ありふれた日常にだって、何が起こるか分からない。

落とし穴は、どこにだってある物なのだ。

それは主に不二とか不二とか不二とかに引き起こされるんだけど・・・。

今回の騒動も、いつものように不二の手によって引き起こされた。

 

そんな日常

 

ある日の3年6組。

昼休みを目前に控えた4時間目。

かーなーりやる気が萎えるこの時間に、騒動は起きた(というか起こされた)。

授業内容は、体育。

「今日はバレーをやるぞ!」

今時珍しいほど熱血な体育教師が、バレーボール片手に高らかに宣言した。

「バレーか、久しぶりだよねぇ・・・」

「ホントねぇ。結構ポピュラーな競技なのにねー」

呑気の呟くに、あたしは当然同意した。

だって実際にバレーをやるのは、本当に久しぶりだしね。

けれどもここで場の空気を読めない猫が一匹、余計な口を挟む。

「え〜?この間の体育もバレーやらなかったっけ??」

不思議そうに首を傾げる菊丸。―――余計な事は考えなくていいのよ!

・・・なんて心の中で祈ってたら、菊丸の代わりに不二がニコニコ笑顔で言った。

「ああ、だって英二。さんはこの間の体育サボってたからね」

「あっ!そうだ!!2人だけで遊びに行ってたんだよね!」

「そうそう。僕たちも誘ってくれればいいのにね・・・」

そんな威圧的な空気を放ちながらこっち見ないでよ。

いいじゃない、たまには女同士で交流深めてもさ!

いっつもあんたたちテニス部に独占されて、めったに遊べないんだからっ!!

―――とか言いたくても、自分の身が可愛くて言えない。

だって反論したら何が返ってくるか分からないんだもの、不二の場合。

そんなあたしの心中を察してか、はたまた大して気にしてないのか、があっさりと不二に向かって口を開いた。

「なによ。まだ根に持ってるの??執念深い男はモテないよ?」

うおっ!言った!!

あの不二周助に向かって、命知らずなっ!!

っていうか、自他共に認めるほどモテまくってる不二に向かってそんなこと言えるなんて。

に怖いものはナシね。

しかしそれで黙ってるほど不二も大人しい男じゃない。

チラリとに視線を向けて、綺麗な笑みを浮かべる。

「サボる時は声かけてくれるって言ってたでしょ?」

「・・・・・・今度は声かけるわよ」

「前もそう言ってたよね?」

「・・・・・・うっ!」

そこで言葉に詰まるな、

ここは強気で押し通すのよ!ガッツよ!!

そう心の中で声援を送るも通じず、はあっさりと非を認めた。

なんていうの?って変に素直だからなぁ・・・。―――まぁ、そこがいい所なんだけども。

結局は、次にサボる時には絶対に不二と菊丸を誘う事を誓わされた。

授業中に次サボる時の話するのもどうかと思うけど・・・。

あ〜あ、これで次にと遊べるのはいつになるか・・・。

くそう、男子テニス部めっ!!

 

 

・・・・・・なんて心の中で悪態をついてた間に、授業はどんどん先に進んでいたらしい。

気がつけば熱血教師の手によって、既に班までが組まれていた。

その班というのが、また・・・。

「・・・ふぅ〜ん。僕とさんが同じ班なんだ・・・」

なによ、その『ふぅ〜ん』は!

分かってるわよ、と一緒の班になれなかったから悔しいんでしょ!?

それはあたしも同じだっての!

何でよりによって不二と・・・―――どうせならまだ菊丸のほうがマシよ!

そしてその菊丸はというと・・・。

「やったぁ!オレと同じ班〜!!」

「あ、ほんとだ。不二とが同じ班で・・・ああ、対戦相手だね」

体育教師の手によって、組み合わせまで決められているらしい。

ちょっとは生徒に選ばせようって気にはならないのかしら!?

「・・・へぇ〜。と英二が対戦相手か・・・」

・・・・・・なによ、その『へぇ〜』は。

ニコニコ楽しそうに笑みを浮かべてる不二が分からない。

っていうかどうせよからぬことでも考えてるんでしょ?そういう顔してるもの。

「よぉし!じゃあ、それぞれ試合を始めろ!!」

熱血体育教師の号令で、それぞれ決められた班で決められた対戦相手と試合を始めるクラスメートたち。

その中の1組であるあたしと不二が所属する班と、と菊丸が所属する班とがコートのネットを挟んで向かい合った。

なんか気が乗らないなぁ・・・。

よりによって不二と同じ班だなんて。

まだと一緒ならそれなりにやる気も起きるってのに・・・。

「じゃあ、やる気を起こさせてあげようか?」

突然声を掛けられて隣を仰ぎ見ると、そこには何かを企むような笑みを浮かべた不二。

つーか、人の心の中読むのやめなさいよ。

ちょっとは普通の人間らしく振舞ったらどう?

「嫌だな・・・。それじゃ僕がまるで普通の人間じゃないみたいじゃない」

「だから人の心読むなって。・・・っていうか、そんな事するから普通の人間に見られないのよ」

「別に読んでないって。さんって考えてることがすぐ顔に出るタイプだから、すぐわかっちゃうんだよ。隠すつもりならもう少しポーカーフェイス身につけたら?っていうか、報道部の部員ともあろうものがそんなに簡単に心読まれてどうするのさ」

ちょっと反論しただけなのに、これだけの言葉が返ってくるとは・・・。

だから嫌なのよ、不二と関わるの!!

「それよりも・・・やる気起きないんでしょ?起こさせてあげようか?」

「・・・・・・」

「何で黙ってるの?」

「・・・・・・だって、不二がする事にろくな事なさそうだもの」

今まで不二が起こしてきた騒動で、何一ついい事なんてなかったし・・・。

「僕の事避けてる割には、結構はっきり言うよね・・・さん」

そう言いつつうっすらと開眼する不二。―――しまった!逆鱗に触れてしまったか!?

あたしの人生もここで終わりかと覚悟を決めた時、けれど不二はいつも通りの笑顔を浮かべていて。

・・・なに?もしかして今日は機嫌がよろしいのかしら?

「まぁ、さんが失礼なんてわかりきった事だから、この際目をつぶっておくよ」

ああ、ありがとよ。なんて恩着せがましい!!

「それよりも、僕に良い提案があるんだけど・・・」

不二の言う『良い提案』とやらが理解できず(したいとも思わないけど)小さく首を傾げると、不二はたいそう機嫌の良さそうな笑みを浮かべて、ネットの向こうで同じ班の子達と作戦を練っているに声をかけた。

「ねぇねぇ、!」

「ん?何か用?」

不二に声を掛けられて、不思議そうにしながらもネットに近づくに、あたしは不二が何を提案するのか分からないまま、心の中でに向かって『逃げろ!!』と叫んでいた。

「ねぇ、。賭けをしない?」

「は!?賭け?」

「そう、賭け。僕たちの班が勝ったら、と英二が僕のいう事を聞いて、たちが勝ったら僕とさんがいう事を聞く」

何気に、こっちの班が勝ったときの条件にあたしが入ってないんですけど・・・。

いや、言うまい。

負けたときの条件に、ちゃんと不二も入ってる事に感謝すべきなのよ。

「あー!それ面白そう!!やろうぜ、!!」

「ん〜、まぁ・・・エージがいいんならいいけど・・・」

「よし。じゃあ決まりだね」

ああ、ってば・・・やめとけばいいのに・・・。

「言っとくけど、やるからには負けないわよ?」

「それはもちろん僕だって・・・」

お互い睨み合うと不二。

ってこういうの、結構好きなんだよね・・・。

あ〜あ、見るからに闘志を燃やしちゃって・・・・・・もし負けたらどうなるか、考えないのかしら?

「よし!んじゃ、エージ!完全勝利を目指して早速作戦会議よ!!」

「おうよ!!」

乗りの良い菊丸を引き連れて、意気揚揚と自分たちの班に戻る

いいなぁ、そっちは・・・楽しそうで。

「・・・という訳だから、さん」

「・・・・・・はい?」

「ミスしたら・・・承知しないよ?」

・・・・・・怖っ!!

だからなんで開眼してんのよ!

あんたに何を命令するつもり!?

「さぁ、こっちも作戦会議しなくちゃね」

さっき開眼した事など微塵も感じさせない爽やかさで、不二はあたしの首根っこを引っつかんであたしたちを遠巻きに見てた同じ班の子達の下へ向かった。

つーか、笑顔は爽やかなのに行動が爽やかじゃないってどうなのよ!

ああ、本当にいいなぁ・・・たちは楽しそうで・・・。

それから・・・同情するわよ、

もし負けたら・・・きっとただじゃ済まないだろうから・・・。

 

 

「ふっ・・・、とうとう決着の時が来たわね、不二!!」

「・・・僕に勝てると思ってるの?」

ネットを挟んで、不敵に睨み合うと不二。

自信満々に笑う不二から眼を逸らさず、は手をバッと広げた。

「デカイ口叩くのもここまでよ!行くわよ、エージ!!」

「任せるにゃ!!」

と同じように不二の前に踊り出た菊丸が、声も高々にそう叫ぶ。

・・・・・・なんてノリの良い人たち。

あたしなんて口挟む暇もないわ。

しかも微妙に他の同じ班の子達、無視状態だし・・・。

「行くよ?さん・・・」

「わ・・・分かってるわよ!」

行くよ?と確認形の言葉なのに、雰囲気が『ミスったらただじゃおかねぇ!』って言ってるのが丸分かりよ、不二!

「悪いけど・・・手加減しないわよ、!!」

「望むところだ!!」

いや、そんなノリ良く返してくれるとこ悪いんだけど・・・これマジだから。

あたしの命がかかってるんだからね。

には気の毒だと思うけど、どうあっても負けられないわ!!

決意も新たに、とうとう運命のバレー試合が始まった。

元々運動神経の良いと、アクロバティックの菊丸のスーパーコンビプレイはともかく凄かった。

メチャクチャ息合ってるし!

それに比べてこちらと来た日には、もう・・・。

熱血体育教師は、勝手に班分けをしているように見えて、実はそれなりに考えていたのだと今さらながらに理解した。

言わずもがな。不二は自他共に認めるほど運動神経抜群。

かく言うあたしも、抜群・・・とまでは言わなくても、それなりに良い。

だからなのか、同じ班に指名された子達はお世辞にも運動神経が良いとは言えない子ばかりで。

確かにと菊丸も運動神経抜群だし、あたしたちの班と同じようにあんまり運動が得意ではない子達が集められてるみたいだけど、それでもやっぱりあたしたちの班と違うのは、と菊丸の息が合っているのと、それなりに班の中で意思疎通が取れてる事だろうか?

簡単にいうならば・・・まぁ、かなり不利な状況なんだけど・・・。

それでも不二の威圧的な黒いオーラは健在で・・・。

「エージ!不二が開眼するたんびにビビってんじゃないわよ!!」

「だって!メチャクチャ怖いんだもん!!」

その気持ち、良く分かるわ・・・菊丸。

同じ班でも怖いのに、それが対戦相手になったら・・・ああ、怖い!

寧ろ何でが普通にプレーできるのかが、不思議でならないよ!

「不二も!エージビビらせて勝とうなんてセコイわよ!!」

「これ真剣勝負でしょ?僕は真剣にやってるだけだよ?」

「くっ・・・・・・でも、ズルイ!!」

確かにね・・・不二の言うことは間違ってないよ。

でもそれ以上に、の悔しさが分かるのが辛い!!

っていうか、不二は真剣にやってるから開眼してるんじゃなくて、間違いなく菊丸を脅すために開眼してるでしょ!?

「ふふ・・・勝たせてもらうよ?」

開眼しつつ小さく口角を歪ませた不二に、背中に悪寒が走った。

こいつ・・・本当にに何させるつもりなの!?

「ちょっと、エージ!真剣にやんなさいよ!!」

「だってぇ・・・にゃー!!」

コートの中に、の怒鳴り声と菊丸の悲鳴が響き渡った。

 

 

そして・・・怒涛のバレーの試合は幕を閉じた。

何でたかが学校の体育の授業でこんなに身の危険を感じなきゃいけないのかとか、既に1名瀕死者が出てる(言うまでもなく菊丸)とか、いろいろ胸の中に込み上げてくるものはあるけども。

結果:勝者、不二班。

と菊丸のコンビプレイを上回る、不二の腹黒オーラ。

っていうか、途中から菊丸ほとんど試合に参加できてなかったけどね。

「ふふ、僕の勝ちだね」

「そうね、負けちゃったね」

「賭け・・・覚えてるよね?」

念押しする不二に、はあっさりと頷いた。

ちょっと、そんなに簡単に認めていいの!?

確かに不二相手にシラを切り通すなんてできっこないだろうけどさ!

「ま、しょーがないわね。約束だし・・・」

・・・なんて男らしい。

って言ったらきっとにぶっ飛ばされるから、口には出さないけど。

「それにしても残念だったなぁ・・・。エージがあんなに怯えなきゃ絶対勝ってたのに!」

うん、確かにね。

菊丸が不二の真っ黒オーラを気にせずにプレイできてたら、きっと勝ててたね。

それにしてもその残念がりっぷり・・・一体不二に何させようとしてたのかしら?

気になって聞いてみたら、

「不二にね。ハゲかつらをかぶってもらおうと思ってたんだよ・・・」

ハ、ハゲかつらっスか・・・?

「それはそれで見てみたいけど・・・」

「でしょ!?見てみたかったなぁ・・・」

本当に残念そうに呟く

だけどもし本当に不二がハゲかつらかぶったら、それはそれで大変な事になってたと思うんだけど。

ほら、一応不二にもイメージってモノがあるからさ。―――あたしには関係ないけど。

そう言ったら、『きっと不二のファンの子達は、不二がハゲかつらかぶってても素敵!!って言ってくれるわよ』とあっさり言い切った。

いや・・・いくらなんでもそれは・・・・・・・・・うん、そうかもね。

もしそうなれば、校内新聞で一面飾れたのにな〜。

あたし的にはそんな一面、凄く嫌だけども。

「残念、残念」

そう呟きながら使ったボールを片付け始めて。

全部片付け終わった頃、ようやく波乱の体育授業の終わりのチャイムが鳴った。

 

 

次の日。

昨日の体育の授業のことなんてすっぱり忘れたあたしたちの前に、ニコニコと笑顔を浮かべた不二が現れた。

手には大きな紙袋を2つほど下げて・・・。

「はい、これ」

それをと菊丸、2人に手渡す。

「にゃに、これ〜」

不思議そうに首を傾げながら中を覗いた菊丸は、見事なほどに瞬時に固まった。

「なに〜?どうした、エージ」

同じように紙袋の中身を覗き込んだも、菊丸と同じように硬直する。

何事かと思わず覗き込んだ紙袋の中には・・・。

「・・・うっわ・・・・・・」

思わず声が漏れる程。―――中にはピンクハウスバリのひらひらのレースがたくさんついたドレスのようなものが入っていた。

「ほら、昨日のバツゲーム・・・まだだったでしょ?」

「ふ、不二さん。これは一体・・・」

「うん、これがバツゲーム。明日の日曜は部活も休みだし、これ着て一緒に遊びに行こう」

「ご・・・ご冗談を・・・」

「・・・・・・ふふふ」

ダメだ、これはダメだ。―――だって不二の目、マジだもん。

、英二。約束だよね?」

有無を言わせぬその口調に、2人は諦め混じりに小さく頷いた。

はともかく・・・っていうか、がこんな服着るのって一生に一度あるかないかだろうから楽しみだけど(きっと似合うだろうし)。

菊丸は・・・・・・どうなんだろう?

結構可愛い顔してるし・・・まぁ、似合わない事もないんじゃないかとは思うんだけど。

「じゃあ、明日10時に駅前に集合」

「「・・・・・・はぁ〜い」」

と菊丸の、覇気のない声がいつまでもあたしの耳に残っていた。

 

 

その後、どうなったかって?

それは、2人の名誉の為にも言わぬが花ってやつだけど・・・。

まぁ、あたしが言えることといえば、は予想通りメチャクチャ似合ってて可愛かったって事と、菊丸が女装した男だってばれる事はなかったって事かな?

もちろんあたしも勝者として日曜日は同行させてもらったし。

バッチリ2人のピンクハウス姿を写真に収めさせてもらった。

これもやっぱり校内新聞の一面を飾れるほどのネタだけど・・・―――もったいないから絶対に他の人には見せてあげない。

これ以上が人気者になったら、余計にあたしと遊ぶ時間なくなっちゃうし。

でもネタに困ったら、菊丸の分だけはネタにさせてもらおうと思ってるから。

ま、気長に待っててよ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

3−6の日常風景。

さんはの親友で、2年3年と同じクラスです。

たまにはお馬鹿な日常もいいかな〜と思いまして・・・。

作成日 2004.3.15

更新日 2009.3.8

 

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