「おーい、越前!」

試合終わってボーっとしてた時、桃先輩に声を掛けられた。

そっちの方に視線を向ければ、ちょっと離れた所に桃先輩と先輩が立ってこっちを見てる。

「なにっスか?」

「これから先輩と他のコート見に行こうって話してたんだけどよ。折角だしお前も行かねぇか?」

その誘いに、俺はOKの返事を返す。

先輩が行くなら、行かないわけないでしょ?

 

頑張れ、大会!

〜ベスト、出揃う〜

 

そこら中にあるコートをぼんやりと眺めながら、俺たちはブラブラと会場内を歩き始めた。

チラリと視線を横に向けると、先輩は相変わらず飴を食べながら興味があるのかないのか解らない表情でコートを見てる。

「今度はなに食べてんスか?」

「ああ、これ?チュッパチャップス」

そう言って、ポケットから数個のチュッパチャップスを取り出して俺に見せる。

越前も食べる?って差し出されたから、俺はありがたくその中の一本を貰った。

「どうでも良いっスけど、先輩飴好きだよね」

「う〜ん・・・まぁ、それなりに」

それなりって。

「お菓子で言うならチョコレートとかの方が好きだけど、歩きながら食べるのはちょっと無理だからね」

俺の微妙な表情を読み取ったのか、先輩は苦笑しながらそう言葉を続ける。

何でそこまでしてお菓子を食べようとするのか俺にはわかんないけど。

「ふ〜ん・・・。昔っからお菓子とか好きだったわけ?」

「ん〜・・・っていうかさ。昔さ、お菓子には合成着色料とか色々入ってて身体に良くないとか言ってあんまり食べさせてもらえなかったからさ。その反動もあるのかも・・・」

あははと乾いた笑みを零して、先輩はどこか遠い所を眺めた。

多分、昔の事を思い出してるんだろう。

「誰に言われたの?」

ああ、そういえば先輩には専属のコーチがいたって言うし、その人なのかも。

俺はあんまり気にしたことないケド、世界を目指そうっていう考えを持つコーチなんだし、それくらい制限厳しかったのかも。

そんなことを1人勝手に思って納得してると、先輩は更に遠くを見詰めてため息を吐いた。

「誰って・・・データマンとか幼馴染とかデータマンとか・・・」

それって全部乾先輩のことじゃん。

「昔っから、なんか色々データとって分析とかしてたからさ。あれは身体に良くないとか、こんな事しちゃ駄目とか・・・」

ああ、乾先輩なら言いそうかも。

「しかも蓮二とタッグを組んで注意してくるからさ。なんかもう面倒臭くなって、食べるのとか諦めたんだよ」

「蓮二?・・・それって先輩のもう1人の幼馴染だったっけ?」

「うん、そう」

確か前に青学に来た切原って奴と、そんな話してたっけ?

なに?その人も乾先輩みたいな性格してんの?

そんな2人に挟まれてたなんて、結構大変そう。

乾先輩だけでも大変そうなのに・・・。

「ま、今はもうそんなこと言われないけどね。必要ないし・・・」

ぼんやりと乾先輩とその幼馴染の人の事を考えてると、先輩がそうポツリと漏らした。

視線を上げて先輩の顔を見ると、苦笑・・・っていうかなんか悲しそうに笑ってる。

ああ、マズイって瞬間的に思った。

先輩は、たまにこんな表情をする。―――ほんとにたまにで、普段は滅多に表情を曇らせたりはしないんだけど。

もしかしたら辛い事を思い出させちゃったかもと思って、俺は今までの会話をちょっとだけ後悔した。

まさか、飴の話からこんな事になるなんて思ってなかったから。

チラッと桃先輩の方を見れば、桃先輩は俺たちの様子なんて気付いた様子もなく側にあるコートの中で繰り広げられている試合を観戦してる。

こんな時に役に立たないなんて・・・と、俺が桃先輩に責任転嫁したその時。

「あー!じゃん!!こんな所で会えるなんて、俺ってラッキー!!」

っていう叫び声がしたと同時に、ドタっていう音と一緒に何かが俺たちの前に落ちてきた。

「うおっ!・・・キヨ?」

「今日は恋愛運二重丸だったのにツイテナイな〜とか思ってたけど、やっぱ俺ってツイテるなぁ」

いきなり俺たちの前に現れたそいつは、驚いてる先輩に構わずそうまくし立てながら、ガバッと先輩に抱きついた。

・・・・・・。

「っていうか、キヨ重い!全体重を遠慮なく掛けるんじゃないよ!」

「ええ〜?久しぶりに会ったって言うのに、ってば冷たい。キヨ、ショック!」

じたばた暴れる先輩を無視して、キヨとか言う奴はそのまま先輩に抱きついたままにんまりと笑う。

それを見て、俺はイライラしながら先輩からそいつを引っぺがした。

「ああ、ありがと越前。助かった」

「・・・っス」

やっと自由になった先輩は、腕をぐりぐりと回しながら首を鳴らす。

それを見ていた俺は、自分に注がれる視線に気付いて嫌々ながらもそっちに顔を向けた。

「この間は(デコにボールぶつけて)ほっといてくれてありがと、越前くん」

先輩に抱きついてきたオレンジ色の髪の男は、そう言ってにっこりと含みのありそうな笑顔を浮かべる。

何それ。

・・・っていうか、前に会った事あったっけ?

覚えがないその人を見ながら首を傾げてると、桃先輩がいきなり声を上げた。

「ああ!ジュニア選抜の山吹中の千石!・・・いや、千石さん」

そこまで大声で言っといて、今更言い直したって遅いと思うけど。

心の中で静かに突っ込みを入れると、桃先輩がチラリと俺の方を見た。

「なんだよ、越前。千石さんと知り合いなのか?」

「いや、全然」

「おいおいおい!」

キッパリと即答すると、千石とか言う奴が慌てたように声を上げる。

だって、本当に覚えないし。

そんなことを思ってると、先輩が苦笑しながら俺の頭を叩いた。

「ほら、前に咲乃ちゃんのボール借りて遊んでたんでしょ?その時にボールぶつけたんじゃない」

「そうそう」

言われて記憶を掘り起こしてみる。―――確かにそんなことあったかも。

「あの後、あたしが咲乃ちゃんに助けを求められたんだからね」

「・・・ふ〜ん」

って事は、その時先輩と千石サンは知り合ったわけ?

それならかなり余計な事したかも・・・―――でもそんな知り合って日が浅いようにも見えないし。

なんか仲良さそうに会話する先輩と千石サンを見る。

ちょっと・・・ムカツクかも。

俺の胸にもやもやとしたものが湧き出始めた頃、こっちに近づく足音と一緒にまた違う声が掛けられた。

そちらを振り返ると、前に試合した不動峰の2年のやつ2人がこっちに向かって来てる。

俺が試合した伊武って人と、海堂先輩と試合してた鬼太郎みたいな2人。

確かこの2人も先輩と仲良かったんだよね。

っていうか、何で先輩そんなに知り合い多いわけ?

「あ、お久しぶりです!この間はご馳走様でした!!」

鬼太郎みたいな方が、ニコニコ笑顔を浮かべて先輩に話し掛ける。

ご馳走様ってどういう意味?

そう聞いたら、ちょっと前に桃先輩と鬼太郎(神尾って言うらしい)と不動峰の部長の妹と4人で、ファーストフードで先輩に奢ってもらったらしい。

「・・・桃先輩」

「ああ?悪ぃ悪ぃ!」

ギロリと睨みつけると、桃先輩は全然悪いと思ってないような口調で謝った。

何で桃先輩って、こう運が良いんだろ。

俺は今までそんな場面に出食わした事ないのに。

「こんにちは、さん」

「ああ、伊武。久しぶり・・・でもないか。この間は風邪引かなかった?」

ぼそぼそと喋りながら先輩に近づく伊武サンに、先輩はにこやかに話し掛ける。

だから、この間ってなんなのさ。

学校違うのに、いつの間に先輩と交流持ってんの?

一番厄介なのは青学の人たちだと思ってたけど、他校の人も結構油断ならない。

しかも先輩、伊武サンの事結構気に入ってるみたいだし・・・―――態度見てたらそれくらいは解る。

海堂先輩みたいに可愛がってるみたいな感じだからまだ安心だけど、でも意外とそういうのが一番危なかったりもするんだよね。

なんか一気に増した人口密度に、俺はひっそりとため息を吐いた。

会場に来たらこうなるんじゃないかとは思ってたけど、こうも予想通りになるとそれはそれで複雑っていうか。

こんな予想は、寧ろ当たって欲しくなんかなかったし。

それよりも、一体何時まで俺たちはここに足止めされるんだろ・・・なんて思ってたら、ちょっと遠くから不動峰の2人を呼ぶ声が聞こえた。

不動峰の2人は、それに素直な返事を返してそちらに視線を向ける。

するとその人は、こっちの顔ぶれに気付いてゆっくりと近づいてきた。

「なんだ、じゃないか。ずいぶんと久しぶりだが、元気だったか?」

「橘くん、久しぶり〜!」

掛けられた声に、先輩はにこやかに挨拶を返す。

っていうか、この人とまで仲良いの?

そりゃ不動峰のメンバーとは親しそうだったし、あの橘って人3年らしいから顔見知りでもおかしくないケドさ。

・・・なんか気にするだけアホらしくなってきた気がする。

橘って人は二言三言先輩と会話をすると、いきなり俺たちの方を見てニヤリと笑った。

「手塚に伝えといてくれないか?」

「・・・?」

「この激戦区だが、決勝戦で会おう・・・ってな」

そう言うと、クルリと踵を返して俺たちに背中を向けた。

軽く挨拶をして去っていく不動峰の3人を見送っていると、桃先輩が俺の隣に立って楽しそうに笑う。

「激戦区か・・・確かにな」

「楽しみっスね」

呟いた桃先輩にそう言うと、そうだなって力強い声が返って来た。

ほんとに。

今から楽しみだよ。―――あんたたち全員、ぶっ潰すのが・・・。

「・・・ちょっと〜。サラッと俺の存在無視しないで欲しいんだけど」

意気込む俺たちの背後で、さっきよりも沈んだ声でそう呟く千石って人の声が聞こえた。

振り返ると、先輩は苦笑しながらシュンとしたその人の背中を叩いている。

ホントに楽しみだよ、あんたたち全員ぶっ潰すのが。

 

 

自由時間が終わって、次の試合のために集合した俺たちは、集合をかけた当人の竜崎先生の前にのろのろと集まった。

準々決勝のオーダーの発表をするという先生を、俺たちは黙って見詰める。

「それじゃあ、。景気良く発表してやれ」

竜崎先生に言われて、オーダー表を持った先輩が俺たちの前に立った。

「まずはダブルス2ね。ダブルス2は、桃と薫ちゃん」

「「・・・ダブルス?」」

仲が悪いって言ってる割に、声を揃えて疑問を声を上げる桃先輩と海堂先輩。

っていうか、この2人がダブルスで大丈夫なわけ?

海堂先輩ってダブルス出来んの?―――桃先輩はダブルス向かないんじゃない?

そう思っても、先輩も竜崎先生も普通にしてる。

「それからダブルス1は、大石とエージ」

「ああ、任せてくれ」

「ちょちょいのちょいで勝っちゃうもんね」

「シングルス3は、越前ね」

「・・・っス」

俺の名前が呼ばれたから、簡単に返事を返しておいた。

ふ〜ん・・・シングルス3ね。

どんな奴が相手なんだろ?―――強い奴だと良いけど。

「シングルス2は不二。んで、シングルス1は手塚。今回タカさんはお休みね」

一気にそう言い切って、さっきみたいにオーダー表をヒラリと振って笑う。

その顔はすごく楽しそうで、さっきまで試合を観戦してた時とは全然違う顔。

その顔を見るだけで、次の相手・・・聖ルドルフだっけ?―――そいつらが強いんだって事が解った。

「楽しみにしてるからね。面白い試合見せてよ?」

にっこりと綺麗に笑った先輩に、俺たちはもう一度気合を入れなおした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

なんかもう、言い訳のしようもない話になってしまいましたが。

何を書きたかったのかとか、全く意味不明の話になりました。

折角だからキヨとか伊武とかを出したいなぁと思っただけなんですが、そう思って勢いだけで書いたので、思った以上に内容がなかったり・・・。

でも折角書いたので、消すのもったいないなぁとか思いまして・・・。(オイ)

次はいよいよ聖ルドルフ戦です。(長かった)

作成日 2005.2.23

更新日 2010.6.27

 

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