「う〜ん・・・」

相も変わらずいつもの酒場で、はテーブルいっぱいに地図を広げると、難しい顔をしてそれを覗き込み小さく唸り声を上げた。

その横では、こちらも相変わらずのレイヴンが我関せずとばかりに酒の入ったグラスを傾けている。

ちゃん、そんな真剣に考え込んだってどうしようもないわよ」

「むしろあんたが真剣になりなさいよ。―――っていうか、これって誰の為だと思ってんの?」

「おっさんの為よね。いや〜、おっさん愛されてるわ〜」

眉間に皺を寄せるを他所に、レイヴンは茶化すようにそう呟く。

それに当然のごとく堪忍袋の尾が切れたは、盛大に頬を引き攣らせつつホルダーから銃を抜き放った。

「いっかい地獄に落ちろ!」

ちゃん、こんなとこでそんなもの抜いたら危ないから!」

の怒声と、レイヴンの悲鳴じみた声が上がって。

そうして酒場に、一発の銃声音が響き渡った。

 

 

が放った銃弾によって一瞬静寂に包まれた酒場は、しかしそう珍しくもない出来事だと認識している客たちのおかげで徐々にいつもの賑わいを取り戻していった。

突然の発砲音に咄嗟にテーブルの下に逃げ込んだ男たちも、またあの2人かと言わんばかりの面持ちで席に座りなおす。

そんな彼らの様子に半ば不本意な思いを抱きながらも、否定できない事も確かだと改めて思い直したレイヴンは、逃げ腰になった身体を椅子に収めながら暢気な声色で呟いた。

ちゃん、その武器手に入れてからより物騒になったわね」

以前は魔術を使うフリをするか、もしくは即座に蹴りが飛んでくるかのどちらかだった。―――それはに、蹴り以外の特定の武器がなかったからだ。

しかしは今、銃という非常に珍しく強力な武器を持っている。

勿論当てるつもりがない事は解っていた。

解ってはいたけれど、それをへと与えた奇妙なアクセントのある喋り方をする男を恨まずにはいられない。―――が戦力アップすることは、確かに自分にとってもありがたい事だとは思っていても。

一方そんなセリフを向けられたは、嫌そうにレイヴンを見返して。

「より、って言わないでくれる?そうさせるおっさんが悪いのよ」

「おっさんのせい?明らかにちゃんの自制心のなさじゃないの?」

「・・・今度は外さないわよ」

「すみませんでした」

再び銃口を向けられ、レイヴンは即座に己の発言を撤回した。―――まぁ、その考えは否定しないけれど。

レイヴンの素直な謝罪を聞き、は小さく息を吐いた後、再び難しい面持ちで地図へと向き直る。

本当に、まさか出逢った当初はこんなにも好戦的な人間だとは思わなかった・・・とレイヴンは心の中で独りごちる。

まぁ、その意外性もまた楽しくはあるのだけれど。

「お、

そんな事を考えていたレイヴンの耳に、妙に聞き慣れた声がの名を呼ぶのが聞こえ、反射的にそちらへと視線を向けた。

そこにはこれまで何かと関わりがあったの同業者、ロビンの姿がある。

おそらく今酒場にやってきたのだろう。―――先ほどの騒ぎなど知らない様子で、ロビンは気安い口調でへと声をかけた。

「なんだ、レイヴンさんと漸く仲直りしたのか」

前回別れた時は、2人の間に何か諍いがあったようだと思ったが、今一緒にいるところを見るとそれも解決したのだろう。

そう判断したロビンが笑ってそう言うと、しかしは不機嫌そうな面持ちで睨み上げるように彼を見やり、表情と同じ不機嫌そうな声色で素っ気無く呟いた。

「そう見える?」

まるで地を這うような声に、ロビンは思わず一歩後ずさった。―――どうやら今の彼女はすこぶる機嫌が悪いらしい。

「う・・・まぁ、喧嘩するほど仲が良いって言うし」

「じゃあ、そうなんじゃないの?」

ロビンの苦しい言い分に素っ気無く返して、は再び視線を地図へと移した。

自分は何も関係がないはずだというのに、どうしてこんな扱いを受けるのだろうか。―――そんな理不尽な思いを抱きながらも、しかしロビンは地図を眺めるという行為をしているを認めて訝しげに眉を寄せた。

、どっか行くのか?」

咄嗟に声をかけた後、機嫌の悪いを思い出してしまったと思い頬を引きつらせたロビンだったが、けれどは先ほどの機嫌の悪さなど忘れたかのようになんでもない様子で口を開く。

「うん?ああ、まぁね。ここにいても聖核見つかりそうにないし。当てはないけど、ぶらぶら観光がてら探してみるわ」

その視線は未だ地図に注がれたままではあったけれど、どうやらはこれ以上ロビンに八つ当たりをする気はないらしい。

それにホッと安堵の息を吐き出すのも束の間、から返ってきた答えを認識し、僅かに眉を下げながら小さく笑む。

が聖核という正体も何も解らない物を探しているのは知っていた。

だからだろう、はレイヴンと共にあちこち旅をする事も多い。

勿論、旅が終わればダングレストに戻ってきていた。―――けれどその度に思っていた事もあって。

「そっか、寂しくなるな」

小さく頷き、ロビンは常日頃から抱いていた思いの一端を口にした。

それでも彼は解っていたのだ。―――が一箇所に留まるような人間ではない事くらい。

は自由な身にあってこそ、

だからこそ、その隣にはレイヴンこそが相応しいと思うのだ。―――ロビンにとっては、レイヴンもまた自由が似合う男だったから。

そんなロビンの心境など知らず、ただ彼の言葉を額面通りに受け取ったは、地図から視線を上げて悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「それって私がいなくなるから?それとも情報交換できないから?」

「ま、両方だな」

の言葉に、ロビンは軽い口調でそう返す。

本当のところを言うつもりはないし、言う必要もないと思っている。―――自分とは、この関係が最良だと思うからだ。

しかしはその返答では満足しないらしい。

少しだけ頬を膨らませ、拗ねたように口を開く。―――それこそが、の冗談だという事も解っていたけれど。

「そういう時は嘘でもがいないから・・・って言うもんよ」

「悪いな。俺、正直者だから」

解っていたからこそ、ロビンはわざとらしく肩を竦めてそう答えた。

するとは楽しそうに笑みを零す。―――そう、これでいいのだ。

「じゃ、俺はこれで」

改めてそれを確信したロビンは、との会話を早々に切り上げて、軽く手を上げると踵を返す。

元々何か用事があったわけではないのだ。

ただあの後どうなったのか、少し気になっただけで。

それは心配するまでもなかった。―――2人は、自分たちで答えを出せたのだから。

「うん、またね」

去っていくロビンの後姿へと返事を返して、はやんわりと微笑む。

彼が自分たちの心配をしてくれていたのは十分に解っている。

けれど正面きって礼を言ったところで、彼はとぼけるに違いない。

それが解っているから、は何も言わずにただ笑みを浮かべて彼を見送った。

そうしてロビンが酒場を出るのを見届けた後、改めて今後の予定を立てるべく地図へと視線を戻す。―――が、目の端に映った男の表情を認めて僅かに眉を顰めた。

「・・・レイヴン、何その顔」

「その顔ってどんな顔よ」

「不貞腐れた子供みたいな顔してるわよ、いい年したおっさんが」

先ほどから妙に静かだと思ってはいたが、まさかこんな顔をしているとは思ってもいなかった。

そう指摘すると、レイヴンは更に不機嫌そうに顔を顰めて。

「・・・ふん、ほっといてちょーだい」

本当に、まるで子供のようにそっぽを向くレイヴンを見返して、は小さく笑みを零した。

彼の素性を知る出来事を経て、彼は随分と自分に心を許すようになった気がする。

それがこの子供っぽい態度だとするならば、まぁ・・・決して嫌ではないけれど。

「なに?もしかしてほっとかれて拗ねてんの?」

「違うわよ、これはヤキモチ」

「よく言うわよ」

拗ねている事を認めたくないのか、苦し紛れの言い訳をするレイヴンへと笑みを零し、は再び何事もなかったかのように地図へと視線を戻した。

彼の発言が本音だという事など、きっと彼女は思いもしないのだろう。

そう思うと、レイヴンも何故か笑い出したくなった。―――目の前の鈍感娘がそれを知れば、一体どんな反応を返すのだろうと思って。

しかしそれを告げる気はない。

今はまだこんな空気が心地良いのだ。

まるでぬるま湯に包まれているような、こんな関係が。

そんな考えに小さな笑みを零したレイヴンを認めて、地図へと視線を落としていたが訝しげにチラリと横目で様子を窺っているのに気付き、レイヴンは先ほどまでの考えを誤魔化すようにヘラリと笑みを向けた。

それに更に訝しげに眉を寄せるを見返して、そういえば・・・と話題を摩り替えるべく口を開く。

「さっきの仲直りって言葉で思い出したんだけどさ。ちゃん、本当になんでおっさん助けに来てくれたの?」

何気なく浮かんだ疑問だったけれど、それはあれからずっとレイヴンの心の中にあった疑問でもあった。

それに思わず口を噤むを前に、レイヴンは更に自分の考えを言葉に乗せる。

「今でも不思議なのよね。ちゃんすごく怒ってたし、おっさんもう赦してもらえないと思ったわよ」

それくらい、あの時のの怒りは凄かったように思う。

先ほど銃を発砲したのとは比べ物にならない。

口が達者で、何かあればまず口撃をするが、あの時ばかりは恐ろしいほど静かだった。―――それだけ、の怒りが深かったのだろうと思える。

なのに、はレイヴンを助けに来た。

あの様子から察するに、魔物たちの凶暴化を解った上で来てくれたのだろう。

自分の身の危険も承知で。

だからこそレイヴンは腑に落ちないのだ。―――あれだけ怒っていたが、そこまでして自分を助けに来てくれた理由が。

そんなレイヴンの問い掛けに、再び地図へと視線を戻したは、まるで何でもない事のようにキッパリと言い切った。

「赦す気なんてなかったわよ」

まさしくそれはの本音なのだろう。

「・・・じゃ、なんで?」

それ故に疑問は尽きないし、解決されない。

そう思い、更に答えを促したレイヴンに、しかしは先ほどの潔さが嘘のように躊躇いを見せ、その後戸惑うようにポツリと呟いた。

「そんなの、私の方こそ教えて欲しいくらいよ」

「は?」

の口から漏れた呟きに、レイヴンは間の抜けた声を上げる。

それに気付き、はレイヴンから向けられる視線を振り払うようにひらひらと手を振りながら、少しだけ声を張り上げた。

「あーもう、この話はこれでおしまい!蒸し返さないでよ!」

にとっては、あまり持ち出して欲しくない話題には違いない。

どうしてレイヴンを助けに行ったのか、それは本当にの方こそ教えて欲しいくらいだった。

ドンにレイヴンの所在を聞きに行った後、もう既に街を出た後だと聞き、一度は追いかけようと思った。

けれど自分はもう彼とは関係ないのだと・・・―――だから行く必要はないのだと、そう結論を出したはずだった。

しかし気付けば自分はあの森の中に立っていて、気付けば魔物に囲まれているレイヴンを見つけ、気付けば助けるべく魔術を放っていた。

その行動の理由は、自身でもはっきりと理解できているわけではない。

ただ・・・そう、ただ勝手に身体が動いただけなのだ。

まさか素直にそう言うわけにもいかず、は不貞腐れたように口を閉ざす。

それに漸く諦めたのか、レイヴンは笑みの混じったため息を吐き出し、再びグラスを口元へと運ぶ。

それをぼんやりと見ていたは、ちょうどいいとばかりに随分と前からずっと考えても答えの出なかった疑問を口にした。

「・・・ね、私もひとつ聞いてもいい?」

「な〜によ」

控えめに声をかければ、今度はレイヴンが訝しげに視線を寄越す。

彼はこの質問に、答えてくれるだろうか?

「ずっと気になってたんだけど、なんで私を傍に置こうと思ったの?いくら考えても、理由らしい理由に思い至らないのよね」

「・・・・・・」

「私を傍に置いたところで、おっさんが得する事なんてなさそうなのに」

これがレイヴンと出逢って1年の間、ずっと引っかかっていた疑問だった。

思えば交換条件を出された時から不思議に思っていた。

人手が足りないわけでもない。

信頼できる部下だって、いないわけではないだろう。―――彼が部下に慕われているのは、少しの間しか城にいなかったにも十分察せられた。

だからこそ余計に不思議だったのだ。

騎士団の情報を盗み出す為に忍び込んだ罪人。

間違いなく信用できない部類の人間を、何故手元に置こうと思ったのか。

それこそ、何かの罠ではないかと思うほど。

しかしレイヴンはのそんな問いに少しだけ考える素振りを見せた後、にんまりと人の悪い笑みを浮かべて。

「・・・内緒」

たった一言そう告げて、パチリと音がしそうなほど見事なウィンクをひとつ。

それを認めて、はそれは深くため息を吐き出した。―――どうやらレイヴンは、その答えをに提示する気はないらしい。

ここまで来て教えてもらえないという事は、きっとこれからも教えてはくれないのだろう。

そこにどんな理由があるのか、やはり気にならないといえば嘘になるけれど。

けれど今は、レイヴンがを罠にかけようとしているとは思えなかった。―――否、きっと最初からそうは思っていなかったのだろう。

だからは彼の提案を受け入れた。

「下手にかわいこぶるのやめてくれない?ほら、鳥肌が・・・」

「失礼しちゃうわね」

結局疑問はうやむやになったまま、けれどどこか清々しい気持ちで憎まれ口を叩けば、レイヴンもまたわざとらしく不貞腐れた様子を見せる。

近づいては離れて、離れてはまた近づいて。

お互いの事をよく知っているかといえばそうでもなく、けれど他人というにはお互いの事を知り過ぎているような気もして。

酷く曖昧な関係ではあったけれど、不思議と嫌だとは思わなかったから。

だからはまるで何事もなかったかのように笑い、再び地図へと視線を落とす。

この関係も、あと2年。

そう考えるとまだ先は長いけれど、この1年を思えばもしかするとあっという間に過ぎ去ってしまうのかもしれない。

その後自分たちがどうなっているのか、今は想像もつかないけれど。

それでも不思議なほど楽観的な気分で鼻歌交じりに地図を眺めるを見つめて、レイヴンもまた微かに笑みを零した。

どうしてを助けたのか。

出逢ってから1年経った今でも、まだその答えが出る事はない。

先ほどのの言葉ではないが、それこそ自分が教えて欲しいくらいだ。

けれどほんの少しだけ、思うところがないわけでもなくて。

あの日、陰っていた月が奇跡のように顔を覗かせたあの時。

月明かりに立つが、レイヴンの目に眩しく見えたのかもしれない。

暗闇の中に存在する自分。

一寸先さえ見えない暗闇の中で、が輝いて見えたのかもしれない。

彼女がいれば、自分も闇の中から抜け出せるのではないかと・・・―――そしてその直感は、あながち外れてはいなかったのだろう。

あの森の中で自分の境遇を知ったは、けれど強い眼差しで「生きろ」と言った。

『どうせこの世にいるんなら、死んだように生きるよりは馬鹿みたいに前向きな方が楽しいじゃない』

それはレイヴンが考えもしなかった答え。

他人事だと思って・・・と思わなくはなかったが、まさしくにとっては他人事なのだから仕方がないだろう。

それでもは真っ向からレイヴンと向かい合ったのだ。―――彼女にとっては侮辱とも取れる発言をしたレイヴンに。

だからを傍に置く事を決めた自分の直感は、間違ってはいなかった。

まぁ、それを本人に告げる気はなかったけれど。

「ま、いっか」

レイヴンの思考を遮るように明るい口調でそう言って、は広げていた地図をガサガサと音を立てて畳むと、丁寧に鞄の中に仕舞い込む。

そうして不思議そうな顔をして自分を見ているレイヴンを見返して、にっこりと笑顔を浮かべた。

「ここでこうして地図眺めてても仕方ないし、とりあえず出発しない?」

の口から飛び出た計画性のない提案に、レイヴンは思わず口角を上げる。

「行き当たりばったりねぇ。ま、そういうの嫌いじゃないけど」

「とりあえずぶらぶら寄り道しながら港目指そう。次の目的地はそれから決めれば良いよ」

きっちりと情報を整理し、わりと計画性を持って行動するとは思えない発言だ。

こういうところは、もしかするとレイヴンに似てきたのかもしれない。―――そう言えば、きっと彼女は苦い顔をするのだろうが。

しかしレイヴンにとって、その提案を断る理由はない。

に習いグラスをテーブルに置き、そして代金をテーブルの上に置きつつ、レイヴンは思い出したように口を開いた。

「ああ、それなら一回ザーフィアスに寄ってくれる?気は進まないけど、とりあえず中間報告はしないとね」

「また?この間も行ったじゃない」

「なによ、嫌なの?自分の故郷なのに」

報告が義務付けられている自分はともかく、にとっては久しぶりの帰郷になるのだからむしろ喜んでも良さそうだというのに、今回も・・・そして前回も、の口から出るのは渋るような言葉ばかり。

それを不思議に思いながらも問いかけると、は複雑そうな表情を浮かべて。

「だからよ。知り合いに会ったりしたら、今まで何してた〜って問い詰められるに決まってるもの」

なるほど、そういう理由か・・・と妙に納得する。

まるでさらうようにをザーフィアスから連れ出したのだ。

一応暫く留守にする旨を書いた手紙を置いてきたとは言っていたが、知り合いがそれだけで納得してくれるとはとても思えない。

そういえば・・・と、レイヴンはこの時改めて疑問を抱いた。―――の家族はどうしているのだろうかと。

彼女の言葉の端々からそういったニュアンスがない事から考えて、もしかすると家族はいないのかもしれない。

今の時代はそれも珍しい事ではないが、だからといって突っ込んで聞く事も躊躇われる。

本人が話さないのだから、聞かれたくない事なのかもしれないと思うからだ。

そういった部分を、人は誰しも持っている。―――それはも同じだろうから。

だからこそレイヴンはそんな考えなどおくびにも出さず、いつもと同じようにからかい混じりに口を開いた。

「そういうの煙に巻くの、得意でしょうが」

「人聞き悪いこと言わないでくれるかな、おっさんじゃあるまいし!」

レイヴンの軽口に、は心外だと言わんばかりに頬を膨らませる。

しかし本気で怒っているわけではない事は、1年間彼女と共にいたレイヴンには解っていた。

そんなじゃれあうような会話を続けながら、2人は同時に席を立つ。

これから宝探しの旅が始まるのだ。

宝物は、聖核。

どこにあるのかも、それがなんなのかも解らないけれど、きっと2人ならば楽しい旅になるだろうと思うから。

「レイヴン、、またどっか行くのか?」

そんな2人に気付いたマスターが、片方の眉を軽く上げながら声をかける。

それに2人揃って振り返り、レイヴンはニヤリと口角を上げた。

「そ、2人で愛の逃避行よ」

「まだ言ってるし。っていうか、一体何からの逃避行よ」

レイヴンの言葉に呆れたような態度を見せるものの、の顔も笑っている。

それを認めて、マスターは小さく笑みを零した。

つい先日、レイヴンと喧嘩をして荒れていた姿が嘘のようだ。

やはりの機嫌を直せるのは、レイヴンだけなのだろう。―――まぁ、彼女の機嫌を損ねたのもレイヴンだけれど。

そんな事を考えていたマスターは、振り返ったまま軽く手を上げた2人を認めて。

「じゃあね、マスター」

「行ってきま〜す!」

明るい声でそう言い残し、2人はそのままマスターに背中を向けると何事かを言い合いながら酒場の入り口へと足を向ける。

そうしていつも通り元気よく酒場を後にする2人を見送って、マスターはやんわりと微笑んだ。

「行ってらっしゃい、2人共」

 

 

そんな2人のこれから

(さぁてと、それじゃまずはザーフィアスを目指しますか)


最終話になっても、進展したのかしてないのか。

それでもやっぱりいつもと変わらない日常が、2人にとっては幸せ。

お付き合い、ありがとうございました。

 

作成日 2009.12.31

作成日 2011.7.10

 

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