もうすぐ3年生になって初めてのランキング戦がある。

その対戦表を作るために、俺と手塚・顧問の竜崎先生が教室に集まっていた。

ここ最近は各学校の偵察に出向いていて部活には顔を出していないも、今日は俺たちと一緒にいる。

どうやら竜崎先生が呼んだらしい。

久しぶりにとゆっくり会えるのは俺としても嬉しいけれど、どうして竜崎先生はわざわざをここへ呼んだんだろう?

前々から思ってたけど、竜崎先生はをすごく信頼してるみたいだ。―――彼女の能力や知識をかってると言ってもいい。

今更過ぎる疑問だけれど、それってどうしてなんだろうか?

いや、が優秀で気の利くマネージャーだって事は間違いないんだけど。

そんな事を考えながら、黙々と対戦表を作る手塚の傍らで、竜崎先生から目を付けているらしい一年の話を聞いていた時、ふとが窓の外を見ているのに気付いて声を掛けた。

「どうしたんだ?」

窓際に座って窓枠に頬杖をついているの隣に立てば、そこからはテニスコートが見渡せる。―――そのテニスコートの外で、なにやら人だかりが。

「・・・何をやってるんだ?」

俺のその言葉に、黙々と作業を続けていた手塚とそれを見ていた竜崎先生がこちらを見る。

「なんか面白い事が始まりそう」

そう言って本当に楽しそうに笑ったを見て、手塚がひっそりとため息をついた。

 

教室よりお送りいたします

 

俺たちがこうして教室から見ている事など知るはずもなく、テニスコートではどんどんと騒ぎが大きくなっていった。

どうやら今さっき竜崎先生と話していた1年と、テニス部の2年がなにやら言い争いをしているらしい。

何を話しているのかは残念ながら聞こえてこないが、どうやら話し合いでは決着がつかず試合をするという運びになったようだ。

試合をするのは、2年の荒井。―――あいつは上下関係に何かとこだわるヤツだから、きっと新入部員の何かに反応したんだろう。

悪い奴じゃないんだが、あのカッとしやすい部分はどうにかならないものか。

こうして騒ぎが起こっているのを見てると、なんだか胃が痛くなってくるような気がする。

「・・・あれ?」

そんな俺の隣で、不意にが不思議そうな声を出した。

それに手を胃に添えながら、窓の外へと向けていた視線をへと戻す。

「どうした?」

「あの1年の持ってるラケットって・・・」

「・・・ラケット?」

言われて見てみるが、距離があるのでどんなラケットなのか分からない。

それがどうしたのかと思って改めてを見れば、なんだか難しい顔をしてテニスコートを見つめていた。

「・・・あのラケットがどうかしたのか?」

テニスをするんだから、ラケットを持っているのは当然だ。

そんな思いを込めて問い返すと、は何かを考える様子のままで口を開く。

「う〜ん・・・。あたしの目が確かなら、あのラケットって部室にあったやつだよ」

そりゃテニス部なんだから、部室に予備のラケットくらい用意してある。

それがどうかしたのだろうか?

俺の考えている事が分かったのか、は苦笑した。

「ああ、ごめん。言葉が足りなかったね。実はね、テニス部にボロボロのラケットがあるんだよ。フレームがガタガタでガットもユルユルなヤツ。捨てようと思ったんだけど、一応確認を取ってからと思ってさ」

の言葉に、俺はなるほどとばかりに頷いた。

へぇ、そんなラケットがあったのか。

普段自分のやつしか使わないから、全然知らなかった。

それなら、なるべく早い内に直すなり処分するなりしないといけないな。

「それでね。たぶん今あの1年が持ってるラケット、そのユルユルだと思うんだけど」

そんな的外れな事を考えていると、がさらりと爆弾を投下した。

フレームがガタガタで、ガットもユルユルのラケットを?

あの1年がそれを使っているという事なんだろうか?

いや、でも部室に置いてあるくらいなんだから、使えない事もないのかもしれない。―――そう考えを改めて、じっとコートを見つめるに再び声を掛けた。

「・・・それってどの程度壊れてるの?」

「う〜ん・・・かなり?」

いや、だからかなりってどれくらい?

「テニスをするのには支障がないくらいか?」

「・・・できない事もない?」

俺に聞かれても・・・。

っていうか、それってかなり無理があるって事じゃないのか?

どうしてあの1年は、そんなラケットを使ってるんだろう。

他にもうちょっとマシなラケットはなかったのか?

誰か貸してやればいいのに・・・とそこまで考えて、ふとある予測に行き当たった。

いや、そんなラケットを使うくらいだから、自分のラケットを持っていないんだろう。

流石に経験者でラケットを持ってないやつはいないだろうから、そうなるとあの1年は初心者なんだろう?

そんな子と荒井が試合をするなんて・・・―――それはあまりといえばあまりじゃないか。

「まぁ、切れてるかもしれないけど一応ガットは張ってあるから打てない事もないよ」

どんどんと進んでいく予想に、俺が頭を抱えそうになったその時、がさらりとそう言い放つ。

そういう問題じゃないだろう!?

荒井は俺たち先輩に対しては礼儀正しいけど、後輩には結構厳しい奴だ。

そんな荒井とテニス初心者が試合をするなんて・・・―――もし怪我でもしたらどうするんだ!

「埃かぶってたんだよね、あれ。日の目を見れてよかった、よかった」

そんな俺の心配を他所に、はまるで他人事のようにのんびりと笑う。

なんか英二たちも止める気配ないし!

乾なんてノートまで広げてデータ取る気満々だし!!

どうしてあいつらはそうなんだ!

俺たちは最上級生なんだから、もうちょっと状況を見て、ちゃんと後輩を指導してやらなきゃいけないってのに。

ああ、誰でもいいから荒井を止めてくれ。

レギュラー陣の中で、そういう意味で頼りになりそうなのって言ったら・・・―――タカさんか不二くらいか。

いや、不二はダメだ。―――あいつは絶対に面白がってるに違いない。

その様子が目に浮かぶようで、俺は思わず頭を抱える。

そんな俺を見て、が困ったように微笑んだ。

「大丈夫だよ、大石。たぶん荒井が恥じかくだけで済むだろうし・・・」

またもやあっさりと告げられた言葉に、頭を抱えてた俺は思わず目を丸くした。

それってあの1年が勝つって事?

その使えるかどうかも解らない、ガタガタユルユルラケットで?

にわかには信じられない話だ。

荒井はレギュラーじゃないけど、決してテニスが下手なわけじゃない。

そんな奴を相手に、テニス初心者の1年が勝てるわけ・・・。

そう思っていたんだけど。

呆然と遠目で試合を見ていた俺には、何がどうなったのかよく解らなかったけれど。

結局、試合の結果はの言うとおりになった。

 

 

●おまけ●

 

なんだかんだ言いながら、教室から試合を見ていた俺たち。

同じくそれを見ていた手塚が、ランキング戦の対戦表を書き終えて颯爽と教室から出て行く姿を見送って、が唐突にポツリと呟いた。

「あたしさ、何でここにいるのかな〜とか思ってたんだよね」

「なに、急に?」

何の前置きもない、むしろ主語すらもない呟きに、俺は小さく首を傾げる。

ここにって、この教室にって事?

それならランキング戦の対戦表を作るためって言う理由があると思うんだけど・・・―――そう言いかけた俺を遮って、がググッと伸びをしながら言葉を続けた。

「だってさ〜、あたしマネージャーだよ?対戦表決めるのだって手塚だし、あたしがここにいる理由ってないじゃない?」

「・・・そんなことないと思うけど」

そんなこと言ったら、俺だって竜崎先生だっている意味ないじゃないか。

確かに対戦表を作るのは手塚だけど、俺たちだってこう・・・助言するためにここに・・・―――って、今日の俺たちは教室からコートを眺めてただけだけど。

なんだか部活をサボってしまったような罪悪感が芽生えたその時、窓の外を眺めながらが言った。

「でもね?今ここにいてよかったって心の底から思うよ」

「・・・?」

穏やかささえ感じられるその言葉に、俺は首を傾げる。

ここにいてよかったって、どうしてだろう?

俺たちは何もしてないのに・・・―――そう問い返そうとしたその時、窓の外を眺めていたが満面の笑みで口を開いた。

「だって面白い試合見たのに、あたしたちはランニングなしだよ?同じように観戦してた乾たちは走らされるのに。ラッキ〜!!」

の言葉に釣られるようにして窓の外を見れば、コートに姿を現した手塚がその場にいた全員にランニングを命じている。

試合を突きつけた荒井も、それを受けた1年も。

ついでに言えば、止めもせずに見ていたレギュラー陣も全員校庭を走らされている。

確かにそういう意味で言えば、俺たちはラッキーなのかもしれない。

そんな思いを込めてチラリと隣を窺えば、心底得したとばかりには笑っている。―――その笑顔を見て、俺も不謹慎にも笑みが零れた。

しかし笑ってばかりもいられない。

あの荒井と対戦した1年が、きっと竜崎先生の言っていた1年なんだろう。

珍しいね、スミレちゃんが絶賛するなんて。と言っていたの言葉を思い出す。

確かに竜崎先生があれほど押すだけあると、さっきの試合を見てそう実感した。

これまでのテニス部の慣例からいくと、1年生はランキング戦には出られないはずだけれど。

不意に対戦表を作成していた手塚を思い出す。―――竜崎先生の話を聞いて、手塚がどう判断したのかは解らないけれど。

「・・・これは荒れるかもしれないな、今度のランキング戦」

小さく小さく呟いて、深く深くため息を吐き出す。

思わずズキリと胃が痛んだ気がした。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

意味が分かりません。

ただ原作どおり(かなり飛ばして)書いただけ。

面白みも何にもない、そしておまけにすら意味がない(泣)

・・・どうしましょう?(←聞かれても)

更新日 2008.4.12

 

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