「みんな、ちょっと寄って欲しいところがあるんだけど・・・」

試合が終わったあと、帰ろうとしているみんなにそう声をかけた。

「・・・どうかしたの、タカさん?」

不思議そうな顔をしている全員を代表して、ちゃんが首を傾げつつそう聞いてくる。

俺はそんなちゃんににっこりと笑いかけて、こう言ったんだ。

「ちょっとうちに来てくれないかな?」

 

束の間の休息

 

「乾杯ー!!」

怪我の治療の為に病院に行っていた越前も合流して、今日の勝利を祝うために大宴会が始まった。

親父が『今日の試合に勝ったらみんなを連れて来い!』って言ってくれてたから、みんなに来てもらったんだけど・・・喜んでくれてるみたいで良かった。

でもなんていうか・・・この状況って、争奪戦っていうよりも戦いって言った方がしっくり来るのかもしれない。

みんな食べ盛りだし(俺もだけど)試合の後でお腹が空いてるから、握った寿司はあっという間になくなっていく。

「こらぁ!人の物に手ぇ出すんじゃない、桃!!」

パシーンという軽快な音と怒鳴り声に視線を向けると、ちゃんが愛用のハリセンで桃の頭を叩いてるのを目撃した。

見ればちゃんの前のお皿には寿司が1つも残ってない。

大方桃が手を出したんだろうけど・・・。

「痛っ!何するんスか、先輩!!」

「それはこっちのセリフだ!あたしの食べるお寿司がないじゃないっ!!」

「こういうのは早いもの勝ちでしょ、先輩」

勝ち誇ったように言う桃に、ちゃんはもう一発ハリセンで頭を叩いて、プイッと顔を逸らすと手塚と大石・乾が座ってるカウンターの方に避難していった。

「・・・どうかしたのか?」

突然来たちゃんに不思議そうな顔をした手塚がそう聞くと、ちゃんは思いっきり眉をひそめて、

「あっちだとお寿司にありつけないんだよ。みんな迫力ありすぎてっ!!」

と、主に桃を睨んで強い口調で言う。

すると手塚は自分の前に置いてあった寿司を、ちゃんの方に寄せてあげてた。

なんだかんだ言ってたって、手塚はちゃんに優しいよね。

「タカさん、やっぱ河村寿司のお寿司は美味しいねぇ〜」

お寿司を頬張って上機嫌のちゃんが、俺に向かってそう言ってくれた。

実を言うと、ちゃんは寿司を食べる時はうちに注文してくれる。

だもんだから、もちろん親父とも結構仲が良くて・・・今も和気藹々と話をしてる。

なんかこういうのっていいな・・・とか思ったりして。

そんな他愛もないことを考えながら寿司を食べてると、親父が上機嫌で手塚に向かって声をかけた。

「ところで先生!いつも隆がお世話になってます。どうです、一杯?」

・・・って、ちょっと待ってよ、親父!!

手塚は先生じゃなくて、部長だよっ!?

親父の爆弾発言に、手塚は全然動じた様子もなく、ただ一言。

「・・・部長の手塚です」

「・・・こりゃ、すまねぇ」

ただ申し訳なさそうに謝るしか出来ない、親父。

なんていうか・・・ちょっとぐらい動じるとかしないのかな?

全然表情変わらないから、怒ってるのかなんとも思ってないのか判断がつかない。

どう反応したものか・・・と、みんなが様子を窺っていると。

「〜〜〜〜〜〜っ!あははははははははははははっ!!」

今まで肩を震わせてたちゃんが、堪え切れなくなったように一気に笑い声を上げた。

ちゃん、今日はよく笑うね。

「・・・

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる手塚。

ほとんど表情を崩さない手塚にしてみれば、これだって珍しい。

ちゃんはそれを見て、もう笑いが止まらなくなってしまったみたい。

「だって、手塚って中学生に見えないんだもんっ!!」

息も切れ切れになりながら、それだけははっきりと宣言するちゃん。

その言葉に、俺の隣にいた不二が勢い良く吹出した。

なんていうか・・・手塚相手にこんな態度取れるなんて・・・ちゃんと不二くらいだよね―――絶対に怒られるよ?

未だに大爆笑しているちゃんに、各々騒いでた人たちも気付いたようで、英二が勢い良くちゃんの背中に飛びついた。

「なになに?なに笑ってんの、!」

「ぐっ!・・・エージ、重い」

「ね〜、何笑ってたんだよぉ!!」

駄々をこねる小さな子供みたいに、ほっぺたを膨らませる英二。

それにちゃんが答えようと口を開いたその時。

「・・・むぐっ!!」

「これも上手いぞ、

手塚にお寿司を口に突っ込まれてた。有無を言わさずに!

美味しいって言ってくれるのは嬉しいけど・・・それじゃ息できないよ?

ああ、ほら。ちゃん涙目になってるし・・・。

でもそれって『話すな』ってことなんだよね?

やっぱりちょっとは怒ってたのかな、手塚。

あとでちゃんと謝っておかないと・・・。

 

 

英二が不二専用(別に決まってるわけじゃないんだけど)のわさび寿司を食べちゃったり、桃と海堂が寿司を取り合って喧嘩を始めちゃったり、いろいろあったけど。

楽しい時間が過ごせたと思う。

手塚と大石は、竜崎先生に話があるとかで先に帰っちゃったんだけど、他のみんなは遊ぼうということになって、今もまだ俺の部屋でゲームをしてる。

俺は飲物を取りに来るついでに、ちょっとだけ片付けの手伝いをしていた。

「・・・タカさん〜?」

そうしたら階段のところからちゃんがひょいと顔を覗かせて、俺をじっと見てる。

「どうしたの?」

「や、遅いからどうしたのかな〜と思って・・・。タカさん、片付けしてるの?」

俺が手に持ってる皿を見て少しだけ首を傾げたちゃんは、にっこり笑うと傍に来て洗い終わったお皿を棚に戻してくれた。

「あ、いいよ。すぐ終わるから、ちゃんはみんなとゲームしててよ」

片付けを手伝わせるのも悪いなと思ってそう言ったんだけど、ちゃんは笑顔を浮かべたまま首を横に振る。

「すぐ終わるんなら、あたしも手伝うよ。その方が早く終わるでしょ?それに散々ご馳走になったんだから、これくらいはしないと・・・」

そう言いつつも手は止まることなく・・・あともうちょっとで終わるし、そこまで言ってくれてるのに断るのも悪いかと思って、言葉に甘える事にした。

ちゃんは、いいお嫁さんになるねぇ〜。うちの隆なんかどうだい?」

「え〜、ホントですか?光栄です、おじ様!」

悪戯っぽくそう言う親父(でもあの顔は半分本気だ)と、ノリの良いちゃん。

冗談だって分かってるけど、本当にそうなったらいいな〜とかちょっとだけ思ったりして。

そんな他愛もない話をしながらの作業だと、終わるのもなんだか早い気がして。

あっという間に片付けも終わって、みんなの分のジュースを入れたお盆を持って二階に上がる途中。

「タカさん」

俺の後ろを歩いてたちゃんが急に立ち止まって、俺の名前を呼んだ。

「・・・どうしたの?」

振り向いてみれば、ちゃんはいつもと同じような笑顔で・・・。

だけどちょっとだけ真剣なその顔で、きっぱりと言った。

「この調子で、全国に行こうね!」

俺はちょっとだけびっくりした。

もちろんちゃんだって、青学が全国に行ければいいと思ってるって事は分かってたけど、でもこんな風にはっきりと言われたことはなくて。

だから俺はやっぱり嬉しくて、お盆を持ってる手に力を入れた。

「うん、絶対に行こう!」

力強くそう言うと、ちゃんはすごく綺麗に笑ってくれた。

部屋に入るとみんながゲームで盛り上がってて。

ちゃんもすぐにその輪の中に入って、同じように楽しそうに笑ってる。

そんなみんなを見て、改めて強く思う。

俺たち青学は、絶対に全国に行くんだ。

それは他でもない、俺たち自身の為に!

それから・・・―――ずっと傍で応援してくれてるちゃんの為に!

 

また明日から頑張ろう!

楽しい時間の中で、そう思った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

タカさんって、どんな話し方だったかしら?(待て)

やっぱり河村寿司と言えばタカさんかな〜と思いまして。

あんまり(というか全然?)とタカさんの2ショットがないので、今回は2人きりでお片付け。(って河村父いるけど)

作成日 2003.11.25

更新日 2008.8.31

 

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