、ちょっといいかい?」

「なんですか〜?」

地区予選の前日、ベンチでデータの整理をしていた先輩の所に竜崎先生が来た。

何の話をしてるのかと思って聞き耳を立ててたら、俺と桃先輩がダブルス組みたいって言ったことに関する話だった。

「あんたどう思う?」

「いいんじゃないの?面白そうで・・・」

あっさりと答える先輩。

そんなあっさりと答えていいの?―――っていうか何で竜崎先生、先輩に聞いてんの?

そりゃ先輩は、マネージャーだけどさ。

なんかこの2人、ただ面白がってるように見えるんだけど。

俺のそんな疑問をよそに、次の日のオーダーで俺と桃先輩のダブルスが決定してた。

先輩の発言権って、そんなに強いの!?

 

地区予選でGO

〜前編〜

 

「あははははははははははははっ!!」

、笑いすぎ」

コートに先輩の笑い声が響いて、すかさず乾先輩が注意する。

今は俺と桃先輩の試合中。

確かに相手のペア上手いし、桃先輩にサーブぶつけられたり、俺がボールぶつけちゃったりしてるけどさ、そんなに笑うことないんじゃない?

「人選間違えたかのぅ、手塚」

「はい」

竜崎先生の問いかけに、手塚部長は即答で答えた。

っていうか、聞こえてるんですけど?

こうなったら見返すためにも、絶対に負けられないね。

俺はあることを思いついて、ふと桃先輩を見た。

桃先輩も同じこと考えてたみたいで、コートの真中に引いた線は桃先輩が引いた線とぴったり合った。

「ややこしいのはナシにしようぜ」

桃先輩の言葉に激しく同意。

こうなったら邪魔するものはないし、逆にやりやすい。

最初からこうしてればよかったんだよね。

ダブルスっぽくしようとするから、調子でないんだよ。

よそはよそ、俺は俺。

遣りやすい方がいいに決まってる。

そうして俺たちは、さっきまでの苦戦が嘘みたいに、圧勝で玉林中ダブルスペアに勝った。

「「やっぱ男はダブルスでしょう?」」

「それってダブルスじゃないわよ・・・」

呆れたように言う先輩の声が、コートに木霊する。

結果的に青学は全勝で玉林中に勝利したけど、俺と桃先輩は正座させられた上に、次の試合は補欠に決定した。

もうダブルスなんて絶対にやらない。

 

 

準決勝は昼飯の後だって言うから、昼寝でもしてようかと思って場所捜してたら、暇なのかぶらぶらしてる先輩を見つけた。

「なにしてんスか?」

声をかけると、「ちょっと探し物〜」とか言われた。

探し物してる風には見えないんだけど?

でもまぁ、探し物してるんならしょうがないから手伝ってあげようかなと思ったら、ちょっと離れたところに部長と不二先輩がいて・・・、何か不二先輩が手招きしてる?

何となく顔を見合して・・・たぶん呼ばれてるのって先輩だと思うんだけど、そう言う前に先輩に無理やり手を引かれて連れていかれた。

、ちょっとちょっと」

「・・・なに〜?」

「他の学校の試合も見に行こうと思ってるんだけど、も一緒に行こう?」

「別に2人で行って来ればいいじゃん」

きっぱりあっさり言い切る先輩。

そんなに偵察に行くの嫌なの?

って言うか、絶対ただめんどくさいだけでしょ?

めんどくさいって言うのを隠す事もなく前面に押し出したような顔をしてる先輩を見て、不二先輩はちょっとの間考え込んでたけど、おもむろにポケットに手を突っ込んで何かを出した。

「ほら、これあげるから行こうよ。がいた方がいろいろ面白そうだし・・・」

そう言って不二先輩が差し出したのは、棒付き飴。―――ちなみに、オレンジ味。

いくら何でも小さい子供じゃないんだから、そんなんで釣られるわけないじゃん。

そう思った矢先、先輩は無言で飴を受け取って。

「・・・しょうがないな」

うれしそうに呟いた。

っていうか、行くの?まさか飴1コで釣られたわけ?

「・・・。言っておくが、知らない人間に同じことされてもついて行くなよ?」

「ついて行くわけないじゃん。あたしを何歳だと思ってるのさ?」

心配そう・・・と言うよりは不安そうな感じで念を押す手塚部長と、あっさりと言い返す先輩。

説得力ないよ、先輩。

まだ納得がいかないのか、部長はチラリと先輩に視線を向けてため息をついた。

何となく部長の気持ちがわかった。

不二先輩は確信犯の笑みを浮かべて、飴を頬張る先輩を見てる。

先輩って変なところで子供っぽいから、誰かに騙されないか心配だよね。

結局、先輩の道連れにされた俺は、部長たちと一緒に柿ノ木中が試合をやってるコートまで連れてこられた。

ちょうど試合が終わったみたいで、コートの中には妙に偉そうな奴が1人立ってて。

「お前は決して弱くない。俺が強かっただけの話だ!!」

なんて勝ち誇った声が聞こえてくる。

なんだ、それ。

思わずそう声に出しかけた時だった。―――先輩の笑い声が、コートの中に響いたのは。

「あははははははははははははははっ!」

「・・・、笑いすぎだ」

遠慮なく大声で笑い始めた先輩を、部長がため息混じりに突っ込む。

突っ込まれた先輩はちょっと不服そう。

「出た、名ゼリフ。絶好調だね、九鬼くん」

不二先輩が感心したように言った。

っていうか、もしかして呆れてる?この人って表情読めないから分からない。

それとも嫌味のつもりなのかな?

不二先輩ならどれもありえそうで、逆に検討がつかない。

「柿ノ木中は、神奈川県代表の立海大付属中と何度も練習試合を組んでいたらしい」

「ああ、切原くんの?」

切原?何かその名前、聞いたことある気がするんだけど?

「あれだよね、切原って。この間青学の前で会った髪の毛くしゃくしゃの人?」

「・・・そう言えば切原って言ってたっけ?」

「あれからあたし勉強したのよ?神奈川県の名産物が何か・・・」

勉強したって、テニス部のことじゃなくてそっちの方なの?

そんな言い合いをしていると、いつの間にコートから出てきたのか、九鬼って人が手塚部長に絡んできた。

っていうか、部長に絡むなんてある意味無謀な奴だな。

そんな事を思いながら特別なにをするでもなく見てると、突然先輩がハリセンを手に九鬼って人の頭を一撃。

スパーン

軽快な音があたりに響いた。

「こら〜、ちょっと失礼でしょ?セクハラで訴えるわよ!?」

いきなりのセクハラ発言に、周りの注目が九鬼って人に集まる。

「誰がセクハラだ、誰が!」

「嫌がる相手の腕を強引に掴むなんて、セクハラ以外の何者でもないでしょ?」

それも時と場合によるけど・・・。

何でこの状況でセクハラなんて言葉が出てくるかな?

っていうか、これも今さらなんだけど・・・そのハリセンいつもどこから出してくるの?

「やめろ、

話が変な方向に反れそうになったとき、手塚部長がいつもの調子で言った。

捕まれてた腕を振り解いて、先輩の持ってたハリセンを取り上げる。

「・・・どんな理由があっても暴力は認められない。ちゃんと謝れ」

「・・・ごめんなさい」

いつもの立場が逆転してる。

妙に手塚部長が強い。―――それに珍しく先輩が反論しなかった。

部長がやり込められてるのが普通なのに・・・、もしかして雨でも降るんじゃないの?

先輩の謝罪に納得したのか、九鬼って人はそれ以上文句を言ってこなかった。

まぁ、手塚部長が睨みを聞かせてたって言うのもあるんだろうけど。

「それにしても、何で柿ノ木中の偵察に行ったの?」

みんなのところに帰る途中、先輩が不思議そうに首を傾げた。

結局見に行ったと同時に試合終わっちゃったから偵察なんてできなかったんだけど。

「何でって・・・、決勝で当たるかもしれないからだよ」

不二先輩が、今さらと言った表情を浮かべながら言った。

「じゃあ・・・不動峰は?」

先輩の口から出てきた学校名に、今度は部長と不二先輩が首を傾げた。

「不動峰って・・・暴力沙汰で新人戦出場辞退した、あの不動峰?」

「うん、そう」

「確か準決勝で柿ノ木中と当たるんだったな・・・」

「でも、たぶん決勝は柿ノ木中で間違いないと思うよ?」

そう言うと、先輩は手塚部長みたいに眉間に皺を寄せる。

「・・・そんな事ないと思うけど?」

「それって・・・」

どういう意味っスか?

そう聞こうとした途端、さっき不二先輩にもらった飴がなくなって棒だけになったそれをひらひらと振ってにっこりと笑った。

「さ〜てね!」

茶化したように笑って、姿が見えた海堂先輩のところに走っていく。

どうやら答えてくれる気はないらしい。

「まぁ、気にしなくてもいいよ。いつものことだから・・・」

何となく気になって先輩の後ろ姿を見てた俺に、不二先輩はいつもの笑みを浮かべてそう言った。

そういえば先輩、探し物してたって言ってたけど結局それって何だったんだろ?

昼食後、準決勝を難なくクリアして。

その後、乾先輩の口から決勝の相手が不動峰中だということを告げられた。

 

 

「え〜、そんな事があったの?見たかったなぁ〜」

さっき不動峰の連中と会ったことを先輩に言ったら、なんか羨ましがられた。

先輩ってさっき試合の準備があるとかで、いなかったんだよね。

「・・・先輩って、不動峰が決勝に来るって知ってたんスか?」

何となく口ぶりでそう聞こえたから聞いてみると、あっさりと肯定された。

「・・・なんで?」

「何でって・・・、強いもん、不動峰」

だから何で強いって知ってるんスか?

そう聞こうとしたとき、乾先輩が試合が始まるって呼びに来て結局聞けなかった。

試合はダブルス2の不二先輩・河村先輩ペア。

あっという間に勝負がつくかと思ったけど、不動峰のペアも食い下がっててなかなか勝負がつかない。

と思ったら、なんか不二先輩が変な玉を打った。

「不二の得意とする『三種の返し技』の1つ、ツバメ返し!」

隣で菊丸先輩が呟いた。

ツバメ返し?そんな技持ってるんだ。

三種ってことは、あと2つあるんだよね、それ。

へぇ、何か面白そう・・・。

「不二のいいとこ取りめ・・・」

そう思ってたら、先輩の悔しそうな声が聞こえた。

先輩って・・・なんていうか辛口だよね、言動が。

しかも何で悔しそうなの?

そんな事考えてる内に、さっきの不二先輩の技で勢いに乗った青学が押し始めた。

完全に勢いに乗ってる。

このマッチポイントを取れば、もう相手の逆転はないかなと思った頃、不動峰のペアの1人がすごい玉を打った。

なんていうか、尋常じゃなく重そうな球。

それを不二先輩が取りに行こうとして・・・。

「やめて、不二!!」

不意に切羽詰ったような声が聞こえて視線を向けると、先輩がすごく必死な表情でそう叫んでた。

何事かと思ってコートに視線を戻すと、不二先輩の変わりに河村先輩がボールを打ち返してて、相手も打ち返そうとしたみたいだけどガットが切れててボールはそのままラケットをすり抜けた。

無事にゲームを取って、あと1ゲームって周りは騒いでたけど。

不二先輩が河村先輩に近づいてその手を握ると、河村先輩は顔をしかめてラケットを取り落とした。

やっぱりケガしてたんだ。

結局不二先輩は審判に棄権を宣言した。

まぁ、別にいいんだけど。

これで俺に試合が回ってくるし?

怪我した河村先輩が病院に行く事になって、先輩が付き添いでついて行くって言ったけど、

「え〜、行っちゃうの?俺の試合見ててよ!!」

って菊丸先輩がダダ捏ねて、結局2年が連れて行くことになった。

「エージ。あんたには友達を思いやる気持ちってのがないわけ?」

散々先輩に怒られてたけど、俺はちょっと菊丸先輩に感謝かな?

だってやっぱり先輩いないと、面白くないしね。

 

 

大石先輩と菊丸先輩の試合は、思った通り圧倒的で。

奇抜な動きをする菊丸先輩に、相手はついてこれないみたい。

「・・・一雨来るか?」

ベンチにいた竜崎先生がポツリと呟いた。

それってあれだよね。

絶対さっきの柿ノ木中の試合見てたときにあった出来事のせいだよね。

部長が先輩を怒るなんてめったにないことだし。

不動峰も同じことを考えてたのか、アップするために髪の毛で片目が隠れてる鬼太郎みたいな人と髪の毛肩まであるちょっと暗い人がベンチから出て行った。

青学のベンチの前を通る時に、何かむかつく事言ってて・・・あ、海堂先輩切れた?

切れる5分前って感じの海堂先輩がベンチを出て行って、それを見てた乾先輩が隣で試合を眺めてる先輩に何か言った。

「も〜、しょうがないな・・・」

呆れたようにため息をついて海堂先輩の後を追いかける先輩。

まぁ海堂先輩を止められるのって、部長か先輩しかいないもんね。

ちょっと好奇心をくすぐられて、俺もそっと2人の後を追った。

いつの間にか堀尾達もついてったみたいで、妙に騒いでる。

いつも思うけど、あの3人ってちょっと騒ぎすぎだよね。

不動峰の2人は海堂先輩の行く手を阻むように、2コのボールを打ち合ってる。

俺はそれを難なく打ち返して間を通り抜けた。

「ねぇ、球もう1つ増やしてみる?」

そう言うと不動峰の2人は俺の事を睨んでくる。

そんな挑発に乗ってくるなんて、まだまだだね。

ちょっと一触即発みたいな雰囲気が広がる中、呑気そうな先輩の声が聞こえた。

「あれ〜、神尾に伊武じゃん。なにやってんの?もしかしてアップ?」

俺よりも先にコート出たはずなのに、今までどこ行ってたの?

っていうか、この2人のこと知ってるわけ?

さん、お久しぶりです!」

「・・・なにやってんのって見たら解るだろ?試合前に他に何するって言うんだよ。大体さんはいつもいつも・・・」

「あ〜、深司。お前はちょっと黙ってろって・・・」

何かぶつぶつ言い始めた髪の長い人を慌てて止める鬼太郎。

でも2人ともちょっと嬉しそうに見えるのは、俺の気のせい?

「あはは、伊武は相変わらず変わらないよね」

何気に仲が良さそうな3人。

「・・・知り合いなんスか?」

海堂先輩が不審気にそう聞くと、先輩は明るく肯定した。

「そうだよ、薫ちゃん。だから喧嘩なんてしないでよ?」

先輩にそう言われると、海堂先輩は気力を削がれたのかため息をつきながらもコートに戻って行った。

「ほらほら、越前も堀尾達も戻った戻った。ちゃんと大石とエージの応援してあげてよ?」

何となく追い払われてるような気がしないでもないけど、言われた通りコートに戻る。

先輩もちょっとの間不動峰の2人と話してたみたいだけど、すぐに戻ってきた。

、不動峰の神尾と伊武のこと知ってるんだって?どういう知り合い?」

堀尾達に聞いたのか、乾先輩が戻ってきた先輩に尋ねた。

「どういうって・・・友達だよ?」

あっさりと言い切る先輩。

たぶん乾先輩は、どうやって知り合ったのかってことを聞きたかったと思うんだけど。

もしかしてはぐらかした?・・・そんなわけないか。

「地区予選に出場するって言ってたから、さっきから捜してたんだよね〜」

さっきと同じようにフェンスにもたれかかって試合観戦を始めた先輩は、のんびりと呟いた。

もしかしてさっき言ってた『探し物』って、不動峰のこと?

せめて『捜し人』って言ってよ。

俺がレギュラーの座ってるベンチに戻ったすぐ後、予想通り雨が降り出してきて。

ベンチには屋根がついてるからいいけど、先輩たちが立ってるところは屋根なんてついてないから、みんな慌てて傘取りに行ったりしてたんだけど、先輩は一向に気にしてないみたいでそのまま試合観戦を続けた。

、傘持ってきてないのか?」

「持ってきてないよ?傘なんてなくたって大丈夫だって、すぐ止むから。あんたもさっきそう言ってたでしょ?」

「・・・それはそうだけど」

何か乾先輩と先輩が言い合いしてる。

雨は大石先輩と菊丸先輩の試合が終わる頃には止んで。

ふと先輩の方を見たら、乾先輩にタオルで髪の毛拭かれてた。

「痛いって!!拭かなくても大丈夫だから・・・っていうか自分で拭けるしっ!!」

「いいから、おとなしくしてろ」

問答無用でされるがまま。

それから何か上に着た方がいいって言う乾先輩の言葉に、部長が自分が着てたレギュラージャージを無理やり着せた。

なんていうか・・・みんなが先輩に甘いっていうか、完璧子ども扱いされてる?

本人も自覚があるのか、ちょっとほっぺた膨らませてそっぽを向いてた。

こういうところって年上に見えないよね。

口に出したらハリセン飛んで来そうだから、絶対言わないけど。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

何か無駄に長い・・・ので、一旦切らしてもらいました。

何でだろう?こんなに長々と書くつもりなかったのに・・・。(細かく書くからだ)

いえ、いつもながらダラダラしててすみません。(笑)

更新日 2007.7.27

 

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