「これはどうやら、同位体の研究のようですね」

船室に戻り、早速資料に目を通し始めたジェイドは、その内容に僅かに目を細める。

資料には、ローレライの音素振動数も記録されている。

それが何を意味するのか・・・―――これだけの資料では正確な部分まで知る事は出来ないけれど。

「ローレライ?同位体?音素振動数?―――あー!訳解んねぇ!!」

一般常識について疎いルークが思わずそう声を上げる中、はジェイドが見ていた資料を手に取り、それに目を通す。

確かにジェイドの言う通り、ローレライの音素振動数も記録されている。

「・・・ローレライ」

小さく小さく呟かれたの声は、ルークの苛立たしげな声に掻き消された。

 

ディスト、来襲

 

キムラスカ王国の首都・バチカルに向けて航路を辿る船の一室で、先ほど手に入れた音譜盤の解析結果を元に、この世界についての知識というものをあまり持ち合わせていないルークの為に急遽説明会が開かれた。

「ローレライは、第七音素の意識集合体の総称。音素は、一定以上集まると自我を持つらしいんです」

「でも、ローレライはまだ観測されていません。いるようだという、仮説です」

不貞腐れた様子で座っているルークに向かい、にこやかな笑顔を浮かべたアニスがそう説明する。

それに補足説明をしたジェイドに、ルークは気のない様子で頷いて見せた。

「音素振動数っていうのは、すべての物質が発しているんですけど、指紋みたいに同じものはないんです。で、同位体は音素振動数がまったく同じ2つの固体の事。でも、同位体は人為的に作らないと存在しません」

この世に同じ人間など存在しない。

それ故、自然に同位体という存在などありえないという事だ。

「まぁ、同位体がそこらに存在していたらあちこちで超振動が起きていい迷惑ですよ。同位体研究は兵器に転用できるので、軍部は注目していますけどねぇ」

アニスの説明に、迷惑そうな表情でジェイドがそう呟く。

そんなジェイドを認めて、無言でアニスの説明を聞いていたティアが、ふと思いついたように口を開いた。

「昔研究されていたフォミクリーという技術なら、同位体を作れるんですよね」

ティアの発言に、驚いたようにイオンがジェイドへと視線を向ける。

しかしそれをサラリと流して、ジェイドは難しい面持ちでティアの説明を補足する。

「あれは模造品・・・レプリカを作る技術です。音素振動数は変わってしまいますから、同位体は出来ませんよ」

何度も言うが、この世に同じ人間など存在しないのだ。

それを人為的に作ろうなど、そう簡単な事ではない。―――もちろん、レプリカを作る事もそう容易くはないけれど。

「あー、もう解んねぇ!!」

一方説明を聞いていたルークは、次々と聞かされる自分の知らない言葉やら知識やらに嫌気が差し、すべてを投げ出すようにそう声を上げた。

そんなルークに、ティアは冷たい視線を向けて。

「こういう事、家庭教師に習わなかったの?記憶障害は7年前からでしょう?」

普通に学んでいれば、大抵は知識として身につくものだ。

興味がなかったとしても、覚える気がなかったとしても、言葉に聞き覚えくらいはありそうなものだというのに・・・―――そんな意を込めたティアの言葉に、しかしルークは不機嫌そうに言い捨てた。

「他に憶える事が山ほどあったんだよ」

「憶える事ってなによ」

「言葉とか、親の顔とかさ」

7年前、ルークはそのすべてを忘れていた。

それは人間関係だけではない。―――言葉も、歩く事すら忘れていたのだ。

まさに生まれたばかりの赤ん坊のような状態で、彼は生きていくのに必要な知識を覚えるのに精一杯だったのだ。

そんなルークの言葉に、ハッと我に返ったティアは痛ましげに俯いて。

「・・・ごめんなさい」

「ど、どうしたんだよ、急に!?」

急にしおらしくなったティアに、ルークは戸惑ったように声を上げる。

今まで散々馬鹿にしてきたというのに・・・―――そう思っても、相手のこんな態度は落ち着かない。

そんなルークに、ティアは申し訳なさそうに言葉を続けた。

「私、あなたの記憶障害の事、軽く考えていたみたい」

確かに記憶を失う事は、大きな事件だ。

それは解っていたけれど、それが何も知らない言い訳になるなんて・・・―――ティアはそう思っていたが、ルークの記憶障害は自分が思っていた以上に重かったようだ。

彼自身は気にしていないといっていたけれど、自分の過去も、言葉や歩く事すらも解らないなど、どんな気持ちなのだろう。

そう思うと、これまでの自分の発言があまりにも酷く思えて、ティアは後悔に襲われた。

「別に、そんな・・・」

そんなティアを認めて、ルークは慌てたように声を掛けようとしたけれど・・・。

船に大きな衝撃と爆音が響いたのは、ちょうどその時だった。

「・・・なんだっ!?」

突然の出来事に、ルークは思わず声を上げる。

その直後、船の警護に当たっていたキムラスカ兵が慌てた様子で船室に飛び込んできた。

「大変です!ケセドニア方面から、多数の魔物と正体不明の譜業反応が・・・!!」

慌てて窓の外を見ると、彼らの言う通りちらちらと魔物の姿が見える。

正体不明の譜業反応とやらは解らないまでも、現状が非常事態だという事だけは嫌というほど理解できた。

どうやらオラクル騎士団に、自分たちをこのまま見逃してくれる気はないらしい。

「このまま船を沈められたら厄介だ。―――行こう」

すぐさま状況を把握し、そう促して駆け出したガイに続いて、他のメンバーも慌てた様子で船室を飛び出した。

 

 

「あーっはっはっはっは!野蛮な猿どもが、お揃いですね」

甲板へと飛び出した面々は、直後頭上から響く笑い声に視線を空へと向けた。

するとそこには、空飛ぶ椅子に座った奇抜な格好をした男が1人。

「お前は・・・!!」

忘れようと思ってもなかなか忘れられない印象的なその男は、自分を見上げる面々を見下ろして至極楽しそうに笑った。

「お前ではありません。とくとお聞きなさい、美しき我が名を・・・。―――我こそはオラクル六神将、薔薇の・・・」

「鼻たれディストじゃないですか」

得意げに名前を名乗ろうとしたディストを遮って、からかうようなジェイドの声が響き渡る。

それにお約束にもガクリと肩を落としたディストは、気を取り直したようにキッとジェイドを睨み付けた。

「薔薇!薔薇ー!薔薇のディスト様です!!」

「死神ディストでしょ〜?」

「違います!!」

アニスの合いの手にも激しく否定をし、ディストは息も荒くそう叫ぶ。

そんなアニスを認めて、ルークは不思議そうに首を傾げた。

「知り合いなのか?」

「私は同じオラクル騎士団だから・・・―――でも、大佐は・・・」

ルークの問い掛けに簡単に答えたアニスもまた、不思議そうにジェイドを見やる。

ジェイドとディストの接点。

それに簡単に思い至らないが、2人の様子からして知り合いなのに間違いはないらしい。

そんなアニスの疑問に、ジェイドではなくディストが得意げに口を開いた。

「ふふふ・・・そこの陰険ジェイドは、この天才ディスト様のかつての友」

「どこのジェイドですか?そんな物好きは・・・」

「なんですって!?」

「ほらほら、怒るとまた鼻水が出ますよ?」

「キー!出ませんよ!!」

明らかにジェイドにからかわれているディストに、彼らの関係が見えた気がした。

「・・・アホらし」

ともかくも、慌てて出てきた割には緊迫感など感じられない空気に、ルークはやってられないとばかりにため息を吐く。

こんな事なら走ってくるんじゃなかった・・・とさえ思ったその時、これまでジッと静かに立っていたが、空高く飛ぶディストを見上げてポツリと呟いた。

「ディスト、船では騒いじゃダメ」

それは大して大きな声ではなかったけれど、しっかりとディストの耳に届いたらしい。

の姿を認めたディストは、先ほどとは違う輝くような笑顔でを見下ろし、嬉しそうに声を上げた。

!こんなところで貴女に会えるなんて!やはりこれは運命ですね」

「何が運命よ。私たちがいるって解ってて襲ってきたくせに」

白々しくもそうのたまったディストに、アニスは半目で睨み上げながら突っ込みを入れる。

しかしそんなものを気にするようなディストではなかった。

アニスの突っ込みを綺麗にスルーし、輝く笑顔でを見つめる。

そんなディストをいつものぼんやりとした眼差しで見つめながら、は先ほどと同じ言葉をもう1度告げた。

「ディスト、船では静かにしなきゃダメ。ジェイドに怒られる」

「さぁ、こちらへ。貴女を受け入れる体制は既に整っていますから」

「人の話聞いてないな、こいつ・・・」

の言葉をもスルーして、ディストは大きく手を広げて歌うように言った。―――否、スルーしたのではなく、自分の世界に入っている彼の耳に届いていないだけなのかもしれないが。

しかしその対象となっているは少しも動じた様子もなく、また自分の言葉がスルーされた事にも気にした様子なく、無表情のまま口を開いた。

「ごめん、ディスト。私、キムラスカに行かなきゃいけないから」

軍人として、現在のは『親書をキムラスカに届ける』という特殊任務を負っている。

いくらぼんやりとしていて、ルーク曰く「軍人には見えない」のだとしても、がそれを放り出すわけがない。

しかしディストも負けてはいなかった。

!貴女がそんな事をする必要はないんですよ。さぁ!」

「でも、陛下と約束したから。キムラスカに行ってくるって。だから私はキムラスカに行かなきゃ」

・・・、なんて律儀な。約束を守ろうとする貴女のその姿勢、とても素晴らしい!」

どうやらディストのメガネには、限定で特殊なフィルターが掛かっているようだ。

いちいち大きく手を振って声も高らかにそう告げるディストを呆れた様子で見上げていたアニスは、疲れたようにため息を吐き出した。

「だったらすんなり諦めろっての」

そう愚痴ってみても、ディストに効果があるとは思えない。

そもそも最初から人の話を聞くような人間ではないのだ。―――いちいち反応していれば疲れるだけだ。

そう思っていても、ついつい突っ込みを入れてしまう己の性がアニスにとっては悲しかった。

「しかし、そんなの純粋さに付け込むとは・・・ピオニーめ、許せませんね!」

そんなアニスの心境など勿論知るはずもなく、ディストは怒りのままにグッと海の向こうを睨み付けた。

どうやら怒りの矛先は、マルクト帝国ピオニー9世陛下へと向かったらしい。

なんならこの際その勢いのままにマルクトに行ってくれないかと心の中で思いながら、ジェイドはため息交じりに口を開いた。

そうすれば自分たちがこの厄介な男の相手をする事もないだろうにと。―――もちろん、己の主がそう簡単にやられるわけがないと確信しているからなのだが。

「言いたい事はそれだけですか」

「ジェイド!」

「だったらさっさと帰ってください。迷惑ですから」

ぼんやりと立つを自分の背後に匿うように立ち、ジェイドは冷たくそう言い放つ。

勿論がディストにやられるなどという心配はしていないが・・・―――しかし長時間あのテンションのディストにの姿を晒しておく事に抵抗はあったかもしれないけれど。

そんなジェイドを高い場所から見下ろして、ディストは悔しそうにじたばたと手を振り回した。

「ムキー!私を小馬鹿にして!!この私のスーパーウルトラゴージャスな技を食らって後悔しなさい!!―――出でよ、カイザーディスト!!」

今度は一体なんだと思う間もなく、ディストの呼びかけに応えるようにその場に巨大な音機関が姿を現した。

おそらくは、これがカイザーディストなのだろう。―――そのネーミングセンスはどうかと思うが。

いつもいつも腹が立つほど厄介なこの男は、どうやら態度を改める気はないらしい。

勿論ディストにその気があるのかどうかは解らないが。

思わずため息を吐き出しかけたジェイドとは反対に、突然姿を現した巨大な音機関にすぐさま臨戦態勢を整えたルークとガイが、先陣を切ってカイザーディストへと駆け出す。

そうしてその手に握った剣を振り下ろして・・・―――しかし2人の攻撃は、カイザーディストの固い装甲の前にあっけなく弾かれた。

「・・・くっ!」

「なんだよ、こいつ。攻撃が効かねぇじゃねーか!!」

剣を構えたまま戸惑いの声を上げるルークに続いて、ティアとアニスも譜術を解き放つが、それさえもカイザーディストの装甲は跳ね返してしまう。

一体何で出来てるんだと、ガイが悪態をつきたい衝動に駆られたその時、その様子を眺めていたジェイドが楽しそうな声色で口を開いた。

「それならこれはどうですか?―――

ジェイドの呼びかけに、はチラリとカイザーディストの足元を見やり、水のFOFが浮かび上がっているのを確認してからコクリと頷く。

荒れ狂う流れよ。―――スプラッシュ

力ある言葉と共に、何もない空間から激しい水流が解き放たれた。

それはジェイドの放ったものと1つになり、カイザーディストへと襲い掛かる。

「ああー!!」

その様子を空飛ぶ椅子に座りながら見ていたディストが、悲痛な声を上げる。

どんなに頑丈な装甲を持っていても、所詮は機械。―――どうあっても弱点は克服できないだろう。

そしてその通りに、ジェイドとから水属性の攻撃を受けたカイザーディストは、先ほどの強靭さからは考えられないほどあっさりとその機能を停止し、そうして黒煙を上げた直後に景気よく爆発した。

その爆風により、空飛ぶ椅子で上空にいたディストもまた巻き添えを食って空高く飛んでいく。

「・・・水が弱点か。なるほどね」

それを眺めつつ思わず呟いたガイは、不敵な笑みを浮かべるジェイドを横目に納得したように頷く。

アンチフォンスロットで譜力の大半を封じられていたとしても、彼最大の力である頭脳が生きている限り、おそらくジェイドにとってはそれほどダメージにはならないのだろう。

そして同じ状況に置かれているだろうもまた・・・。

「死んじゃったかな・・・?」

「いえ、殺して死ぬ男ではありませんよ。ゴキブリ並みの生命力ですから」

心配をしているわけではないだろうが、あまりの飛びっぷりに思わず呟いたアニスは、直後返ってきたジェイドの言葉になるほどと頷いた。

確かに、ディストは殺しても死ななそうだ。

というか、どんな状況であってもたくましく生き抜いていけそうな気さえする。―――敵にするには、相当厄介な相手には違いないが。

「さよなら、ディスト」

ディストの消えた空を見上げながらそう呟いたの言葉に、勿論本人にそんな気はないのだろうが一番冷たく聞こえた気がして、ガイは誤魔化すように乾いた笑みを吐き出した。

 

 

オラクル騎士団の襲撃から始まり様々な妨害はあったけれど、それでもなんとか無事に一行はキムラスカ首都・バチカルの地に立つ。

「この度は無事のご帰国、おめでとうございます」

港には、ルークの帰還の知らせを受けたのか・・・―――2人の軍人が一行を出迎えた。

軍人を絵に描いたような厳格そうな男と、まだ若い女性軍人。

2人の軍人はルークたちの姿を認めると、恭しく一礼する。

「キムラスカ・ランバルディア王国軍、第一師団師団長のゴールドバーグです」

「セシル少将であります」

そう名乗った2人の軍人を認めて、は不思議そうに首を傾げた。

そうしてその視線を、ジェイドを挟んだ向こう側に立つガイへと向ける。

そんなの様子に勿論気付いたはずもなく、ルークはゴールドバーグとセシルに向かい口を開いた。

「ご苦労。皆は俺が城へ連れて行く。―――いいな?」

「承知いたしました」

ルークの言葉にゴールドバーグは了承を返し、スッと身を引いて街へと続く道を開ける。

そうして王宮に向かう為に移動用に作られた天空客車に乗り込むと、あまりの絶景にアニスとミュウは歓声を上げた。

「すっごい街!縦長だよぉ!!」

「すごいですの!チーグルの森の何倍もあるですの!!」

さすが首都だというだけあり、街の規模はとんでもなく大きい。

バチカルは縦長に作られているのが特徴的であり、何階層にも渡って家が建てられている。

天空客車から見下ろす街は、初めて見る光景だった。

「・・・ここが、バチカル」

漸くバチカルに到着し、天空客車から見る事の出来るバチカルの街を見下ろして、ルークは思わずそう呟きを漏らす。

「ちっとも帰ってきた気がしねぇや」

「・・・そうか。記憶を失ってからは、外には出てなかったからな」

不機嫌そうにそう呟くルークを見て、ガイが労わるような眼差しを向けながらそう呟いた。

以前誘拐されてから、ルークはずっと軟禁生活を強いられていたのだと聞いた事を思い出し、は眼下に広がる景色を見つめながら僅かに目を伏せた。

ずっと閉じ込められているのは、とても辛い事だ。

どうして自分がここにいるのか解らなくなる。―――どうして、自分が存在しているのかも・・・。

そこまで考えて、はハッと我に返った。

どうしてだろうか。―――自分はそんな風に軟禁された事などないというのに・・・。

あるとすれば、それはジェイドに拾われてからの1年間だけだ。

それ以降は、ジェイドは好きに行動させてくれていた。―――勿論、その度に迷子になっては叱られていたのだけれど。

その時の事を思い出しただけだろうか?

そうが僅かな疑問を抱いたその時、それを払うようにティアが優しく微笑みながら口を開いた。

「大丈夫。覚えていなくても、これから知ればいいのよ」

優しく諭すような声色に、思わずルークは顔を上げる。―――それを認めて、アニスは半目になりながらチラリとティアを見上げた。

「ティアってば、なぁ〜んか優しくない?」

「い、あ・・・そんな事ないわ」

アニスの鋭い指摘に、ティアは慌てたように手を横に振る。

そんなつもりはないのだけれど・・・―――それでも船の中での会話が理由なのかもしれないとそう思う。

あそこまでルークの記憶障害が酷いとは思わなかった。

ルークの言う通り、覚えなければならない事はたくさんあったのだろう。

そう思うからこそ、ティアは彼が常識を持たない事を責めるのはやめようと思ったのだ。

知らなければ、これから知ればいいだけの事。

大切なのは、それだけなのだから。

「・・・ティアってば、怪しい〜」

「だから違うってば!」

アニスの疑いの眼差しを振り切るように、ティアは目の前に広がる景色を眺めるふりをして全員に背を向けた。

そんな微笑ましいやり取りを眺めていたジェイドは、チラリと沈黙を守っているヴァンへと視線を向ける。

確か、ティアはヴァンの命を狙っていたはずだ。

そこにどんな意図があれ自分には関係はないけれど・・・―――それでも彼が見せるへの僅かな反応は、気にならないといえば嘘になる。

これから一番大切な任務が待っているというのに・・・。

「・・・ジェイド」

「なんですか、

自分自身の思考に思わず頭痛を覚えかけたその時、ジッと街を眺めていたが小さな声でジェイドへと声を掛けた。

それは他の者たちには聞こえないほど、小さく。

自然と同じように声を潜めて返事を返したジェイドは、まっすぐに自分を見つめるに気付いて軽く眉を上げた。

「ジェイド。平和条約は上手く行くかな?」

ここに来て初めて向けられた問いかけに、ジェイドは思わず苦笑を漏らした。

流石のも、この件に関しては気になるらしい。

「・・・そうですね。そうなる事を祈りましょう」

すべてはキムラスカ王の采配次第。

条約が成るかも、戦争が始まるか否かも。―――そして、小さなあの街が救われるかどうかも・・・。

「上手く行けばいいのに・・・」

「そうですね」

小さく呟かれた言葉に相槌を返して。

王宮を目指す天空客車は、様々な思いを乗せて高い場所へと昇って行った。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

アニメの勢いに乗って、こちらでも漸くキムラスカに到着しました。(アニメ万歳)

台詞をアニメの方で確認しながらなのでゲームと違うところもあるかと思いますが、その辺はご了承ください。

いや、ゲームで確認するよりもアニメで確認する方が手軽なので。(笑)

作成日 2008.11.3

更新日 2009.4.8

 

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