混じりにそう呟いた。

僕たちがそんなことを話しているとも知らずに、英二たちは至って真剣に情報収集に取り組んでいた。

風に乗って、かすかに声が聞こえてくる。

「まず、乾のことについてなんだけど・・・」

「名前は乾貞治。テニス部所属で〜、クラスは・・・何組でしたっけ?」

「3年11組よ!自分の先輩なのにそんなことも知らないんですか?」

「しょーがねぇだろっ!クラスの話なんてしねぇんだし・・・」

「こらぁ、ケンカすんなぁ!え〜っと、それで身長は?」

「180cmくらいっスか?」

「そうね・・・。乾先輩ってメチャクチャ背高いですもんねぇ・・・」

「いいよなぁ。俺ももうちょっと欲しいかも・・・」

「俺たち成長期なんスから、これからどんどん伸びるっスよ!!」

聞こえてくる会話は、こんな感じ。

情報収集っていうよりは、なんだか井戸端会議と化してる気がするんだけど。

「こんな調子じゃ、『ぎゃふん』って言わせるのは何年先になるか・・・」

どんどんと逸れまくっていく会話に、がポツリと感想を述べた。

っていうか、この調子じゃ一生かかっても無理そうだよね。

しばらく何事かを話し合っていた3人は、自分たちでもそう思ったのか、困ったように顔を突き合わせて・・・。

そのうち英二がパッと顔を輝かせて、こっちを見た。

ちょいちょいと手招きをする英二に、僕とは顔を見合わせて首を傾げる。

なんか・・・来いって言ってるみたいだけど・・・。

英二もいい度胸してるよね。―――この僕を呼びつけるなんて。

にっこりと微笑んだ僕を見て、英二がサッと顔を青くする。

それを傍で見ていたが小さくため息を吐いて、宥めるように背中を軽く叩くと僕の手を引いて英二たちの所へ向かって歩き出した。

成り行きとはいえ、手を繋いで歩く僕たち。

水仕事でもした後なのか、の手はひんやりと冷たかった。

それを心地よく感じながら、今回ばかりはちょっとだけ英二に感謝する。―――こんな事でもなければ、から手を繋いでくれるなんてことないだろうし。

英二たちの所についたら自然に手を離されちゃったのはちょっと寂しかったけど、予想外のラッキーに恵まれたんだから、まぁいいか。

「ねぇ、!ちょ〜っと教えて欲しいんだけど!!」

目をキラキラと輝かせながら、英二がに向かい言った。

それをジト目で見返してたは、面倒臭そうにため息をつく。

どうでもいいけど、今日のはため息の量が1.5倍だ。

「聞きたいことって・・・乾のことでしょ。本気なの?」

「当たりまえだにゃ!俺は乾に復習を誓ったんだから!!」

復讐の字が違うよ、英二。

意気込む英二に、は呆れたような表情で腕を組んだ。

「それで?何が聞きたいの?」

今回のことを提案したのが他ならぬ自身だからか、断る事もせずにそう切り出した。

すると英二たちはいつの間に用意したのか、乾が持っているのと同じノートを広げる。

「んじゃ、まず身長は?」

「え〜っと、確かこの間測ったって・・・・・・184cm、だったかな?」

「んじゃ、次は体重!!」

「んなこと聞いてどうすんのよ。・・・60ちょっとくらいじゃない?」

「生年月日は?」

「6月3日。生まれた年は英二たちと一緒」

「血液型は?」

AB型」

「じゃあ・・・次は・・・」

今まで順調に続いていた質問が、ピタリと止まった。

英二はどこか窺うような表情での顔を覗き込んで・・・。

「趣味・・・とか?」

「趣味は絶対、乾汁を作ることっスよ!!」

「うんうん。この間理科室で楽しそうに汁作ってるの、あたし見た!!」

桃と小坂田さんが揃って口を挟んでくる。

「もー!桃たちには聞いてないって!!それで・・・?」

その場を一喝して、英二はに答えを促した。

それに少しだけ悩んだそぶりを見せたが、いざ口を開こうとしたその時。

「ずいぶん楽しそうだね」

背後から影が迫ったかと思うと、地を這うような低い声がその場に響く。

確認するまでもなく、その声の主は話題に上がっていた乾本人で。

英二たちの顔が、それはもうみごとなほど真っ青に染まった。

「何の話をしてたのかな?」

口角を上げ、わざとらしく聞いてくる乾。

どうせ隠れて聞いてたんでしょ?

そう思って乾の顔を見上げれば、ニヤリと妖しげな笑みをもらした。

「俺のことが知りたいのなら、俺に直接聞いてくれればいいのに・・・。何でも答えてあげるよ?」

眼鏡を逆光させながら英二たちに詰め寄った乾は、いつものマル秘ノートを取り出す。

「ま、そういう訳だから・・・後は本人に聞いてちょうだい」

は乾に『あんまり脅すのはやめてよ?』と小声で釘をさすと、そそくさとその場を去った。

 

 

その後、どうなったかって?

僕もよくは知らないんだけど・・・、英二と桃が次の日学校を休んだ。

でも小坂田さんはちゃんと学校に来れたみたしだし・・・そんなに酷い事はされなかったんじゃないかな?

まぁ小坂田さんも、しばらくはテニスコートに来なくなったけどね。

ところで気になってることが2つ。

隠れて聞いていた乾がわざわざ出てきてまで止めに入ったのは何故か。

何か話されたらマズイことでもあるのかな?

それともう1つは・・・。

「ねぇ、?」

部活中、ベンチに座って部員のデータを整理してたの傍に行って声をかける。

「ん〜?」

返ってくるのは気のない返事。―――真剣にデータ整理をしてるには悪いけど、これは確かめておかないとね。

「この間、英二たちに乾の情報を話してたでしょ?」

そう切り出すと、伏せていた顔を上げて訝しげに僕の顔を見上げる。

「・・・何?不二まで聞きたいとか言い出すの?」

「ううん、そうじゃなくてね」

にっこりと・・・―――僕にしては珍しく素の笑顔を浮かべて。

「乾の情報、すらすらと答えてたけど・・・・・・それって他の部員の事も答えられる?たとえば僕とか・・・」

これはちゃんと聞いておかないと。

そりゃと乾は幼馴染なんだから、僕たちよりもお互いの事に詳しいんだろうけど。

やっぱりそれって面白くないじゃない?

僕だってのことにはそれなりに詳しいし・・・、だからにも僕のこともっと知って欲しいし・・・。

僕のそんな心境を見透かしてか、はたまたそれほどたいしたことじゃないのか。

「うん、答えられるわよ。レギュラーなら大抵・・・、他の部員も・・・まぁ目立つところなら何とかね」

あっさりと、寧ろ当然とばかりにそう言った。

「・・・そう」

「・・・なに?妙に機嫌よさそうだけど・・・」

不審そうに僕を見るに、邪気のない笑顔を振り撒いた。

そうだね、データ収集は嫌いじゃないし。

僕も集めてみようかな?

もちろんその対象は、1人しかいないけどね。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

何が書きたかったのか。

青学日常ギャグを書こうと思ったはずなのに、出来上がってみれば意味不明なものに。(汗)

あんまり出てきた意味のない、桃と小坂田さん。ごめんなさいね、2人とも。

結局、不二の1人勝ち。

作成日 2004.1.14

更新日 2008.9.19

 

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