「最低っ!!」

女の子の怒鳴り声と同時に、パアンって派手な音とほっぺたに鋭い痛みが走った。

目の前には怒りで顔を真っ赤にした女の子。

あ〜あ、折角可愛い顔してるのに・・・そんなに顔歪ませたら台無しだよ?

そう言おうと思ったけど、言ったら言ったでまた叩かれるんだろうなぁって思ったからやめた。

女の子は何も言わない俺に痺れを切らしたようで、最後にきつく俺を睨むと踵を返して街の人ごみの中に姿を消した。

それを見送って・・・―――多分もう会う事もないだろうから、メモリを消そうと携帯を取り出した・・・んだけど。

ふと、女の子を見送った俺の目に、もう1人の女の子の姿が目に映った。

 

恋愛交差点

 

うわっ、激可愛い!!

その子を見た第一印象は、まずそれだ。

キリッとした目にピンク色の唇。

艶やかな髪は腰の辺りまであるくらい長くて、サラサラ風になびいてる。

どっちかって言うと『可愛い』よりは『綺麗』って感じだけど、俺が今まで見たどの子よりも俺の目を引いた。

日本人形みたいに凛とした感じで、見た感じ俺とそう歳は変わらないみたいだけど、同年代でこんな落ち着いた雰囲気の女の子なんて初めて見た。

女の子は無表情でじっと俺を見つめてて・・・・・・そんなに見つめられると、俺てれちゃうよ?

とりあえずヘラって感じで笑いかけると、女の子も困ったような笑顔で笑い返してくれた。

へ〜、笑うと印象変わるんだ・・・けっこう可愛い。

そういえば今日は寝坊して占い見れなかったんだけど・・・―――あんな事があったんだけど、もしかして恋愛運◎だった?

俺は軽い足取りでその子のところまでスキップして行った。

「こんにちは〜!君いま1人?もし良かったら俺とどっか遊びに行かない?」

これだけ綺麗だったら彼氏の1人や2人いてもおかしくないけど、まぁダメ元ってやつで。

俺がそう声をかけたら、女の子は悪戯っぽく笑って。

「悪いけど、女の子に『最低!』って言われるような人にナンパされる気はないんだよね」

そう言ってさっきの女の子と同じように、ほっぺたを叩くフリをする。

あちゃ〜、さっきの見られてたんだ。

誤魔化すように笑うと、つられるようにしてその子も笑う。

う〜ん、やっぱり可愛いなぁ。

「じゃあさ。俺と友達になってよ。そんで、どっか遊びに行こう?」

「それよりも、さっきの子追いかけなくていいの?」

なおも食い下がる俺の言葉をさらりと無視して、その子はさっきの女の子が去っていった人ごみを指差した。

もうそこには女の子の姿はない。―――だってこれだけの人ごみだもん、すぐに見失っちゃうよね?

「いいのいいの!」

「でも・・・彼女、追いかけて欲しいんじゃないの?」

そういう目してたよ?と呟く女の子に、俺は首を傾げた。

追いかけて欲しい?なんで?

だって俺、いま最低!って言われたんだよ?

叩かれたほっぺただって痛いし、それに・・・。

「あの子、別に俺の彼女じゃないし・・・」

思わず口に出てた俺の独り言は、ちゃんと彼女に聞こえてたみたいで。

「・・・彼女じゃないの?」

「うん、違うよ」

そう即答すると、さっきまで(困ったようにだけど)笑ってたその子は少しだけ不機嫌そうに表情を歪めた。

さっきの子と違って、そんな顔をしても凄く綺麗に見えるから不思議だな。

「でも恋人同士に見えたけど?」

「え〜、違うよ!俺とあの子は『友達』だって!」

「・・・『友達』?」

俺の言葉に、女の子はますます表情を硬くする。

なんで?俺変な事言ったっけ?

「君は・・・あれだね」

「・・・あれって何?」

「君は、実は女の子の事なんてどうでもいいんだね」

幾分か低くなった声でポツリと呟く。

「えぇ!?俺、女の子の事どうでもいいなんて思った事一度もないよ!」

予想外の言葉に慌てて反論すると、女の子はなおも言葉を続ける。

「じゃあ、あれだ。君は他人がどうでもいいんだ」

言ってる意味が分からない。

別に俺は女の子の事をどうでもいいなんて思った事もないし、ましてや他人の事をどうでもいいと思った事もない。

なのになんでイキナリそんな事言われなきゃなんない訳!?

しかもほとんど初対面の女の子に!

多分そう思ってるのが顔に出てたんだろう。―――女の子は苦笑いを浮かべると、さらに言葉を続けた。

「だって君。自分以外に価値ある人の存在なんてないでしょ?」

「なんで・・・!!」

「分かるよ。そうじゃなかったら、あの子にあんな態度取らないって・・・」

「・・・・・・」

妙に自信満々に言い切るから・・・もしかしてそうなのかな?ってちょっとだけ思っちゃったじゃん!

でも・・・よくよく考えたら、そうなのかもしれないとも思う。

仲良い友達とかいっぱいいるけど、その子と自分を比べたら断然自分の方が大事だし。

その子の為に何かしようとか、今まであんまり思ったことないし。

でもそれってそんなに変な事?

誰だって自分が大切でしょ?

それとも他のみんなは、自分より大切な人っているの?

もしかしていないのは俺だけ?―――そんな事ないよね?

だってきっとそれだけの人を見つけるのって、凄く大変な事だろうし。

だって俺、きっといままでそんな人見つけたことないだろうし・・・。

でもこの子はきっと見つけたんだろうな。

だから自信満々で、そんな事言えるんだ。

ぼんやりとそんな事を考えていたら、突然携帯が鳴った。

この音は・・・多分メールだ。

見てみたら・・・差出人はさっきの女の子で。

メールの内容を確認して、それからふと思う。

もしかして・・・彼女にとっての俺っていうのは、目の前の女の子が言う『大切な人』っていう部類に入ってるのかもしれない。

それなら彼女も、もう大切な人って言うのを見つけてるんだ。

その対象が俺っていうのも・・・何か変な感じだけど。

行ったら?と目で合図してくる女の子を見下ろして。

「ねぇ・・・俺と『友達』になってくれない?」

さっきと同じ言葉を繰り返した。―――すると女の子はちょっとだけ困ったように頭を掻いて、それから俺を見上げて笑う。。

「う〜ん。知らない人に付いて行くなって言われてるんだよね・・・」

「もしかして君ってお嬢様?親が厳しいとか?」

うん、お嬢様系には・・・まぁ外見は見えるけど。―――でも中身はそんな風には見えないかな?

そんな事を思ってると、女の子は違う違うと首を横に振った。

え〜?親じゃないなら誰に言われるの、そんな事。

疑問をそのままぶつけてみたら、

「手塚」

とあっさりと言葉が返ってくる。

っていうか、実名出されてもわかんないし!

制服を見るとこの子って青学の生徒だよね?

青学の生徒って言えば・・・思い当たるのはテニス部の部長さんくらいしかいないけど。

・・・・・・うん、彼じゃないね。彼はそんなキャラじゃなさそうだもん。

「それに君の言う友達とあたしの考える友達の概念は違うみたいだからな〜」

付け足したみたいに口を開くその子を見返す。

概念が違う?友達に違いってあるの?

不思議に思って首を傾げると、女の子もからかうように小さく首を傾げて。

「あたしの考える『友達』でいいなら、友達になってあげるよ」

「・・・・・・君の考える『友達』ってどういうの?」

分からないから聞き返すと、今度は悪戯っぽい笑みを浮かべて、無言で俺の口の辺りを指差した。

「まぁ簡単に言えば、友達はキスなんてしないかな?・・・君の口に口紅ついてるよ?」

言われて慌ててこすれば、手の甲にピンク色の口紅が確かについてた。

そっか。彼女の言う友達は外国で使う『ガールフレンド』って意味じゃなくて、本当にそのまま直訳の『ガールフレンド(女友達)』なんだ。

そっか・・・そうなんだ。

思わず考え込んじゃったけど、もう一回携帯が鳴ったから俺は慌てて女の子に右手を差し出した。

「うん、それでいい。だから俺の『友達』になって?」

首を傾げると、女の子は一度苦笑して。

だけど今度はちゃんと、俺の手を握り返してくれた。

なんか・・・こんな風に『友達』って確認するのも何か変っていうか・・・結構照れちゃうんだけども。

俺は急いで自分の携帯番号を書いた紙を彼女に渡して、他に紙がなかったから彼女の携帯番号は俺の手に書いてもらって。

急いで人ごみの中に駆け出す。

きっと、さっき別れた女の子が望むような友達にはなってあげられないけど。

だけど、きっと俺はあの子に酷い事をしちゃったんだろうから・・・だからそれだけはちゃんと謝らないと。

人ごみの中じゃ思ったより先に進めなくて。

掻き分けて進む途中で、俺は重大な事を思い出して慌てて振り返った。

もう既に俺に背中を向けて歩き出してる女の子に、声を張り上げて。

「俺!千石清純!!」

振り返った女の子は、びっくりしたような表情を浮かべて・・・―――だけどすぐ後には綺麗な笑みで答えてくれた。

「あたし、!」

バイバイと手を振るちゃんに手を振り返して、俺は再び人ごみを走り出す。

それが、俺との出会い・・・だった。

 

 

「・・・・・・って訳なんだよ」

部活の後・・・南に俺との関係を聞かれたので、俺はと出会った時の話を聞かせてみた。

すると南は渋い顔で一言。

「お前は昔っから、女タラシだったんだな・・・」

失礼な!俺は女の子をタラシてなんかないって!

ただ純粋に、俺は可愛い女の子が好きなんだよ!!

だけどいまから思えば、昔の俺って酷い奴だったと自分でも思う。

あの時と会ってなかったら、多分いまもそうだったんだろうな〜とか思うと、と出会えた俺ってやっぱりラッキーだなって思う。

と会って、俺は自分よりも大切な人って言うのがなんなのかが分かった気がする。

具体的にどういうのかって聞かれると説明は出来ないけど・・・。

だけどいまの俺はテニス部のみんなが大切だし、困ってたら助けたいなって思う。

自分よりも大切かって聞かれたらどう答えていいか分からないけど、とりあえずすっごく大事だってことははっきりと言える。

「まぁでも、これで謎が解けたよ」

しみじみと言う南に、俺はちょっとだけ不本意に思いながら。

どうやら南は、俺とが『普通の』友達みたいに付き合ってるのが不思議だったらしい。

ちょっと酷いよね?俺ってそんな風に思われてたんだ!

キヨ、ショック!!

でも南の言う通り、俺にしては珍しく女の子と友達してる。

だって最初言ってた通り、俺とはキスしないし、遊びに行く時も手を繋いだり腕組んだりしない(ノリで肩組むことはあるけど)。

それでもと一緒にいると楽しいし、好きなのは間違いないけど、それが『恋愛』なのか『友情』なのかは俺自身もよくわからない。

だけど、俺はの事も大切だと思ってる。―――それだけは間違いないって胸を張って言える自信がある。

そんな曖昧な感じでもいいかなって、いまは思う。

そのうちに答えが出るかもしれないし、もしかしたら一生出ないかもしれないけど。

だけど選択肢はいつだって広がってるし、もし『恋愛』でが好きなんだって思えばそこで方向転換すればいい。

少なくともいま俺は、この関係が凄く好きだ。

軽快な音を立てて携帯が鳴った。―――この着信音は・・・・・・だ!

俺は慌てて鞄の中に放り込んであった携帯を捜して。

「もしもし、?どうしたの〜?」

俺は今日も、大切な友達と楽しい時間を過ごす。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

キヨがかなり悪役っぽい感じですみません。(ファンの皆様申し訳ありません)

2人の一見微妙な関係・・・・・・キヨ的には今は仲の良い友達感覚で。

その内どうなるかは・・・未定です。(笑)

結構好きなキャラなんですけど・・・どうも上手く扱えないようで。

何かキヨが馬鹿みたいな感じになってしまい・・・。(言い訳が思いつかない!)

作成日 2004.3.24

更新日 2009.5.3

 

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