「おっ、遅刻少年発見!」

いきなり背後から聞こえたその声にびっくりして振り返ると、そこにはニヤリと悪戯っぽく笑みを浮かべた先輩がいた。

「・・・何してんスか?」

もう部活も始まってる時間に、マネージャーがこんなとこいていいの?

「もしかして先輩も遅刻・・・」

「んな訳ないでしょ?言っとくけど、サボる事はあっても遅刻はないよ、あたしは!」

自身満々に言い切る先輩。

でもそれって自慢する事じゃないでしょ?

 

未知との遭遇

 

「それで、先輩はこんなとこで何してたんスか?」

もう完全に遅刻だし焦ってもしょうがないかなと思って、学校に戻る途中だと言う先輩の隣をゆっくりと歩く。

すると先輩は手に持ってた袋を胸の辺りまで持ち上げた。

中にはスポーツ用品がぎっしりと入ってる。

要するに買い出しに出たって訳か・・・。

「それにしてもあんた、一応遅刻した身なんだからちょっとは急いだら?まぁ、急いで行ってもゆっくり行っても手塚のグラウンド●周は免れないだろうけど・・・」

それじゃ、どっちでも一緒じゃん。

「買いだしに付き合って遅れた・・・とか言うのは?」

「あ〜、それ無理。だってあたしが買い出しに出たの、部活始まってからだもん」

あ、やっぱり?

「さてさて、今日の手塚のご機嫌いかが〜。越前は何周走らされるんだろ?」

先輩、完全に面白がってるでしょ?

まぁ、寝坊した俺が悪いんだけど・・・。

そんな風にのんびりと歩いて青学まで来ると、門のところで変なヤツにぶつかった。

なんか・・・髪の毛が微妙で。

セットしてるのか、起きてそのままのくしゃくしゃなのか、判断がつきにくい感じ。

制服見たことないけど、テニスバック持ってるからテニス部関係?

「越前、大丈夫?おっと、そこの少年も大丈夫?」

難を逃れた先輩が、俺とその男に手を差し出して起こしてくれた。

「あっ、こりゃどうも」

そいつは先輩の手を握って起き上がると、今度は顔を覗き込みだした。

なんとなく危ない感じがしたから、慌てて先輩をそいつから遠ざける。

先輩って、警戒心強そうで実は全然警戒しないからさ。

なんていうか・・・見てて危ないっていうの?

特になんかこいつの前に立たせてると、今にも取って食われそうでかなりヤバイ。

「へ〜、アンタって美人さんだねぇ。名前なんていうの?」

予想通り、その男は軽い口調で声を掛けてきた。

「っていうか、あんた誰?人に名前を聞くときは、まず自分からでしょ?」

先輩って、誰が相手でも変わんないんだ。

最初会った時、俺も同じこと言われた。

「ふっ、俺?立海大付属中エース、噂の切原赤也って俺のことさっ!」

親指を立てて何気に自慢気に言う。

「ふ〜ん。・・・っていうか、知らないなぁ。越前知ってる?」

「知らないっス」

即答すると、切原って人は見るからにがっくりしたように肩を落とした。

っていうか、そんなありがちな落ち込み方しないでよ。

「なんていうの?立海大っていう学校名すら知らないよ」

「俺も」

「うっそ〜!そっちの女の子はともかく、アンタテニス部でしょ?それでも知らねーの?」

「知らない」

やっぱり即答で返すと、さっきと同じように落ち込んだ。

「まぁまぁ、そう落ち込まないで。あたしは。テニス部のマネージャーをしてるモノで・・・、その立海大の切原くんが青学に一体何用で?」

なんていうか・・・、さっさと話を切り上げようとしてるのが見え見え。

でも切原って人はまったく気にしてないみたいで、急に笑顔を浮かべて先輩の手を握り締めた。

サンって言うんだ〜。ほんとに美人だねぇ・・・。どう?俺とデートしない?」

「結構です」

先輩、拒否早っ。

「なんで〜?いいじゃん、ちょっとくらい!」

「あたしは微妙な髪型のナンパ男とはデートしないって決めてるの!」

最初に目が行く所って、やっぱりあの髪の毛か。

「それよりも、立海大ってどの辺りにある学校?北海道?」

「何で北海道が出てくるの?」

「いや〜、北海道だったらお友達になっとこうかな・・・と思って。そんでもって新鮮な海の幸を送ってもらうのだ!」

いや、そんなガッツポーズまでつけられても・・・。

「ん〜、残念。立海大は神奈川にあるんだよ・・・」

切原って人は、本当に残念そうに言った。

何でそんな残念そうなの?

本当に北海道だったら、新鮮な海の幸を送らされんのに!

「神奈川か〜。あそこって何か名産物あったっけ?」

本気で考えないでよ、先輩!

俺が心の中でそう突っ込んだ時、先輩はイキナリ考え込む仕草を見せて。

「・・・神奈川?・・・立海大?」

顎に手を当てて、切原って人が言ってた言葉を何度も繰り返す。

・・・なに?さっき知らないとか言ってたけど、もしかして知ってるの?

問い掛けるような視線を向けると、先輩はようやく伏せてた顔を上げてポンと一回手を叩いた。

「ああ!思い出した!!あたし知ってるよ、立海大!!」

「やっぱり!?俺ってやっぱ有名だなぁ!!」

先輩の声に、切原って人が嬉しそうに笑った。

っていうか、先輩は別にあんたの事知ってるって言ったわけじゃないんだけど?

だけど先輩が知ってるくらいだから、立海大ってそんなにすごい学校なわけ?

そんな事を思ってた俺の耳に、予想外の言葉が届いた。

「そうそう。確か蓮二がいる学校だ。何で忘れてたかな、あたしってば・・・」

「「・・・は?」」

イキナリ出てきた、知らないやつの名前。

1人満足そうに頷いてる先輩には悪いけど、その『蓮二』って誰?

そう聞き返そうと思ってたら、俺より先に切原って人が先輩に話し掛けた。

「蓮二って・・・もしかして柳さんのことっスか!?」

どうもその柳って人は切原の先輩らしい。―――さっきまで先輩に対してタメ口だったのに、急に敬語なんて使ったりして・・・。

そんな切原に向かって、先輩は嬉しそうに笑う。

「なぁ〜んだ。あんたって蓮二の後輩なの?あはは、あいつも苦労してそうだよねぇ」

呑気な口調でそんな感想述べる前に、その『蓮二』って人の事説明してよ。

「・・・蓮二って誰っスか?」

素直に質問してみたら、先輩は満面の笑みで一言。

「うん。蓮二はね、あたしの幼馴染なんだよ」

「「・・・えぇ!?」」

やっぱり切原と声がハモる。

つーか、幼馴染って乾先輩だけじゃなかったの?

「柳さんに幼馴染なんていたんだ・・・。しかもこんな美人・・・」

感心したように呟く切原は、この際放っておくとして。

先輩の幼馴染って事は、乾先輩の幼馴染でもあるって事だよね?

でも2人がそんな話をしてるところなんて、一度も聞いた事ないけど・・・。

それに2人の幼馴染が、何で神奈川にいるわけ?

そんなことを考えていると、いきなり軽快な音楽が鳴り響いた。

「あ、あたしの携帯。―――もしもし?」

今まで率先して切原って人の相手をしてた先輩が電話をしてると、なんていうかこの場の間が持たないって言うの?

まぁ、俺も別にいつまでもこの人の相手してる気もなかったから、電話中の先輩の腕を無理やり引っ張ってコートに向かう。

その時、切原って人が持ってたボールを俺に向かって放り投げてきた。

持ってきたって言ってたけど、もしかしてあの人コートに行ったの?

電話が終わった先輩は、『蓮二、元気にしてるかな?』とか、『神奈川って名産あったっけ?』ってまだ首をひねってたけど、電話の相手が乾先輩で、早く帰って来いって催促されたらしくてやっと諦めてくれた。

コートはなんでかすごい状態になってて。

コート中にボールが転がってるわ、そのボールのせいで転んでる人もいるし、なんでか桃先輩のほっぺたも赤くなってる。

その上海堂先輩が切れて暴れてるし、部長は怒ってグラウンド30周だって叫んでた。

何か、めちゃくちゃ。

隣にいた先輩はその光景を見て、楽しそうに笑ってるし。

結局その場にいたほとんどの部員が、部長に言われてグラウンドを走らされてた。

なんかコートの中混乱してるし、こっそり入ってもバレないかな?とか思ったけど、やっぱり無理でグラウンド走らされた。

ちぇっ、今日はツイテナイ。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

はい、切原赤也くんです。

っていうか、彼ってどんな人?

単行本3巻の彼しか知らないんで、ほとんど想像で書きました。

なんとな〜く、軽い人っぽい気がしたんですけど?(疑問系)

この話、越前視点なのに絶対越前じゃないとか思った人、見逃してください!!(逃)

更新日 2008.7.6

 

 

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