「コート一面・・・貸してくれる?」

ジュリアにラケットを突きつけられて、俯いたままの

見えない表情。―――なのに、肌に直接伝わってくるような戦意。

「・・・ああ、いいだろう」

俺はそう答えるしかなかった。

 

神様ヘルプ!!

〜過去の傷〜

 

「悪いんだけど、ついでにラケットも貸してもらえないかな〜?」

持って来てないんだよね。―――そう笑いながら、俺に手を伸ばす

「俺のラケットでいいのか?」

「手塚のラケットがいいの。今まで練習見てきた中で、手塚のラケットが一番あたしの使ってたラケットに似てるんだよね」

ラケットを受け取り礼儀正しく礼を言った後、くるくるとラケットを回しながら言った。

マネージャーをしていて、そんなところまで見ていたのかと感心する。

念入りに柔軟を始めたを眺めて。

「膝の方は大丈夫なのか?」

俺は、ついそう聞いてしまった。

「あ〜、大丈夫よ。ちょっとだけなら」

そうしてこいつは、軽い口調で手をひらひらと振りながら『安心しなさい』と笑う。

「・・・勝算はあるのか?」

「う〜ん、それはわかんないな。なにせ1年ぶりだし」

そう控えめに言っておどけたように笑うを目に映して、俺は無意識にその言葉を口にしていた。

「だが、負けるつもりはないのだろう?」

その言葉に、は心底驚いたという風に目を見開く。

「・・・どうした?」

「いや、手塚にそんなこと言われるとは思わなくて・・・。何か悪いね。練習は潰しちゃうし、心配はかけちゃうし」

最後に大きく伸びをしたは、ラケットを握りなおして。

「まぁ、無様な試合だけはしないようにするから」

「・・・・・・」

「・・・な〜んてね。ふっ、あたしの実力、そこでじっくりと見てなさい!」

茶化したように言い放つと、もうすでにコートの中で待っているジュリアの元へ向かった。

何故、俺に宣戦布告をする。

どうせならジュリアにした方がいいだろう。―――対戦相手なのだから。

そんなことを心の中で思っていると、その一部始終を見ていたらしい不二がクスクスと笑いながら俺の隣に立った。

「・・・不二」

「なんだい?」

「・・・お前は知っていたと言っていたな。が・・・テニスをやっていたという事を」

「うん、知ってたよ」

あっさりと答える不二に、なんだか拍子抜けしてしまった俺は返事を返すことも出来ずに、ただ無言で不二を見返す。

すると不二は再びクスクスと笑みを零して・・・―――それから真剣な表情でコートに視線を移した。

「昨日乾が持ってたスポーツ雑誌。あれを裕太が買ってて、たまに見せてもらってたんだけどね。そこに載ってたんだ、の記事。初めて会った時からの事どこかで見たことあるなと漠然と思ってて、でも何処で見たのか思い出せなかったんだけど・・・、最近思い出した」

「・・・そうか」

おそらく不二のことだから、何回かは確かめようと思ったのだろう。

ただ事情が事情なだけに、直接は尋ね難かったに違いない。

いろいろと言われてはいるが、不二も多少は人を思いやるところはある。

「・・・何か失礼なこと聞こえた気がしたけど、まぁ・・・今回は聞き逃しておくよ」

俺の隣で、不二がいつもの笑みを浮かべながらぼそりとそう呟く。

周りの温度が少し下がっているのに気付いたが、俺はあえて気にしないことにした。

のテニスって、どんななんだろ〜!?」

菊丸が目を輝かせて、コートを凝視する。

審判を勤める桃城の声と共に、ジュリアのサーブで試合が始まった。

 

 

さすが、という言葉が一番ぴったりとくる。

世界のジュニアランキングのトップに位置するジュリアのテニスの腕前は目を見張るものがあった。

もちろんも引けは取っていない。

ジュリアの打つボールのスピードと比べると勢いはないし派手さもないが、要所要所でポイントを奪い取っている。

ゲームカウント3−1、のリードだ。

「にゃんか、の方が勢いがないのに・・・、いつの間にか勝ってる」

菊丸がポツリと呟いた。

菊丸の言う通り、見た目の派手さからかジュリアの方が優勢だというイメージがあるが、実際に点を奪い取っているのはの方だ。

それになんだか違和感がある。

「・・・彼女、まるで打たされてるみたい」

不二の言葉に、心の中で同意した。

コートの外側から見ていると、よく分かる。

は、まるでジュリアが何処に打って来るのか分かっているように先回りをしている。

いや、言葉にするとそれもなんだか違う。

乾のデータテニスのようなものではなく、あれではまるで・・・。

「・・・ボールが吸い寄せられてくるみたい」

誰かが言った。

そう、あれはまさに俺がやっているのと同じ。

しかしそう考えると、また少し違う気がする。

どこが・・・とははっきり言えないが、あえて言うなら直感だろうか。

はボールを引き寄せているのではなく、操っているように思える。

「ゲーム・マスター」

俺たちの考えを知ってか、乾がノートを開いてぽつりと言った。

「・・・・・・?」

の呼び名だよ。『ゲーム・マスター』―――つまりは試合自体を操ってるんだ」

試合を操る?

「みんなはと試合したことないから分からないだろうね。あれは凄いよ。まるで勝てる気がしない。全ての手の内にある・・・そんな気分」

ゲームカウントは、いつの間にか5−2。

サーブは

真剣な表情でボールをバウンドさせ、真上に高く上げた。

ボールはラケットに当たった瞬間、一瞬の内に相手コートに叩きつけられフェンスに当たり転がる。

先ほどまで騒がしかった歓声が止み、辺りが静まり返った。

俺はあんなサーブを見たことがない。

そう言ってしまえるほど、そのサーブは俺の想像の範疇を超えていた。

ジュリアは一歩も動けなかったようで、ただ目を見開いてを見ている。

「すげぇ・・・」

「あんなサーブが打てるなんて・・・」

海堂と大石の呆然とした声が耳に届く。

、あんなサーブ打てるんなら・・・なんで最初っから打たなかったんだろ?」

「膝に時限爆弾を抱えているからだよ」

菊丸の呟きに、乾がどこか沈んだ声で答えた。

「あれだけ強力なサーブを打つ為には、それなりに身体に負担がかかる。健康体なら問題ないが、膝を壊しているにはきつい。あれを最初っから打ってたら一試合持たないよ」

が最後のサーブを打った。

ジュリアはなんとかそのボールを拾うが、無理な体勢で伸ばされたラケットはボールの勢いを受け止められずにそのまま跳ね飛ばされ、宙を飛んだボールがジュリアの背後のフェンスに激しい音を立てて激突する。

誰も反応しない。

悔しそうに顔を歪めるジュリアにも、無表情のまま立ち尽くすにも、誰も声をかけることが出来なかった。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

試合が凄い適当でごめんなさい。

内容がわかりにくくて、ごめんなさい。

セリフも絡みも少ない上に、意味が解らなくてごめんなさい。(謝ってばっかり・・・!)

とりあえず、主人公のテニスの腕前はすごいんですよという事を感じていただければ・・・。(笑)

作成日 2003.8.23

更新日 2008.12.21

 

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