校内ランキング戦・2日目。

今日もあたしはマネージャーの仕事を果たすべく、受付に座っている。

 

受付席・24時!!

〜後編〜

 

え〜っと、今試合をやってるのは・・・と。

机の上に広げてある対戦表を見てみる。

「おっと、Aブロックで手塚と大石が試合やってるよ」

どうりでさっきから女の子の声援が聞こえるはずだよ。

それから・・・もうすぐBブロックでエージと桃の試合が始まるね。

あとはDブロックで・・・と考えていた時、隣から物音が聞こえて思わずそっちに視線を向けると、いつも通りの薫ちゃんが受付席に座ってた。

「はよ、薫ちゃん。足の方は大丈夫?」

「・・・おかげさまで」

チラリと自分の足を見て、かすかに表情を緩めた薫ちゃんを見てあたしも思わず微笑んだ。

あの時の事は、どうやら大事には至らなかったみたいだ。

よかったよかったと一息つく。―――勿論、次にやった時は絶対に許さないけど。

「それでどうしたの?受付に何か用事?」

「・・・当番っスから」

言葉少なに答える薫ちゃん。

「でももうすぐDブロックで乾と越前の試合が始まるよ?見に行かないの??」

「・・・別にいいっス」

本当は気になるくせに・・・と思ったが、口にはしない。

見たくない気持ちも解るのだ。

それを逃げだとは思わない。―――どちらにしたって、薫ちゃんがレギュラーに残るためには、次の乾との試合で勝つしかないんだから。

だからあたしはただ軽く頷いて、作業を続けた。

実際問題、この試合で勝った方がDブロックのレギュラー第一号になるだろう。

乾も越前も0敗だし?―――2人とも、他の部員に負けるとは到底思えないしね。

「・・・先輩はどっちが勝つと思いますか?」

そんな事を思いながら対戦表を見ていたあたしに、思わぬ薫ちゃんからの質問から質問が投げ掛けられた。

それにあたしは思わず見ていた対戦表から顔を上げて。

それって聞き方は違うけど、昨日乾が聞いたのと同じ質問だよ。

「・・・さぁね。試合はやってみないと分からないもんだよ?」

あたしは昨日と同じような答えを返しておいた。

「・・・それはそうっスけど」

「乾は勝率95%って言ってたけど?」

それってかなり高い数字だよね。

95%って・・・!―――乾がどういう計算をして、その数字を出したのかは解らない。

それでも乾のデータの正確性は理解しているつもりだけれど。

「でもさ、勝率95%って言ったって、絶対勝つって訳じゃないんだよね。勝つ確率が高いってだけで、あくまで予想でしかないんだよ」

「・・・先輩は、乾先輩が負けると思ってるんスか?」

「う〜ん・・・。薫ちゃんはどうなってほしい?」

意地悪なあたしの質問に、薫ちゃんは何の返事も返さなかった。

もちろんあたしも返事が返ってくるなんて思ってないから、作業を再開する。

その時ちょうど試合が終わったのか、Aブロックの試合をやっているコートから声援が響いて来た。―――この様子じゃ、勝ったのは手塚だな。

そんな事を考えていると、またもや薫ちゃんが口を開いた。

どうでもいいけど、いつもと比べて今日はやけに饒舌だね。

「越前が勝つとしたら・・・、それはデータ不足ってことっスか?」

「勝率95%を掲げるんだから、乾的にはちゃんとデータ集まってるんじゃない?」

まぁ相手は侵入部員なわけだし、今までなんだかんだ言いつつも同じチームでプレイしてきた他のレギュラーから比べたら格段に少ないんだろうけど。

「・・・乾に勝つ方法、聞きたいの?」

さっきから遠まわしにそう聞かれてるような気がしてならない。

薫ちゃんは正々堂々と勝負するタイプだし、レギュラーの座も自力で勝ち取りたいんだろうけど、それでもやっぱり不安はあるんだろう。

聞きたいけど、聞きたくない。

そんな心境が見え隠れしてる気がする。

さて、どうしたものか。

マネージャーっていう立場上、誰かに強く肩入れするわけにもいかないし。

かといってこのまま放っておくのも可哀想な気がする。

Aブロック、手塚。6−1」

いつの間にか考えに没頭してたらしい。

気が付くと怪訝そうな表情を浮かべながら、手塚が結果報告に来ていた。

「手塚、勝ったんだ。おめでとう」

「・・・ああ」

素っ気無く返事を返す手塚をそのままに、あたしは手元にあるプリントに結果を書き込んで。

Bブロックで今、エージと桃が試合してるよ?Dブロックは乾と越前だね。観戦するならどっちかがお勧め」

未だに受付の前に立ってる手塚に声をかけた。

別に手塚を追い払おうと思ったわけじゃないんだけど、結果的にはそうなったのかもしれないと思ったのは、手塚が眉間に皺を寄せてコートに向かって歩き出した時だった。

もしかして悪い事をしたのかもしれない。―――そんな事を思いながら、あたしはハーっとゆっくりと肺に溜まった空気を吐き出して。

「乾はね、結構詳細なデータを集めてる。たぶん簡単には乾を出し抜けないよ」

隣に座ってる薫ちゃんには視線を向けずに、まるで独り言のように呟いた。

「乾に勝つ一番簡単な方法は、乾のデータを越える事。たとえばコースが読まれてても、打ち返せない球を打つとかね」

まぁ、言うのは簡単なんだけど。

「具体的に言うと、スピードで上回るとか、データ以上のパワーで攻めるとか。まぁ、並大抵の事じゃ、データは越えられないと思うけど・・・」

「そんな事言ってもいいんスか?」

今まで黙ってた薫ちゃんが、戸惑ったように言った。

「ま、口で言うほど簡単にはいかないしね」

どこにどんなボールが来るのか解っている相手に、打ち返せないようなボールを打つなんて並大抵のことじゃ無理だ。

1日やそこらで基本能力が上がるわけないし、分かったからって出来るものでもないし。

「あの〜、すいませ〜ん!」

やっぱり我ながら意地悪だったかなと・・・と、黙り込んじゃった薫ちゃんを眺めつつそう思ったその時、不意に声をかけられ顔を向けると、そこには2人の女の子。

「・・・ああっ?」

「きゃっ!」

反射的に顔を上げた受付係の薫ちゃんを見た女の子2人は、揃って怯えたように身体を強張らせる。

こらこら、威嚇するんじゃないよ・・・薫ちゃん。

女の子ビビってるじゃない。

「え〜っと、何か?」

ちょっと引いてる女の子たちを何とか和ませようと、精一杯の笑顔を浮かべる。

「あの、1年の越前リョーマくんの試合ってどこでやってるんですか?」

長い髪を三つ網にした女の子が、遠慮がちに聞いてきた。

「ああ、一番奥のコートでやってるよ」

そう声をかけると、丁寧にお礼を言ってから慌ててコートに向かって駆け出した。

なんとまぁ、もうすでに女の子を虜にしてるとは。

恐るべし越前少年・・・っていうか、寧ろ王子?

先輩も見てきていいですよ?ここ、俺いますから・・・」

「いますから・・・ってさっきの対応見てる限り、お任せ〜って訳にはいかないんだけど?」

「・・・大丈夫っス」

ちょっとバツが悪そうに俯き加減で、それでもそういう薫ちゃん。

「昨日からずっとここに座りっぱなしなんでしょう?ちょっとは息抜きしてきたらどうっスか?」

どうやらこれは薫ちゃんなりに気を使ってくれてるようだ。

何となくこれ以上断るのも悪い気がして、あたしはお言葉に甘えてちょっと息抜きをさせてもらう事にした。

実は見てみたかったしね、乾と越前の試合。

コートに着くと、ちょうど試合は最高潮を向かえているようで、かなりの人だかりが出来ていた。

誰かいないかな〜と辺りを見回すと、木の影に不二発見!

迷わず傍に行って、今までの試合内容を教えてもらった。

っていうか・・・なんかこの試合、傍目から見てて乾が悪役っぽく見えるのはなんで?

まぁ、性格上の問題なんだろうけど、ちょっと同情しちゃうよ。

試合はさっき不二に聞いたのとは逆転して、かなり乾が押されぎみ。

どうやら越前のスピリットステップが、乾のデータにあった越前のスピードを上回っているようだ。

なんか、あたしがさっき薫ちゃんに話してた内容通りになってきてる気が・・・。

そんな事を考えてる内に、試合は急展開を向かえ・・・―――そして。

「ゲームセット。ウォンバイ越前、7−5!!」

乾が負けた。

さっき薫ちゃんに余計な事言っちゃったかな、もしかして。

これで越前のレギュラー入りはほぼ確定した。

乾か薫ちゃんか、どっちかがレギュラー落ちすることになる。

どっちもかなり頑張ってた事を知ってるあたしは、ちょっと複雑な気分。

「・・・まぁ、仕方ないんだけど」

「何が?」

ポツリと呟いた独り言は、隣にいた不二にバッチリ聞こえていたらしい。

「さて、受付に戻るか。いつまでも薫ちゃんを1人にするわけにはいかないし!」

不二の問いかけを聞こえなかった事にして、あたしは足早に受付に向かった。

その後、コート付近で何も知らない1年が被害者になったと英二から聞いた。

 

 

校内ランキング戦・最終日。

Dブロック、乾と薫ちゃんの試合は、誰もが予想しない結果に終わった。

7−5で薫ちゃんの勝利。

これまで薫ちゃんが乾に勝った事なんて一度も無かったのに・・・―――それだけ薫ちゃんの執念が強かったって事だろうか。

そしてその結果、乾はレギュラー落ちした。

「ほんと、弱肉強食の世界だね・・・ここは」

正式に決まった8人のレギュラーの名前の書かれた紙を指で弾く。

どれだけ努力をしても、時にそれが報われない事もある。

特にスポーツの世界は、結果がすべてだ。―――それは解りやすくもあり、そして残酷でもあるけれど。

「・・・さてと、片付け始めましょうか」

ため息と共に呟いて、机の上に散らばったプリントを纏め始める。

こうして校内ランキング戦は、静かに幕を閉じた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

もはや意味不明。

そしてこれはドリームではないという突っ込みを、今さらながらにしました。

もう何をしたいのか分かりません。

とりあえずランキング戦は幕を閉じ。

次は面白いものが書けますようにと祈ってみたり。(神頼み)

更新日 2008.6.1

 

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