「ほら、席に着け!授業を始めるよー!!」

3時間目のチャイムと同時に、竜崎先生が教室に入ってきた。

流石というかなんというか・・・竜崎先生の言葉に逆らう奴なんていなくて、それは俺も同じで、慌てて自分の席に戻って数学の教科書を机の中から引っ張り出した。

全員が席に座るのを確認してから、先生は俺たちを見てニヤリと笑う。

「・・・と、その前に!この間の小テストを返すぞ!名前を呼ばれたら取りに来い!!」

「「「えぇ〜!?」」」

生徒たちの(俺含む)ブーイングの中、先生はなんでかものすごく楽しそうに出席番号一番の奴から名前を呼ぶ。

そういえば前の時間にしたような・・・ってくらい曖昧な記憶しかないそのテストは、きっと多分間違いなく、良い点数だなんて訳無くて。

「ほら、菊丸!菊丸英二!さっさと取りに来んか!!」

「はぁ〜い」

先生の怒鳴り声を耳に、俺は憂鬱で重い身体を引きずって教壇に向かった。

 

の気持ち

 

こ、これは・・・!!

俺は自分の手に返って来た数学の小テストの答案を見て目を見開いた。

自分の名前の隣に赤い字ででっかく書かれてる数字を見て、思わずため息。

ま、最初から期待してなんてなかったんだけどさ。

むしろテストの内容は覚えて無くても、それにどれだけ答えを書き込んだかって記憶ぐらいは残ってるから、この点数も乾風に言うなら『予測の範囲内』ってやつ?

でもなぁ・・・これは流石に・・・。

チラリと教壇の方を見れば、こっちを見てた竜崎先生と目が合った気がした。

目が合ったっていうか・・・睨まれたって方が正解かも。

「次、

「はーい」

先生に呼ばれて、俺の少し後ろの席のが立ち上がって教室の前に歩いてく。

それをぼんやりと眺めながら、俺は手に持つテスト用紙をグシャリと握り潰した。

うん、こんなの見ない方が良いよね。

だって見てたって気分が滅入るだけなんだもん。

終わった事を今更言ったって仕方ないし・・・―――それに俺が言うのもなんだけど、これに近い点数ならいつものことだし。

そう思うとちょっとだけ気分がマシになった。

そうだよね。

数学なんて出来なくたって、俺今まで困った事だってないし。

ふと前を見ると、が先生からテスト用紙を受け取っていたところだった。

それだけなら別に不思議でもなんでも無いんだけど・・・―――俺は初めて見る光景に思わず首を傾げた。

いつもだったら先生はににこやかな笑顔で話し掛けてるのに、今日はなんだかちょっとだけ深刻そうな顔してる。

先生と同じようにも深刻そうな顔で、まるで手塚みたいに眉間に皺を寄せて先生を見返してた。

どうしたんだろ?

まさかに限って、テストの点数が悪かったなんて事ないよねぇ?

そんなことを考えてたら、急に俺の方を見たとバッチリ目が合った。

どうしたの?と目で問い掛けると、は眉間の皺を消してにっこりと笑う。

「・・・・・・?」

何で急に笑ったのか解らなかったけど、俺は咄嗟ににっこりと笑顔を返す。

それが悪魔の微笑みだと俺が知ったのは、授業が終わった後の事だった。

 

 

「エージ。ちょっと良い?」

授業が終わって先生が教室から出て行った後、後ろから声を掛けられて俺は椅子に座ったまま振り返った。

「にゃに?どしたの、?」

振り返った俺のすぐ後ろにはが立っていて、その後ろにはと隣の席の不二が机に座ったまま、いつもの笑顔で俺の方を見てる。

不思議に思って首を傾げる俺を見詰めて、はにっこりと笑顔を浮かべて手を差し出した。

「さっきの小テスト、見せて」

「え!?」

「良いから、見せて」

いきなり言われた事に驚きの声を上げる俺を無視して、はもう一回同じ事を言う。

しかもその口調に反論させない雰囲気があって、俺は思わずから視線を逸らした。

み、見せれない。

見せるわけにはいかない。

見せたら、最後。―――どんな反応が返ってくるか想像しなくても解るから。

でもでも、を前にしてずっと逃げ切れるわけない事くらい、俺にだって解ってて。

チラリと小テストを押し込んだカバンに目をやった俺は、次の瞬間見たの笑みに思わず固まった。

「仕方ないわね・・・。不二!」

「はいはい」

呆れたという風にため息を吐いたは、机に座って様子を窺ってた不二を呼ぶ。

すると不二は、口調は明らかに面倒臭そうに・・・でも顔は凄く楽しそうにニコニコしながら、俺のところにまで近づいてきた。

「ごめんね、英二」

にこやかな笑顔と一緒に謝られて、一瞬何のことか解らなかった俺は、次の瞬間不二に身体を押さえつけられて身動きが取れなくなってた。

「ふ、不二!?」

「こっちは良いよ、

驚いて声を上げる俺をまた無視して、不二はに向かって声を掛けた。

それを受けて、はにっこりと笑顔を浮かべると俺のカバンに手を伸ばす。

「にゃー!!」

「ごめんね、エージ。勝手にカバン、開けさせてもらうよ」

「だめだめ!だめだってばー!!」

俺は必死になって不二を押しのけようと身体を動かすけど、不二は見かけによらない強い力で俺を押さえ込んでるから、俺はバタバタと足を動かすしか出来ない。

だめだって言ってるのに、は俺のカバンを開けて中に入ってたぐちゃぐちゃに丸まった紙を取り出して、それを丁寧に開いていく。

ああ、もうだめだ!!

俺は諦めて思わず目を瞑った。

ガサガサと紙を開く音が聞こえてきて、すぐにその音が止む。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

すぐに怒鳴り声が聞こえてくると思ってたのに・・・―――だけどいくらたっても何も言われなくて、俺は不思議に思って恐る恐る目を開いた。

「・・・・・・?」

目を開けたすぐそこには、ぐちゃぐちゃになった俺の小テストの答案を片手に立ち、にっこりと浮かべた笑顔をそのまま固まらせたの姿があった。

・・・そりゃさ、そんな反応するのも解らないでもないケド。

でも、いくらなんでもそれは、俺に失礼なんじゃ・・・。

そんなことを思ってると、固まってたがゆっくりと俺を見下ろした。

「・・・エージ」

「・・・!!」

地獄の底から響くような声って、きっと今のの声のことを言うんじゃないかな?

俺は自分の置かれた立場にも気付かずに、呑気にもそんなことを考えた。

「なんなのよ、これは!!」

ビシッと持ってた紙を俺に突きつける。なんなのよ・・・って・・・。

「数学の小テストの答案用紙・・・」

「うん、そうだね。数学の小テストの答案用紙だよね、エージの!」

怖い顔で俺を睨む

途端に俺を押さえつけてた不二の手の力が弱まって、俺は机に伏せてた身体を起した。

「英二・・・これは流石に・・・」

不二が呆れたように、困ったようにポツリとそう漏らす。

「菊丸英二、9点」

低い低〜い声で、が呟いた。

「う〜ん、惜しかったよね。後1点で10点台だったのに・・・」

「この際、9点でも10点でも変わりないことに、あんたは何時になったら気付くの!?」

俺の呟きを、の怒鳴り声が掻き消した。

う〜・・・気付いてないわけじゃないってば。

俺だって一応はショックだったんだからね。

今まで確かに点数はあんまり・・・っていうかかなり良くなかったけど、一桁台取ったことなんて一回も無かったんだから。

そりゃ、11点とかならあるけど。

「大丈夫だって。これ小テストなんだから、ちょっとくらい点数悪かったって・・・」

「テスト本番でこれじゃ、頭痛いどころの話じゃないわよ。このままだとテスト本番でも同じ結果を迎えそうだけどね」

雰囲気を和らげようと必死になって言った俺の言葉に、は疲れたように俺の隣の席の子の椅子に座り込んで、深い深いため息を吐いた。

「さっきスミレちゃんに聞いて吃驚したよ。・・・・まさかここまでとは思わなかったけど」

ああ、なるほど。

さっき先生と真剣な顔で話してたのは、俺のテストの点数が原因だったわけか。

っていうか、何で俺のテストの点数でと先生があんな難しい顔して話するわけ?

、元気だせって」

「誰のせいだと思ってんのよ、エージ」

明るく声をかけたら、恨めしそうな視線を返された。

それってやっぱ、俺のせい?

「それにしても・・・何とかした方が良いよね。このままじゃ、あんまりだし」

俺とのやり取りを見てた不二が、静かな声でそう言った。

何とかって何?

「平気だってば!今回は・・・ちょっと調子が悪かっただけだし・・・」

「英二はいつも調子が悪いんだもんね」

こら、不二。余計な突っ込みはしなくて良いから!

「だってそれに、俺数学苦手だし・・・」

「英二の得意なのって体育とかでしょ?・・・まぁ、日本史は他に比べて大分マシだけど」

マシとか言わないでよ。

っていうか、何で不二はさっきから俺を追い詰めるような発言ばっかするわけ!?

なんか俺に恨みでもあんの!?

「このままじゃ、英二の将来が凄く心配だよね」

「別に数学できなくたって将来困らないだろ!?因数分解とか使わないし!足し算引き算と掛け算と割り算できれば問題ないって!」

「でも、ここ。引き算間違ってるよ」

「・・・あ」

ぐちゃぐちゃの答案用紙を指差して、不二がクスリと小さく笑った。

それをさっきのみたいに恨めしげに睨んでいると、今まで静かだったが勢い良く机を叩いて立ち上がる。

何事かと顔を上げた俺と不二を見て、はニコリと笑った。―――でも目は笑ってなかった。

「将来うんぬんはともかく、このままじゃいくら青学がエスカレーター式の学校だって言っても、エージ高等部には上がれないわよ」

「がーん!」

「がーん!じゃない!!」

は俺を見下ろして、怖いくらいの気迫を漂わせながらキッパリと言った。

「エージはもっと危機感を持ちなさい!」

「だって・・・」

「だってでもない!良い?今日の放課後、数学の勉強するからね!!」

ええ!?

今日の放課後って!!

「部活はどうすんのさ!!」

「数学の勉強が終わったら、部活に行かせてあげるわよ」

そ・ん・な!!

明日都大会なんだぞ!?

勉強なんてしてる暇なんてないでしょ!?

〜!何も今日じゃなくたって良いじゃん!!なんで都大会前日に勉強なの!?」

そう抗議の声を上げる前に、は最終通告を俺に突きつけた。

「これはスミレちゃん命令なの!文句があるなら、あたしじゃなくてスミレちゃんに言ってよ」

「・・・・・・」

そう言われれば、俺に反論のしようもない。

もし反論して・・・レギュラー落とされでもしたら!!(そんなこと有り得ないけど)

「いい加減、諦めたら?」

不二の他人事のような呟きに、俺はがっくりと肩を落とした。

 

 

「う〜・・・」

「唸っても無駄。口より先に手を動かしなさい」

放課後、みんなが帰って誰もいない教室に俺との2人きり。

俺は自分の机の上にばら撒かれた数学のプリントを見てから、俺の前の席に座って黙々と本を読んでるを恨めしげに見た。

いつも優しいは、だけど今は俺に冷たくそう言って、本から顔を上げようとしない。

「早く部活に行きたいなら、さっさと問題解きなさいよ」

「・・・・・・わかったってば」

突き放すように言われて、俺ちょっと淋しい。

でもの言う事も最もだったから、俺は渋々目の前にプリントに視線を落とす。

・・・・・・。

「・・・あの〜、

「なによ」

「・・・・・・わかんないんだけど」

小さな声でそう言うと、は本から顔を上げて俺を見る。

「どこ?どこが解らないの?」

プリントを見てそう質問するに、俺は縋るような目を向けた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・どこが解らないかも、解らないの?」

コクリと1つ頷くと、は困ったように額に手を当ててため息を零す。

「エージ。前から言ってるでしょ?授業はちゃんと聞きなさいって」

「だってぇ・・・」

「猫なで声出さない」

「授業全然わかんないし、朝練早いから眠くなって来るんだもん」

「可愛く言っても駄目」

キッパリと冷たく返されて、ちょっとヘコんだ。

「じゃあ・・・これは?」

「・・・(フルフル)」

「・・・じゃあ、これ」

「・・・・・・(フルフル)」

「・・・・・・・・・まさかこれくらいは解るわよね?」

「・・・・・・・・・」

無言で首を横に振る俺に、は絶望的な目を向ける。

「エージ。あんた本当に危ないかも」

「うわーん!が苛めるー!!言葉の暴力だー!!」

しみじみと呟いたに、俺は机にガバリと伏せて嘘泣きした。(でもホントにちょっとなきそうだった)

そりゃさ、俺だって自分のテストの点数はやばいかも!とか思うけど。

そこまで言わなくたって良いじゃんか!!

高校浪人は嫌だ!!

教室に俺の嘘泣き(半泣き)の声と、のため息が響く。

「エージ。泣いてないでとっととプリントやっちゃいなさい」

「だって・・・わかんないもん」

「解んなかったら教えてあげるから」

そう真剣な顔で言われて、俺は机から顔を上げるとシャーペンを手に持つ。

は頭が良いから、俺の気持ちなんてわかんないんだよ。―――とか言いそうになって、俺はその言葉を飲み込んだ。

だって俺、がちゃんと勉強してるの知ってるし。

たま〜に・・・っていうかしょっちゅう?授業サボったりしてるけど、その分ちゃんと後で勉強してるの知ってる。

だから勉強してない俺がそんなこと言うのは、に失礼だ。

とか思うけど、やっぱり俺がちゃんと授業受けて家でもちゃんと勉強してたとしても、みたいに学年上位になんてなれっこないんだから、神様は不公平だよにゃあ。

はぁ、って大きくため息をついて、教室の窓から外を見る。

そこからはテニスコートが見えて、1年の部員たちが部活の用意をしてるのが見えた。

「部活行きたいにゃー・・・」

「あたしだって行きたいわよ」

即答で返って来たの言葉に、俺は視線をに向ける。

「んじゃ、今日はここまでにして部活行かにゃい?」

「・・・今エージに一番必要なのは、危機感だね」

「ごめんなさい」

呆れたように言われて、俺はすぐに謝ってプリントと向き直った。

訳のわかんない数字と睨み合いっこしながら、頭の片隅で思う。

俺の場合は自業自得かもしれないけど、は俺のとばっちりを受けて部活に行けないんだ・・・―――そう考えると、凄く申し訳なく思った。

「ごめんね、

気まずいから小さな声で謝ると、は俺をチラリと見てからにっこりと笑う。

「エージが真面目にやってくれるなら、それで良いよ」

それは怒ってた時の怖い笑顔じゃなくて、いつもの優しい笑顔だった。

 

 

「ほあら」

とりあえず教科書に載ってる数式を手当たり次第に使って、aとかbとかが溢れる計算問題を必死にしていた時、教室に可愛らしい声が響いた。

は読んでた本から顔を上げて、きょとんとして俺を見る。

「なに?なにか言った?」

「俺なんにも言ってないケド?」

計算してた手を止めてを見返し、俺は小さく首を傾げて同じように首を傾げてるにそう言う。

「・・・なら、さっきのって」

「ほあら〜」

眉間に皺を寄せてそう言うの言葉を遮って、さっきの可愛い声がもう一度教室の中に響く。

俺たちは目を見合わせて、それから教室の中を見回した。

う〜ん・・・教室の中には俺たち以外、誰もいないみたいだけど・・・。

もう一度俺が首を傾げてると、がいきなり立ち上がって閉まってたドアを静かに開く。それから視線を下に向けて・・・俺もそれに釣られて廊下の床を見ると、そこに毛のふさふさした可愛い猫がいた。

「・・・なんでこんなとこに猫が?」

「にゃー!可愛い!!」

結構珍しいその猫を見つけて、俺は勢い良く席を立って廊下に向かって走る。

するとその猫は、俺に怯えたようにビクリと身体を強張らせてちょっとだけ後退った。

「もー、エージ。あの子怯えてるじゃない」

「だぁって〜」

呆れたように呟くに、俺は抗議の声を上げた。

だって可愛いじゃん!抱っこしたいなって思ったって可笑しくないでしょ!?

プクッとほっぺたを膨らませた俺を見て、は困ったようにため息を吐く。

それから静かにしゃがみこんで、警戒心剥き出しの猫に向かって手を伸ばした。

「ほーら、おいで。怖くないから・・・・・・ね?」

が優しい声と優しい笑顔(普段より3割増)を猫に向けると、その猫はちょっと警戒しつつもゆっくりとに近づいて、の手が猫の顔に触れるところまで来ると猫は甘えたようにの手に身体を摺り寄せる。

「・・・慣れてるね、

「普段から猫の面倒見てるからね」

あんまりにも簡単に猫を手なずけちゃうから吃驚してそう言うと、はサラリと即答した。

って、って猫なんて飼ってたっけ?

そう思ってたのがバレてたのか、俺の顔を見上げたが悪戯っぽく笑った。

もしかしてその猫って・・・俺の事?

「ヒドイ!俺、猫じゃねーもん!!」

「はいはい。ごめんね、エージ」

すぐさま抗議の声を上げたけど、は気にした様子もなく猫を抱き上げて教室のドアを閉めた。

そんな軽くあしらわれるように謝られたって、嬉しくないってば!

猫を抱いたがさっきまで座ってた机に戻って、俺も渋々自分の席に戻る。

そのまま猫を自分の膝の上に乗せて、カバンを開けるとその中をがさごそと漁りだした。

「何やってんの?」

「ん〜?なんか食べるものないかなと思って」

なるほど!餌付け作戦か!!

って普段からいっぱいお菓子持ってきてるから、なんか猫でも食べれそうな奴あるかも。

そう思って、俺ものかばんの中を覗き込む。

ちなみに、俺のカバンの中には何も入ってない。―――今日の昼休みに全部食べちゃったからね。

「う〜ん・・・、やっぱりチョコレート系はやめといた方が良いよね」

「たぶんね。あれでしょ?犬とかってチョコレート食べると病気になっちゃうって聞いた事あるし・・・。猫はどうだか知らないけど」

「・・・じゃあ、他には・・・」

小さく呟きながらカバンの中を漁るを見て、俺は今更ながらに思う。

何でって、いっつもこんなにいっぱいお菓子持ってきてるわけ?

のカバンの中には、教科書類は入ってない。―――俺と同じように教室に置いて行ってるって前に言ってた。

後は今さっきまでが読んでた本とか、筆箱とか・・・。

ちなみにの場合、宿題も持って帰らない。―――何でも授業中とか休み時間とかに宿題は全部終わらせちゃうんだって。

「あーもー!なんかなかったかなぁ?」

カバンの中をごそごそと漁ってるのが面倒臭くなったのか、はカバンをひっくり返して中に入ってたお菓子を俺の机にぶちまけた。

うわ、すごい!!

俺の机の上には、お菓子がいっぱい。

主にチョコレート系が一番多いんだけど、その中には飴とか(今が気に入ってる棒付き飴(最近はイチゴ味))ポテトチップスとか(ちっちゃいやつ)なんでか酢昆布とか。

って、酢昆布って!!

趣味がちょっと年寄り臭いんだけど!

いや美味しいけどさ、酢昆布。

「あ、これならどうかな?」

そう言ってが手に取ったのは、コンビニとかで売ってる100円のおつまみのさきいか。

なんかチョイスが酒飲みっぽいけど。

俺の返事も待たずにはさきいかを開けると、それをの膝に乗って大人しくしている猫に差し出した。

「・・・食べるかな〜?」

「・・・・・・ほあら」

その猫はちょっとの間匂いをくんくん嗅いでたけど、小さく鳴いてそれを口に咥える。

「おお〜!食べた!!」

「良い食べっぷりだねぇ。もう1ついかが?」

嬉しそうに笑って、はもう1つさきいかを猫の口元に運ぶ。

それを黙々と食べる猫を見て、満足そうに笑う。

ちょうどそれと同時に何の前触れもなく、俺たちがいる教室のドアが開いた。

「・・・何やってるんだ?」

教室に来たのは、今は部活に参加してる筈の大石。

大石は不思議そうに首を傾げて、俺と・・・それからの膝の上に乗ってる猫を見比べて口を開く。

「エージ。数学の勉強してるんじゃなかったのか?」

咎めも何もない本当に純粋なその問い掛けに、俺とは顔を見合わせて誤魔化すように乾いた笑みを浮かべた。

 

 

「・・・と、そういうわけなんだ」

「そうだったのか」

俺が今までの事を説明すると(って言っても大した内容じゃないけど)大石は納得したとばかりに頷いた。

それで納得して良いの?とか思ったけど、わざわざ怒られる必要もないので余計な突っ込みは控える。

「大石はどうしたの?ここって大石のクラスじゃないでしょ?私たちに何か用事?」

「あ、ああ。に用事があってな」

「私に?」

「明日の試合に持っていく救急箱とかどうなってるのか、確認しときたくて・・・」

「ああ、それならもう用意出来てるよ。全部纏めてベンチの上に置いてある」

「そうか」

の言葉に、大石は控えめにはにかむ。

っていうか、わざわざそれだけを聞きに来たんじゃないよね?

だってがもう用意してるなら、大石が気付かないわけないし。

もしかしてが部活に来なくて、気になってここに来たとか?

ふわ〜、めっずらし〜!大石が積極的に行動するなんて!!

それなら、ダブルスのペアの俺が協力しないわけにはいかにゃいよね!

「それにしても・・・この猫は一体、何処から入ってきたんだ?」

「それがあたしにもさっぱり。廊下に出たらいきなりいたから・・・」

2人しての膝の上で心地良さそうに目を閉じてる猫を覗き込む。

それを見計らって、俺はわざとガタンと机を揺らした。

「ほあら!!」

それに吃驚した猫が、短い鳴き声を上げての膝から飛び降りる。―――そのまま教室の中を走り抜けて、大石が入ってきた時に開けっ放しになってたドアから廊下に飛び出して行った。

「ああ!ちょっと!!」

咄嗟に立ち上がったと大石を見て、俺は慌てて2人に向かって口を開く。

「わわ!!大石!早く追いかけてあげてよ!迷子になっちゃうよ!!」

「わ、解った!」

俺の言葉に、と大石は弾かれたように廊下に向かって走り出す。

バタバタと騒々しい足音が段々と遠くなっていくのを聞きながら、俺は心の中でさっきの猫に謝る。

ごめんね、猫ちゃん。

でもでも、と大石を二人っきりにしてあげるには、これしかなかったんだ。

テニス部の中じゃ、いつも不二とか乾とかおチビがの側にいて、控えめな大石がと二人っきりになれるなんて早々ないし。

だから猫ちゃんは、と大石の良いきっかけになってあげてよ。

さっきまでと大石がいた教室には、今は俺1人。

すごく静かな教室の中は淋しかったけど、でもなんだか良い事をした気がして俺は心の中がポカポカした。

ニコニコと笑顔を浮かべながら、さっきが机の上にばら撒いたお菓子の中から棒付き飴を取ってそれを舐める。

甘〜いイチゴの味が口の中に広がって、疲れた身体に染み渡っていくような気がした。

「さってと・・・」

とりあえず机の上のお菓子を掻き集めて、それをのカバンの中に放り込む。

お菓子に埋もれてた数学のプリントを前にして、俺はさっきまで感じてた幸せな気分が一気に萎んでいくのを感じながら、ため息を零してシャーペンを握る。

せめてが帰ってくる前に、一問だけでも解いておかないと。

そうじゃないと、確実にの怒りが炸裂するだろうから。

 

 

が教室に帰って来たのは、それから10分後。

どうやらあの猫は見つからなかったらしい。

大石も捜すのは諦めて、部活に行ったんだってさ。

肝心の数学のプリントは、残念ながらまだ一問も解けてなかった。

てっきりすごく怒られるんだろうって思ってたけど、意外な事には全然怒らなかった。

理由を聞くと、俺が真面目に頑張ってたからだってさ。

のそういうとこ、俺すっごく好きなんだよね〜。

って言ったら、はありがとうって言って嬉しそうに笑った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

終わり方が微妙・・・。

何が書きたかったかっていうと、カルピンの冒険(アニプリ版)なんですけど。

っていうか、カルピン最後の方にしか出てきてないし!

やっぱり菊丸視点にしたのが敗因か・・・。

ついでに普段はあんまり出番のない大石を出して、と絡ませようと思ったんですが、見事玉砕しました。(笑)

この回の話を書こうか書くまいか、散々迷って書いた結果がこれとは・・・。

作成日 2005.2.7

更新日 2009.11.22

 

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