天高くに建つ王城。

天空客車で最上層へと向かった一行は、これまで見てきた街の様子とはあまりにも違う事に気付いた。

まず、人の数があまりにも少ない。

おそらくはそう多くの人間が普段からこの場に足を踏み入れる事はないのだろう。

警備する兵士の姿が目立つその場を眺めながら、は自分の育ったマルクト帝国を懐かしく思い、そっと息を吐いた。

 

 

「ただ今、大詠師モースが謁見中です。しばらくお待ちください」

王宮に到着し、これからが本番と意気込みつつキムラスカ王との謁見の為に足を踏み入れた一行は、しかし謁見の間を警護する兵士にそう告げられた。

それに全員が訝しげに眉を寄せる。

「大詠師モースが・・・?」

「叔父上に妙な事吹き込まれる前に入ろうぜ」

このタイミングの良さには思わず感心したいほどだが、こちらとて指をくわえてそれを見ているわけにはいかない。

そうルークが思ったのかはさておき、この場では一番発言力があるだろうルークは問答無用とばかりに兵士が止めるのも無視して謁見の間に足を踏み入れた。―――こんな時は、彼の傍若無人さが逆にありがたいくらいだけれど。

「待てよ、おっさん」

謁見の間には、兵士の言葉通りモースがいた。

扉を開けたと同時に聞こえてきたのは、マルクトの危険性を訴える声。

それを遮るようにルークが制止の声を上げれば、忌々しそうに表情を歪ませるモースとは反対に、キムラスカ王はパッと表情を明るくして一行を迎えた。

「おお、ルーク。よく無事に戻ってくれた。―――これはこれは、導師イオン」

「ご無沙汰してます、陛下」

歓迎の意を露わにするキムラスカ王に、イオンは柔らかく微笑んで。

「お、おお・・・お探ししてましたぞ」

「モース、話は後にしましょう」

しかし慌てたように言葉を紡ぐモースをキッパリとした声色で制して、イオンは改めてキムラスカ王に向き合うとジェイドとへと視線を向けた。

「陛下、こちらがピオニー9世陛下の名代、ジェイド=カーティス大佐と中佐です」

イオンによって紹介されたジェイドは、恭しくその場に跪く。

それに習って同じようにその場に跪いたは、紡がれるジェイドの言葉を無言で聞いていた。―――こういう事は、ジェイドが一番適任なのだ。

「我が君主より、偉大なるインゴベルト6世陛下に親書を預かってまいりました」

ジェイドの口上に、アニスが恭しく礼をとり、持っていた親書をキムラスカ王の傍に仕えていた大臣に手渡す。

今まで色々あったけれど、なんとか親書をキムラスカまで届ける事が出来た。

そう感慨に耽るアニスを他所に、キムラスカ王とジェイドのやり取りを見ていたルークが、チラリとモースに視線を向けながら不機嫌そうに声を上げた。

「叔父上、モースが言ってる事はでたらめだからな!」

「な、何を言うか!?私はマルクトの脅威を陛下に・・・」

「ウルセェ!戦争を起こそうとしてやがんだろうが!!」

「ルーク、落ち着け」

白々しくも反論を口にするモースに思わず声を荒げたルークは、しかしキムラスカ王の制止の声に渋々口を噤む。

そうしてキムラスカ王はその場に集まった面々を見回してからルークへと視線を固定し、宥めるように口を開いた。

「こうして親書が届けられたんだ。それを無視はせぬ」

親書が正式なものである以上、無視は出来ない。

それに中立の立場であるローレライ教団導師のイオンが関わっているのならば、なおさら。

それが解っていたから、モースはなんとしても親書が届けられるのを阻止したかったのだろう。―――その目論みも、今となっては無駄骨になってしまったけれど。

「頼むぜ、叔父上」

こちらにとっては頼もしいその言葉に・・・―――けれど念を押すように、ルークは叔父であるキムラスカ王を見つめた。

 

 

無事にキムラスカ王との謁見を済ませたは、緊張漲る謁見の間を辞して思わず息を吐く。―――ああいう場所は、あまり得意ではないのだ。

そんなを認めて小さく笑ったイオンは、改めてルークへ向き合いやんわりと微笑みながら口を開く。

「ルーク、ありがとう。あなたのおかげです」

「まーな。本気出せばこんなもんだ」

イオンの言葉に気を良くしたのか、ルークが自慢げに笑う。

それを認めて、ジェイドはすかさずからかいの手を伸ばした。

「流石の七光りです」

「なっ・・・!いちいち勘に触る奴だな!」

まるで飴と鞭を交互に味わうかのようなイオンとジェイドの言葉に対し、今度は不機嫌そうな表情を浮かべるルークに、ジェイドは珍しく悪意のない笑みを浮かべる。

「あー、これは失礼。実際助かりました」

「ありがとう、ルーク」

実際、助かったのは本当だった。

親の七光りにしろ、あそこでキムラスカ王にあんな口を叩けるのはルークだけだ。

それはモースに関してもそうだった。―――ファブレ家の子息という立場がなければ、不敬罪と処罰されても可笑しくはないのだから。

そうしてジェイドとから向けられた感謝の言葉に、ルークは不思議そうな面持ちで首を傾げた。

「あ?これで戦争は起きなくなるのか?」

親書をキムラスカ王に届け、戦争を阻止する。

そう聞いてはいたけれど、本当にこれだけの事で戦争は回避できるのだろうか?

そう疑問を抱いたルークに、ガイが苦笑を浮かべながら答える。

「これから、検討が始まるんだ」

マルクト側の提案を受け入れるか、否か。

受け入れない場合は、当然戦争が始まるだろう。―――すべては、キムラスカ王の決断次第。

そんなガイの言葉に納得したのか、それともこれ以上は自分の範疇外だと判断したのか、ルークは1つ頷いて。

「そっか。それじゃ、俺は母上のところに行ってくる。心配してるだろうからな」

突然息子が謎の少女と姿を消したのだ。―――心配しないはずはないだろう。

そもそもルークは過去に誘拐されたのをきっかけとして、長い間屋敷に軟禁されていたのだ。

それほどまでに大事に大事にしていた息子が突然いなくなったのだから、母親の心情は計り知れない。

すぐさま自宅へ戻ることを告げるルークに、パッとアニスが瞳を輝かせた。

「アニスちゃん、ルーク様のお宅見てみたいですぅ」

あからさまに玉の輿を狙っているアニスとしては、その辺りはリサーチしておきたいところだろう。

なんなら、今から売り込みでもしておきたいところなのかもしれない。

そんな思惑を胸に甘えた声でそう申し出たアニスに便乗して、ジェイドもまた明るい声で口を挟んだ。

「なら、私たちも」

次々に上がる声に、ルークは訝しげに眉を寄せる。

「普通の家だぞ?」

別に何か目新しいものがあるわけでもないのに・・・―――そんな思いを込めて呟いたルークに、しかしアニスは意味ありげに目を煌かせる。

「・・・普通のおうちですかぁ」

貴族の坊ちゃんの『普通の家』発言に、どれほどの根拠があるのか。

それを確かめる為にも、ここでルークを逃がすわけにはいかない。―――もしかすると、将来の自分のものになるかもしれないのだし。

世間知らずなルークが、そんなアニスの思惑など知るはずもないけれど。

 

 

「さ、ここだ」

ルークに連れられてきたその屋敷の前に立ち、アニスは更に瞳を輝かせた。

「きゃわ〜ん!すごーい!!」

「・・・大きな家」

アニスの隣で、ファブレ邸を見上げたもポツリと呟く。

カーティス家もかなりの大きさだったが、ここはそれ以上だ。

勿論キムラスカを代表するファブレ家の屋敷なのだから、当然の事なのかもしれないが。

「こんなところで迷子にならないでくださいよ」

すかさず入ったジェイドからの忠告に、は困ったように眉を寄せる。

大丈夫だと言いたいところだけれど、カーティス家でも散々迷子になったのその言葉にどれほどの説得力があるだろうか。

「・・・気をつける。なるべく」

だからは、控えめにそう請け負った。―――こんなところで迷子になりジェイドの手を煩わせるのは、にとっても本位ではないのだから。

ともかくも、いつまでも屋敷の前に立っていても仕方がないとばかりに自宅へ向かうルークに従い、一行もファブレ邸へ足を踏み入れる。

そうしてたくさんのメイドたちに出迎えられながら玄関ホールを進むルークは、奥から見慣れた人物が走って来るのに気付いて思わず口を開いた。

「ルーク!!」

「げっ!!」

咄嗟に口をついて出たルークの言葉に、笑顔で駆け寄ってきた少女は不機嫌そうに頬を膨らませる。

この少女を、は知っていた。―――というのも、親書を渡す際に謁見の間で王の隣に座っている姿を見ただけなのだが。

「まぁ!なんですの、その態度は。わたくしがどんなに心配していた事か!!」

「や、ナタリア姫。ルーク様は照れてるんですよ」

憤慨するナタリアに対し、ガイは咄嗟にルークを庇うように声を上げた。

しかしそれによって、ナタリアの怒りの矛先はルークからガイへと移る。

「ガイ!!」

「えっ!?」

自分を呼ぶナタリアの厳しい声に、ガイは何事かと目を丸くする。

自分は何か叱責を受けるようなマネをしただろうか?―――そんな疑問は、ナタリアの口から出た言葉で容易に納得がいった。

「あなたもあなたです!ルークを探しに行く前に、わたくしのところに寄るようにと伝えておいたでしょう?」

確かに言われていたのは言われていたが、だからといってその言葉に従えるかどうかは話が別だ。

自分のような使用人が、そうほいほいと城に行く事など出来るはずもない。

そもそも、それを伝えればナタリアがどんな行動に出るのか解りきっているだけに、絶対に伝えに行くわけにはいかなかった。―――この国の王女を連れ出したと解れば、ガイとてただで済むはずがない。

しかしあまりの剣幕でそう捲くし立てるナタリアにそれを告げても納得してくれるはずもなく、ガイは誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

それに気付いたのか、ナタリアはムッと表情を顰めながらガイへと詰め寄る・・・―――詰め寄ろうとしたのだが、それは咄嗟に身を翻したガイによって遮られた。

「何故逃げるの!!」

「ご存知でしょう!?」

ナタリアの怒声に、まるで悲鳴のようなガイの声が響き渡る。

女性恐怖症の彼にとっては、相手が王女であっても関係ないらしい。―――もう既に身体が勝手に動くのだから。

しかしそんなガイの態度がお気に召さないのか、ナタリアは更に頬を膨らませて。

「ちょっとは慣れなさい。わたくしがルークと結婚したら、お前はわたくしの使用人にもなるのですよ?」

「無理です!!」

相手がルークの婚約者だろうがなんだろうが、女性であればそんな事は関係がない。

そう訴えかけるガイを他所に、ナタリアの口から出た言葉にティアとアニスが揃って首を傾げた。

「・・・結婚?」

「何言ってんだろ・・・?」

不意に上がった疑問の声に、柱の影に隠れながらナタリアと距離をとっていたガイが親切にも口を開く。

「ナタリア姫は、ルーク様の婚約者なんだよ」

「はぅあ!!」

ガイの説明に、アニスは驚きの声を上げてルークとナタリアを見る。

ルークに婚約者がいるとは思っていなかった。

確かにルークはキムラスカでも王族に連なる家系の者なのだし、婚約者がいたとしても不思議ではないけれど・・・―――それじゃ私の計画が狂っちゃうじゃない、とアニスは表情には出さずに心の中だけで悪態をついた。

その隣では、ジッとナタリアを見つめていたが満足したようにコクリと頷く。

「お姫様、初めて見た」

「そうですねぇ。マルクトにはふてぶてしい陛下しかいませんからね」

の小さな呟きに、律儀にもジェイドはそう返す。

不意に脳裏に甦った偉大なる皇帝の姿に、思わずため息を吐き出しながら。

そんな外野のやり取りなどさらりと無視して、ガイへ詰め寄る事を諦めたナタリアは改めてルークと向き合った。

「ルーク、そんな事よりも一刻も早くおば様のところへ」

「母上がどうかしたのか?」

「あなたがいなくなった後、病で倒れておられるのよ。わたくしはそのお見舞いに来ていましたの。早くお顔を見せて差し上げて」

「お、おう!」

ナタリアから告げられた言葉に、ルークは慌てたように返事を返す。

元々ルークの母親は身体が強い方ではないのだ。

そんな母親が倒れたと聞けば、ルークとて心配にならないはずもない。

「それと・・・ルーク。ヴァン謡将の事は聞きまして?大変な事になりましたわね」

すぐさま母親の寝室へ向かおうとしたルークは、しかし続けられたナタリアの言葉に思わずその足を止めた。

「は?師匠がどうかしたのかよ?」

「あら?お父様から聞いていらっしゃらないんですの?あなたの今回の出奔は、ヴァン謡将が仕組んだものだと疑われていますの」

さらりとナタリアから告げられた言葉に、ルークは呆気にとられたように目を見開く。

王宮でヴァンと別れてから、まさかそんな事態になっていたとは・・・。

「そんな!今回の件に師匠は関係ないんだ!ナタリア、なんとか叔父上にとりなしてくれよ!!」

ルークは目の前で真剣な表情を浮かべるナタリアに向かい、慌ててそう声を上げた。

今回の事は、不幸な事故だったのだ。

ヴァンが何かしたわけではない。

ただ、ティアがヴァンの命を狙って屋敷に侵入してきただけで・・・。―――流石にルークの口からその言葉が出る事はなかったが。

必死のルークの姿を認めて、ナタリアはしっかりとひとつ頷き返す。

「・・・解りましたわ、ルークの頼みですもの。その代わり、早くあの約束を思い出してくださいましね」

「またその話かよ。ガキの頃のプロポーズの言葉なんか覚えてねーっつの!」

得られたナタリアの了承の言葉にホッと息を吐いたのも束の間、子供の頃から何度も何度も聞かされた話を引き合いに出され、ルークはうんざりとした様子で口を開く。

そんなルークを認めて僅かに悲しそうに表情を歪めたナタリアは、しかしすぐさまにっこりと微笑んで。

「記憶障害の事は解っています。ですが・・・一番最初に思い出すのがあの約束でしたら、運命的ではありませんの」

そう、一番最初に思い出すのがあの約束だったら・・・。

もしそうだとしたら、それはどれほど幸せな事だろう。―――今でも一番大切な、あの思い出を。

「いーから、とっとと帰って叔父上にとりなしてこいよ!」

そんなナタリアの思いなど知るはずも無く、ルークはまるで追い払うようにそう声を上げた。

それにもう1度悲しそうな表情を浮かべたナタリアは、しかし気を取り直したように小さく息を吐き出して。

「もう、意地悪ですわね。解りましたわ」

ほんの少しの文句を残して、ルークの希望通り父親にとりなす為に颯爽とその場を去って行く。

「なーんか、嵐のようなお姫様だったね」

その後姿を見送ったアニスの小さな呟きは、幸いな事にナタリアの耳に届く事はなかった。

 

 

ファブレ公爵のお言葉に甘えてファブレ邸で一晩お世話になった一行は、キムラスカ王の呼び出しに再び王宮へと足を運んだ。

マルクトとの和平交渉の結論が出たのだろう。

そうして再び足を踏み入れた謁見の間で、玉座に座したキムラスカ王は威厳ある声でその結論を口にした。

「昨夜、マルクト帝国と和平条約を締結する事で合意した」

謁見の間に響いたキムラスカ王の言葉に、全員がホッと安堵の息を吐き出す。

「ホントか!?じゃあ、もう戦争は・・・」

「いや、条約締結前にやるべき事があるのだ」

喜色を浮かべて声を上げるルークに、しかしキムラスカ王は僅かに首を横に振る。

親書の内容を知っているジェイドとにはその言葉の意味が解っても、その内容を知るはずもないルークにはなにがなんだか解らない。

思わず首を傾げたルークに、傍に控えていた大臣が口を開いた。

「親書には、和平の提案と共に救援の要請があったのです」

「現在、マルクト帝国のアクゼリュスという鉱山都市が、瘴気なる大地の毒素で壊滅の危機に陥っているとの事」

「マルクト側からは、瘴気に阻まれて救出に向かえないそうよ」

「だが、我が国からであれば向かえる」

そうなのだ。

ピオニーがキムラスカとの和平条約に踏み切ったのは、戦争を回避するという理由も勿論あるが、アクゼリュスの救出という理由もあった。

瘴気の充満する街道を強行突破する事など出来ない。―――それをすれば、二次被害に陥るのは明白だった。

だからこそピオニーは、キムラスカにそれを求めたのだ。

おそらくは瘴気に侵されていないだろう、キムラスカ側からアクゼリュスの人々を救出する事を。

それらの説明を一通り聞き終えたルークは、興味のない様子で訝しげに眉を寄せる。

「それが俺に関係あるのか?」

確かに事情は分かったが、それが自分に関係があるとは思えない。

何故そんな話を自分にするのだろうかというルークの疑問は、しかしその場にいた彼の父親・ファブレ公爵の口から紡がれた。

「陛下は、ありがたくもお前をキムラスカ・ランバルディア王国の親善大使として任命されたのだ」

父親の口から飛び出した思いもよらない言葉に、ルークは目を丸くした後心底嫌そうに表情を歪める。

「俺ぇ!?やだよ、もうメンドクセーのはごめんだ」

つい昨日、漸く帰ってきたばかりだというのに、どうして自分がそんな事をしなければならないのか。

しかしそんなルークの思いは、キムラスカ王から告げられた一言で跡形もなく消えた。

「ナタリアからヴァンの話は聞いた。ヴァンが犯人であるかどうか、我々も計りかねている。そこでだ、お前が親善大使としてアクゼリュスに行ってくれれば、ヴァンを解放し協力させよう」

「ヴァン師匠は捕まってるのか!?」

「城の地下に捕らえられているわ」

ナタリアの言葉に、ルークは難しい顔で考え込む。

ヴァンが城の地下に捕らえられている。

自分が屋敷から飛ばされたのは、ヴァンには関係がない事なのに・・・―――脳裏に過ぎった師の姿に、ルークはグッと唇を噛み締めて。

「・・・解った。師匠を解放してくれるんなら・・・」

ルークの口から出た了承の言葉に、ファブレ公爵は満足そうに頷く。

おそらくはそれさえも彼は解っていたのだろう。―――ヴァンが絡めば、ルークは絶対に乗ってくると。

そんなやり取りを眺めていたジェイドが、いつもの笑みを浮かべながら小さな声で呟いた。

「ヴァン謡将が関わると聞き分けがいいですねぇ」

「・・・うるせぇ」

明らかにからかいだと解るその言葉に、ルークは不機嫌そうにそっぽを向いた。

そんなルークと・・・―――そして望む言葉を得ただろうキムラスカ王とファブレ公爵を順番に眺めていたは、不思議そうに首を傾げる。

は不思議だった。

どうしてキムラスカ王たちが、ルークを親善大使にしたいのか。

それもわざわざ、ルーク出奔の嫌疑をかけられているヴァンを引き合いに出してまで・・・。

もし本当にルークの出奔がヴァンの仕組んだものなら、彼が共にいる事の方が危険だと思うのだけれど。

それよりも何よりも、ルークには小さな鉱山の街の救出など適任だとは思えなかった。

それはルークがどうこう言う問題ではなく・・・―――外交経験がないばかりか、これまで屋敷で半ば監禁されて暮らしてきた貴族の息子が、いくら従者がついているとはいえ長旅に向いているとは思えない。

なのに、どうして・・・?

は浮かんだ疑問に思考を巡らせるが、当然ながらいくら考えても答えなど出てくるはずもなかった。

チラリとジェイドを見上げるも、彼はジッとキムラスカ王とルークのやり取りを見つめたまま。

そうしてもう1度小さく首を傾げたは、困ったようにため息を吐き出して・・・―――そうしてまるで匙を投げたように、浮かんだ疑問をそのままにコクリとひとつ頷く。

考えて解らない事をいつまでも考えていたって、答えが出るはずもないのだ。

ルークが親善大使でなければならない理由があるのならば、その内はっきりするだろう。

そう結論付けて、は何事もなかったかのように他の者と同じように王へと視線を向ける。

「お父様。わたくしも使者として一緒に・・・」

「それは成らぬと申した筈」

視線の先では、一緒に行く事を望むナタリアと父親であるキムラスカ王の会話が繰り広げられている。

それを認めて、はもう1度コクリと頷いた。

なにはともあれ、平和条約の締結は上手く行きそうなのだ。

後はアクゼリュスの人々を救出するだけ。―――漸くここまでこぎつけたのだ。

そしてアクゼリュスの救出が終われば、グランコクマに帰る事が出来る。

ピオニーも、きっと首を長くして待っているに違いない。

その光景を思い浮かべ、は気付かれないほど微かに口角を上げた。

 

 

◆どうでもいい戯言◆

ほとんど主人公の出番がありませんが。

本当に漸くここまでこぎつけました。

この後の事を考えると色々ヘコみそうになりますが、とりあえず次の山場に向けてなんとか前進していきたいと思います。(何の決意?)

作成日 2008.11.11

更新日 2009.5.6

 

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